サーカスのバックヤードで
久々の本編に戻ります。
続けて一気に読まれる方には、煩わしいかもなのですが、サーカス取材っこチームの名前を再度つらつら書いたりしてます。
時間が開いて覚えてない方のために、ですので、何となくいらない方は読み流してね。把握してなくても、その都度、必要があれば分かるように書きたいです。
本編 こないだまでのおさらい
エンリはニリヤでんかたちと、サーカスにいくとこだちた。アルノワおにーたが、エンリとニリヤでんかの、なかよちおでんわできるよの、ケータイ、いじゅわるしたでつ。
えいっ!てとって、ぽん!てなげたら、セージャンタイガーのエスピリカがきたでつよ。ケータイ、あなに、おっこちなかった。ぴょんってがぶして、たしゅけてくれたでつ。
おにーたは、ニリヤでんかに、いもおとエンリとらないで!の、さびしうらやまし!がバレバレた。エンリはおにーたにギュッとして、なかよししたでつ。
サーカスのオクトロもいしょに、これからサーカスいくでつよ。
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白いふかふかしたセージャンタイガーのエスピリカに乗っているのは、子虎幼女のエンリちゃん。それから、子虎眼鏡男子アルノワおにーただ。
エスピリカが、2人を、鼻面でぐいぐい持ち上げて、足の下に潜り込み、兄妹仲良くね!っていうふうに前がエンリ、後ろがおにーた。
ピンクの肉球で、柔らかく、のっし、のっし歩く。
「良いなぁ。良いなぁ。次、私も乗っけてね!」
脇をととと、と歩きながらのオランネージュ王子は、猫科なら何でもグッとくるのだろう。エスピリカの首の鬣を、ふかふかぎゅ、しながら言えば、ぶっとい喉がゴロリ。エスピリカが横を向いて、ゴロゴロお返事して、ぺろんとオランネージュの手を舐めた。お鼻が湿って、生暖かいのを、オランネージュは、くふくふ手のひらで包む。
サーカスは大画面広場にテントを張って行われる。
昨日まで、歌の競演会、パブリックビューイングで皆が応援していた広場。人がはけてから、サーカスのテント資材を運び入れて、翌朝早朝から設営をし、今もうテントが建っている。素早い設営に、スタッフは慣れているのだ。
午前は準備にリハーサル(ここからお邪魔してリポートをするニリヤ達である)2時頃から本番ステージだ。
お客さんは、出店の食べ物なんかを手に手に、スリルある空中ブランコや各種出し物を楽しむこととなる。
大画面広場にトコトコ一団、福々しい親しみあるひょうきんな顔、サーカスのオクトロも一緒にやってきた。
子虎エンリちゃん、ニリヤ王子、オランネージュ王子、狼獣人ファング王太子、熊少年ルトラン、子熊弟カルタム、虎少年おにーたアルノワ、垂れ耳兎弟幼児ルルン、シロクマ少年寮の子デュラン、母シロクマ眷属エタニテ、寮の子親指再生中少年プーリュ。
護衛のルディ達に守られながら、皆、ふわぁぁぁあ!とお口が開いた。
広場の真ん中に、ドォーンと色鮮やかなテント。赤、青、アクセントを効かせて黄色、それを宵闇の紫が纏めている。ドーム型の真ん中が、つうっと尖って、てっぺんに大きな旗が、はためいている。『クレピッピサーカス』と。セージャンタイガーのシンボルマークに赤い跳ねた字が踊る、賑々しく。
色とりどりな風船で飾られた、四角く開いた入り口から、闇が広がる。
そこに何があるのか、闇はいつでも怖くてドキドキして、そしていけない楽しみを何故だか感じさせる。
「は〜い、クレピッピサーカスへ、ようこそいらっしゃぁ〜い♪今日は驚天動地、見たこともない素敵なショーをご覧に入れますよ♪」
ぶんがっか〜、ぶんが〜♪
トリロリロリラリロ、ラリン♪
蛇腹の楽器、アコーディオンを流暢に。
ニッコリ顔のオクトロと、アコーディオンを持って入り口横で雰囲気作りをして盛り上げていた、ド派手なお化粧の道化師が、ニリヤ達を誘って首をクンと傾げ手を差して。
さあ、さぁ!闇の入り口へ、ドキワクの世界へ誘うのだ!
カメラも回って、恐る恐る、一歩二歩。中は魔道具の照明で、客席は薄暗くて。一段上に、ポッと浮かび上がる強い光に照らされたステージ。
「ふわぁ•••!ひとがひとをひとと!?」
「すごいね!一番下のひと、すごく力持ちじゃない?」
「ポンポンでっかいでちゅ!おてても、もこもこでちゅ!」
怪力な、お腹もぽんぽこだが筋肉ももりもりなパフォーマーが、腕一本上に。腕が震えもせず、手のひらで、女性の手のひらと合わせて、彼女は持ち上げられている。ふわっとした短いスカートにタイツ、キラキラした舞台衣装の可憐、アクロバチックな体勢で、足を上に上げてピン!ピッ、と止めた。そしてその足底には、両手を置いた少女が逆立ちして、足を開いてニッコリ。
サーカス取材っ子達に向かって、片手を!外して!
ふり、ふりふり。
キャアアァィ!
お手てを振り返してぴょんぴょん、お口をパカっと開けて盛り上がる。
脇に立った、がっしりしているが痩せている男性は、サポートなのか、手を構えて待った。少女はまた両手を付くと、足をブゥンと振り下ろして。サポートの男性の肩の上に飛び降りた。たっし!と両足、優雅に着地。ぽんぽこもりもりパフォーマーも、手のひらで支えた女性を、くりん!と落としてお姫様抱っこに受け止めた。
キャアアァ!
