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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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503/692

故郷へ帰る、その道へ


ここからは、プロに。

竜樹はバラン王兄と少し打ち合わせ。竜樹のいた世界の、会場の皆とステージのコーラスが、合唱を学びながら歌を完成させる、ユーモラスな指揮者のテレビ番組のやり方をゴニョゴニョとバラン王兄に伝授して、会場全体で楽しく音楽、歌えるように。

「うんうん、やってみる、いや、やらせて!任せてくれ!」

うん、任せた、バラン王兄。


ステージの端に下がる竜樹に、子虎のエンリちゃんとニリヤが、感情がまだ発露したばかりのキャリコ少年を引っ張って連れて、とことこ寄ってくる。

くいくい、とズボンを引く手に応えてしゃがみ、目線を合わせると、キュン!とくしゃみをしたエンリちゃんは、はふ、とお口を開けた後、くしくしお鼻の下を擦り、お耳の毛並みをくしゅくしゅ整えて。ふ、と吐息。

話しかける準備が、できました。


「ぎふとのおじちゃん、おとこのこと、おててつないで、どんどんの、ぱん!したでつよ。」

「ぼくと、キャリコくんと、したんだよね、エンリちゃん!」

ねー、と仲良しの2人に促されて、キャリコ少年は、お口をへの字のままに。竜樹のマントを、キュム、と握った。


順番に、なでなでこ。

「エンリちゃん、ニリヤ、仲良くしてくれて、ありがとうね。キャリコ君も良い子で遊べました。さあ、これからお歌だよ。」


出来上がった皆の歌を、吟遊詩人アラシドお母さんに、いっぺん通しで歌ってもらう事になった。

リュートの演奏は、吟遊詩人ノート青年。指揮は、ムフフんの得意げ音楽ならばのバラン王兄である。


「手拍子足踏み、皆、手伝ってね!」


吟遊詩人アラシドお母さんが、マイクを握って。

お手伝いしてくれる貴族の歌い手、ペティバーン。テノールのおじさまが、すらりと指示棒を、出来上がった歌詞の出だしに滑らせて、今ココ歌ってるヨ!をやってくれるようだ。


すう、とアラシドが息を吸って。



ドンパン・パパン

今日は良き日

今日は良き日

君が目覚めて 仲直り

いつものスープが温かい

今日は良き日


ドンパン・パパン


••••••



アラシドの歌が終わって、会場が拍手に包まれると、バラン王兄は。

「ありがとう、皆さんありがとう。歌は吟遊詩人アラシド、リュートは吟遊詩人ノートです!2人とも、まだ助けて下さいね、ありがとうございます。」

優雅にお辞儀をして、2人の吟遊詩人も応えて胸に手を当てお辞儀をする。

バラン王兄による指揮指導は。

「はい、それでは歌ってみましょう!まずは通しで〜、私も歌いますから、恐れる事なく、さん、はい!ーーーーーん、ん、ん、なかなかよろしい。でも、細かい所に気をつけると、もっと良くなります!では少しずつね。最初の『今日は良き日〜♪』は、まずゆっくり、しっとりと歌って下さい。歌の始まりは、ドアをギイっと開けるように、そーっとね。今日は何かいいおやつあるかな、お父さん何でコソコソしてお部屋に入っていったかな?ってそーっとね。(会場笑い)こんな風に〜(そーっと)ララリラリルら〜♪そうして、2回目の『今日は良き日〜♪』は、ああ本当にいい日だなぁ、と感じ入るように、お父さんその手のお菓子はなぁに〜♪(会場笑い)と、さっきより大きく〜(大きく)ララリラリルら〜♪です。やってみましょう、皆さん、さん、はい!」


バラン王兄はコッソリお菓子を食べたりして、婚約者のパージュさんに怒られたりしてるんだろうか、と思わせる司会ぶりである。

最初は照れて口が開かなかった会場の人々も、笑ってノリで、小ちゃい子から老人まで、手拍子足踏み一体となって。

勿論ステージでは、ニコニコと出場者達とその家族、チームワイルドウルフ達その他も、楽しく大きくお口を開けて、一曲を作って素晴らしく歌って、のお遊びが完成した。


緊張して失神し、今はザ・アーティストな吟遊詩人ドゥアーも、皆と一緒で楽しくステージで歌えた。

そしてその父、ブリックも、最初はステージに上げられて、その観客席からの視線の圧に、ウゥッ、となっていたけれど、ノリノリの妻イーグレットと共に、だんだんと手拍子足踏みしている内に、楽しい気持ちになってきていた。

