表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

532/692

金と黒


ロテュス王子が連れてきた、ヘンタイ・ルッシュへの監視員候補者。


エルフだからといって、皆同じ見目麗しさではない。いや整ってはいる男性エルフだけれども。

エルフにしては、精悍、といえるだろうか。腰ベルトに革の鞘、滑らかな形の片刃ナイフ。一見して森の狩人のような出立ち。プラチナブロンドの長髪を後ろで、銀の葉っぱチャームのついた革紐で縛り、すらりと背の高い、そして少しだけなで肩。何でもないシャツから見える鎖骨が美しい。

う〜ん、美青年である!


「こちら、フォレック。魔法だけじゃなくて、多少腕も立つから、監視役にはうってつけじゃないかな。他にも何人かで、交代で見てくれるって、竜樹様。」

首をキュと傾げての、ロテュス王子の紹介に、竜樹は手を差し出して握手を。それを受け、ニッコリ笑って、両手でにぎにぎっ!と丁寧に握ったフォレックは、手をそのままに、感激した風で。


「竜樹様。私は竜樹様には、返しきれないほどの恩を受けているのです。この度、少しでもお返しできそうで、とても嬉しいです!」

手を離すと、片膝を床につけて、胸に手を当て。物凄く力強く麗しい上目遣いで頬を染めた。


「おおお、おう?恩?こちらもエルフ族達には、とってもお世話になっているんですから、まあまあ、どうか立って、フォレックさん!」

竜樹があわわ、と腰を折って腕を差し伸べると。ロテュス王子が、ポンポン、とフォレックの背中を叩いて。


「フォレックの奥さんはね、竜樹様。竜樹様が、種族的に妊娠しにくいエルフも不妊治療を、ちょっとやってみないか、って言ってくれたからね。この間から始めた、お試し治療、何の気なしに応募してみたら、このまま自然だと妊娠しなかったって、わかったんだって。」


おお、なんと。

促されて立ったフォレックは、目を伏せて。

「私の妻は、両側卵管閉塞、ってやつだったのです。性病が原因だったのですね。にっくき、ジュヴール!妻に無体をし、その上、解き放たれて後も知らずに放置していたら、私と妻は、一生愛しい子供が得られなかった所ですよ。」

悔しそうに顔を歪めて、拳を握る。

ジュヴール国にエルフが呪われ囚われていた影響が、こんな所にもあった。


「竜樹様が、情報を下さったから。エルフ達は、皆、鑑定をして、一度性病を全てチェックして、治しているんです。私も一緒に、原因の、病気を治す薬を飲んだりしました。それに、竜樹様のすまほの情報から、卵管を通じさせる手術って事で、魔法も使って、狭く閉じている部分を通じさせる事ができました。性病にかかっていた女性エルフ達は、皆一度は不妊の診察を受けて、カラダスキャナを通したり、子宮、卵管の様子を診たりしようと、リュミエール王様がお決めになって、然るべき所と調整を行っているのです。」


情報を纏めて、投げた竜樹だけれども、そんな事になっているとはつゆ知らず。だが、とても大切な事だ。

うん、うん、と言葉も発せられない。ただただ頷く。


フォレックは、ふ、と表情を緩めて。

「竜樹様が、排卵を促す薬効の葉っぱを、見つけて下さったでしょう。エルフにも、ちゃんと、よく効きました。引き離されていた事もあったけど、私と妻は、再び一緒に暮らして、お互いの子供を、いつかは欲しいと思っていたんです。それで、私達、不妊治療しながら、自然に仲良くして、妻のお腹の中に、今、命の芽吹きが。本当に、まだ、このまま育ってくれるかどうかも分からないのですけど、希望が灯ったのが、わかったばかりの所なんです。」

ふ、と頬が緩む。


「ああ、ああ、そうかぁ。ねぇ、繊細な事だから、さ、何て言って良いか分からないけど、このまま、無事に育ってくれるように、俺も祈るよ。」

おめでとう、と言ってしまえるほど、まだ確かではないのだろう。


「ありがとうございます。もし今回上手くいかなくても、私達には、可能性ができた。放っておけば、不可能だったんです。知らなかったら、そう思うと、恐ろしい。きっかけを下さった竜樹様のお陰で、私達夫婦の人生は、きっと変わってゆくんです。このご恩を、返さずしてどうしますか。それに。」


