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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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金貨30枚の使い途


なんでも実現バーニー君は、ガラゴロ、とワゴンを引いている。

その上には、8個ずつ籠に入った折りたたみの、携帯電話魔道具。それから、片手で扱えて、撮った映像がその場で確認できる画面つきの、ハンディカメラ魔道具が人数分である。


「竜樹様、そろそろコレ配っても良いでしょう?お話オッケー?たんと食べましたか?」

ゴホン、けふ、失礼。とバーニー君はお腹いっぱい食べたようである。テーブルが一緒じゃなかったけど、歌い手達と仲良く苦労話なんかをして、賑やかに楽しく食べてきたのだ。バーニー君は対人能力も有能である。


「あ、ありがとう。そうだね、そろそろ話しておこう。バーニー君と、あと、ああ、コメット君も、来てくれてありがとう。夜に悪かったね。ご馳走食べられたかい?」


コメットと呼ばれた青年は、テレビ局のお天気担当ADである。バーニー君の傍に立って、ニコニコしている。

彗星の名の如く、髪が流れるように後ろに向かって、びゅうとツンツンに癖っ毛。色は高温の水色から青のグラデーションである。自然にたなびく炎の尾を持つ星の形の頭は、小さい頃から良く揶揄われたそうである。背も割と小さくて、機敏な動く星そのもののイメージだ。


今では気に入ってるし、一発で名前覚えてもらえるから、自分でも癖っ毛好きですよ、朝どうやっても直しようもないんで、チャチャと櫛入れるだけで簡単だし。

と以前教えてくれたコメット君は、竜樹に応えて。


「はい!たらふく食べました!話上手聞き上手なバーニーさんと同じテーブルだったし、歌い手さん達も和やかに話してくれて、楽しくて夕飯が豪華で得しちゃいましたよ、竜樹様!これから一仕事くらいできるってもんです!今日は、難しい事もない、携帯カメラお試しに顔合わせですしね。」

ニカッ!と爽やかに笑う。


「ウンウン。良かった。じゃあ、話そうか。」


パンパン、と手を打って注目させると、ワイワイしていたテーブルが、すぅ、と声が静まって。視線が集まり、竜樹はニリヤを抱っこしたまま、立って、その場で説明を始めた。


「はーい皆さん、お腹いっぱい食べられましたか?そろそろ、お天気リポートのお話を、させておいて下さいね。それが終わったら、まだゆっくり食べて話して大丈夫だからね。ーーーでは、タカラ、お助けの侍従さん達、各テーブルに、携帯電話とハンディカメラを配って下さい。これ、1人に1台ずつ用意しました。もし、お天気リポートやりたくないな、って人がいたら、試してみた後で返してくれたら良いから、まずは説明と、触ってみての感触を確かめてほしくてね。」


ざわ、ざわわ、と各々、まずは携帯電話を手に騒つく。初めて触る魔道具である。

使い方は、アンファン!お仕事検証中!で見て、話をする道具だ、という事は、概ね皆分かっているのだが。カメラはさっき、テレビの撮影で、もっと大きな物があったのを見たばかりだ。


「さて、こちらの携帯電話。同じく携帯電話を持っている人と、遠く離れていてもお話をする事と、文字を知っていれば、メールっていって、素早くお手紙のやり取りができます。その使い分けなんかは、おいおい分かると思うけど、どちらもそれぞれ、使い勝手に長短あるものの、便利ですよ。•••試しにちょっとやってみましょうね。オランネージュ、電話のかけかた、2こあるんだよね。まずは1こ目、番号で、俺に電話してみてくれるかい?」


3王子にも1台、携帯電話を渡しているから、オランネージュが、モグモグ胡麻と胡桃棗餡の月餅を食べ飲み込んで、ぅはーい!と代表で。いつも1番上のお兄ちゃん、彼が持っているので、立ち上がって。


「説明しながらお願いしますね。」

竜樹の声に、バッ!と携帯電話を片手に掲げて。

「分かった!私から説明するね。」

す、と下ろして胸前で持って。人差し指で操作をポ・ポ・ポチ。ポチポチ。


「竜樹が教えてくれて作った、携帯電話の魔道具は、住所みたいに1こごとに見分けるための番号がついてるんだ。だから、電話したい相手の、番号を知ってたら、それをポチポチッて順番に押せば、繋がります。」

