ホップの花
ジャーン!
ノンアルブース全体に見えるように、高い位置に備え付けてある、そこそこ大きなモニター。
先程から様々なソフトドリンクの、おすすめポイントが流れていたが。
ふっ、と無音。その後、軽快な音楽が鳴って。画面では物語が始まる。
ピロポンピン♪
『俺、早く大人になりたいんだぁ。』
『うん、だな。もっと稼げるように、なりたいよな。』
あどけない子供達が、冒険者としてデビュー、小さな兎を罠で捕らえて。やんちゃそうな男の子。剣などまだ持てない。何にでも使える値ごろなナイフを腰に。
比べたら背の高い、色白でひょろっとした男の子。弓を背中に。
そこに現れる冒険者、先輩チーム。腕っ節の強そうな、顔に傷、使い込まれた剣。後衛の、いかにもビリビリ凄そうな、スタンガン持ち。
『おぅ、お前ら、チビ兎か。うんうん、良くやった。そういうのを地道に獲るってエライんだぜ。すごく増えて困っちまうしな。そうだ、先輩が、ちょっと奢ってやろうか。』
ニカ!と気の良い先輩。
カランコロン、とドアベルの音。
『おう、おやっさん。未来の大物冒険者達に、ちょっと良いやつ頼むぜ。エールでいいだろ、お前ら?』
え•••、とちょっと戸惑う子供達。
けれど。
『酒なんて、おれ、飲んだことないのに•••。』
『でも、先輩が、おごってくれるんだ。いらないなんて、言えないし。お酒だけど、一杯だし•••。』
おやっさん、渋い顔をしながらエールを人数分、ダン!とテーブルに出す。
『固いこと言うなよ。舐める位良いだろう。大人の世界を、チラッと、な?』
エールを片手にパチンとウインク。
顔を見合わせて、子供達は、エールを、手に取り、飲んーーー。
『ダメ〜〜〜!!!』
ブブー。
画面に大きなバッテンが。
飲みかけ驚き子供達のアップ、その後ろで先輩が、え、とエールを口元にやったまま、目を見張る。
バッテンの前に、白衣を着た研究員が出てきて解説する。
『皆さん、こういうことって、ありがちですよね。ですが、飲む前に、飲ませる前に、私の話を聞いて下さい。子供のうちから飲むと、アルコール依存症になりやすいです。また、大人になってからもアルコール依存症になって途切れず大量に、お酒を飲むと、こんな事が起こりますよ。この脳の、カラダスキャナの画像を見て下さい。』
正常な人の脳、萎縮した人の脳、と2つの脳の下に書かれている。
『こちらは正常な人の脳。ちゃんと、満遍なく詰まっていますね。こちらが、脳が萎縮している人の脳。比べると分かりますか?目で見て分かるくらい、縮んでいるでしょう?脳は、考えたり、行動したり、人が生きていくのに大事なところです。萎縮すれば、注意力・記憶力が低くなる、感情の制御ができない、歩くとふらつく、手が震える。』
エレバージュ神様が、画面をジッと見つめたまま、憂い、ふうと息を吐く。
「恐ろしいだろうよねえ。あんなにはっきり、目で見て損なわれているのが、分かるのだ。あんな魔道具を作るとは、竜樹は、なかなか凄い。ーーー酒の神としては、実は嬉しい事でね。」
嬉しい?
お酒の神様なのに、お酒の怖さを伝えて皆を遠ざけさせる事が、なぜ?
