表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

491/692

幕間、ドゥアーの事情


歌の競演会では、観客達を息もつかせぬ感動の渦に巻き込んで、視線を逸させない、のではなくて。


歌と歌の間に王族審査員賞の授与もあるし、マイクを直したり、歌う心の準備にちょっと時を貰ったり、司会のパージュさんが上手く繋いで、のんびりした雰囲気で進行している。

観客達も安心して、この人の歌聴きたいから今のうちに飲み物買ってこようー、とか、何か食べながら、など和やかな雰囲気で。小さな子供達もジッとしているのに飽きて、通路で歌に合わせて踊ったりしつつ。

歌の最中は、流石にしん、となるけれど、狙って間の時間を多めにとっているので、皆、疲れず気楽に。いや、人によっては超真剣に聴いていたりもするのだが。


「さて歌の競演会、ここまでで午前の部、半分過ぎましたね!楽しい時間は、あっという間に過ぎ去っていきます。でもでも、まだ午後に、沢山の素晴らしい歌い手さんが待っていますよ!お楽しみに!尚、歌の順番ですが、先ほど極度の緊張で倒れてしまった、ドゥアーさんから午後は始まる予定です。怪我もなかったことですし、気持ちを切り替えて、頑張ってもらいたいですね!」


今は客席の、歌い終わった出場者のいる席で、真っ白な顔で俯いて、顔を手で覆っているドゥアー吟遊詩人青年を、チラッとパージュさんは見る。大丈夫かな?心配は声に出さずに、まあ、まあ、とりあえず。


「ではでは、お昼の休憩となります。

休憩時間は2時間、ゆっくりお昼休憩していただいて、午後の部は2時から始まります。ステージの上部の壁に、大きな時計がありますね。今何時か、時計の読み方が分からない方は、会場係員などに気軽にお声掛け下さい。」


休んでおきましょう。

ドゥアー青年も、休んでみて、そしてこの休憩中に、竜樹様達に何とか気持ちをあげてもらうように、話をしてもらいましょう!

ニココ!とパージュさんは思いつつ、午前を締めた。


テレビの放送も、休憩の最初の1時間は、歌い終わった出場者や、これからの者、国歌を歌って吹いた3王子や審査員達にインタビューをする予定であるが。残り1時間は、まんま休みでお食事などをする。撮影スタッフもお昼休憩なので、放送はニュースを幾らかやって、しばしお休みである。


アンファン!お仕事検証中!のチームワイルドウルフ達も、座って聴いてに身体が飽きて、うずうず、モゾモゾ。のび〜っ!として。


ルムトン副隊長が。

「ヨーッシ、インタビューして、一仕事したら、美味しいご飯もらって、休んで午後もがんばろー!あと少し、チームワイルドウルフ、頼んだよ!」

「「「「はーい!!!」」」」


「じゃあ、どうする?」

アルディ王子が、黒い狼お耳をピンッ、お尻尾ゆら、ゆら、とさせて皆に相談。

「まずは、歌い終わった人にインタビュー行こう。はい、同じ観客席だから、すぐそこだよ。1列になってー。」

ステュー隊長が、垂れ耳兎ちみっこ弟ルルンの、まん丸お尻を、とんとん、と柔らかく叩いて促し、ふかっ、ぴるんとした尻尾に触れて、ぬくい、と口端あげて。

「•••いくでしゅ。ステュたいちょ、おててつないでくだしゃい。」

「はいよ、繋ぎましょう!」

いつの間にか仲良し。


竜樹は、そそそとステージを降りて近づいてくる、司会のパージュさんに頼まれる前から、緊張して失神したドゥアーを心配して声をかけるつもりだった。うんうん、と顔が2人、座り背を丸くする彼、青年吟遊詩人に向く。


緊張で失神する、というのは、有名なピアノコンクールの出場者で起こったのを、竜樹もテレビで見たことがあった。ピアノを弾きながら、ふぅわぁ〜、と失神して、周りが騒然としたのだ。流石に緊張感高いコンクール、とハラハラ見守ったもの。それだけ真剣に、ドゥアーも歌おうとしてくれた、って事だ。


仕組みとしては、自律神経の内、アクセルの交感神経が凄く緊張する事で、副交感神経がそれを抑制しようとして、一気にブレーキをかけてしまい、起こるのである。

失神は1、2分もすれば意識も戻るし、コンクールと違って、順番が後ろに回っただけで審査がされない訳でも、不利になる訳でもないので、ドゥアーが歌うのに、問題は、ないが。

ないが、何だか、顔色悪く落ち込んでやしないか。


パージュさん、ルムトン副隊長ステュー隊長、チームワイルドウルフ達と、こちゃこちゃ一緒になって、出場者席へ。3王子も、ステージからヨイショっと降りてきて、合流。うん、オランネージュ、ネクター、ニリヤも一緒にテレビやろうか。