いやいやいや!私は息子のドゥアーを、厳しく見なければいけないんだ!楽しんでいる場合じゃないんだー!という気持ちが、元々無理して顔を作っていたのに、こうなってはもやもやと薄れていきそうなのを、あぁ、と腹の底で、いけないんだ、私だけは簡単に許してはーーーと無駄な抵抗をしつつも、顔はもう笑ってしまっていた。


ドゥアーはそれを隣で見ながら、ね、歌って楽しいでしょう?と、言いたげに、前髪とサングラスの中から柔らかな視線を父に注いだ。


ドンパン・パパン

今日は良き日

意地っ張りのお父さん

優しい匂いのお母さん

一緒に歌おう

今日は良き日


ドンパン・パパン


••••••


「ありがとうございました!素敵な歌が出来て、ステージの皆と、会場の皆さんと一緒に歌う事が出来ました!歌の競演会に相応しく、素晴らしい一時でした!皆で、拍手〜!」


わーパチパチパチ!!

ドゥワー!!と沸いた会場の熱気は、テレビやラジオの放送にも伝わって。

寝たきりで楽しみもなかったのに、テレビを買って貰えて一緒に家族と見ていたお爺ちゃまも、動かない手を、とん、とん、と動かして口をぱくぱく。

発情期でサミシイお留守番のワイルドウルフの子供達も、お耳ひこひこ、お尻尾ブンブン、ドンパン・パパン、と手を打ってニコニコお家で歌いながら放送を見ていた。

近くの貴方から、遠くの君まで、一体となった音楽は、天を揺るがし、幸いの気持ちがそこここに。この一時だけれども広く、お国を超えて広がった。



楽しかったねー、などと口々に言いながら出場者の家族達、その他がステージを降りてゆく。

吟遊詩人達は、ラップバトルもそうだけれど、出会い頭に吟遊詩人同士でワンフレーズずつ、歌を協力して作るお遊びも出来るね!とニコニコ今後の歌のお遊びの楽しみが増えたと笑い合った。それは勿論、貴族の歌い手達にも伝播していて、これから、ステージを、たった一人で創り上げ歌いあげるやり方とまた別に、楽しく複数人でステージをワイワイ作っていくやり方もあるな、と創作意欲をお互い刺激されていた。


ああ、歌い終わったばかりなのに、また歌いたい!


そしてその気持ちを、真っ先に叶えられるのは、午後1番の歌い手。

吟遊詩人ドゥアーの、やり直しの順番、ザ・アーティストの本番である。


ステージを皆が降りていく。

ドゥアーだけが残る。

お父様も、お母様も、少し名残惜しい顔をしながら、笑顔を残して、ドゥアーと眼差しを交わして、はけていく。お父様は、少し複雑そうだったけれど、でも、笑っていた。


観客席が、ザワザワしながらも、残ったドゥアーに視線を合わせてゆく。

少し怖い気持ちもあるけれど。ドゥアーは歌に満たされて、そうしてサングラスの水色が、本当に水の中、海みたいかもしれないな、とゆらゆら光る会場の温まった雰囲気を、守られて、でも一緒に揺蕩っているような気持ちで、ゆるりと一人、ステージ中央に、長く人々がはける間も、味わいながら立っていられた。


パージュさんに司会は戻り。

「さあ!それでは、歌の競演会、午後の部を始めましょう!吟遊詩人ドゥアーさん!体調は、大丈夫そうですか?」


「はい、大丈夫です!」

ニココ、と笑うドゥアーに、パージュさんも、そして会場も、ホッと頬が緩んで。


「ドゥアーさん。先程、竜樹様からも、吟遊詩人でいながら、故郷の領地の為になる事が、できるよ!ってお言葉をかけられてましたね。どうやって、って、少しずつ見当などついているのでしょうか?」

