ニシシシ
お泊まり会は、王子達に気に入られたようで、毎日それぞれのスケジュールを終えると、ニリヤの部屋に集まるようになった。
竜樹が遊ぶための道具を手作りで用意すると、王子達はそれを楽しみに昼間の勉強や練習を頑張った。
コマや、紙飛行機に、あやとり、人生をゲームにした双六、三角陣取り、サイコロでチンチロリン、は、教育上どうかなーとも思ったが、庭で拾った綺麗な石の偽物のお金(点数数え用)で、健全に遊ばせた。どうかなーって事ほどハマるのが子供ってやつである。
まあ、大人もハマってるのだが。
チンチロリ〜ン♪
「待った待った、ミラン強すぎる!ピンのゾロ目〜!?」
「ふっふっふ!石は6個いただきますよう。私、1位かも!!」
「俺は、ションベン、だ•••。」
「ぼく、しょうにんになった?ぎょう、しょう、に、いく。2こすすむ。」
「私、職人だ。けがで一回休み。え〜。」
「私、冒険者!勇者の剣を、手に入れた!6こ進む!」
夕飯が済み、お風呂にも入って、ゆったりとした時間に、みんなで遊ぶ。
優しい味のお茶を飲みながら、ワイワイ喋って、眠たくなったら寝る。
ニリヤは、人生双六のマスの文字が読みたくて、読みのお勉強がだいぶ進んだ。
ニリヤがうとうとしだして、さて子供たち、寝るか〜、というところで、ドアがノックされ、誰かが訪れた。
護衛のルディがさっとドアの向こうに行き、何事か来訪者と話す。取り次いで言うには、ネクターの乳母だと。
何だろ?と入ってもらった。
「ギフトの御方様。ネクター様をお返し願いたく参じました。乳母のオッターと申します。」
さ、ネクター様、お部屋に帰りますよ。
有無を言わさず連れ帰る姿勢の乳母オッターは、ふくよかな女性だった。ふくよかな女性は、醸し出す包容力を感じるものだが、オッターは顔が怒っていた。多分、地顔が怒り顔なのだ。赤髪がぱっと激しく、きつくまとめ上げて後毛も無かった。
第一印象は、割と厳しめである。
ネクターは、竜樹のシャツの裾を握って、後ろに隠れた。
「やだ!帰らない!兄様とニリヤと寝るんだ!」
「何をおっしゃいますか。第一王子様と寝るなど恐れ多い。立派なエトワールの王子が、平民王子と寝るのも穢らわしい。兄弟といえど、線引きは必要です!さあ、帰りますよ!」
あーあー。
よくこの乳母で、ネクター素直に育ったよ。ミラン情報局によれば、小さい時からついている家庭教師が、人格者で面倒見いい先生なのだそうで、ネクターも影響を受けているらしい。
「オッターさん。ネクター王子は、お部屋が真っ暗で、1人なのが嫌なのですって。」
小さい頃、誰でも夜を怖く思う事はあるでしょう?それに、ネクター王子が、1人で寝たくないと思うのには、理由があるのじゃないかな。
色々考えはあるでしょうが、大人になれば自然と1人で寝るようになるのだから、しばらく俺に預けてくれませんか?
竜樹は、事を荒立てないように、お願いしてみた。怒らせて言う事を聞いてくれる人はいない。それに、乳母だということは、少なくともネクターを育てた1人ではある訳だから、大人同士がケンカする所を見せたくなかった。
「部屋は真っ暗でないと、良く眠れないでしょう!1人なのは当たり前です!誰もが通る道なのですから、甘やかしてはいけません!腑抜けた王子に育ったら、御方様は責任をどうとるおつもりで!?」
あー。
こういうの、ほんと、やだ。
声大きく強く言って勝ったら、自分の言う通りになる、そんな風に生きたら周りが敵だらけだ。
「責任とるって言ったら、預かっててもいいですかね。私はもう元いた世界には帰れませんから、ずっと王子達の面倒見しますよ。乳母のオッターさんこそ、いつかお仕事は解かれて去る方なのでは?」
「まっ•••、なんて事を!私はネクター様を思って言っているのです!」
思ってたら何言ってもいい訳じゃない。
ネクターが1人が嫌だって言うのは、ちゃんと見てくれる人、構ってくれる人、愛情を与えてくれる人がいない淋しさ、安心できるところがない不安感が、あるからじゃないのかな、と竜樹は思う。
頑張らせるには、安心できる基地が必要だ。それに、暗いの怖いとか、1人が怖いとか、頑張って克服すべきことかな、とも思う。だからこそ、明るい所にいて、人と一緒にいる人にもなる事だろう。
「最初はオレンジ色の暗い灯りをつけてあげて、眠ったら消してあげるのでもいいでしょう?そういった、面倒をみてくれる存在を、ネクターは欲しているのじゃないですか?」
「それは甘えです!軟弱です!」
竜樹はムカついてきた。
誰だって子供の頃があったろう。
甘えられる所があってこそ、大人だってそうなのに。
「でしたら、オッターさんは、暗闇も1人も怖くないと?」
「当然でしょう。私はちゃんとした大人ですもの。」
言ったな?
「では、私から、オッターさん達ネクター王子の周りで働いている人に、一本映画会を開いてみせましょう。それを観ても、同じ意見かどうか、聞かせて欲しいですね。」
そして今夜、1人でお帰り下さい。
淋しくも怖くもないんでしょう?
「なっ•••!」
「ネクターがいないと、俺たちは淋しいんですよ。だから、お願いです。」
御方様のお願いやぜ。
竜樹は悪い顔で笑った。
ニシシシ、と背後のチームニリヤの大人たちも、笑った。