トゥルルルル。

竜樹の懐から、音がして、携帯電話。取り出して、ポチ、と受けて。


「はいもしもし。竜樹でーす。」

『はいもしもし。竜樹でーす。』

薄らと、オランネージュの持っている携帯からも、竜樹の声が届いて響く。

「オランネージュです。お試し1こ、成功です。切るねー。」

ポチ。


ウンウン、とバーニー君が説明に頷いている。まずは、過不足なく話せたかな。オランネージュという、まだ子供が説明する事で、難しい事なく使えるよ、とイメージも伝わる。

コメット君も、この後、歌い手達が試しに使ってみる時に講師となるので、ムフ、と笑顔で。


「はいありがとう。オランネージュが今、電話してくれたみたいに、会った事のない人でも、電話を持ってて、番号を知ってれば、繋がります。これ、お仕事用メインに配る電話だから、ほどほどにね。でも、そんなに厳しくはしないので、使える物は便利に使いましょう。まだ電話を持っている人も少ないし、身元がはっきりしてるだろうしね。ーーーさて、知ってる人の番号を、毎回入れるの面倒だろうと思いませんか?はいオランネージュ、もう1この方法教えながら、また電話してみて下さい。」


「今度は私がやろっか?」

ネクターが、とこっと歩いてきて、オランネージュの後ろからひょい、と顔を出したので。

「じゃあ今度はネクターに頼もうかな。電話、登録したのから、かけられる?」

「かけられるー!説明、しますね!」


ポチ・ポ、ポチ。ピッ


トゥルルルル。


「はい竜樹です。」

『はい竜樹です。』


「はい、ネクターです。成功です、切ります〜。•••新しく知った人の番号は、登録しておくと便利なのです。連絡先、ってボタンを押すと、名前順に、竜樹、番号※※※ー※※※※、って並んでるから、それを選んでピッてすればいいんだよ。番号覚えてなくても、電話何回もかけられます。」

なかなかネクターも説明が上手。


「ぼく、ぼくもぉ、なんかせつめい、ですぅ。」

うニャァ〜。ニリヤ、眠たくてぐずぐずじゃないかい?でもやるのか、そうか。

お目々ほちほちしながら、腕を振って、抱っこしていた竜樹から降りて、電話を受け取った。


「じゃあ、自分の電話の番号見れるよー、とか、電話同士をくっつけて、ピッて番号交換できるよ、とか、教えてあげて。」

「うん。」


ゆるゆる、と携帯電話魔道具を持ち上げて、天に。

「じぶんの、でんわの!ばんごうを、ぼたんピッで、みれます!この、ぼたん、おすよ。」


ピッ。


うん、小さい画面だから、皆には見えない。精一杯掲げてるけど。

「どれどれ?あ、本当だ!自分の電話の番号が出てますねぇ。ありがとうねーニリヤ。•••最初は番号だけが入ってて、自分の名前を登録するんだよね。そうすれば、ピッと電話同士を触れ合わせて番号を交換した時、登録した名前で入ります。この電話には、オランネージュの名前で入ってます。責任もって扱うお兄ちゃんだもんね。そうしたら?ニリヤ?交換ピピッのやり方、教えてくれる?」


「うん。ノートさんと、やるぅ。」


ん?

「いやいや、フリでいいから。ファング王太子殿下とした時みたいに、こうだよ〜、ってさ。」


ウウン、ウンウウン?ウゥン!

フリフリ、と顔を振るニリヤ。否や否。ニリヤは吟遊詩人ノートと、繋がりたいのである。ピッ交換やりたい。


えー。えーと。言葉を探す。


「ニリヤ、まだノートさんは自分の登録してないしさ。」

「じゃあ、いま、やろ?おしえてあげる!ぼくと、こうかんこ、みんな、こうかんこ、ピッしてぇ〜!」

ニパァ、と嬉しそうだけれどさ。

いやいやいや。

竜樹はタハーと困ってしまった。

マルサ王弟も、むむ?と難しい顔をしている。


だって、一国の王子様と、吟遊詩人や貴族の歌い手達が直接繋がる、っていうのは、防犯上ちょっと危険じゃないかい?

