歌の競演会、これにて閉会!
吟遊詩人ノートが、手を身体の前にそっと受けるように出して、降る黄金の小花を手のひらに。
髪に、肩に、歌い手麗しのアマンドの上にも、降る降る。
吟遊詩人ドゥアーは、お口をパッカンと開いて、天を見上げ、こんなに幸せで良いかしら、音楽カセットの夢が現実になり、ミュジーク神様からも押されてやらない訳にはいかない音楽都市の構想、弾みも付いた。その上、音楽神の祝福をだなんてーーー。
少女吟遊詩人シトロンも、キャキャ!と花の雨、光をその身に、ぴょんぴょん飛び跳ね。いや、ステージパパなディレクは、お金が儲かるんじゃないのかよ!チッ、と軽く舌打ちしたが、娘はどこ吹く風、愛する生涯の生業をもつ結果になった喜びは、本人を心の底から笑顔にさせた。
きっとステージパパ・ディレクとの、これから長い人生での付き合いも、いささか心配ながらも強かに、音楽を胸に、乗りきってゆけるのだろう。
貴族の歌い手、バリトンの青年エラブルも。
吟遊詩人、華やぎのアラシドお母さんも。
叙事詩を歌うオジサン吟遊詩人、ヒストリクも。
軽やかな恋を歌うテノールおじさま、ペティバーンも。
次々と男性を巡る蝶々のような女性の歌を歌った、ベラヴェッカも。
村を見守る一本の樹の事を歌った、気長で呑気、哲学的なおじじいさま、エキュメ吟遊詩人も。
他の出場者も、みんなみんな、みーんなが。
それぞれに花を受け、光を浴び、キラキラとした瞳に身に、はっきりと祝福が染み渡るのを、音楽が胸の底から生まれてじりじり、今すぐにも奏でたい、幸福な歓喜をもって感じていた。
「ん?かわいそうだからって、全員に配るは、いけないじゃない?誇りは、どなの?」
先ほど自分が味わった審査の悩みは?ハッとしたネクターである。むむむ、難問である。
マルグリット王妃様が、それを聞いてコロコロと笑いながら。
「大丈夫よネクター。ミュジーク神様は、審査して歌い手に順番をつけるのではなくて、ちゃんと評価され、出場者、皆の歌を認めて下さった、という事よ。可哀想だから、じゃないのよ。誇りは汚されるどころか益々光輝くことよ。ーーー確かにどの歌い手も、それぞれ良かったわ。私達、人は、それでも賞を差し出す都合上、吟味して1番から3番までを決めなければいけなかったけれど、音楽神様なのですもの。音楽を心底愛されて、どの歌も良い!と私達の取りこぼしたものを、受け止めて掬い上げて下さった。それで良いのよ、ネクター。」
ネクターは、優しく頭を撫でてお話してくれるマルグリット王妃様の言葉を、ふに、とお口を噤んで聞いていたが。
「•••そっか、そうかー。私も、どの人も、素敵で、メダルをあげられなくて、ごめんね!って思っていたのです。ミュジーク神様が、みんなを、素敵だったよ!ってしてくれたんだね!マルグリットお母様!」
「そうよ。ありがたいわね、ネクター良かったわね。」
はい!と良い子のお返事をするネクターは、目を細めてニコニコと撫でられて、肩をキュ、と上げ。パッと嬉しそうにミュジーク神様を見上げた。
ニリヤもオランネージュも、ニココ!わーいわーい!とその周りを、小花を受けてぴょんぴょこしている。
竜樹もやれやれ、と満足の目でショボショボなのである。
「ミュジーク神様、諸々、お見守りお力頂き、ありがとうございます。」
竜樹が頭を下げると、歌い手達も揃って。
「「「「ありがとう、ございます!!!!」」」」
ジャカジャーン!とリュートの音がする。堪えられず、弾いてしまっても、良いじゃない。ミュジーク神様は、良き良き、うんうん、と嬉しそう。
