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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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試作と鑑定


「いくぞ、テクニカ!」

「はい!トレモロさん!」


転移魔法陣でやって来た、王都から少し離れた鄙びた街、セレステ。

そのセレステから外に出て、萌え始めた草っ原を、かき分け踏みならし。


丸いフープの真ん中に、斜めと真下向きカメラ。高度計を備え付けた気象風船魔道具は、風を逸らさないよう周りに短い返しをつけて。

返しには細かい風調整の魔法陣を、そこかしこに散りばめて。


その下に、バッと広げる布にも魔法陣。

空気砲を撃つ陣と。

魔法の糸を気象風船魔道具とずっと繋いで、高度が上がりきって撮影、風船が破裂したら、この場所に引っ張って落ちてくるようにした。空中で一旦静止する仕組み、映像が撮れたら風船を破裂させる仕組みは、まだ作れていなくて、上空の風の影響なども、やってみないと分からない事ばかり。


試作、第一号である。


ふわぁ〜あ、と護衛の雇われ魔法使い冒険者、長髪ボサボサ無精ひげの大男、アクチェが欠伸をしている。


彼は、気象風船と魔法陣を繋ぐ糸の仕組みが上手く動かなかったら、そして万が一街や人のいる方へ向かいそうなら、魔法で確保、引っ張って、なるべく魔道具を壊さず回収させる役目。

そして、危険であればどんなに試作結果の高度計の記録や、どこまで壊れないかの実データが欲しくても、空中で破壊してでも事故を防ぐのが、大事なお役目だ。


この草っ原の真ん中に来るまでも大変だった。草を踏みならすのも、テクニカとトレモロがやった。

カメラから、撮影した映像は、リアルタイムで見られる。だから、それを見るための場所も平らに作る。

アクチェはその仕事は請け負ってなかったけれど、暇だから手伝うよ〜と、靴を草の青汁まみれにしながら、一緒に踏みならしてくれた。


慎重に準備して。

風船をガスで膨らませる注射型の魔道具に取り付け、シュワーとガスの量で大きさを計測し、気象風船魔道具を完成させ、魔法陣の上に置く。手動だとブレるので、発射装置を作ってある。


コクリ。

うん。


トレモロは。

シュバ、と魔法陣に始動の魔力を流して。空気砲を、真上に撃った。


ドンッ


ひゅるるるるぅぅぅ〜


テクニカの顔がキュイっと上を向き、目が追う。

トレモロは、地上のモニターをくっと睨んで、カメラから送られる映像を。どんどんと、テクニカ、トレモロ、アクチェのいる草っ原が小さくなり、みるみるうちに高度があがり。


「どうかな〜〜〜あぁあああ、あ!」

「いけ〜!!」


ひるるるる、る、ぴょん!


「あぁ!逸れたぁ!」

「空気砲の軌道から離れちゃ〜!」


パン!

ひるるするるるらる バカン!!!


「ひい!」

「うわぁ!!」


空気砲の軌道から外れた時に、風船が割れて魔法陣に戻ってきたけれど、減速装置が働かずに、フープが真ん中で折れて、カメラがばっきりバラバラに壊れた。

あ〜。

あーあー。


トレモロとテクニカは、呆然として立ちすくんでいたが、一瞬後には壊れた魔道具に取り付いて、どう壊れたか確かめ出した。


「試作1号だものな。」

「ええ。これからです!」


「がんばれぇ〜。また俺を指名してくれると、嬉しいなあ。草ならし手伝うからさぁ。」

アクチェは準備の手伝い以外、何にもしなかったけれど、この気象風船打ち上げは何か、楽しいからいいな、と思っていた。


風船を頑丈にし、減速装置を作り直し、空気砲の風を調整し直した。

試作2号。


風を調整する返しが外れて落下。強度に問題あり。風船また軌道から外れる。ふわふわ高度があがり、映像は撮影出来たが、位置は大幅にズレる。目視もできない状態の気象風船を、辿って回収する魔法でアクチェが大変だった。


試作3号。

上空の風に流されてしまい、やはり位置が大幅にズレてしまう。


試作4号。

風船を空中で止める仕組み、上手くいかず。映像がブレる。


試作5号。

試作6号。

試作7号。

雨風の中打ち上げる。

カメラのレンズに水が付いて映らない。


試作15号。

試作28号。


トレモロは、自分だけの頭では到底作り上げられない、とロワズィや他の風が使える魔法使い達に協力を頼み、頭を下げて教えを請い、理解する為に勉強を必死でして。

テクニカは開発部3人衆の先輩達に、ごちゃごちゃに意見を受けてその中から、これは!というのだけを抜き出し、自分で工夫し、時にはおやっさんにアドバイスをもらい。トレモロと毎日毎日話し合い、試作機を飽きずに作り続け。