ここにいる歌い手達を、疑う訳ではないけど、本人には利用悪用するつもりがなくても、直接大人を介さず繋がると知られれば、脅されてだって誘き出されたり、歪んだ情報を伝えられたりの危険があるだろう。

大人になれば多少は本人達に任せられるが、子供のウチは周りの大人が、守ってやらなきゃならない。

ワイルドウルフの、アルディ王子や、ファング王太子達、同じ立場の子供達と繋がってお話をする、のとはまた違う、個人情報を外に出す危険があるのだ。


「ニリヤ、ノートさん達は、お仕事のお電話だからさ。」

ね、ね。タハーとなりつつ、説明をしてるのを、周りが、可愛いなぁ、って感じで黙ってニコニコ見ているんだが。うん、彼らだって、まさかニリヤ達3王子と直接繋がるつもりは、ないのだろう。


「や!なの!ピッするの!ぼくも、おしごと、テレビのするもん!」

電話を胸の中にギュッと抱き込んで、イヤイヤのお顔フリフリだ。


そりゃ、3王子、テレビの仕事するんだけどさぁ〜。

コホン、と咳払い。こんな時は、余裕だ。大人力が試されている。


「ニリヤは、良い子じゃん?大人のお仕事だよーって時、邪魔しないよーって、ずっと良い子だったじゃん?このお電話は、お天気係のコメット君が、歌い手さん達と情報やり取りするお電話なんだぁ。ね、ニリヤ、良い子できるかな?」

優しく、言い聞かせてみるのだが。


「でき、ない!!!!ピッするの!」

しゃがんじゃった。


えええ〜。


ふふふ、と周りのテーブルから笑いが溢れる。うん、見てる分には、微笑ましい我儘なんだけど、ニリヤに、うん、っていう訳にいかないんだ。


「ええ〜どうしたどうした。おかしいなぁ。ニリヤどうしちゃったかなぁ。ししょうは、困った困っただぞ?うーん、うーん、困ったよー。」

小さな両肩に手を置いて、竜樹もしゃがんで抱っこ。ぷるぷるしているニリヤは、段々真っ赤な顔になっていって。


うぇ、え、え。

「ふぇ。ピッ、するぅ〜!おはなしぃ!!うぇぇえん!!」

ふわぁ〜ん!!と泣き出しちゃった。ネクターとオランネージュが、わちゃちゃ、と寄り添ってしゃがんで、ニリヤの肩や頭を撫でたりして、その上に、竜樹を。

ジッ、と見上げてくる。


いや、いや。

そう見られても、王子直通電話は許可できないよ〜。


オッホン、と王弟マルサがズズンと出てきて。

「ニリヤ、我儘ダメだ!マルサ叔父様が、皆を守るのに、電話で色々すぎる人と繋がってたら、危ないんだ!」


ふぇ、え。

「の、のーとさ、あぶくない、ふえぇ。」

ひっく、ひっく。

「ノートは、危なくないかもしれない。だが、ノートを脅して言う事聞かせる悪い奴がいるかもしれん。ダメだ、ニリヤ。ダメ。」

ピシャッと静かに威厳をもって、駄目を出すマルサ。それはそうだ。彼にすれば許せる訳もない。そして、マルサ、お父さんぽい。

竜樹はぐるぐる考えていた。


きゅわぁ。ひぅわぅあうわ。ひぐっ!

きゅむ、と瞑ったニリヤのお目々から、ぽろぽろ、ぽろり涙が溢れて。お口はギュリと噛んで、むぐむぐ、ヒック。


「た、たのし、かた、ヒック、のに!おうた、たのし、かたっ!み、みん、み、ヒグッ、み、ん、ッな、で!」


あー。

竜樹は、変だなと思ってたのだ。

いつもは我儘なんか言わないニリヤが、今夜はいつになく意地を張る。疲れてグズってるのもあるんだろうけど、それだけじゃない。


「ニリヤ、そうだよな。ニリヤは、皆がお歌を歌って、賞あげたり、一緒にステージで歌ったり、一日中楽しかったんだよな。それなのに、今日で皆と、お別れ、寂しくなっちゃったんだよな。良い子良い子、お話したり、楽しくしてたいんだね。」

