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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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吟遊詩人は愛を歌う


吟遊詩人ノートは、愛するマオに、精一杯心を込めて、求婚の歌を歌う。



吟遊詩人は旅をする

歌って 歌って

帰るは愛する人のもと

会いたいあの子と

会えない時間

思うは彼女の事ばかり


旅の果て 腕を磨いて

吟遊詩人は歌の祭典 賞を獲る

貧しい吟遊 その日暮らしと

投げ銭ありがたく 銅貨一つに

人生賭けたが あの子には

添わせられない 歌暮らし

だが見よ 万雷の拍手

彼は思った 今ならば

苦労の衣も 祝福に


旅は続く 寂しい思いを

あの子にさせて 吟遊詩人

行先の不仲は心配するな

恋する転移魔法陣

金貨10枚賞金で

どこでも日帰り

行き放題の定期券

せっせと稼いであの子の元へ

帰れる当てができたんだから


泊まりの仕事も たまにはあるな

あの子の声を いつでも聞ける

けーたいでんわ

2人を繋ぐ 声の糸

格安卸値 王宮価格

賞金金貨30枚の使い途

それは2人の未来のために


愛しき人よ 可愛いマオ

旅する歌うたい

君がいなけりゃ寂しい男

吟遊詩人ノートの奴と

どうか結婚しておくれ

そうしていつ・いつ・いつまでも

一緒にいると言ってくれ


母神メール様のお導きあれば

父神ペール様のお許しあれば

そうしてマオが うんと言うなら

2人に良く似た 小さな子

よいよい抱きしめ 先に繋ごう

歌を歌っていつまでも

おにぎり握って 賑やかに

誰とも離れず 仲良くゆこう


さあ 君に 求婚するよ

返事は はい しかいらないよ

せーので



ドゥワ・ワー♪と合いの手入れていたにわかリポーターな歌い手達。身体を揺らしていたのが、ピタッ、と止まる。

一緒に歌っていた天才吟遊詩人少女、シトロンちゃんも、預かっていた薔薇の可愛らしい花束を、ササッ!と良いタイミングでノートに渡す。


「マオ、どうか俺と、結婚して下さい!」


猫獣人、まんまやの看板娘、マオの前で跪き、花束を差し出したノートは、ビシッと決めた!

はずだった。


マオは、ふるふる揺れた瞳から、ポロリ、ぽろ、と涙を溢した。


「ま、マオ、マオ?」

ノートが、花束を受け取ってもらえなくて、泣かれて、焦る。

マオは、顔を真っ赤、くしゃくしゃにして、片手で顔を覆い、震えるもう片手で、花束をそっと受け取った。真剣な顔で跪いたままのノートに、フニャあと。


背を丸めて、その胸の中に、しゃがみ込むようにゆるゆる。


「マオ。マーオ。ねえ、泣かないで。返事を聞かせて。結婚するって、良いよって、言ってよ?」

少し笑って、ノートだって、分かっているのである。もう、これで、この雰囲気で、マオに断られる事は無いって!

可愛いマオ。感激して泣いちゃったマオ。立ち上がって、抱きしめて、マオのふわふわの耳が、コクコク、うんうん、って頷くのに合わせて、ノートの頬にさわさわと触れるのが愛しい。


グシュン。ひっく、と涙を掌で擦り擦り。ふ、ふー、と息を吐いて。

「ノ、ノート。喜んで。あ、あなたのお嫁さんに、私、なるわ。」


ギュッと抱きしめ合って、周りの歌い手達が、ワァァァァァア!と拍手喝采して、喜びの大成功である!


えく、えく、と泣きながらマオは、ぐずぐずノートの胸に顔を擦り付ける。

「ノ、ノートが、お父さんとお母さんが離婚したって、結婚生活、あんまりどうかなってずっと前に言ってたから。」

「うん、うん?」


「わ、私、ノートは結婚したくないのかも、って。それでも、私、ノートが良かったから、一生、こんな、付かず離れずの関係なのかな、って。それでも、無理に結婚して嫌がられたくなかったし、別れたくもなくて。」

「うん、うん。ごめんね。」


「ずっと待ってたの。赤ちゃんつくるなら、女性って、期限がやっぱりあるから、ノートとの赤ちゃんだけ、欲しいって言ってみようかな、って思ったり。でも、それも嫌がられたらな、って、怖くなったり。」