トレモロの頭は気象風船でいっぱいだった。お風呂を逃す。書類を忘れる。思いついた事をメモしなきゃ!と歩きながら転ぶ。

心には、改良案ばかり、忘れるなんてもんじゃない、一心に一つの事を考える時、ふわぁとしてその他は考えにないんだな、事務書類とかは。と、ロワズィの気持ちが理解できた。

初めて経理部から、旅費精算の督促が来て、慌ててきちんと書いて出したり。それ以降は気をつけて、遅れないようにしたが、経理部の女の子達は、お詫びのお菓子を貰いながら、「仕方ないですねぇ、トレモロさんなら、仕方ないですねぇ。」と、何だか嬉しそうに、ニコニコ遅れた書類を処理してくれた。


そうして試作機38号で。

レンズに結露もできず。重さも重すぎず、軽すぎず。

ピッタリ高度30000mまで、真っ直ぐ風船魔道具が打ち上げられて、3秒ほど静止。映像をピタリと収めて。

風船が破裂、落下装置も減速装置も魔法をたっぷり纏わせて正常に動作し。

ふわぁ、っと、トレモロと布の魔法陣に帰ってきた。


「•••••••••。」

「••••••トレモロ、さん!」


テクニカが、頬っぺたを真っ赤にして、うるうるの瞳でこちらを見て、戻ってきた魔道具を確認して、うん、と頷く。

どこも壊れていない。


やった! 成功、か?

言葉にもならないほど嬉しくて。

アクチェも、やったのか?とニコリ。


手元の画面に映る、俯瞰の陸と海と雲。


「後はお天気鑑定との兼ね合いで、地上からの距離の調整ですね!」

「うん••••••!」


そしてそれがまた、難儀なのだった。




お天気鑑定の為にお願いした鑑定師は、兄弟でやってきた。


「兄のレスピオです。こちらは、弟の、マジェスティ。弟が主に鑑定します。弟は鑑定がしっかり出来ます。少し話下手なので、俺と2人でやってます。」

「•••ども。」


兄レスピオは、しっかりどっしりした大男。銀髪にチョコレート色の肌は、珍しい色合いの取り合わせで、生まれついての異国の血を思わせる。瞳は小さく、艶々とした漆黒。

弟マジェスティは小さくて肌が白くて、真っ赤な頬に意志の強い太い眉、コルク色の軽い髪に、小さなキラキラとした漆黒の目。

瞳の色はお揃いだが、よく喋る兄に、ポツリポツリの弟。


トレモロは気付いた。

上空写真を見ている鑑定師兄弟の2人。兄レスピオが、じ、と見て、手に写真を持った方ではない手が、わき、わき、と言葉を沢山溜めているかのように動いて、書きたい感じにもそもそしているのを。とても熱心に。

弟は、言葉少なに。チラッと写真を見ただけで。


はっ、と気を取り戻した兄レスピオが。

「マジェスティ、どうだい?」

「ん。•••風、ここが吹く。雨になりそう、か。次の日くらい•••うーん。」


ポソポソ、と弟マジェスティが何か2、3言、耳打ちする。

うん!と頷く兄レスピオ。


「カナン地方が、明日は雨です。一日中は降らないかも、雨雲がここからこう、抜けていきそうで。王都は日中晴れます。夕方少し曇るかな。ここに空気の違う境目があって、雲がこう流れそう、だからセク地方ではお天気がコロコロ変わりそう。こちらのベセでは•••。」


