ご家族様とステージへ
「それでは、出場者達のご家族さんを、このステージにお迎えしましょう。まずは、吟遊詩人アラシドさんのご家族。会場にいらっしゃる旦那様、息子さん、どうか立って上着を振って合図して下さい!どうか!ーーーあ、あ、いた!あちらに!あちらにいらっしゃいます!カメラさん分かりますか!?」
吟遊詩人のちみこい、ふくっと体格の良い、アラシドお姉さま、いや、アラシドお母さんが。
「おーい、グラビア!モール!どこ〜?」
手をぶんぶん振る。
カメラがアラシドから、会場の観客席を、ふらーと探して、ピッと一点で止まる。
後ろの方の庶民席で、嬉しそうに立ってぶんぶん上着を振り回す男性。宝飾の職人だという、いかにもらしい、シンプルで趣味の良さそうなシャツを着た丸顔の、しっかりした手の旦那様、グラビアと。
その隣、アラシドとグラビアを絶妙に混ぜて散りばめた、ちんまい息子モールが、ふわぁ!と驚いた顔でわぁわぁ飛んで、両手を振り回していた。
「アラシドさん、迎えに行ってあげて下さいな。ご家族のお2人、ステージへどうぞ!」
吟遊詩人のお母さんアラシドが、ととと、とステージから降りて庶民席に向かう。旦那様グラビアと息子モールも、上着を手に、観客席の間通路を縫うようにして、アラシドへ向かう。
真ん中で家族は一つに。
「母ちゃん!」
「モール!一緒に歌おうよ!アハハ、こんな大きなステージに、家族で呼んでもらえるなんて、こんな事、滅多にないよ!」
「やったなモール!俺たち、歌うたいしか立てない舞台に、特別にアラシドの気持ちになって、立てるんだぞ!」
抱き合う家族に、会場はほんわかムード。
「母ちゃん、お、俺、こんなすごい事、友達に永遠に自慢できるよ!」
モール少年は感動して、うるうるしている。
「うっふふ!いい子ね、モール。母ちゃんは自慢の母ちゃんでしょう。グラビア、自慢の妻でしょう?さあ、あんた達の声も、なかなか悪くないわよ。ステージへ、どうぞ!」
手を繋いで引っ張って。
その間に、会場に家族のいる吟遊詩人達が、あちこちへ迎えに行って、きゃあきゃあと歓声。
吟遊詩人達のお迎えが済めば、次は貴族の歌い手達の番。
彼等の家族は、大抵が貴族が座る前の方の席で、側付きなどもいる比較的大人数で座っていて。今度は上着を振らなくても、立って手を振ってもらえば場所はすぐに特定できた。
吟遊詩人アラシドお母さんと歌バトルした、名前は似ているが姿形は全く違う、貴族の歌い手、麗しの高音アマンド。
高い身長に、ハッキリした顔、長い手足で一歩ステージの前へ出て、上品ながら手を思い切り振る。ニコニコのニッコリで。
今日の舞台は、吟遊詩人達の晴れ舞台だって?それは、貴族の歌い手達にだって、そうに決まっているんだ。
妙齢の女性、アマンドの家族は、イケオジの肩幅広い父親と、大柄で勝気そうな、アマンドの母親代わりとして幼い頃から親しんだ、叔母が。ニッコリと手を伸ばして振り、応える。
ゆっくりステージを降りて、アマンドが迎えに行くと、父親は頬を赤くして。
「アマンド、おお、可愛いお嬢さん!お父様は、ステージに上がって歌うなんて、恥ずかしいよ!」
「まぁ、お兄様!それくらいなんですか!ねえアマンド。カラフ叔母様も連れてってちょうだいな、こんなの、一世一代の晴れ舞台じゃない!私は歌も楽器も、上手くないんですから、アマンドのおまけじゃなきゃ、2度とステージなんて上がれないわ!」
キャッキャ、と女性2人。
「勿論よカラフ叔母様!お父様も、記念にと思って、どうか一緒に歌って頂戴な!お酒を召した時は、あんなに楽しそうに歌われるじゃない?」
父親のクラフティは、女性2人に腕を引っ張られて、嬉しいが恥ずかしいといった風に、弱く抵抗をする。どんどん引き摺られて歩いているが。
「私の鼻歌なぞ、プロのアマンドの足元にも及ばないよ!」
「まぁ、まぁ!お父様、お呼びするご家族達は、誰も歌の専門家じゃないんですから、大丈夫よ!さあ、お父様、観念して、娘の舞台に付き合って頂戴!」
「まいったなぁ•••。」
照れれ、だが顔は笑っているのである。
「ご家族と合流出来ましたかしら。それでは、この会場にご家族のいらっしゃらない出場者の皆さんは、誰か観客席から、一緒に歌ってくれそうな方を、この人!と見つけて連れて来て下さい!ピン!ときた方で良いんですよ。選ばれた方は、どうぞ、ご協力お願い致します。」
パージュさんのアナウンスに、あ、俺たちも私たちも、誰かを連れて来て良いんだね、と。家族の来ていない出場者達も、期待に胸を弾ませて。
えーっと、と見回しステージから降り、お願いして•••こら、そこ、どさくさに紛れてナンパしないで。
いや、お嬢さん、一緒にステージでは歌ってくれないのね、う〜ん、フラれた。
ふわ、と笑いが軽く観客席で沸く。
ステージを降りてきた吟遊詩人、貴族の歌い手達が、関係者席で見守っていた竜樹の前で勢揃い。
一番先頭にいた、吟遊詩人ノート青年が、一緒に座っているキャリコにも、腰を曲げて、竜樹とキャリコと、両手を伸ばして誘う。
「ご一緒に、歌いませんか?」
「え?俺!?」
「!」
吟遊詩人達は良くしたもので、打ち合わせなどしていないのに、次々、竜樹に感情を徐々に取り戻し中のキャリコを皮切りに、チームワイルドウルフに3王子を指名して、さあさあ!とステージへ連れて行くのだ。
ムフフ。
「俺をご指名下さったなら、せっかくだから、楽しく遊びを提案しましょうね。」
竜樹が、目の中の星が強く弱く光るキャリコの、だらんと垂れた手を片方取って、ふりふり、と楽しげに振って勢いを付ける。
あそぼ、あーそぼ。一緒にあそぼ!
「是非是非、竜樹様のお遊び、お願いします!あの昨日の歌バトルだって、すっごく楽しかったから、これから街中で吟遊詩人同士が出くわして、歌の商売やる場所が重なりそうな時に、絶対やろうぜ!って言い合ってるんです!」
吟遊詩人ノート青年は、へへっとして、キャリコの空いている方の手を柔らかくリュートだこのある手で握って、ステージへ。
竜樹がステージへ現れ、カメラがそれを捉えると、わあっ、歓声が
そして、それからそれから。
「え?え!?わ、私ですか?」
「はい。良くぞ吟遊詩人仲間のドゥアーに、サングラスを貸して下さいました。同じ職業を営む者として、嬉しくて、是非貴方様にも、一緒にステージへ。お目が悪いのは分かっております、このロペラが、失礼ながらお手を引かせていただいても?」
チーム荒野の、ピティエを。
吟遊詩人ロペラは誘って、優しく誘導し、ステージへ。
本日短めご容赦です




