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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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525/692

女優とは


お茶を飲む。

ヘンタイを前にして。


ふー。


「サンジャック、ちょっとだけ我慢してな。文さんが受けてくれたなら、きっと上手くいくんだから。」

「ウン。」

竜樹は椅子に座って、サンジャックを抱っこ。抱っこするにはもう大きい、凡そ8歳の彼なのだが、今は守られて竜樹とーさに懐いて、ヘンタイから壁を作ってやるため、膝にONだ。

司祭様とマルサ王弟と、衛兵さんが淹れてくれた、休憩の時に飲む用のお茶を啜っている。

衛兵さんのブースは、交代に来た者と休憩の者、ブースで待機し呼び出しに応える者などがいるが、誰もが竜樹達の方を、そーッとしといている。

ルッシュがニヤニヤしていて、縛られているのに不気味で、そしてマルサ王弟と同級生とも知れて。衛兵の彼らには、その、お茶飲み待ち時間の不思議空間に入るのは、荷が重いのだ。


「ルッシュ、何でサンジャックを買ったんだよ。今まで通り、子供に親切にしすぎるくらいで、我慢しとけば良かっただろ。どうせ美学とやらがあるんならよ。」

マルサは、ルッシュをあれこれ貶しながらも、現在の微妙な罪を犯した事に、内心もやもやとした気持ちがあるようだ。

特別に親しかった訳ではないが、腐れ縁的に、自分がまあ大丈夫か、と認めてきたその目が、間違っていたか、被害者を見逃す事になったか、と後悔なのである。


「出会いは偶然だったんですよねぇ。街中で、サンジャック君は、酔っ払った父親に殴られていてねぇ。それでも、冷たい氷のような、貫く瞳は反抗心を失っていなくて•••何と美しい事か、と。」


介入したルッシュは、聞けばお酒を買って来られなかった、つけ払いをし過ぎて、お使いに行ったサンジャックが突っ放されたのだと知った。酒乱の父親は、自分が行ったのでは酒を売ってもらえないので、息子のサンジャックを行かせて、いつも通り憐憫で酒を得ようとしたのに。

上手くいかず、その怒りを垂れ流すがままに、サンジャックにぶつけていたのだ。


「幼きやわやわの、愛すべき肌を傷つけるのはいただけないなぁ、って思いましたんでね。だったらお金を払うから、少し息子さんと話をさせてくれないか、と頼んだんです。まぁ、その時のサンジャック君は、警戒して一言も話をしてくれませんでしたが。屋敷に連れて行って金を払ったので•••一角馬車に乗って通りかかったのでね、手持ちなどありませんでした。屋敷を覚えて、ちょくちょくねだりに来るようになりまして。払わないとサンジャック君、殴られますのでねぇ。」


サンジャックを守りたいのか、いやいや、愛する子供の肌を守りたいのだ。しかし、多少はサンジャックも守られたのか?いや、それに便乗してお風呂まで一緒に入ったり舐めたりしたのだ、う〜ん、微妙。


「仕方ないように言ってるが、お前、喜んだんだろう!好みの子供が、あちらからやって来るんだからな!」

マルサが、足を組んでつま先を振りながら、厳しく問い詰める。


ルッシュは、うんうん、と素直に頷いた。

「あぁ、マズイなぁ、と思いながらも、あまりの美しさ愛しさに、少し羽目を外してしまいましたかね。でもサンジャック君は可哀想でねぇ、払うお金を増やさせようと、親父さんが私に、あれもやれる、これもやれる、って提案してくるんですよ。お金どころか、ウチにあるお酒も、何度か出してやれば目当てになりましてね。だからサンジャック君は、いっそのこと私が貰おうかなぁ、って。そんな気でいたものだから。」


「やだ!ヤダヤダヤダ!」


黒よりのグレーなルッシュにさえ、ある意味助けられて、サンジャックはようよう生きていたのだな。

竜樹は痛ましく。身を捩って嫌がるサンジャックの腹に手を回して支えていたが、片手を上げて、頭を撫でこ撫でこしてやって、落ち着かせる。


「そういう感じでサンジャックを買っていたなら、もう心配ないんだし、安心して諦めてくれないかな、ルッシュさん。サンジャックを助けて•••う、ううん、ありがとうとは言い難いな、えーと。」