『良いんだよ、私も楽しかったんだから!もしお礼の気持ちがあるなら、また日々精進して、来年の歌の競演会を、聞き応えあるものにすべく!これからも皆、音楽を愛し、心を捧げ、人生を歌に、魅力的に生きておくれ!それだけで私は、これからもとっても楽しいんだから!竜樹のお礼は音楽都市のお手伝いで良いからね。あとは、すまほで面白い曲を色々流してくれれば、私、いつでも聞いてるから!』
何だか竜樹へのお礼催促が、やけに具体的である。
むふふふ、と笑いを溢しつつ、ふっと見るステージの端、審査員席。
『パシフィストの王、ハルサよ。』
小花をハルサ王様も、鼻の頭にひっつけながら、ニッコリと鷹揚に控えていたのであるが。
「はい、ハルサはここに、おりますれば。」
胸に手を当て、膝を折り、そっ、と前へ出る。
『音楽都市、ハルサも力添えしてやっておくれな。そこの土地だけ、贔屓しろとまでは言わないが、何かと後見して育ててやっておくれね。』
神様に言われちゃあ。
きっと音楽都市は、国家の後押しが、強力につくであろう。
「はい!お言葉を胸に、きっと素晴らしき、人々の愛する音楽都市を。直ぐに、とは申しません、嘘はつけません。時間もかかりましょうが、その分、日々心を砕き、この国に、吟遊詩人ドゥアーの故郷に、音楽都市を。きっと作って、育ててみせます。それがまた、この国の繁栄にも繋がりましょう。パシフィスト国王、ハルサが約束致します。どうぞこれからも、その深い御心をもって、お見守り下さいませ。」
普段そんなに威張らないハルサ王様だけど、ちゃんと締める所は分かってるのだ。神様との約束だから慎重だけど、チャンスでもある。音楽ならばここ!という都市を、神様指定で、創る事ができるのだ。
『うんうん、良いよ良いとも。見守る見守る。音楽都市には私の後押し、都市そのものに祝福も降らせちゃう。ハルサ、竜樹、吟遊詩人ドゥアー、その父で領主、エール子爵ブリックよ。皆、頼んだよ!では、えーとそろそろ、情報神ランセが、何かやり過ぎだって言ってうるさ、っていうかでもさ、私とっても良い仕事したって思うし、これでも凄く我慢を、あ、あ、じゃあまたね!竜樹頼んだよ!』
ミュジーク神様の足元に、竜樹のスマホからしゅるりと手が伸びてきて。
全くもう仕方ないね!出番はお終いです!って感じに衣を引っ張り、しゅるしゅるしゅる、とミュジーク神様が画面に吸い込まれてゆく。
うん。手を見ただけで、分かるものだね。
情報を司る、ランセ神様が、調子に乗りやすい、竜樹に人々にお願いをしまくる危険性があったミュジーク神様のなさりようを、監督?して見守っていたようでした。ありがたや。
「ミュジークしんさま、いっちゃった。」
ニリヤが、トコトコ歩いて竜樹の元へ。
「ししょう、おなかすいたよ。」
審査員をしていたニリヤ達は、途中軽食を摂っていたけれど、眠くならない程で、それでは物足りなかったのだろう。一日中頑張って、お腹をさすさすして、キュウと鳴って、きっと疲れもあって懐きたいのだ。
さっきまでわーいわーいとはしゃいでいたけど、急にトーンダウンがくるのだよな。
オランネージュとネクターも、ニリヤとくっ付いて、小花を握って、はふ、と興奮をひとまず落ち着かせて。
「ごはん?」
「ゴハン!?」
「ごはーん!」
眉を下げて見上げてくる子達に、メシをくれなければ。
ハルサ王様が、それを、んん?と見遣って、ふっと笑う。
マイクをスタッフから貰い。
「さて、さて!皆、驚いたなぁ?今日はなんという日であろうか!ミュジーク神様からの祝福もあり、目出たく無事に第一回歌の競演会は終わる事ができた!終わりは始まり、今日は素晴らしかった歌を胸に、花を持ち帰る気持ちで、皆、気をつけて家にお帰り。また明日から2日間、感謝祭は続く。お見守り下さる神々も喜ばれるように、良く眠って、また賑やかに参ろうぞ!本日は皆、ありがとう!ありがとう!」
ビシ!