竜樹が抱き上げて、よしよしすると、ニリヤは、ヒッ、ヒッ、としゃくり上げながら、コクコクと頷いた。


「さ、サミしぃ。み、みんなと、なかよしだのに。お、おはなし。ヒック。でんわの、とうろく、お、おともだちぃ〜!」

ふにぃ〜。ぐずぐず。


よいよいよ、と撫でられて、ゆすられて。

歌い手達や、その中でも名前を挙げられた吟遊詩人ノートが、目尻を下げてニリヤ王子を見ていたが。


「ニリヤ王子殿下。俺と話したいって言ってくれて、嬉しいですよ。多分、王子殿下達の電話にとうろく?しなくても、お仕事の相手の電話魔道具があるだろうから、それをお借りになられたら、良いんじゃないかな。竜樹様やマルサ王弟殿下と一緒に、俺ともお話してくれると、嬉しいですよ。」

解決策を出してくれた。


「ノートさん、ニリヤ達と、時々お話してくれるかい?お仕事忙しくない?」

竜樹が、暗に、子供の相手させちゃって大丈夫かな?と訊ねるが。

「大丈夫ですよ!街で歌ってる時は話せないけど、宿にいる時とか。」

ニッコリ、とした。


「それに、ニリヤ殿下が、繋がりたいって言ってくれたから、俺。金貨30枚の使い途、ちゃんと考えついたですよ。ありがとうございます、ニリヤ殿下!」

ニリヤの顔を覗いて、ペコン、と頭を下げる笑顔のノートに、ヒック、と涙をつるしていたニリヤも、パチン、とお目々を瞑って開き。ウン。うん?ハテナ?な顔で泣き止んだ。


ムフン、と興奮を含んだ表情である。吟遊詩人ノートは、ニリヤのお手てを、恐れながら、触れてもよろしいですか?と竜樹、マルサに目を向けて確認して、うんうんと許可を貰う。握った小さな拳を、そっと取って、ゆらゆら、と揺らす。

口角が上がり、眼差しは優しく、良いお兄さん、といった吟遊詩人ノートと、ニリヤは視線を合わせて。

それにしてもノートは嬉しそうではないか。

「子供が生まれたら、こんな風に泣いてくれんのかなぁ。」


ふふ、と竜樹も笑う。

大変もあるけど、嬉しいも一杯ある、って伝わったなら、嬉しいものだ。


「ノートさん、お金の使い途、って?」

「おかね、き、きめた?」

グシュン。お手てで、筋のついた頬を拭う。竜樹が綿のハンカチを当てる。

「どんなの?」

とネクター。

「豪遊?」

オランネージュも、ニッコリ。

そして、キャリコ少年も、とと、とあまり音を立てずに、竜樹の後ろに寄ってきて、袖を握った。心配、なのかな?



「俺、今付き合ってる彼女がいるんです。職業が、水物の吟遊詩人だし、旅もしてるから、本当に時々会うくらいで、結婚して、って言えなかったんだ。夫婦になっても、俺の父ちゃんと母ちゃんみたいに、心が離れて離婚するかもしんないし。ーーーでも、電話があったら、どこにいても、奥さんと話が出来て、時間を一緒に過ごせるでしょ。この魔道具、沢山売ってないなら、高いんでしょう?•••電話魔道具買って、もし余ったら小さな家を借りて、結婚して、それでも余ったら、父ちゃんの悪い足を治して。寄付もしたら、大体無くなるんじゃないかな。どうですか、俺、この使い途、結構、やったね!って思ってるんですけど!」


おお〜!!

「けこん?かのじょと?」

濡れた睫毛が、パチパチしている。


「はい、それで、ニリヤ殿下みたいなかわいい、俺のために泣いてくれる息子が出来たら、嬉しいですよ!」


ヒュ〜♪


誰かが口笛。


パチン、と目を閉じて、瞼に残っていた涙をぽろんと溢したニリヤは、段々と。二へ、と笑えて、ノートが握ったお手てを、嬉しく上下に、フリリ!と振った。


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