良い仕事がしたいんだ
些細な救いの手が、そこ、ここで。1人の、アル中親父に殴られて、ポツンといたはずの少年、サンジャックを、どうにかしてやりたいと、包んでいた事。
それを知って、サンジャックは、目を眇めて、パチン、パチンとまつ毛を合わせては、面映い顔をした。
「パルクさん。今日は感謝祭でお店が忙しいでしょうに、この即売会にいらして下さったんですね。」
竜樹が、ニコニコ聞くと、酒屋のパルクは、ニカッとして。
「ええ、ええ、竜樹様が、王都の酒屋連中にも、今日の試飲即売会に合わせて、ノンアルも、品評会に出品した酒も、置けるようにはからってくれましたでしょう。きっと午後から問い合わせがあるって思って、母ちゃんに任せて抜け出して、ククと急いで色々見て回りましてね。俺ら達でも試飲はしたけど、お客さんにどうウケてるかな、とか、気になりますしねえ。会場の感じを、他の酒屋の連中も、臨時雇いに配達を任せたりもして、時間を盗んで見にきてますよ。今年1番美味しいお酒も決まりますし、聞いてすぐ、それっとこれが1番の酒だ!って売り出しやりたいですしね!」
うんうん腕組み、しっかり商売。息子のククも、ホワッと笑って竜樹に。
「竜樹様、俺もてつだって、のんある売りばを店につくったよ!」
親指を、グッと立てた。
竜樹もグッ!と親指立てて返す。
「クク偉いなあ、お店のお手伝いして。ククの作ったノンアル売り場、皆に来てもらって、買って飲んでもらえると良いね。」
「うん!」
えへへ、と褒められて嬉しそうなククと、竜樹が顔を見合わせていると、パルク父ちゃんが、とん、と一歩サンジャックに近づいた。
しゃがんで、そっ、と手を差し出して。サンジャックの頭の側に近づけて、ピタ、と一時、止める。
大丈夫かな、と恐る恐るの眼差し。野良の猫を触る時みたいに。
パチン、と一つ瞬きサンジャック。パルクは、ふっ、と笑うと、ポム!と頭の上に大きな手を乗せて、そ〜っと、撫でた。
ニヒャリ、本当に嬉しそうに笑み崩れる。
「ああ〜、•••撫でさせてくれるもんなぁ〜。今は、本当、全然違うよ、サンジャック。前は、撫でてやりたくったって、触ったら切れそうなくらいにピリッとしてたし。周り中に、何かあれば殴られるんじゃないか、って、ビクビク構えて、怯えていたよな。幸せなんだな、サンジャック。俺たちは、お前をいつでも、こうして撫でてやりたかったんだよ。」
竜樹とーさじゃない、パルクおじさん。だけれども、頭に乗った手は無骨で優しくて、また違った温かさなのだ。
サンジャックの胸は、込み上げてくるものでいっぱいになる。
何だろう、なんだ、これ。
何て言って良いのか分からずに。皆が微笑んでいる中で、サンジャックは、ふにゅにゅ、と口をもごもごする。
「サンジャック、ありがとうな。」
撫でながら、パルクがお礼を言う。
「ありがとう、何で?おれが、ありがとうじゃん。」
頬っぺたを赤くして言えば、ククが嬉しそうにムククと飛びついてきて、ととと、よろける。
「サンジャックを助けるつもりで、俺たち酒屋が助かった。お前との縁で、竜樹様に、のんあるをいち早く、詳しく教えてもらえた。俺たちさ、酒屋だから、酒が飲みたい、って奴には、どうしたって売るようになってたよ、今までは。それが、サンジャックのあの、酔いどれ親父みたいな酒崩れしちゃった奴だってだよ。ーーーでも、酒抜きの施設も、のんあるも、出来た。」
しゃがんだまま、サンジャックの二の腕を、グッグッ、と力を込めて掴んでは離して。
「俺たちだって、祝いの酒や、仕事を終えて楽しみの大事な晩酌や、そんな『いい酒』を売ってたいんだよ。暴れたり、悪い酒の奴らには、今度から、施設に行け!とか、飲み過ぎの奴には、のんあるを飲め!って言える!男連中の会合だって、酒が得意じゃなくても、無理に飲ませられたりしなくなるし、女衆だって、安全に酒の気分や味だけを味わえる。妊婦さんだって、のんあるは飲めるんだぞ。」
「うち、サイダーとか、そふとどりんくもおくんだよ!あれ、スッゴくうまいよねぇ。」
サンジャックを助けようとして。
自分達の方こそ、もっと良い、ちょっと良い、広がる縁を得た。
「だから、ありがとうだよ、サンジャック。」
「ありがとな!」