深く切り込むパージュさんである。


スタンドマイクを調整して、応えるドゥアーは、一瞬、客席に戻った父親、エール子爵ブリックを、真剣な眼差しで見た。


聞いていて、お父様。


「はい。ーーーはい。私、吟遊詩人になって1年経った頃、故郷の領地も、吟遊で回ってみた事があるのです。」

「ええ、ええ。かのお土地の方々は、どんな風でしたか?」

少し心配そうに、パージュさんは言葉を促し連ねてゆく。


「はい。私が故郷を回ったのは、ずっと逃げてはいられない、という気持ちからでした。それだけではなくて、優しく温かく育ててくれた場所なら、厳しい吟遊詩人のなりたてひよっこな私でも、やっていけないか、と甘い気持ちもあったのです。裏切ったのにーー私は、彼らを豊かにしていく勤めを放棄したのに、まだ甘えていた。後ろめたさと甘えと、混ざって恐る恐る訪れたそこでは、何だかーー何だか、普通に、受け入れたり、そして人によっては、拒絶されたり、とにかく普通だったんです。」


「普通、ですか?」


「はい。」

思い出す。あの人々の顔、ひよっこを、自然体で受け入れてくれたのは、きっと複雑な思いもあったろうに。

「そこでは、私は、元領主の一人息子ではなくて、一人の吟遊詩人でした。皆と同じものを食べて、歌で一晩の寝床をもらい、毎日歌って稼ぐ。でも、受け入れてくれる人も、拒絶して厳しくする人も、きっと、私がひよっこの吟遊詩人で、馴染みの息子であった事を心に、わざとそうしていたんです。だって、誰も、お前に今まで優しくしてやっていて、損をした!なんて言う人はいなくて。そうして何故か、毎日食べ物もお宿も、どうにかこうにか、都合がつくのです。皆、さりげなく優しかった。私の心は泣きました。そして、そこに、一人のおばあちゃんがいたのです。」


そのおばあちゃんは、呆けていて、家族に大切にされてはいたけれど、もう動きもあまり良くなくて、座って微睡んでばかり。

家族は庭に椅子を出し、おばあちゃんを座らせて、通りがかりの人と少し挨拶会話させ、世話も大変だろうに、慈しんでいた。


「私は色々なお家を回りながら、そのおばあちゃんに会いました。歌いましょうか、どんな歌がいい?と聞いたら、震える口元で、お祭りの時の、あの歌がいい、と教えてくれたんです。私は領地に伝わる歌を、家で音楽の勉強をしている時に集めて歌っていたから、歌ってあげられました。一緒に、ニコニコと歌って、そうして、もう一回、もう一回、とご機嫌な彼女に、旦那様と逢って踊ったのよ、とか、私もあの頃は若い娘で、とか、お父さん、お母さん、と子供に帰って探したりとか。思い出は、彼女の中で、鮮やかに甦るようなのでした。ーーー結局、10回も同じ歌を歌って、それでももっとおばあちゃんは、歌って欲しいようでした。ご家族は、歌を歌っている時は、本当にご機嫌だね、何度でも歌って欲しいけど、ウチだけに引き留めておいては、稼ぎにならないだろうしねえ、って、それでもお代を、苦しい中でもはずんでくれましたっけ。」


サングラスの中の瞳を燃えさせて、ドゥアーはギュッとリュートのネックを握る。

「何度でも、おばあちゃんに歌ってあげたいな、って思いました。そのおばあちゃん、家族が見ていないと、時々ふらふら歩いて、どこかに居なくなりかけるようなのですけど、歌を聞いてる時は楽しく座っていられるから、ご家族も安心なのです。ーーーーあの、成人向けの、その、映像の、テレビで再生できるアダルトカセットが、この冬から、審査を通って売り出されますよね。」


「ひゃ!?ひゃいっ!そうですね!?」

パージュさんは赤面して声が裏返った。


「それ、歌でも良いんじゃないかな、って。」


あ、ミュージックビデオ。

竜樹は聞きながら、そうだよね、アダルトばっかじゃなくて、家で見たい映像、音楽なんか、そりゃ色々あるよ!と、ハッとした。


「私は旅をします。そして地方で歌を学んで、各地の歌を入れた、音楽の映像カセットを、作りたい。音楽を録画する時、きっと、外で吟遊やる時みたいに、鳥が鳴いたり、誰かが話しかけたりしちゃ、いけないですよね。静かな、大きな、音響の良い建物を造らなくちゃなりません。私の育った領地に、そんな、録画の建物が出来たら、素敵だな、って思います。皆、カセットを作りたい人が、ウチの領地にやってくる。そこで満足のいく音楽を録画する為に、滞在してお金も落とすでしょう。ゆくゆくは、音楽の街になるように、楽器店や、マイクなどの機材を売る店や、歌を学べる教室やらーーーカセットが売れれば、聞いてもらえる、っていうだけじゃなくて、領地にお金が行くようにもさせたい。これは、領地の、エール子爵ブリック様にもご協力を願って、許可を得てやるべき事で、まだ夢物語です。ですが、私の、一つの、恩返しとして、目標として、こんな考えを、持っています。」