「どしたでつか。げんきないでつ。」

子虎妹エンリちゃんが、お尻尾をくねらせ、ほっぺにかかるクリクリのカールのとこを、かしかし掻きながら聞いた。自然体。


「たおれちゃたでしゅ。だいじょぶのでしゅのか?」

クリーム色の垂れ耳を、はた、はたんと波打たせて、ルルン弟兎ちゃんも心配げ。


「げんき、だすでちゅ。じゅんばん、つぎよ。おひるごはん、たくさんたべたら、げんきなるでちゅか。」

子熊の弟カルタムも、ルムトン副隊長に抱っこされながら、あんよを突っ張って降りる〜して、ドゥアーのお膝に小ちゃいお手てを乗っけた。

顔を下から覗き込むようにして、見上げるけれど。

俯き、顔を手のひらで隠したドゥアーは、真っ白な顔色で震えて、ふるふる、と横に面を振るばかり。


ひゅ〜ん、と誰かの鼻が悲しげに鳴って。

竜樹も、席に座っているドゥアーの前に膝をつけると、目線を下から、肩に手を乗せて、ゆっくり聞いた。


「ドゥアーさん。緊張して失神しても、すぐ回復したと思うんだけど、まだ何か不安があるのかな?けっして恥ずかしい事ではないのだけれど、大勢の人前で、また凄く緊張してしまいそうだったり、怖いとか、何か理由があったら、聞かせてくれませんか?このままだと、午後の1番で、ドゥアーさんが安心して歌えないのじゃない?」


コクコク。

顔を覆ったまま、頷くドゥアーの映像と音声は、ステージ上の大画面でも、テレビでも流れている。

「今放送しているけど、カメラは遠慮した方が良いかな?また緊張しちゃわないかな?」


「ぼくが、まもってあげるから!こくみんは、くにのたからだ!ぼく、おうじさまだから、まもるの!」

ニリヤが、フンスと鼻息も荒く、カメラの前でわたたた!と手を振りドゥアーを隠してあげようとする。うん、君は素敵な王子様です。


「い、いえ•••カメラは、だ、だい、大丈夫です。人の目が沢山、直接見える訳じゃないし•••。」

ある意味、もっと沢山の目に見られることになる、のだが、直接ドゥアーを見ている目が感じられなければ、良いんだ。


倒れる寸前、皆、目、目が、ああっ!とこっちを見るのが分かった。

あれを、また。

あれの前に、また。

ひえええぇ、と恐れるドゥアー。果たして午後一番で歌えるであろうか。逃げたい、でも、そんな訳にはいかない思いがある。

もう、既に呆れられているだろうけれども。あの人には。


コクン、と唾を飲み込んで。

「•••竜樹様。皆さん。わ、私の話を、聞いて下さいますか?」


「勿論だよ。ゆっくり落ち着いて、話してごらんなさい。あ、ありがとう。」

竜樹付きお助け侍従のタカラが、そこにいる人々にお茶を配ってくれる。さ、さ、少しだけでも、口をつけてごらんなさい。リラックスしますから。と竜樹に重ねて言われて、ドゥアーは、やっとこさっとこ、片手だけは顔から外した。

すす、と木のコップの甘いお茶を、口に含む。じん、と脳が痺れるよう。


「わ、私の出番を、無くす訳にはいかないですよね。ぁあ、いや!歌わない•••方が、でも、やってみもせずに落ちていくなんて嫌だ!あぁ、ああぁ!」

ころん、と頬に涙。取り乱して、感情が溢れて。


「うんうん、なるべく出場する方向で、だけど無理はしないでね。話を聞いてから考えても大丈夫、取り敢えず思うままに、話してみて。」


「はい、はい•••!あの、あの、私が貴族家出身の事は、先ほど司会の方が言ったので、皆さんご存知ですね。」



ドゥアーは、低い位から数えて2番目の、子爵家出身であった。エール子爵家の、一人息子。

彼の家は、なかなかに商売上手で、そこそこ裕福であったから、音楽を大好きで習いたい、と幼かった頃のドゥアーが言った時、教養として良いなと考えた両親はそれを許し。

そうして、音楽に、一人息子を取られてしまった。


「私が音楽で身を立てる、と言ったら、そんな奴は家から出て行け、と父に言われました。なので素直に、そうしました。ーー事業に気のない、才能のない私が継いだって、家を食い潰すばかりです、養子を貰って繋いだ方が、領地の民の為にもなります。•••なんて。」

ふっ、と悲しげに笑うドゥアーは。

「言い訳ですかね•••だって私は、音楽をやっていたかった。それだけなのでした。やっていなければ苦しい。家業のために我慢する、そんな人は幾らだっているんでしょうに、私は自分の欲望を捨てられなかった。育ててくれた、懐かしい父、母、慕わしいあの家を、代わりに捨てる事になっても。」