サンジャックと、サン。

大人の話を、どこまで分かっただろうか、目をクリッとさせている2人に向けて、柔らかな光の翠の眼差し、フォレックは手を伸ばして。

ん?と優しく微笑んで待った。


サンもサンジャックも、エルフには慣れ親しんでいるので、差し出された手に、躊躇なく、小さな葉っぱみたいな手をポン、ポンと乗せた。

えへへへ、とぎゅ、ぎゅ、エルフの細くて長い指で手で、握って本当に嬉しそうな顔をするのである。


「あぁ、あー。エルフの子も可愛いけれど、人の子も、何て、何て可愛いんでしょうか。小ちゃな手ですね•••。」

そのまま、ギロリ。ヘンタイ・ルッシュを睨む。ルッシュは、ひょ、と肩を揺らす。


「こんな幼気な子達を、捩れた性癖で怖がらせるだなんて!頼まれなくても、子供を真に大事にするエルフ族として、しっかと見張りましょう。」


「みはりー。こわいひとなの?このひと?」

サンは知らない人、ルッシュ。

「フォレックお兄さん、このヘンタイ、相当きもちわるいけど、良いの?」

サンジャックは、押し付けるのが悪そうに、戸惑っている。


「良いんですよ。私、なかなか強いんですから。呪いもない、ただのヘンタイに、大人のエルフが負けるもんですか!このフォレックお兄さんに、任せて安心していいんです。」

ゆらゆら、ゆら、と握った手を揺らす。


「竜樹様、ご安心下さい。妻も話は聞いておりまして、大いに厳しくやってこいと。同じく不妊治療をしているエルフの夫達が、交代でやりますから、負担も気にする事はありませんよ。」


名残惜しく、ゆっくり握ったサンとサンジャックの手を揺らして、そっと宝物のように戻すと、その手を腰のナイフに掛けて。ルッシュに近寄り。グッ!片耳を引っ張った。

うん、ルッシュ、嬉しそうで苦しそうな顔しないで。


「フォレックさん、よろしくお願いします。ちゃんと監視役のお給料は、皆さんに出しますからねー!」

耳を引っ張って出口方向へ向かいつつある、監視役とヘンタイ。周りのお客さん達が、何事?!と目を止める。遠ざかりつつ声が。


「いらないと言っても、竜樹様は、お気にされますでしょう!お給料以上の安心を、ご期待下さい!今後もエルフを頼みにして下さいね!いつだって、どこまでだって、ご恩返しを致しますからね!•••さあ、ヘンタイ、帰って大人しくしてろ!」

「イタタタ、イタ、あぁ、厳しいエルフも良いなぁ!」


気持ち悪い事を言ったので、パシッと叩かれて。ルッシュは髪を散らして、ヨタヨタと引っ張られて去った。衛兵さんが念の為、会場出口までと付いていき、途中で振り返ってこちらに敬礼をしていった。



「な、何とか、だ、大丈夫そうだね。」

「ファーメル伯爵家当主ルッシュの伝説が、今ここで作られているな。エルフに耳引っ張られてニヤニヤ帰ったって。」

マルサが腕を組んで、まぁ縄で連行の噂よりいっか、と納得している。


「サン、サンジャック。これで安心だね!」

ロテュス王子がニコニコ。心配そうに見ていたヴィフアートも、ひゃっく、とまだしゃっくりをしているキャリコも、何だかホッとしたよう。

「ウン!ロテュスでんか、よくわかんないけど、あんしんなった!」

「ありがとう、ロテュスでんか。」


「竜樹様は、品評会の会議に戻る?」

ヴィフアートが聞くので、うーん、と悩んだ竜樹は、これからの予定を組み立てる。

「試飲の様子を見てくるね、って言って出たから、そこを見つつ、皆で昼飯食べとこう。バーニー君を残してきたから、きっと上手い事いってるはず。1位が決まれば、美味しいおつまみ食べながら、皆で記念飲みだね。お子様ワインを持って、サンもサンジャックもキャリコも、アー兄ちゃんもロテュス殿下も混ざっちゃお。」

「俺は飲めねえなー。むむむ、後で飲もう。」

マルサは護衛、仕方ないねゴメンネ。


それから軽く昼ご飯。記念飲みご馳走を控えているから、さっとおうどんに。

会場では、お酒に合う食事も出ているのだが、清酒に蕎麦、だけではなく、おうどんも出した。竜樹が、黄金の出汁と黒いお汁のうどん、どっちも食べたい、と思ったからである。

関東の黒いお汁のうどんは、肉うどん。麺もコシがあって、もぐもぐと噛み締めて、食べ応えのある1杯。

黄金の出汁は天ぷらうどん。滋味あるつゆにしみとろけてゆく、かき揚げが、はぷりと美味しい。

どちらもミニサイズで金黒うどんセット。お客さんも、珍しさから、フォークを使ってうまうま結構人気な模様。中にはお箸のツワモノもいる。


「金と黒、皆はどっちのおうどんが好き?」

竜樹がツルッと食べながら。

「俺は金だな。口にあたるのが、ツユも麺も滑らかで、なのに味深いじゃん。」

へー、意外。身体を使うお仕事のマルサは、塩っ辛い黒かと思いきや、なんとお上品なのである。


「私も金ですかねえ。丁寧な感じ、します。」

ロテュス王子も金。エルフらしいと言えようか。

ヴィフアート黒。肉が美味しい。食べてる気がする。

キャリコ金。かき揚げが好き。

サンジャック黒。お肉には勝てない。

サン金。えびのはいったかきあげ、とおつゆのあじが、すき。


「竜樹はどっちなんだ?」

マルサが、金のお汁を匙でほぼほぼ飲み終わり、はふ、と息付き。


「俺はー、金の美味しさも、黒の美味しさも、分かるんだよねぇ。強いて言えば、生まれて育った土地のうどんは、黒だったから、そっちかな。ガツンと食べる感じが、良いかなって。」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