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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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537/692

エンリちゃんをとらないで


フンフンフ・フン♪


子虎のお耳にお尻尾な、幼女のエンリちゃんは、未来に、けこんする(のであろう)ニリヤ王子と小ちゃなお手てを繋いで、ウキウキ、ポテポテ、お尻尾くねくね、ご機嫌で歩いていた。


王都の街の中心部は、歩行者天国になっていて、一角マイクロ馬車では入る事ができないので。防犯の魔道具をちゃんと着け、お城の防犯や貴人を守る第一騎士団と、街の治安を守る第二騎士団の混合部隊とで、ニリヤたちを緩やかに囲み、一緒に移動して護っている。


サーカスの取材と観覧に行くのは、子虎エンリちゃん、ニリヤ王子、オランネージュ王子、狼獣人ファング王太子、熊少年ルトラン、子熊弟カルタム、虎少年おにーたアルノワ、垂れ耳兎弟幼児ルルン、シロクマ少年寮の子デュラン、母シロクマ眷属エタニテ、寮の子親指再生中少年プーリュ。

全部で11人と大所帯である。この他、獣人ご学友のお家からついてきたお世話役、虎侍女スープル達や、毎週王子の番組カメラマンで兼侍従のミラン、チームニリヤの時分から護衛してるルディ達に、テレビラジオの撮影録音隊が一緒である。


「サーカスたのしみだね、エンリちゃん!あ、あそこ、へんなおめんうってる!」

「あい!へんなおめんでつ!」

うふふ、えへへ。


ゲバゲバな黄色毛皮の髪をした、真っ赤で激怒の奇妙なお面。

指さし顔を見合わせて、ニリヤとエンリ、アハハハと2人は仲良し。

お花が咲いているような空間に、エンリちゃんのおにーたアルノワは、うーん、うーん、ムムムムと悩んでいた。


「エンリ、あのね。」

「なんでつか、おにーた。」

ポテ、と足が止まって、先頭だったから、その後ろが渋滞した。

「ほんとにニリヤ殿下と結婚するの?」


他所の国の王子様と、そんなに簡単に結婚できるっけ?難しいんじゃない?それに、お父様とお母様に話してみてじゃない?とか。将来パシフィストに住むの?とか。あと大体。


「この感謝祭が終わったら、エンリはワイルドウルフのお家に帰って、ニリヤ殿下とは離ればなれに、なるんだよ。」


え!?とびっくりお顔のエンリちゃん。ニリヤの顔を見て、アルノワおにーたの顔を見て、てん、てん、てん••••••。


シロクマ獣人でメール神の眷属な母、エタニテはそれを見守りつつ。

(アルノワ、今、楽しみエンリなのに。ダメだワ。)

仕方ないわねぇ、言うにもタイミングと言い方があるのに。って微笑みながら眉だけヘニョりん顔をした。カメラマンで侍従のミランや、護衛のルディも、虎侍女お世話人のスープルも。大人達はうんうんと同じ気持ちである。何も今、言わなくたって。


「•••はなればなれ、ないでつ。ニリヤでんか、エンリといっちょのおウチ、くる?」

ん?う〜ん、とニリヤも考えて。

「ぼく、テレビのおしごとするから、ワイルドウルフのエンリちゃんちには、いっしょ、いけないかなぁ。」


う〜ん。考える子虎幼女。お耳がピクピクしている。

「•••じゃあ、エンリ、ニリヤでんかといっちょ、つむでつ!りょう?おちろ?いっちょのおへやで、ねんね。」

「うん。また、いっしょねよう!わーい、およめちゃんのエンリちゃんと、いっしょ!」

うふふ、えへへ。


(アルノワ、ダメヨ)

虎少年アルノワが、むごむご、と何か言いたげにしたのだが、シロクマエタニテ母ちゃんがその肩に、ポム、と手を置いて。

ニッコリ、ふるふる。

ダメ、ダメ。


エタニテの顔をじっと見たアルノワは、もごもご、と。

「お母様、お父様、悲しむと思ぅ•••。私だって。」


つん、とつまらなそうな顔をした。

今まで一緒に育ってきた、可愛い妹である。エンリちゃんが生まれる時は、アルノワだって寂しいのに発情期のお父様お母様を良い子で待って。それからお母様のお腹が大きくなるのも、抱きついてなでなで、早く生まれないかな、って楽しみにして。生まれてからは、ヨチヨチあぶぶで、ちょっと面倒くさい事もあったけど、チョコチョコくっついてくるのが、可愛くって。


それなのに。

お嫁に行って、ニリヤ王子と一緒に住むなんて言う。

離ればなれ。は、アルノワと。お兄ちゃんは置いてけぼり。なんだ。

何だよ!あんなに、おにーた、おにーた言ってたのにさ!


ツツン!とそっぽ向いたおにーたに、ピクピク!とエンリちゃんのお耳が動くのである。お耳、とっても良く聞こえるんだゾ。

「•••おとーた。おかーた。ぱちぴふとくるでつか。おにーた、くるでつか?」

うん?と考えるエンリちゃんである。


エンリがぱちぴふとにつむ、でつから。

おとーた、おかーた、おにーたも、いちょでつよね?


「お父様たちとか私が、一緒にパシフィストに行く訳ないだろ!」


(アルノワ、ダメ、ダメヨ!)