ノートは自分が情けなくなってきた。

女性には、女性なりの、結婚に対する自分の人生の、どうしたい、って希望があって。絶対産まれる保証もないが、赤ちゃんを自分で産みたいなら、男性よりもずっと、可能性が高い期限が、短く切られているのである。

マオがノートとの子供を欲しがっているのは嬉しい事だが、そんな話を、心を打ち明けて、ゆっくりとして来れなかった、という事は、半分責任がある男性側のノートが、配慮が足らない部分でもあろう。


まあ若い男性で、女性側から言わなくても、そこまで気づいて考えてくれる人がいたら、それこそめっけもんだけどね!女性が生理いつまであるかだって、ふんわり分かってない男性多いしね!と、見ていた吟遊詩人アラシドお母さんは、息子のモールに、良い教育が出来た、とウンウン頷いた。


グシュグシュ胸に抱きつき泣いているマオの頭を、背中を、精一杯思いを込めて撫でたノートは、謝るしかない。

「ごめんね。ごめん、マオ。待たせてごめんね。これからは、ちゃんと不安な事、2人で話をして、仲良くやっていこうね。歌の競演会の打ち上げで、賞金の使い途の意見をくれたバーニーさんがさ。マオと相談して、マオの気持ちも考えてやっていきなさい、って言ってくれたんだ。女性には女性の、こうしたい、っていうのがあるから、って。一応、賞金の使い途は、こうしたらいいかな、2人の為に良いかな、って歌にしたけど、マオ、どうしようかそんな話もしようね。」


「う、うん。でも、ノートが転移魔法陣で帰ってきてくれるの、嬉しい。けーたいでんわ?で声聞けるの?」

「うん、そう。『アンファン!お仕事検証中!』で使ってたやつ、遠く離れても、お互いに、けーたいでんわ持ってたら、いつでも話が出来るんだ。」


うん、うん。

濡れたまん丸瞳を、見上げてマオは。

「それも、嬉しいよ。だって、言ってたもんね、ノート。吟遊の旅で、お母さんと離れる事が多くて、段々お母さんとお父さんが、そっけなくなってっちゃった、って。私も、ノートといつでも相談できるの、嬉しい。待ってて良かった。結婚するのに、今、色々な事が、上手くいく手段が出来たんだね。」


結婚生活の不安を解消するものは、気持ちだけではなくて。具体的に補助できる交通の仕組みや、伝達の魔道具など。そしてそれを利用できる資金の当てだって、それがあるからこそ、現実が気持ちに追いついて、上手くいく事も、多分にあるだろう。

お金がないから結婚出来ない、のではない。

結婚したかったけれど、その後押しをしてくれるものが増えて、安心して2人、暮らせるようになったのである。

気持ち一つで、乗り越えていけないくらいの気持ちなら、その後も上手くいかない。などと言う人もいるのだろうが、しゃらくせえである。

そんなの、人によるとしか言えまい。真剣だからこそ踏み切れなかったものが、結実するチャンスを得た。

縁は異なもの味なもの。後は当事者の2人次第である。


うふ。えへ。と照れ臭そうに、だけどホワホワと嬉しそうに笑い合う、ノートとマオ。

ヤイヤイ、ヒューヒュー♪と囃す歌うたい達。シトロンちゃんも、ニッコリ、パチパチと拍手で、やっぱり上手くいった!とふくふく。少女の夢にある結婚を、そのまま示すような2人の様子は、大変満足である。


ここらでまとめるべきか、とニュース隊のスーリールが、すう、と息を吸い込んだ時。


「マオ、ノート君、やったね!おめでとう!マオは結婚しても、私たちと、まんまやをずっとやっててもいいのかい?!」

「おめでとう!誰とも離れず仲良くゆこう、って、そういう事だよね!」

猫お父さんと、豹お母さん。

我慢しきれず、店から飛び出て、ワイワイと2人の周りで。お父さんは低い位置からノートの腰をポンポンするし、バン!と良い音させて背中を打ったのは、お母さん。


「え、ナオルお父さん、クロクラお母さん、何で知って。」

ノートが痛む背中に、いててと足踏みして。


「あの、あのね、ノート。ウチの店、歌の競演会の放送見たくって、お客様にも良いだろう、って。こないだから、テレビ入ってるの。」

マオが、ふふふ、だからね、と。

「ノートがプロポーズに来てくれたの、分かったから、すっごく緊張して、待ってたんだよ。」


「私たちも、やったね!って嬉しくって、ねえナオル!」

「だよねえ、クロクラ!ノート君、2人で相談して、良いようにだけどね!でも、ウチはノート君待ってるからね!協力するから、当てにしておくれよ!婿に来てくれて良いんだから!」


