お布団の上で
「ただいま〜。」
「「ただいまぁ〜!」」
竜樹とオランネージュ、ネクターの2王子、そして竜樹に抱っこでスヤスヤのニリヤ王子。縦抱っこなんてカッコ良くはない。コアラの抱っこ。向かい合わせに、がぱりとあんよを開いたニリヤを、お尻のとこで手を組んで支えているのである。
いつもの護衛マルサ達に、週刊王子カメラの侍従兼ミラン。感謝祭や採用試験の間は一緒の何でも実現バーニー君に、今日明日はお試しに寮で、お天気担当ADコメット君。お助け侍従のタカラが、そそそと後からついて行く。
そしてキャリコ少年。
今夜から一緒に暮らす事になる、10歳ながら呪術師をやらされ、感情の抑制から少しずつ解放されてゆく彼は、気後れする、だとか、人見知りする、だとかの感情の動きも少ないのだろう。ただただ、瞳の星を微かに揺らして、竜樹の袖をしっかと掴み。
「•••こんばんゎ。」
と落ち着いて呟いた。
新聞寮で待っていたジェム達、そして先に寮に帰っていたチームワイルドウルフ達は。交流室にひょいと顔を覗かせて「ただいま」を言う竜樹達を、靴を脱いで、たしたしと廊下を歩いてくる音でもう、そわそわと待ち構えていて、アリンコが集るみたいに、わわわ〜っ!と取り囲んだ。
初見のキャリコ少年の周りも、避けずにである。
「竜樹とーさ、王子様たち、おかえり!」
「おかえりぃ!」
「かえりい〜。」
「たつきとーさ、サンみてたよ!うた!」
「オレもみた!ひろば、いったの!」
「いっしょ、うたった〜!」
ぎゅむーと抱きついてくる小ちゃい子組達と、女の子5歳のジゥも負けじとぎゅむぎゅむ纏わりついてきて。竜樹は笑いながら、ニリヤを抱っこして不自由な片手で、低い位置の頭を、よいっと順繰り、撫で撫でこした。
「大画面広場行ったかー。皆して行った?どうだった?」
竜樹がニコニコしつつ、交流室の真ん中、ラフィネ母さんやエルフのマレお姉さん、ベルジュお兄さん、そして元王女のエクレとシエルが、お布団の準備をしている場所へ皆を促しながら。
よっこいしょ、とニリヤを敷き布団に、ゆっくり横たえる。コロリンコ、と横向きになって、すーふ、と安堵の寝息。起きない。よ、よっと、頭を抱いて浮かせて、枕を差し入れてやる。起きない。
小ちゃい子組のロンが、優しいね、掛け布団をぱふりと掛けてくれる。
「ありがとうね、ロン。助かるなー。」
「えへへ。たつきとーさ、たすかる。」
ふくふくほっぺを、撫でこ。
サンが竜樹の背中にペタッと引っ付き、セリューがよごよご頭を寄せてきて、撫でこして欲しいなーっと、竜樹の腕を取り自分のほっぺに当てた。ジゥは竜樹の横腹に寄りかかり、ちょこと座っている。
オランネージュとネクターは、チームワイルドウルフ達と、何かキャッキャだ。
ラフィネが枕をポフポフした後、膝で寄ってきて、お帰りなさい、と温かく小さな声で。
「•••ニリヤ殿下は、お疲れ様ね。今日一日、頑張ってらしたもの。皆で見ていましたわ。」
大っきい子組が、うんうん、と頷いて、そっとだけど、報告したくて竜樹の袖をつんつん引く。
「ラフィネかーさ達大人と、皆で大画面広場行ってきたよ!」
「ぱぶりっくびゅーいんぐ?てゆのだっけ?いーっぱい、お祭りを楽しむ人たちが、無料だって集まっててさ。大人も、子供も、にぎやかだった!」
「屋台も、いっぱいでたー!」
「俺たちも、布しいて場所とって、お昼とかおやつ買って食べたり、ゴロゴロおうえんしてたんだ!夜ごはん、おそくなったけど、ぜんぶみたんだよ!」
そこでジェムが、ふぬぬ、と腕を組んで。