おいおいおい。

弟、どう見てもそんなに喋ってないだろ。


ふーす、と鼻息を吐く弟マジェスティは、兄レスピオを見て、目をほちほちして、それからトレモロを見て。

うん、と一つ頷き。

トレモロに。

何か、チラッと目線を寄越して。


「あ•••お腹痛い。いた、イタタタ!」

「!マジェスティ、どうした!?」


「あー、あ、だ、大丈夫かい?救護室に行って診てもらおうか。」

トレモロが、仮病くさい•••と思いながらも申し出ると。コクコク、と頷き、弟マジェスティは兄に、途切れ途切れにこう言った。


「レスピオ、にいちゃん、後は、任せた。鑑定しといて。俺の分も。いつもの腹弱だし、少し寝たら、治ると、思うから。」

仕事は、ちゃんと、しないと。


「わ、分かった。大丈夫か、俺、ついていこうか?」


ビシリ!と厳しく弟マジェスティは言う。

「ついてくるな!•••たのむ、しごと、にいちゃん。今日は依頼料で、美味しい、もの。」


うんうんうん、と激しく心配しながらも、頷く兄なのである。


「じゃあ救護室まで私が送ってくるから、レスピオさんは鑑定の結果をこの紙に纏めておいて下さい。」

机と椅子、筆記用具を指し示す。


「はい!マジェスティが、鑑定した結果を、詳しく書いておきますね!弟をよろしくお願いします!」

縋るような視線をばっきり折って、スタスタと弟は、トレモロを待たずに扉を開け廊下を行く。

短い足のトレモロは、ちょっと必死で追いかけて並んだ。


タンタン、タン。

と足音が重なり、2人分響く。


「•••お兄さんも、鑑定できるんですね。ですよね?」

マジェスティは、口をムンとしながら、チラリ、トレモロを見て、少し嬉しそう。


「俺より、ずっと、できる。」


「何でマジェスティさんが主に鑑定してるんです?2人とも鑑定できるんだから、向いてる鑑定で2人働いた方が、お金は稼げるでしょ。」

もしかしたら、話下手な弟を慮った兄がーーーと思ったりもしたトレモロなのだが。


「責任。」

「責任?」


すーふ、とマジェスティは息を吐いて悲しい顔を。

「レスピオ兄ちゃん、一度鑑定したのを、貴族に難癖つけられて、嘘つきだって言いふらされた事があるんだ。兄ちゃんが鑑定した絵と、違う絵を他の鑑定師に見せて、寄ってたかって鑑定師失格の噂を流された。だから、兄ちゃん指名で仕事って、なかなか来ないんだ。ーーーでも兄ちゃん、鑑定師の仕事が好きでーーー。」

「マジェスティさんが、鑑定したって言ってレスピオさんが鑑定してるんだね。」


うん。

コクコク頷く。

「あれから兄ちゃん、自分の言葉に、自分で責任もって鑑定するの、怖がってる。俺、別に話下手な訳じゃないんだけどさ。ってこれだけ話せば分かってくれるか、トレモロさん。」


「うんうん。分かってる。でもさ、それじゃあ、君、マジェスティさんだって、鑑定の仕事として生きてないっていうかさ。」

モゴモゴ、いや、トレモロが何を言えば。でも、兄弟が出したやり過ごし方を、他人がどう言えば。


ふふ、とマジェスティは笑った。あの、口下手に見せた無愛想な彼は、今はどこにもいない。

「この話して、俺の事、心配してくれたの、トレモロさんだけだな。ありがとう。俺はね、鑑定が偏ってるの。虫に。ゲーって言わないでね。面白いんだから。多分、興味がそっちだからだと思うんだけど、兄ちゃんみたいに、満遍なく、色んな事に興味もって鑑定出来ないんだな。•••だから、何か仕事しながら、虫を鑑定して、分類して、学者さんの手伝いでもして暮らしていけたら、なんて思ってるんだ。近所に虫の学者のおじさんいてさぁ。仲良くて、今度一緒に虫探しに行こうって。」


うんうん。

ニッコニコで話すその内容に、トレモロもホッとする。ちゃんと将来を、自分の生きたい方向に考えられてる。良かった、良かった。


「だから心配なの、兄ちゃんの事だけなんだ。責任もって自分の言葉で、鑑定する。兄ちゃん、それを恐れてる。また否定されちゃうんじゃないか、って。」

うんうん。

「自分が責任もって仕事して、認められたら凄く、嬉しいだろうにね。」


トレモロが言えば、マジェスティは。

くふはふっ!と肩をキュと寄せて笑って。


「だよねだよね!俺も、自分が鑑定した虫を、学者のおじさんに、なるほど!なんて聞いてもらえるの、超嬉しいんだ!兄ちゃんも、きっと。ーーートレモロさん、兄ちゃん頼んでも、いいか?」


若者に頼られて、応えられたら、それはとても嬉しい事だ。

そして仲の良いこの兄弟は、離れて仕事してお互い、より良く生きていけるだろう。


「分かった。やってみるね。」


ありがとう!と。

言った後、マジェスティは足がいっぱいある虫について悪意なく熱心に語ってくれたので、トレモロの背中はゾゾゾワになった。


仮病で救護室、お茶しながら治療師のルガルデお姉さんとお話するマジェスティは、虫の話で彼女をキャアキャア言わせていた。薬になる虫の話も、彼は沢山知っていて。


トレモロは、兄レスピオのいる研究室に帰って、詳細に書かれた天気予報の紙を、明日の天気と照合するからと。


「明日の結果を一緒に見ましょう。レスピオさんお一人で来て下さい。マジェスティさんとは話がついてます、だから。」


明日から、天気予報鑑定は、レスピオさんが、お一人で。


サーっと顔を青ざめさせる大男を、トレモロが宥めるのには。

たっぷりお茶をして、しっかり2時間もかかったのだった。


昨日は更新お休み、すみません。

地元のお寺の行事に行ったら、慣れない気を遣い、疲れてしまいました。オジジイサマ達大活躍だったよ。祭壇をスマホで記録撮影したりして。

宗教的な事はよく分からないんだけど、お経ってすごく音楽的で気持ちいいな、って思いました。

また今日からも更新頑張りますね!


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