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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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ドンドン・パン!


ステージに、ゆっくりと上がってゆく、吟遊詩人ロペラと、チーム荒野のピティエ。


ピティエは白杖を持っているけれど、視力の弱いのを慮って、空いている方の手を取ったロペラは、階段がありますよ、あと2段です、などと丁寧に口でも誘導した。

彼は、お人好しの、もう亡くなった師匠のお陰で、いつもどこかが弱い人達を助けてきたから、視力が弱い人と一緒に歩くのも慣れていた。


ピティエが、ほわ、と嬉しそうにしながら最後の1段を上がって。

「凄い、歩きやすい。初めて誘導して下さる方は、こんなに上手く出来ないのです。吟遊詩人の方は、私のような視力が弱い者にも慣れているんですね。やっぱり、旅で、会ったりしますか?」


ロペラは、師匠からもらった技能の1つを、くすぐったく思いながら。

「そうですね。どの地方でも、若い方も、年老いた方も、いらっしゃいますよ。そして、とても楽しんで聞いて下さる方達ですから、私達吟遊詩人は、大事にお助けする事も多いんです。」


「そうなんですか。自由に旅をするって、色々な事を知る事が出来るのですねえ。」


歌を聞くのに視力はいらない。

暗闇の世界で豊かな想像力を羽ばたかせ、そしてお代を沢山いただける事も多いという理由もあるけれど、それだけではなくて、荒野な人々は、聴覚が鋭くて、記憶力も良くて、違いが分かる。とても聞かせがいがある聴衆な事が多いのだ。

「さ、こちらですよ。ステージの上でも、私が付きますから、安心して歩かれて大丈夫です。一緒に歌いましょう。」


ありがとう、とこんな風に屈託なく笑ってもらえたら。係累のないロペラは、根無し草の自分が、ちゃんと大地に立って繋がっている、って気持ちに、気持ちよくなれるのだ。

だから師匠は、お人好しだったのかな、と。

一昔前の、竜樹がこの世界に来る前は、いつ誰かに搾取され見下され粗末にされるか、とガードが固かったロペラだったけれども、師匠の心の種まきに、今は苦笑して柔らかく解ける事が出来るのだった。


ピティエとロペラが寄っていくは、ステージ中央から広がる出場者、その家族達。

ハルサ王様、マルグリット王妃様、3王子にギフトの竜樹。音楽大好きバラン王兄。審査員のアプロディス、シュショテ夫人。それからチームワイルドウルフ達に、ルムトン副隊長とステュー隊長。


「ご家族達や、選ばれた会場の方達、ほぼ関係者になってしまいましたが、あのギフトの竜樹様が遊びましょうと言ってらしたので、何か面白い事がありそうかも!?」


パージュさんのフリに、竜樹がキャリコの手を握ったまま、おーおー、任せとけ、と手を振って、お助けスタッフを呼んで、何かを耳にゴニョゴニョした。スタッフは、コクコク、と頷き、タタッとステージ外へとはけてゆく。


「そしてそして、一緒に、気持ちを込めて歌って下さるお母様方。呪われたタイラスさんのお母様、ミモザ夫人。それから、タイラスさんの婚約者、ポムドゥテール嬢のお母様、ラシーヌさん。祈るだけではなく、何かしたい、歌い手さん達と同じステージに立って気持ちを届けたいと参加して下さいます。きっとその歌声は、歌い手さん達にも、ミュジーク神様にも、伝わると思います。どうぞ、ステージに、ゆっくり上がられて下さい!」


眠るタイラスの頬をスルリと撫でて、夫のヘリオトロープと手を握り合い、タイラスの弟コリブリとギュッとしてから、決然とステージへ上がって来た、ミモザ夫人。


それから夫の騎士爵ベッシュが腕逞しくお姫様に抱き上げて、娘のポムドゥテール嬢が車椅子をヒョイっと持ち上げ追って。石化から解けたが身体がまだ固まっているラシーヌは、だが目は凛と、ステージへ。

車椅子を置いてラシーヌが座って落ち着いたら。


「さあ!竜樹様、どんな遊びを?」


スタッフがマイクと、折りたたみの衝立に大きな紙、そして絵の具の黒に筆と用意して、タタッと低い姿勢で走り出る。

マイクが渡された竜樹は、キャリコと手を繋いだまま、一歩前へ出て。


「パンパカパ〜ン!皆で作ろう!歌おう!のお遊びで〜す!」


ニリヤが、お顔を、はて?