「神乞いもみた!そこの、新入り、キャリコってゆうんだろ。俺は、ジェムだぜ。よろしくな。色々大人のつごうで、大変だったな!ここでは、竜樹とーさがにらみをきかせてるから、俺たちと一緒にいたら、全然いい感じだぜ。」
いきなり親密に肩を叩いて、背中を押して。子供の距離の縮め方は、あっという間だ。
キャリコ少年は、竜樹にくっ付いて膝を布団について、瞳を揺らしていたのだが、ジェムに挨拶されて肩抱かれて。
ジェムと竜樹を、交互に、? と見た。ゆららの瞳。
竜樹は子供団子になりながら、ニカカ、と笑ってやって。
「ジェムが、よろしくだって。キャリコ君、初めましてだね。皆と仲良く、ここで暮らしていこう。優しい子達だから、安心して良いからね。」
そして、ジェム達に。
「皆、キャリコ君をよろしくね。ぎゅって感じるのを閉じ込められて、皆みたいに、嬉しい、とか、楽しい、とか、悲しい、だとかが、まだはっきり出ない子なんだよ。ゆっくりで難しいかもなんだけど、段々気持ちを教えてくれるだろうからね。」
「わかった!」
「うん、ちっちゃいこみたいってことかな〜。」
「大人しいこ、って感じ?」
14歳のネフレが、不自由な足を引きジェム達の後ろで膝をついて、考えながら。
「急がせないで、どうかな?って、感じるのを、待ってあげたら、良いのかな?」
流石に一番歳の大きい子なので、神乞いも見て、普通の子より難しい所もあるキャリコで、面倒を見るにはどうしたらいいか、受け入れ体制をこう?と提案した。
竜樹がウンウン、ニコニコ、としたので、子供達は、それで良いんだな!と了解した。
「よろ、しく?」
キャリコ、何故か語尾上がる。
「うん、よろしくしてやるぜ。な!みんな!」
「お〜!よろしく、するぅ!」
「よーしくー。」
元花街組のヴィフアートことアー兄ちゃんも、つつつ、と寄ってきて。布団の上に立って、キャリコをグヌグヌ、と見て。囲んでいるジェム達の後ろから腕を差し伸べて。
ぎゅむ!と子供達ごと、キャリコ少年を抱きしめた。
「お、俺はヴィフアート、アー兄ちゃんだからな。呪術師なんてのは、大人にやらしときゃ良いんだ!お前はここで、俺たちとたっぷり子供時代を味わったら良いからな!俺とお前は、似た者同士だ。アー兄ちゃんが、感情の出し方を、一緒にやってってやるかんな!」
花街で子供時代を大人の中で辛く、甘えを抑え込んで過ごしたヴィフアートには、キャリコの境遇は、他人事ではないのだろう。
竜樹はそれを、ニコニコショボショボ子供団子と眺めて、さて、と膝を一つ打った。
「俺たちはお風呂に入ってくるね。皆ゆっくり寝よう。皆はお風呂済んだんだよね?明日もお祭り、楽しみだなぁ?早く寝て、早く起きると、吟遊詩人ノートさんの突撃⭐︎プロポーズが朝テレビで見られるよ!」
「えーなになに?プロポーズ?」
「どゆこと?」
どーゆー事でしょうかー。
竜樹は言いながら、セリューをぐいっと抱っこして、ぎゅーんとお布団に寝かせてポンポンしてやり。ロンをグォーと抱き上げてその隣の布団に寝かせてポンポン。
背中のサンを、よっこらせ、と前に持ってきて抱っこの寝かせポンポン。横腹のジゥを、女の子なので幾分優しめにどっこいしょ、ポンポン。
子供達、キャッキャ、キャハーと笑ってゴロゴロである。
そんな中でもニリヤは、すーく、すーくと眠っていたのだが。
チームワイルドウルフの中の弟妹、ちみっこ達も、交流室の端っこで、既に眠っていて。そちらは魔道具の灯も落とされて、薄く暗くしてあり、お付きの者達がトントンしてあげていた。
子虎のエンリちゃんも、その中で、スゥ、くふん。ムニャり。もう熟睡か。と思われたのに。
むくっ。