「•••お、おれ、さ。」
サンジャックは、モゴモゴしながらも、喉から詰まった言葉を、そうっと落とす。
「教会孤児院で、おこずかいかせぎに、色々食べものの出店とかを、毎日やってるからさ。おれもそのうち、やるから、さ。そしたら、そしたら。」
買いに、きてくれよ。
「お、おまけ、するから。」
ありがとうの、代わりに。
サンジャックの、精一杯の気持ちに、素直にありがとうは言えなくたって。パルクもククも、照れくさそうなその顔を見れば、満杯の胸の応えが、ちゃんと通じて。
ニハハハ!と同じに笑った親子だった。
「絶対いくよ!」
「おう、楽しみにしてるからな!」
クシャクシャにハグし合って、親子に挟まれて、真っ赤なサンジャックは、ぷふ、と鼻息吹く。満足して、パルクとクク、ふはっと離れる。
「竜樹様、色々ありがとうございます。俺らはそれじゃあそろそろ、行きますね。」
「またね、サンジャック!今度またあそぼうぜ!」
「はーいパルクさん、クク、頑張ってね!」
「パルクおじさん、クク、またね。あ、あそぼ、うね!」
ぎこちなく手を振るサンジャックの隣で、サンがニコニコ手を大きく振っている。サンジャックにいちゃに優しい2人が、好ましかったのだ。
人波に紛れて遠く、消えてしまった2人を、ジッとサンジャックは見ていた。
ジッと、ただ、見ていた。
「•••さあ、ロテュスの所に行こうか。」
下げた小さな手を、取って握った竜樹が、ゆら、と揺らしてやって。ようやく、コックリと深く頷くと、皆して人の間を歩き出す。
無関係なようで、けれど、お酒に纏わる関わり、好奇心を持った様々な人たちが、不思議な縁で集まった、今日のこの会場で。
「あ、竜樹様〜!のんあるの味比べ、終わりましたよ!」
エルフのロテュス王子が、わやわやと味比べをしていた者達の中からぴょん!と飛んで、竜樹達を見つけた。
元花街組のヴィフアートことアー兄ちゃんと、感情ゆっくり解き放ち中のキャリコも、お手伝いに味比べをしていたようだ。ヴィフアートは嬉しそうに寄ってくるし、キャリコはフリリ、と小さく手を振った。
「のんあるの優勝は、りんごの、シュワシュワ、シードルになったよ。味も高級感あって、泡もきめ細かくて、いくらでも飲めそうなお味でした。」
「ヘェ〜。聞いただけで美味しそうだね。皆、お手伝いご苦労様だよー。」
ニコニコしつつ、ロテュス王子が竜樹の右肩に、手を繋いでいるサンの邪魔をしないようにくっつき。それに負けじと、ヴィフアートが、サンジャックと繋いだ左、よよっと抱き込みつつ肩にくっついた。
キャリコはソフトドリンク部門の味見をし過ぎて、ひゃっく、としゃっくり。
「竜樹様、もうお酒の方の品評会、終わったんですか?早すぎません?」
あー。
「それが。」
サンジャックに痴漢が。このヘンタイ・ルッシュがそうで。罪とするには微妙で、捕まえておけないけれど、性癖が特殊で撚れてるから、ほっぽっておけなくて。
「何だかんだあって、俺が何か働かせる感じになったんだけど、ちょっと危なっかしいから、誰かに監視をしてもらおうと思ってるんだ。その事でもし良かったら助けて欲しくて。•••エルフに、そういう仕事に向いてる人材いないかな、って聞きにきたんだ。」
んーむ。
と詳しく話を聞いたロテュス王子は、あの人がいいかな、それともあの人?と脳内で選択を吟味して、ちょっと聞いてくる!と転移魔法で消え、そしてあっという間に監視員候補のエルフを連れて戻ってきた。
更新しようとプチプチこの物語を書いておりますと、テレビではプリンプ◯ン物語を再放送していまして、すごく気が散るのでした。プリン×2ちゃん、何て声が可愛いんでしょう。
あと、今なお色褪せない人形の造形の魅力。
作家さんは違いますが、一代目の辻村寿三郎さんが人形町に人形館を開いていらした時分に、ご本人が作業をしてらっしゃる所を拝見したり(特別な事ではなく作業を公開してらした)、お人形を見たりした事もあるのですが、人形って こう、ぐわっとくる生命感、魅力がありますよね。
調べたらもう人形町にはジュサブロー館はないんですねぇ。
当時行っておいて良かった。いつまででも見てられます。
良かったらご存知ない方も、画像検索で人形ご覧になってみてください。