「みんなで、つくろ?」

そして子虎のエンリちゃんが、尻尾をくねくねしながら、ニリヤの隣でお手て繋いで。

「つくろ、でつか?」


竜樹はキャリコをエンリちゃんの隣に連れて行くと、お手て繋いでいてあげてね、としゃがんでお願いする。

子虎エンリちゃんは、ウン、とニリヤと繋いでない方の、小さなお手てをちゅんと出して、ボーッとしているキャリコの、ぷらんとした手をギュッと握った。

「ぼくも、みてあげるからね!」

「私も!」

「私も、様子を見ててあげるよ。」

3王子の申し出に、竜樹は、頼むね!とニッコリした。



「さて、皆で作ろう!何を?と言えば、そう、歌です!ここには作詞作曲のプロ、吟遊詩人さん達と、歌の良し悪しをよ〜く知っている、貴族の歌い手さん。そして歌をお家で良く聞いているだろうそのご家族もいますよね。ステージにいる人達だけじゃなくて、会場の皆さんにも参加してもらって、この会場で、さっと、歌を作っちゃいましょう!•••といっても、皆で作る、って、具体的にどうやるの?って思いますよね。」


おもう、おもうー!と皆コクコク。


「まず、何もない所からだと、望洋としすぎていて、やりにくいので、俺から、こんなのどーう?ってテーマを出しますね。こんなのどーう?『この良き日』、良い日、って、色々ありますよね。どんな日があるかな?歌詞を作っていきますが、その前に。」


良き日。

さわさわ、と会場が騒めく。

私が良かった日。考え込む娘さん。

今日が良い日だよ!美味しいものが食べられて!と言う子供。

毎日が良い日だよなぁ、と平穏を感謝する親父。


「少し、曲の仕掛けも気にしながら歌詞を作ってみましょうか。仕掛けってどんなの?って幾つかあります。例えば、ーーー皆さん、足を、ドンドン!手をパン!と打って下さい。ドンドン・パン、ドンドン・パン、はい!」


ドンドン・パン、ドンドン・パン!


ステージの者達も、何だか分からないながら、ドンドンパンする。

最初はパラパラ、合っていなかった音が、竜樹が大きく身振りで合わさせていけば、会場全部が一体となって。「いいね、続けててね!」


ドンドン・パン、ドンドン・パン!


すう、と息を吸って、歌い出すはクイーンの、ウィ・ウィル・ロック・ユー。竜樹は歌は上手くも下手でもないが、何をしたいかは一瞬で伝わった。


歌と共に響き合う手拍子足踏み。

歌に誰もが参加して作っていく興奮。


一節歌って、「はいっ、止まるー。」と竜樹が手をぐいん、と振って締めれば、もう皆引き込まれて集中して、ステージから目が離せず。

ふわわわわぁ!と音楽バカのバラン王兄は、大気を震わす会場に感動して、上気して、もうじんわり目尻を滲ませて。

ステージの歌い手達は、フワッと笑って盛り上がって、身体に血が沸き、それでそれで!?と前のめり。

チームワイルドウルフや3王子、チーム荒野のピティエ達は、それぞれ、じんとする手に足に、愉快な気持ちになってニパッと笑い合った。


キャリコは、もっと手拍子足踏みしたいな、という、モニョっとした気持ちに、お口がへの字になった。


ミモザ夫人とラシーヌも、張り裂けるような覚悟のステージではなく、一緒に楽しく、の歌で、気持ちが盛り上がって、それぞれ口角が上がった。

そうだ、感謝祭なのだもの。神様だって、楽しい歌は、好むに違いない。


「こんな風に、皆が参加できる手拍子が入る部分なんかを入れたりするのもいいね。後は、さっきの歌でもそうだったけど、サビーー歌ってて一番気持ちいい、盛り上がる聞かせる部分を、毎回同じ言葉にして、皆が歌を全部覚えてなくても、歌に参加出来るようにしたり。」


ふむふむ、俺たちもそれはやるね、など吟遊詩人達は頷き合う。


「どう?じゃあ、この紙に、まずタイトル、俺が仮に書いちゃいます。『この良き日(仮)』ね。」

サラサラっと筆で書く。


「じゃあ、良い日がどんな日か、皆で出していきましょう!歌詞に整ってなくてもいいから、色々出してみてね。じゃあ、吟遊詩人アラシドお母さんの息子さん。お名前教えて下さいな。」


ひゃ、ひゃいっ!と噛んでお返事するは少年モール。

「モールです!」

「モール君。モール君は、良い日って、どんな日ですか?」


照れ照れしていたモールだが、伏し目がちに、でも誇らしげに。

「良い日、今日、です。」

「今日。今日は良き日。良いですねぇ、これ、サビになりそうじゃないです?最初から素敵な意見です。」


サラサラ、と紙に「今日は良き日」と書く。


次々に良き日をステージ上の皆に聞いてゆき、それから吟遊詩人、貴族の歌い手達に、順ぐりにその中の言葉を使ってもいいとし、ワンフレーズずつ並べさせた。彼らはプロであるから、どんどん意見を出してゆく。

そうして、2つの内どちらかにしたい、とフレーズで悩む所では、観客席に拍手の多さでもって決めてもらったり。

手拍子足踏みを絶対入れたい!と、どこにどう入れるか、わいわいとステージ上で揉めるほど声が上がった。その都度、このバージョンが良いか、それともこっち?と拍手の多寡で決めていった。

全部を大まかに決めた後、曲も吟遊詩人達にワンフレーズずつリレーで決めてもらう。

誰もが、ニリヤや子虎のエンリちゃんまでも、何か一言ずつ発言をして、そうして、皆で作った歌が、ほんの1時間ほどで、出来たのだ。


大丈夫か、歌の競演会。企画が盛りだくさん過ぎて、どんどん予定が伸びていないか。

王弟マルサは、ステージの端で護衛をしながら、面白いなと大丈夫かな、を同時に思いながら、お祭りだから、まぁいっか、と鼻息を吹いた。



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