「あら、あらら。エンリ様、大丈夫、ねんねですよ。ねんね。」
虎侍女スープルが、慌てて側に、お布団かけてふんわり抱き留め、よしよしするのだけれど。
ぐいっとその手を遠ざけ、あんよで乗り越えて、ねむねむの、ヨタヨタ虎耳、ぴこぴこ、すんすん匂い嗅ぎ。
「ニリヤでっ、か、でつ•••。」
お目々こしこし。しょもしょも。
「え?何でしょう、エンリ様。ニリヤ殿下も帰ってこられましたから、心配しなくて良いんですよ?」
長い髪を、暴れるエンリちゃんに絡ませて、あわ、わわ!と慌てるスープル。
「スープルさん、エンリちゃんを自由にさせてごらんな。大丈夫だから。」
竜樹が、シャツのまま寝っ転がって腕をつっかえ頭を支え、ダラダラしながら微笑んでいる。
スープルは、はい、と手を引っ込めて子虎エンリちゃんを見守る。
むくむく。ヨタリ。ポテ、ポテ。
「ニリヤでっかと、ねんね。•••でつ。」
まん丸お尻でヨタヨタ、すーくと眠るニリヤの側に来ると、おんなじ枕に、かくん、と膝落としてコロリンコ、寝っ転がって。
「かえて、きたでつ。なかよち•••。」
すーふー。ムニュムニュ。
すー。 す すーく。
向かい合わせに、ニリヤの身体を、ちっちゃな腕で抱えて。
エンリちゃんは、子虎のお耳をピクピクさせながら、くっ、とお口を微笑ませて、眠ってしまった。
睫毛が、ピンピンしなりと瞑った瞼からカールで伸びて、ゆるり。呼吸と共に、僅かに動いている。
「仲良しさんだね、エンリちゃん。ニリヤが大好きなんだね。」
竜樹がニッコリして、ニリヤの布団をエンリちゃんにも掛けてやる。仲良し2人は、もこもこと2つの山になって、くっ付いてぬくぬく。
「えっ!困ります!勿体なくもパシフィストの第3王子であらせられるニリヤ殿下を、大好きだなどと!?」
スープルは、ギョッとするが。
エルフのマレお姉さんや、ベルジュお兄さん、ラフィネかーさなどは、あらあらうふふ、可愛いわね、仲良しねーぇ。一緒が良いんだね。待ってたんだね。大好きなのねぇ。と微笑むばかり。
「た、竜樹様、困りますぅ〜!」
情けない顔の虎侍女スープルに、竜樹もカカと笑う。
「困らないヨォ。エンリちゃんとニリヤが、特別の好き同士になったとしても全然困らないよう。子供なんだしさ。大人達が都合で、良いだの駄目だの言わないで、自由にさせて見守ってあげましょうよ。純粋に仲良し、したいだけなんだからさ。」
ちむ、と指を吸うエンリちゃんは、いかにも赤ちゃんから少しだけ大っきくなりました、って感じの子虎幼女である。ひこ、ひこ、とまだ短いお尻尾の先が、布団を膨らませては沈んでいる。
「そ、そんなぁ。奥様に叱られますぅ!本当に特別の仲良しになられても、これから先どうするかって話になりますし!エンリ様の片想いだったら、旦那様が怒り狂いますぅ!獣人って恋愛に関して、人よりも重めなんですからね!」
怒られルゥ!どっちにしても怒られるぅ!戦々恐々とするスープルである。お耳が伏せて、尻尾がブワッとなっている。
「まぁまぁ。なるようになるなる。スープルさんが怒られないように、お家の人と今度話をしてあげるよ。小さな、まだ生まれたての物語を、大人があれこれ期待したり指図して、踏み躙っちゃダメ。ゆるりとね。」
「•••本当に、お話下さいませよぅ。竜樹様!」
スープルが諦めの吐息を、フーと下向きに出した時。
何か腕の中が寂しかったのか、ニリヤが、パタン、と手をエンリちゃんの頭に乗っけて、そのまま、ムニャムニャ、ふにゅ〜と抱え込んだ。
「お〜。ラブラブだな。」
ギャン!とした顔のスープルに、ニクク、と竜樹はやっぱり、笑ってしまうのだった。