竜樹がモゴモゴしていると。


「良いんですよ、ギフトの御方様。私は普通じゃない自覚はあります。お礼を言われる立場じゃありませんし、通常ではあり得なかった、サンジャック君との目眩く時間では、得もしましたしね。まぁ、もし、許されるなら、これからも時々サンジャック君に会いたいなぁ、なんて•••遠目でも良いんです!流石にこの流れで、彼を引き取れるとは思いませんが、一度我が手に、慈しめると思った子ですもの。グフ。」


言ってる事は良さそう?なのに、なぁ〜んか。

「ギルティなんだよね〜。」

「ぜったい会いたくない!」


「まぁルッシュ、どう言おうが、お前はサンジャックの苦境につけ込んで、本人が嫌なのに、いい思いをしたってことだ。何となくお前のシレッとした感じに流されちまいそうだが、俺は誤魔化されねぇぞ。」

マルサは流石、王弟で騎士団特別顧問である。そしてルッシュのやりよう、犯罪者(仮)の言い訳にも、慣れているのだろう。


「そんなにサンジャックが大事なら、竜樹がやったみたいに酔っ払い親父を何とかして引き離してやって、真面目にサンジャックを保護してやったら良かっただろ!そうしなかったのは•••。」

「マルサ王弟殿下は、誤魔化せないなぁ。」

ニヤニヤしている。

騙されてはいけない。けっして人が良いのではない、悪いのだ。

竜樹も、サンジャックも、ゲハー!となった。


ピロリン♪

スマホのメッセージアプリに、発言が来た。サンジャックと一緒に覗き込めば、文さん。


『友達と連絡とれました。サンジャック君を守る事を優先して、詳細説明させてもらいました。異世界にいる事も、そのテイで後々こちらに繋ぐんだ、って事も。信用できる人です、それでも何か問題あれば、この鏑木文が責任とって対処致します。先輩女優さんなのですが、ヘンタイに特化した彼女が、スマホで話つけてくれるそうです。竜樹お兄さんのスマホの番号、教えても大丈夫ですか?』


ホチ、ホチホチ。打ち込む。

『文さんが信用できると言うなら、その方を俺も信用します。どうかスマホ番号教えてもらって、お願いします。』


『信用してくれて、ありがとうございます。ビデオ通話を、3人でしましょう。彼女の画面を大きくして、ヘンタイに向けて話しかけさせて下さい。じゃあ、教えてきますね、受け入れてもらえれば。』

『了解です!』


やがて、ぽへ、とビデオ通話ができるメッセージアプリに、新しい人が登録申請してきた。


「中館ゆうみ•••え!?あの、中館ゆうみ!?」

びっくりしている間に、サクサクと文とゆうみと竜樹とで、グループが作られて、トゥルルルン♪と呼び出し音。

「はい、•••はい!もしもし!」

『もしもし、初めまして!文ちゃんの義兄さんの竜樹さん?本当に異世界にいたりするの•••まぁ、文ちゃんって嘘つかないんだけど。」


中館ゆうみ。

『小学生はホームレス』で子役として素晴らしい演技、世間の話題をさらった彼女は、現在大人になっても、有り余る才能、演技力で世間を賑わせている。異世界に渡る前の竜樹だって、彼女のドラマや映画を、そりゃあ観てきた。

そして•••大人になっても、結婚しても、子供を産んでも、まるで子役の時の魅力、いや、そのままではない、ランドセルやピヨピヨ一年生の黄色い帽子を被っても違和感がない幼さなのに、大人の女性の魅力もあるという。アンバランスで繊細、それでいながら骨太の雰囲気を内包する、稀有な女優さんなのである。


「え、ええぇ、はい!異世界にいますよ。こちらの人々の様子を見ていただければ、多分少しは納得できるかな。」

衛兵のブースから、お酒の品評会試飲即売会の会場、行き交う人々を、カメラで映して、説得力を提示する。


『うわぁ!すごい髪色の人いる!なのに自然な感じ•••服も、バーチャルだとしたら、やり過ぎだよね。人種が違う感じするもんね。うん、まあ、分かった、文ちゃんの義兄さんなら、もし、もしも嘘だとしたって、悪い事にはならないでしょう!それより、子供に執着してるヘンタイが、いるんですって?』