と終わりの言葉と大きく手を振って、ハルサ王様に観客席ステージも、大拍手。拍手、拍手の後、あーっ終わったあぁ、とどこか気持ちの良い、気怠い疲労感をもって、ガヤガヤと帰り支度の会場。
チラッと下がりながらハルサ王様が司会のパージュさんを見れば、間合いを見て、すかさず彼女がアナウンス。
「皆様、本日の歌の競演会は、これで終わりとなります。お帰りの際、ゴミは最寄りのゴミ箱へ。お忘れ物、落とし物のないよう、今一度お確かめ下さい。本日はありがとうございました。お足元にご注意下さいーーー。」
タイラス一家、ポムドゥテール嬢一家は、世話になった竜樹達や会場関係者にお礼を言いまくって。
今夜は別れ難く2家族が、タイラスの家、マーブル伯爵家に集まって、仲良く懇親のお泊まり会をするそうである。
ポムドゥテール嬢一家は、口々に、今夜はご家族で息子さんの無事を噛み締めて、気を遣う事なく安心してお過ごしになられては、と遠慮したのだが。
ミモザ夫人が、「おもてなしは急な事で充分ではないでしょうけど、タイラスをポムドゥテール嬢と引き離したくはないし、お嬢さんが嫁ぐ家の事も、どうぞ見てやって下さいな、近しい家族になる私たちなのですもの!」と張り切って。
父ヘリオトロープも、弟コリブリも、ニコニコと頬を緩ませて頷いたし。タイラス本人は、ポムドゥテール嬢の手を、ポポッとなりながらも離さなかったので、話が纏まった。
ポムドゥテール嬢の母、ラシーヌの石化に関わり、自爆したレゾン修道士と、その相棒バーバル修道士は。
ラシーヌの幸せへの道、その始まりを確かに見届けて、歌の競演会を満喫もでき、神の顕現もその目にでき。大満足で、また静かな修道院の生活へと帰るべく。
ずんぐりむっくりと、騎士体型の修道服つんつるてんの、凸凹コンビ。席を立って、パタパタと衣の裾を叩いて、これで心残りも引っ掛かりも全てが滑らかに上手くいき、嬉しいながら声もなく。そーっと。
ファヴール教皇が呼び寄せた教会関係者の案内人を促し、会場の外に消えて行った。
喜びの場面から離れてひっそりと、ジャスミン猫ちゃんは、父ショーに抱っこされて眠っていて、きっと夜、皆が眠る頃に人に戻り起きるのだろう、今は。すーか、すーかと猫イビキ、だらりの足がブーラブラ。
母クローザと、周りを憚りつつ、えっちらおっちら帰って行った。
ジャスミン猫ちゃんは人が寝ている夜は寝られず人に戻る。
どんなに眠れない人も、夜に彼女に会おうとすると、コテンと寝てしまって会話ができない、という呪いの効果がある。
後々クローザ母が、不眠症の者を募って『一夜だけでも眠れます。ジャスミンに会うだけで、スッキリ睡眠の呪いのお溢れに、貴方もようこそ!』と銘打って娘の生活資金を貯めるようになる。
チームワイルドウルフは、ルムトン副隊長&ステュー隊長と、『アンファン!お仕事検証中!』歌の競演会の第一日目、どうだった?って最後まで帰り支度の観客にインタビューをしたりして、頑張ってお仕事して、まずは解散。
明日もがんばろー!になった。
子虎のエンリちゃんも、お目々をくしくし、擦りながらお疲れ様。
「俺、ミュジーク神様の小花、一つだけ取ってきちゃった。」
「私も私も〜!教会の管轄です、って集められちゃったけど、ファヴール教皇様が、チラッと私たちがお花をポッケに入れてるの、ウンって頷いて指一本立てて、見逃してくれてたよね。」
「流石の教皇様ですわ!」
「えぇぇえ!私、諦めちゃった!」
「ふふ、そんな事もあるかと思って、2輪ついてる茎のやつ貰ってきたんだ。分けようよね。」
ステージで祝福を貰った吟遊詩人達も、貴族出身の歌い手も、和やかに話をしながら。ゾロゾロ王宮の、歌い手達が前夜泊まった宿泊施設に戻ってきている。
打ち上げに行きたい者もいるだろうが、荷物を置いてきているし。
本日のお宿は王都の街全体で満杯で、一仕事終えた出場者達には手配が大変だろうと、前夜と感謝祭の3日間は王宮の宿泊施設に泊まれる心遣いである。
そしてそして。
竜樹からの、お天気リポート中継のお願いもあって、その件をこれから、夕飯を摂りながら、和やかに話そうよ、となっている。
「ししょう、はやくはやく、ごはーん!」
「何食べるの?ごちそう?」
「私、お豆の入ったオニギリ食べたいなぁ。」
うん、3王子も一緒。でも興味は、お夕飯に傾いているみたい。
やっと歌の競演会が終わりました!
が、その後話が、まだ続くのであった。
のんびり読んでやって下さいな。