腰を曲げて、さすさすと背中を撫でてくれるシロクマ眷属エタニテ母ちゃんの、落ち着いて?な気持ちが、分からない訳じゃないけど。

もやもや、口が止まらないんだ。


くあ。 あ、あ、あ。

「•••いちょ、ないでつか?どちてでつか?!」


ムスッ、としたアルノワおにーたは、エタニテ母ちゃんの背中の熱い手に、グッと口を閉じた。ダメだから。これ以上言ったら、とっても酷いこと言ってしまう。

狼なファング王太子が、心配そうに学友のアルノワの肩を叩く。


わかるよ、さびしいよね。

私だって弟のアルディが、パシフィストにいるのは、とても寂しいもの。


むグゥ、となって虎耳を横にピッと倒しているアルノワの周りに、ファング王太子だけじゃなくて、熊少年ルトランも、オランネージュ王子も寄ってきて、ポムポム。タンタン。ぱふり、と元気づける。

小ちゃい垂れ耳兎弟幼児ルルンは、え?って戸惑って、立ち止まっちゃった皆を、どしたの?って困惑、お目々をパチパチしているし。

シロクマ少年寮の子デュランは、痛い感じをピッと感じ取って、心配そうに母ちゃんと虎少年アルノワを見ていて。

寮の子親指再生中少年プーリュは、おずおずと、何か声かけようか、でも、あわわ、と焦って手が前に、くわ、ふに、と動いている。



エンリちゃんは。

どうしておにーたや、おとーたや、おかーたが、ぱちぴふとにきてくれないのか、分からなくて。

でも、ムスッとした、おにーたを見れば、そりゃあ、もう、絶対家族達は来てくれる訳もなくて。どうして。

どうして?

お喉から苦しい息が。


きゅわ わ きゅわぁぁあ


「エンリちゃん。ワイルドウルフの、とうさまや、かあさまと、おわかれやだよね。まだエンリちゃんは、ちっちゃいもん。おとなのひとは、おしごと、おウチがあるから、いっしょ、ダメかぁ。そしたらね。」

ニリヤが、お手てをぎゅっとして、フリフリ慰め。


「おでんわ、しましょ。エンリちゃん、ファングでんかと、おやすみのひ、またくる?ふつうのひは、おでんわ。おとなになったら、ぼく、ワイルドウルフにいってさつえい、パシフィストでさつえい。ぎんゆうしじんのノートさんみたく、たびして、つまとおでんわなの。」

なかよし、できるよ。


フワフワの虎お耳を、ふか、ふか。撫でこして。

ポロリ、溢れる涙を。すん、とお鼻をすするのを、ほっぺに手を当てて、よしよしする。

まだ短い腕を広げて、抱き寄せ、ぎゅっとハグ。


吟遊詩人ノートと、お別れしなきゃって、お話お友達、繋がるんだってイヤイヤぐずった幼いニリヤも、お嫁ちゃんの前では!かっこよいダンナ様、頼れる男の子なのである。

くすん。エンリちゃん、ニリヤのお胸に、濡れた睫毛をグリグリ押し付けて拭いた。


「おでんわ、なにでつか?」

「はなれてても、おはなしできるんだよ。ファングでんかたちと、テレビでんわしてたでしょ?こえだけの、なの!オランネージュにいさま、けーたいでんわ、かしてぇ。」


「ニリヤ、竜樹にお願いするんだね。」

ニッコリ笑って、上着のポッケから、二つ折りの携帯電話魔道具を取り出すオランネージュである。

受け取ったニリヤは、シャランと織紐とビーズのストラップが付いたそれを、パカ、と開いて、エンリちゃんに見せてあげる。


「おはなし、できる、でつか。なかよち。」

「うん、できるよ。」

えへ、えへへ。うふ。


泣いたり笑ったり。


やれやれ、と大人達は思ったのだけど。

だけど。


タッ、とアルノワおにーたが、ニリヤとエンリちゃんに近づいて、ガシ!と携帯電話を掴むと、えいっ!


「あ。」

「あっ!」


泣いたエンリを慰めるのは、おにーたの役目なのに。

なのに、なんで!

仲良く、しないで!


嫉妬は醜い。だけど、妹エンリちゃんを可愛いと思えば思うほど、とられたくないって、思っちゃう。


携帯電話は、思いっきり放り投げられて、道の向こう、遠く、雨を集めて流すための側溝の穴へ向かって。

落ちて。 ゆく。



ビュン!がし!



プランプラン。


「えっ!虎!」

現れたのは大きな。

足のぶっとい、ホワイトなタイガー。とーん、と飛んで来た。

そして、携帯電話をバクンと咥えて、ストラップ部分を危うく牙に引っ掛けて、プラっと口から本体が揺れている。


ものすごい迫力の四つ足の獣。

ギラリ、とこちらを睨んでいるけれど、ど、ど、ど。どうしよう。


「エンリちゃん!まもる!」

「ニリヤでっかっ!」

ニリヤはエンリちゃんを、自分の後ろに庇った。

ああ!アルノワおにーたは、慄いて身体がギュッとなって、動けなかったのに。


ひゅん、と鼻が鳴って、情けなく、アルノワは涙ぐみ。こし、と瞼を擦る。


どし。

一歩。白虎が巨体を、アルノワに向けて足を向けた。

どし。 どし。

(た、食べられる!)


のし。 どし。


護衛は動かない。

くい、と白虎は大きな顔をアルノワの近くまで寄せて、フス!と鼻息、キュワァァァァァア!と虎少年は震え上がり。


どし。ぽむ。ポムポム。

肉球は大きいけれど、ピンクで柔らかく、力も強いのだろうに、優しくそっと。

アルノワの腕を叩いて、携帯電話を咥えた顎を乗っけて、コトンと、返してきた。


あぐーり。

牙に引っ掛けているから、取るには大きくお口を開けなくては。

ビビビ!とチビりそうだけど、手に携帯電話を貰って、アルノワは。


「あ、あ、あ。っ、ありがとぅ•••。」


ようよう、言った。


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