そんな、縁が切れかけた実家から、連絡が来たのだという。せめてどこにいるか手紙は出しなさい、と涙を絞った母に懇願されて、滞在先を大まかにお知らせしていた息子に。

「この、歌の競演会で、優勝をとってみせろ、父の厳命でした。そうすれば、母に会いに来るのを許してやる、と。私は、気の弱い、愛情深い母に、少しでも恩返しがしたい、と思いました。厳しいけれど、必死で家を守ってきた父にも、家は出たけれど私は頑張っているよ、と見てもらいたかった。私の欲望です。自分勝手な、だけどーーー私が選んだ道から、逃げ出さずに、やってみる機会を、くれた両親なのに。」


緊張し過ぎて、失神してしまったーーー。


「やりたい気持ちは、あるのに。あの目が怖い、私今まで、小さな街を巡るばかりで、あんなに大勢の人に囲まれて見られた事は一度も、そう、一度だってないんです••••••。」


怖い。今も震える。

歌えそうにないけれど、もう、実家の両親には、呆れられてしまったろうけど、やりたい、のに、怖い。怖くて怖くて。


「ど、どうしましょう、竜樹様•••!」


ふにぃ、と泣くドゥアー吟遊詩人の、席でキュッとまた丸くなって膝を抱えて小さくなった姿は、視線から身を守ろうとして、それでいて大画面にも、テレビにも、ラジオにも。彼の事情も心情も、大々的に流していて。

会場では、そういう事だったんだぁ、そりゃあ落ち込むよなぁ、と、呑気に串の焼肉なんかをハムハム食べたり、お酒をチョコっと飲んだりしながらもお客さん、納得して同情した。観客とは本来、割と残酷なものなので、彼の事情をどうする事もできない以上、なるほどなぁ、と酒や食事のサカナにする他はなかった。

野外で歌を聴きながらお酒に美味しい食べ物、最高であろう。

がんばれよー!とヤジが飛ぶ。そこここで。がんばってー!と女性の声も、子供の声も。


「なるほど•••怖いのかぁ。そうですね、ドゥアーさん。あなたは吟遊詩人だから、きっと今日、何とかしてこの大舞台、大勢のお客さんの前で歌えたら、これからの経験としても、良いでしょうよね。乗り越えられなかったら、この先、大勢の目がある舞台に立とうとする度に、へこたれてしまいそうになるかも。•••でも、ただの我慢で無理をして、パニックになったりはさせたくないし•••。人目が苦手だって、そりゃあるよなぁ。」


「頭が、真っ白になって、緊張しちゃって•••わ、私には、大舞台なんて。地道に小さな街でやっていくしか、ないのかな•••歌の競演会は諦めて•••。せ、生活も、このままじゃ、苦しいけど•••。」


ずーん。


ドゥアーの長い黒髪が、クシャクシャと手のひらの中で揉まれて顔擦られて、悔しくて涙がぽろん、ぽろりと震えて落ちて。

音楽で、食べていきたかったんだ。

沢山の人に、聴いてもらって。

なのに。



「そっかー緊張しちゃうんだ。笑ったら良いんじゃん?」


ルムトン副隊長が、サラッと。ふっくらお腹にちみっこ子虎エンリちゃんを抱き寄せて言った。


「わらう?」

「笑う?」

3王子もチームワイルドウルフも、パージュさんも竜樹も。

笑う?と、ニンとしているルムトン副隊長を振り返る。


「うん。俺たちも、大分舞台やテレビ、街角で、芸をしてきたけどさ。自分達もそうだし、後輩たちも見てて、緊張って、する時あんのよ?緊張しぃの芸人もいたりするし。絶対できる、っては言わないけど、キュッと締まってるより、笑った方が何か上手くいくじゃん。俺たち芸をやる前に、くだらない話とかして、アハハハ!なんて自然体に笑って出てくんだよ。ドゥアーさんは、今さ、すげぇ締まってんの。喉も気持ちも、頭ん中も身体も。締まり過ぎてるから、緩めてやんないと。」


気分変えよ!笑かそう!


「はーい!ドゥアーさんを誰が笑かせるか競争だよ!やってみたい人!!」


「はーい!」

「はーいはーい!」

「ぼく、ぼくやりたい!」

「笑かせるの、くすぐったら良いんじゃない?」


突如として、ドゥアーを笑わせろ大会が始まっちゃうのである。


「え、ええ•••。」

涙をころりと、頬に伝わせたドゥアーも、突然の展開に、呆然である。




秋、雨が降ると、キノコがいっぱい山に生えるなぁと思っちゃいます。昔とってもらって食べた、大量の山のキノコの天ぷら、美味かったなぁ!

うどんとかでモリモリ食べたい。また食べたいのですが、とってきてくれた人がもう故人なので、もう味わえないのだろうなー。

生憎の雨だけどそれも自然、山の恵み、皆さんが美味しいキノコを食べられますように。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