竜樹は、マイクマイク!とスタッフからマイクを貰って、話に乱入した。

「失礼します、ギフトの竜樹です!ドゥアーさん、その考え、とっても素敵です!音楽都市の構想ですね!大きな優秀な音楽学校、どうですか!それが出来れば、そこに優れた教師が集まり、多角的に勉強が出来るようになれば、よその領地から生徒達も集まる。遠くからくる者もいるんでしょうから、寮も必要でしょうね。音楽にかかる費用だけじゃなくて、生活にも、確実にお金が落ちます。そして、録画の建物は、録画スタジオですね!一人の歌手も、オーケストラも、そこで音楽カセットが録画できる。言われたように、音楽関係者が、集まりそうです!ドゥアーさんの地元の領地は、環境はどんな風ですか?」


環境?竜樹の乱入に戸惑いながらも、胸を熱くさせたドゥアーは、考え考え応える。

「田舎なんですよね。湖があって、とても綺麗で、川もあって、自然は豊かです。のんびりしてて、人が良くて、お肉や野菜も素朴だけど新鮮で美味しい。それが自慢だけど、だけど、本当に開けていなくて。」


うんうん。

「自然に囲まれた、環境も素晴らしい音楽都市、なんて素敵じゃないですか。音楽に携わる人達、芸術を愛する人達は、贅沢をするのが必要です。五感の贅沢ですよ、お金の事じゃないんです、豊かな自然から、受け取るのびのびとした気持ちは、とっても音楽にとって良いと思います!水が流れている、っていうのも、リズムを感じさせて良いですねえ。開けてないなら、これからその余地があるということ。ーーー音楽カセットも、各地の地の歌を集めて出す、なんて、とっても素敵なアイデアですよ!!転移魔法陣が出来たのも、時流に合っています。人が集まりやすい。各地に行きやすい。今ちょうど作りどき。ーーーそして、俺、さっきのお天気予報で言い忘れてたけど、旅する吟遊詩人さん達に、各地でハンディカメラを持ってもらって、電話で連絡とったりしながら、現地でお天気レポートをする依頼をしたいんですよね!この歌の競演会に出場した、歌い手さん達に、協力して欲しいんです。勿論無料じゃなくて、一定のお金を払いますよ。ドゥアーさんは、もし良かったらそれもやりながら、お金を稼いで、領地に貢献が出来ますでしょうね!」


「お天気、リポート?」


「電話を旅する皆さんにお配りして、使ってもらって、お互いに情報をやり取りしてもらったり、こちらと連絡をとりながら、『今カナン地方に来ています、こちらは本日快晴です、ここの地方では、こんな秋晴れの日に落穂拾いをします』なーんて、リポートして欲しいんですよね。歌は、その地域の生活に根ざしていませんか?労働歌、なんて、どうやってそこの人が生活してきたか、と深く関係がありますよね。各地を回りながら、情報を集めて、歌を集めて、リポートもして、領地に転移魔法陣で帰って音楽学校や録画スタジオの仕事もする。どうですかどうですか、お父様のエール子爵ブリック様!ご予算の事もありますから、即座にお返事はできないでしょうが。」


観客席の、ブリックの所に、カメラがズームすると。

ブリックは、涙を滲ませて、うんうん、うんうん、と目をまん丸にしながら頷いている。息子と一緒に働けるのだ。そうだ、道は分たれてなど、いなかった。お互い、望む道があったとしても、腹に力のいる大事業だとしても、少しずつ、出来る。

歩み寄れるのだ。

隣に座る、母、エール子爵家夫人イーグレットも、夫ブリックの腕をギュッとして、ニコニコ、うんうん、と嬉しそうだ。


パージュさんが、ホッと微笑んで。

「夢は大きく、1人の若者の成長と、そして一つの領地の成長とが、重なりそうな良き予感がしますね!それでは、ドゥアーさんに歌ってもらいましょう。歌は?」


ドゥアーが、キリッと気持ちを入れて、海の中、眼差し熱く。


「歌います。歌は、『故郷に帰る』です。」




ドゥアーは、リュートをかき鳴らし。

そっと歌い出し。


歌う。

自分の為に。

誰かの為に。

故郷へ帰る、その道へと。


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