信用で人は動く。こんな、胡散臭い竜樹の立場なのに、信じてもらえるのは、ひとえに文の信頼度が高いからだろう。

サンジャックが、ほわ!女の子?人?と、話ができる!とびっくり。


『サンジャック君っていうんだよね。竜樹お兄さん、サンジャック君と少し話をしても?』

文の顔が、スマホの下の方に小さく映っている。ゆうみの顔が大きくなるように設定しておいて、竜樹はサンジャックに、スマホを持たせてやった。


『サンジャック君?わぁ、かわいい子だあ!こんにちは、中館ゆうみ、って言います。はろー?日本語わかるかな?』

『大丈夫よ、ゆうみちゃん。日本語通じるのよ。』


タイプは違うが、綺麗なお姉さん2人に話しかけられて、サンジャックは、ふす、と鼻息を吹いて照れた。照れたりできる、そんなふうに、少年らしい所が、やっと出てきた。竜樹の関係者だ、というのもあるかもしれない。ここでも、信用である。


「こ、こんにちは。フミおねえさん、ナカダテユウミおねえさん?」

『ゆうみちゃんで、いいわよ!少し、サンジャック君のお話を聞いたの。竜樹お父さんは、あなたを守ってくれる、いいお父さんなのね?』


ゆうみの言葉に、ウンウン!と小さな頭が深く頷く。

「竜樹とーさは、いいとーさだよ!俺を殴るクソ親父を、本当に何とかしてくれたのは、竜樹とーさだけだ!お酒だって、約束して、年に一回しかのまないんだ!おれとのやくそく、まもってくれる。はんぱな、かわいそうね、ってあわれみなんかじゃない。本当のとーさになってくれたんだ!」

勢いよく、胸の思いを、伝えたく。


ゆうみは、ニッコリ。文も、ふんわり。微笑む2人は、春の顔。花も飛ぶかと思われる。

『ウンウン、いいお父さん。良かった。ゆうみちゃんはねえ、結婚して子供がいて、小ちゃな男の子なんだけど、だから、お母さんだし、サンジャック君の事が他人事には思えないの。ウチの子が、ヘンタイに触られたら、角が出るくらい怒ると思う。』

ムン、とした顔も可愛いお母さんである。


「そっか、ゆうみちゃんは、いいお母さんなんだね。竜樹とーさも、ラフィネかーさと仲良しだよ。かーさも、いいお母さん。多分、おんなじに怒ってくれると思う。」

『ウンウン、うん。いいお母さんも、いるんだね。良かった。まぁ、でも、きっと竜樹お父さんも、ラフィネ?お母さんも、ヘンタイには、慣れてないと思うのよ。』

ニ、とした笑みは、先程とは全く違う、含み深いものである。


「ウン、竜樹とーさは、ヘンタイの都合も聞いちゃいそうだな。お人好しだもん。ラフィネかーさは、花街にいたから、慣れてるかもだけど、今、ここにいないんだ。ヘンタイ、ルッシュのやろう、ここで捕まってる。でも、つみにならないんだって。おれと時々会いたいとか、きもちわるい感じなんだ。」


『大丈夫よ、サンジャック君。』

ゆうみは、すー、と息を吸って微笑んだまま。

『子役の頃から、ヘンタイホイホイだった、このゆうみちゃんが、何とかしてあげるからね。ヘンタイには、ヘンタイに分かる言葉で話さないと通じないのよ。普通に話をしてて、何か変な感じに、ぬるぬる通じなかったんじゃない?』

「ウン、なんかやな感じ。竜樹とーさは、ギルティだって。」


ギルティ。

だよねだよね。

『じゃあ、その、ヘンタイ・ルッシュ?に、このスマホの、ゆうみちゃんの顔を向けて、話をさせてちょうだい。良い?』

「分かった。」


サンジャックが、竜樹とーさの袖を片方の手で掴んだまま、膝から降りてルッシュへ向かう。マルサがすぐ何かあれば止められる位置でありながら、画面を邪魔しないように、サンジャックの肩に手を乗せてやる。

ルッシュの顔の真ん前に向けられたスマホ画面では。


先程までの、優しい春の微笑みとは、全く違った。

凍り、ちり、とした見下し笑い、幼い顔だが大人、大人だが小さく瑞々しい、どこもかしこもちんまりと収まった、けれど目力の強い。引力、魅力。平伏したくなる。

女優とは。


『おい、ヘンタイ。』


高い声なのに、響く、威圧感がある。


「は•••。」

呑まれて、ルッシュ、乾いて引っ付いた唇を、パチンと開く。間抜け面。



『喜べ。お前が大好きな、絶望ってやつを。』


このゆうみ様が、くれてやるよ。

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