ハテナ?と不思議そうな顔の竜樹達に、エレバージュ神様は、チラッと目線をーー雄々しいのに色っぽいーーくれて、ふふ、と微笑。
「私はね、酒の齎す闇の部分から、明るい浄め、祝い寿ぎの部分まで、まるまる含め、全てを愛しているよ。酒は人生、渋みも甘みもある。でも、でもね。」
画面では、白衣の研究員が、お酒を子供に飲ませない、子供のみんなも、素敵な大人になるために、大人になってから飲もう!雰囲気を楽しんで飲むなら、美味しいソフトドリンクや、お子様用のノンアルを。とおススメしている。
サンジャックもそれを見上げて、ふす、と鼻息を吹く。目は輝いて、竜樹が差し出した希望に、キリッと真面目顔で未来を。
「人の子を悲しい事にさせて、酒のせいだ、酒を憎むと、させたい訳じゃあ、ないんだよ。」
柔らかな視線は、酒で酷い目に遭ってきた子に落ちる。
「エレバージュ神様は、お酒がお好き。なら、お酒が、人の輪を、笑顔を作り、特別な記念に飲まれ、日常でほどよく、美味し味わい。乱雑に飲めればいいんだって、アルコール依存症で、がぶがぶ粗雑に扱われるより、愛しんで大事に飲まれる方が、より、よろしいでしょうよね。」
竜樹がサンジャックと繋いだ手を揺らして、うんうん、頷き言えば。エレバージュ神様も、ニッコリ。
笑って、コックリ頷き。
「ノンアルの、お酒風飲み物も面白くて好きだよ。皆、工夫していかにもお酒な雰囲気をどうやって出そうか、ってね。まあ、そりゃあ、本物のお酒には敵わないよ。けど、それを取り入れる事で、本物のお酒の価値が下がるどころか、竜樹は上げているだろう?」
画面の物語は続く。お酒の美味しい、そして健康的な飲み方について。ノンアルも組み込んで、休肝日を作り、適量を楽しく。
「飲むな、って言わないのだよね。我慢しろ、止めろ、って。お酒を造っている製造、酒屋、飲み屋、どこも、皆が飲むお酒を減らしても、他にやりようがあって、かつ今までより大事に、特別に飲まれるようになる。造る方だって、より大事に造るようになるよ。子供新聞も買ったよ。お酒の失敗談なんかも面白いし、お酒っていう飲み物に纏わる文化を、丸ごと良いも悪いも、取り込んで一歩先へ向かっていると思う。」
ワイナリーの跡取り息子で試飲売り場のテイトが、かの神に跪きたいのに、それをしてしまっては竜樹と、せっかくお忍びで来ているエレバージュ神様の対話を邪魔してしまう、とふるふるしている。
サンは、ニコッとしたまま、大人のお話をしている竜樹とーさを見ている。とーさ、ほめられているみたい。ヤッタネ!
「これからも、竜樹よ。酒を憎まず、人が愛し愛される酒を楽しめるように、力を貸しておくれな。」
そう言って微笑んだ神様のお願い。だが、そうでなくても竜樹は、自分の一番の芯にある、子供達の事を思えば、それは自分の仕事なのだと思っていたから。
「はい、エレバージュ神様。まずは身近なこの国から、ほどよく、健康的に、飲みたい人が美味しいお酒を飲めるように、そして飲みたくない人が無理矢理飲まされたりしないようにーーーお酒を楽しい特別なものだ、って思って貰えるように、頑張ります。やっぱり私は年に一回だけ飲む約束は、変えられませんが。それがあるから、毎年、美味しいお酒品評会を開けそうでもありますし。」
鼻歌でも出そうな勢いで、うんうんうん、とゆっくり頷く酒の神。
「そのご褒美にーーー。」
そろり、伸ばされた尊き御手は、人差し指、とん、と。
パチン、パチリ、瞬きしているサンジャックの額を、軽く押した。
ぽわ、と光が神の指先にサンジャックの額に。ふわっと光の玉、吸い込まれて、•••やがて、消えた。
周りはギョッとしたが、サンジャック当人は光も指先も近すぎて、何だか分からず。
「サンジャック。」
「は、はい?」
何かえらそうな人は、お酒の神様らしい。幼き瞳は、パッチリ開いて、目の前の神様に。
「お前に、お酒の神、このエレバージュ神の祝福を、授けたぞ。」
パサリ。
頭の上に落ちた、ホップの花。
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