「すごいでつ!」
「かこいいでしゅ!」
お手てをぐっと拳に握って。セージャンタイガーのエスピリカやオクトロが、何だか脇でニッコリの気配だ。虎だとて笑う。ニフンと口端が上がるのである。
パフォーマー達はステージを軽やかに降りてきた。
オクトロが紹介する。
「怪力人間跳躍パフォーマンスの4人ですよ。リーダーの怪力フォースと握手して?」
ぽんぽこもりもりさん、いや、怪力フォースが。
「フォースです、よろしく。」
低い響く声はイメージ通り。小さなニリヤ達に、背を丸めて、窮屈なお腹をはふ、ともっこりさせて、手を差し出した。
赤ちゃん葉っぱみたいな小ちゃな手と。もこもこと分厚くて、親指の根元もふっくりとした、まるまるの手。分厚い手が、きゅむ!とニリヤの手を包む。そのしっかりふかふかした感触、あったかさに、ニリヤのお口も、ふぁあ!と開きっぱなしだ。
「すごいおてて、だね!」
よかったね。
「お名前言うだワヨ。」
ニコニコと白熊エタニテ母ちゃんが、顔を寄せて背に手、ニリヤにお名前返してないよー、と教えてあげる。
ハッとして。
「だいさんおうじ、ニリヤです。オランネージュにいさまより、さきしちゃった!」
「良いよ、ニリヤ。次は気をつけてね。本当、すごいお手てですね!私とも握手してくれますか?」
オランネージュ王子はお兄ちゃん。ちょっと公の場なので、簡単に良いよ良いよとは言えないが。ニリヤを寛容に許し、丁寧にフォースに申し出た。
「勿論。お会いできて嬉しいです。」
「こちらこそ。うわっ!すっごくパワー感じる、ふかふかのお手て!ふわぁ!」
僕も、私も!と皆でかわるがわる、ニコニコしたフォースに握手してもらう。
子供達はお目々キラキラになった。
「フォース、また後でね。•••今はリハーサルをやっていましてね。全てをお見せしたら、本番がつまらなくなってしまうから、バックヤードで練習しているパフォーマーや、出番待ちの猫ちゃん、サーカスのテントを建てる建築大道具スタッフ達と、ちょっとずつ会って、お話をしてみられませんか?」
「はーい!」
「おはなし、したーい!」
「取材、します!」
「うむ、頑張るのだ!」
「いざ、クレピッピサーカス!」
オクトロの申し出に、一も二もなく乗っかる。セージャンタイガーのエスピリカも、一緒してくれるみたいです。
サーカステントは、なかなか大きくて、ステージの周りをぐるりと回ってバックヤードに行くと、割と広かった。荷物がごたごたしてる場所もあるが、ゆうゆう練習をしているパフォーマー達と、広く部屋を区切って、思い思いに闊歩している猫ちゃん。
案の定、オランネージュは猫ちゃんに吸い寄せられていた。
「猫たちは、檻かなんかで運ぶのですか?」
熊獣人少年、ルトランが、猫達も大変なのかな、と聞く。
「檻なんか!」
オクトロは、わぁ!と驚きの手を広げて、オーバーリアクションで顔をフリフリする。
「昔のサーカスは、そう言うこともあったそうなんですけれど。我々は常に移動の毎日でしょう。相棒の猫ちゃんが、狭くて、不自由で、閉じ込められてじゃあ、あまりに可哀想だ、と批判もありましたしね。今では、専用の、空間拡張した魔道具の広いお部屋で、快適に旅をしていますよ。」
そうなんだ。皆ホッとしている。
オクトロは、こういった事を問われる事も多いのか、分かって欲しい、と説明する。
「猫ちゃんのパフォーマンスも、無理にって事でなくて、向いてる子に、遊びの延長でやっています。まぁ、猫なんで、気まぐれな時もありますけど、それも味としてショーを構築しています。エスピリカは完全に人の言葉が分かるので、移動で人目につくときは、安全だよ、の鑑札ふだが付いた首輪をして、私の隣で控えていますね。狭いお部屋や檻には、入れません。身体も大きいですのでね。」
ふぅ〜ん!
初めて知った〜!
ウンウンと納得の子供達である。
練習していたパフォーマー達も、微笑ましいのか、ふふ、と微笑んでこちらを見ていたりする。
「もし良かったら、移動用の拡張したお部屋を見たいな。」
「ああ、それでしたら•••こ」
言いかけたその時、バシーん、ゴロゴロゴロ!と音がして。
なまっ白い肌に、半目降りた、だるそうにした少年がヨタヨタと。
「プリッカ、どうし•••うわ!」
ぼん!どろん!
見る間に、煙と共に。
宵闇色の蛇が、へな、と服を脱いで。そこから、ヨタ、ヨタヨタ、と宵闇蛇がニリヤ達の方へやってくると、シュルシュルルン!って。
「う、うわ!」
『おねがい。か、隠れさせて、•••あったか!』
ニリヤ王子に駆け上り、つるるるん、とシャツの中に潜り込んで、首に緩く巻きつき、ぺた、ぺた、と尻尾を振って肌を打ち。•••震えている。
「コォオラァ!!このクソ坊主!プリッカ、どこ行きやがった!!」
バシーン!と鞭打ち、何ヶ所かあるバックヤードの入り口幕を持ち上げて入ってきた男は、ちょび髭の悪辣顔なおじさんであった。
鞭。白熊獣人デュランと、エタニテ母ちゃんが、ムググ、と顰めっ面をした。