獣人のナオルお父さんと、クロクラお母さんは、娘が好きな相性の良い人と結ばれる、に重きを置いていて。ノートの吟遊詩人という職業にも偏見なく、ただ付き合っている時からも、親切だったから。

ノートは2人に祝福されて、とても嬉しくて、これが家族が増えるって事かなぁ、とホワホワの気持ちになり。マオもマオの家族も、大事にしなきゃ、と思いを新たにした。

ふらふらとデラシネになりがちな吟遊詩人だけれども、帰る場所を得て、芯が一本、ふわっとした気持ちの中に出来始めている。

そしてそれが、とても嬉しい。


「マオがせっかく今、楽しく家族と働いてるし、子供欲しいけどすぐに出来るかは分からないし。まんまやで、皆、仲良く暮らしてる中に、俺も入れてもらえたらな、って思ってます。」

ノートの言葉に、ニハハハ、の猫豹夫婦である。

「良いね良いね!歓迎するよ!」

「マオは仲良くしたくなって2人っきりになりたくなるかもだけど!」

「もう!お母さん!」

ニャオ!と恥ずかしがって抗議するマオに、いつ、王都の宿屋の、『夫婦のちょっと特別な夜〜たまには恋人同士の気分で〜』ってプランを利用しても良いんじゃ、って言おうか、ノートはむぐむぐ。


「はい、ノートさんのプロポーズは大成功でした!まんまや前から、スタジオにお返ししまーす!」

ここがまとめ時!とスーリールがカメラ前で手を振る。後ろには、にわかリポーター歌い手達と、抱き合うノートとマオ、わぁわぁ!と幸せのお裾分け。


と、いうテレビ放送を見ていた、まんまや店内の店番、妹豹ミオンは、ぶーたれ頬杖、ケッ!と3の口をしていた。

「ミオンさん、あの、予約の朝にぎり弁当取りに来たんだけど•••。」

お客さんが恐る恐る話しかけたのは。

生放送が終わって、にわか撮影隊が朝ごはんを食べようと、そしてマオとノートとナオルお父さんとクロクラお母さんとが、嬉しそうにごちゃごちゃ帰ってきてから、となった。


「はい〜お客様、ご予約のおにぎりはこちらでーす。」

ふぅ、マオお姉ちゃんと結婚するなんてへっぽこ吟遊詩人、やってくれたわね。でもまあ、お姉ちゃんを貰っていくんじゃなくて、アイツが来るなら、ちょっとは安心。ちょくちょくウチの店で歌わせて、しごいてやるんだからね!

とミオンは、ふつふつ思っている。





「ぷろぽず、よかったねえ。まおおねえさん、ないてたけど、わらったね。」

テレビの放送を見ていたニリヤが、ニコニコ笑って、朝ごはんも食べ終わって、お手てをパチパチしている。

隣の子虎、エンリちゃんが、ブドウの粒を握ったまま、えんしょと椅子を降りて、ガタゴト避け。

跪き。


「ニリヤでんか、ぷろぽず、するでつ!けこん、して、ください〜♪」

ブドウの粒を捧げながら、面白い節で歌った。


うん、いや、エンリちゃん。必ずしも歌わなくても良いし、ブドウの粒は何か違うしね。と思いつつ、竜樹はニコニコ見守った。


「は〜い!けっこん、しよう〜♪ぼくと〜、エンリちゃんと〜♪」

ぴょん、と椅子を降りて、ブドウを受け取り、歌ってエンリちゃんをギュギュッとするニリヤ。


「けこん、したでつ!」

「したね!エンリちゃん!」

えへへへ、と笑う2人に、ジェムがピュウィ♪と口笛を吹いた。


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