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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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受け継ごう 永遠の希望を


ざわざわ、ざわ。

野外円形ステージの客席は、興奮の坩堝である。


「竜樹様が、裁きの神様と、上手くお話をおつけになった!」

「あのおにいちゃん、たすかた?」

「まだ10歳だってよ、魔道具なんかでなぁ•••。」

「竜樹様の寮に行くなら、安心だわねぇ。」


良かった、良かった!

お祭りの始まり前、会場を温めるイベントとしては、なかなかの裁きであった。

ステージでは、チームワイルドウルフと3王子達が、キャリコ少年にわちゃちゃ!と集まって、大丈夫よ大丈夫よ、寮で仲良くしようね、と迎えている。竜樹は、キャリコをしがみつかせたまま、笑ってわちゃちゃを受け止めて。


「何という真似をするのだ、ギフトの竜樹様よ!神とあのように、親しく言葉をやり取りするとは、有り難くも畏れ多い事を!私の心の臓は、一度凍ったようになったぞ!」

ファヴール教皇が、ふはー、と胸に手を当てて息を大きく吐いて。

神職である彼は、神々しいエキリーブル神様のご威光に、畏まり口など開けるものかという状態になっていたというに。


「ああ、だが。」

ふ、と元々の鋭い眼光のまま、口元がニヤッと緩む。渋いおじじいさま、素敵。•••と司会の、バラン王兄の婚約者パージュさんが、うふ、となる。

うん、浮気じゃないよ?素敵なおじじいさまは、女子の宝なんである。


「貴方らしいな。キャリコ少年は、親の代わりに、神とも交渉してくれる保護者ができて、何とも心強い事になった。」

スタ、スタ、スタ。

竜樹とキャリコに、大股で近づいて。

ファヴール教皇は、ピシッと背筋正しい腰を折り、キャリコの額に、とん、と口付けた。先行き努力が必要そうなこの少年に、老いたる先達よりの祝福である。


ふわぁ〜!!

観客席がワッと沸いて。

竜樹が、ルムトン副隊長とステュー隊長に目配せする。

舞台、進行、オネガイシマス!!


およよよよ、と慌てていたルムトン副隊長と、良かったじゃん!と涙ぐんでいたステュー隊長は、一つ、うん!と頷いて。


「さぁさぁ!皆さん!歌の競演会の前の、神乞い?ううん、裁き?まぁどっちでもいいか、とにかく、お祭り前のお盛り上げ、やんなきゃなんない事は終わったよ!」

「満々、良い結果、皆さん良かったね!心置きなく、盛り上がってゆきまっしょう!ではでは、チームワイルドウルフ達、これから国歌を歌ってくれる、王子殿下達に励ましを!あのかっこいいやつ、やってよ!尻尾のやつ!立てるやつ!!」


「「「は〜い!!!」」」


こちゃこちゃ!とチームワイルドウルフ達は、ステージの真ん中で円になる。おいでよおいでよ、と3王子も円に入れて、手を円陣の真ん中に差し出して合わせて。獣のお耳ぴるぴる、お尻尾ぶるり。


狼お耳をピンと立て、ファング王太子が、掛け声、一声、顔は興奮して頬は真っ赤に。

「パシフィストの国歌〜、素敵に歌ってね〜!笛吹いてね〜!」


すう、と息吸って。

「尻尾を立てろ!」

「「「「オオオォォ!!」」」」


「殿下たち、がんばれー!」

「「「「オオオオオゥ!!」」」」


よいしょおー、と手を一斉に下げて挙げて、わーいわーい!とぴょんぴょんする。

3王子は戸惑っていたけれど、えへ、えへ、えへへへへ、と嬉しそうに3人顔を見合わせて。


ルムトン副隊長とステュー隊長が、ぴょんぴょんしているチームワイルドウルフ達を、さぁさぁ、と取りまとめて。

「じゃあ俺たちは、また、歌の途中、休憩時間なんかにまた突撃して行きまっすね!」

「皆、客席に戻るよう!」

皆さん、また出るからね〜!しばしのお別れ〜!!


と賑やかにステージからはけてゆく。近いからステージ前の階段から客席に、直接だ。竜樹も便乗して、観客達に見られながらステージを降りた。キャリコの手を引いて。


観客席、真ん前の関係者席には、眠りの呪いを受けたタイラスが車椅子に。一家のマーブル伯爵家父ヘリオトロープ、母ミモザ夫人、弟コリブリ。家族であるタイラスを呪った少年、キャリコのお沙汰に、複雑そうな顔をしていたけれど、でも。

「•••これで良かったのよね。」

ミモザ夫人が、しゅんとしながらも、薄っすらと口端を上げる。

父のヘリオトロープも、胸に大きく息を吸って吐き、かくん、と背を丸めた。

「ああ。あんな少年の呪術だったとは、思いもよらなかった。ジャスミン嬢が、金にあかせてかなんかして、強引に裏稼業の呪術師でも頼んだのかと。正直、うちのタイラスはまだ、呪いで眠っているのにと思わない事もないけれど•••歌の競演会で、きっとミュジーク神様が解いて下さると思うし。子供の寿命を、10年も費やして、あんな無の表情をさせて、ではね。」

弟コリブリは、悔しくぎゅむ、と唇を噛んだけれども。

「竜樹様は、子供のみかた。僕の味方もして下さった。タイラスお兄様を眠らせた呪術師だって言っても、他のこを、助けないでなんて言えない•••。だけどきっと、僕の味方も、変わらずして下さる。タイラスお兄様は、無事に起きられるはずです!」

うんうん、コリブリ。

父と母にくしゃくしゃと頭を撫でられて、弟コリブリは、目を瞑って荒波に耐えた。


眠るタイラスの恋人、ポムドゥテール嬢も、タイラスへ視線を遣って心配そうだ。石化を解いたばかりで不自由な戦う、ポムドゥテールの母、寝たまま車椅子のラシーヌと。それに甲斐甲斐しく付き添って、周りの人の気持ちを思いながらもそこはかとなく嬉しそうな父、ベッシュも、大人しく粛々と競演会を待っている。


そのタイラス一家、ポムドゥテール一家とは、関係者席の端に離されて。

呪いをかける依頼を出したそもそもの主、ジャスミン嬢も手錠で戒められて女性騎士と共に。その母、セヴレ伯爵家クローザも、父ショーも、ステージを見ていて、それぞれの思いを。

「何よ何よ!狡いじゃない!呪ったあの子が、あんなにも赦されるなら、私だって•••私ばっかりこんな目に!それに、みにくくてかわいい、って何なのよ!!」

褒められているのか、いや、いない。微妙な形での、少年の歪んだ好意に、ジャスミン嬢は何だか身も捩れる程に口惜しい。あんな子に本気で素で醜いって、言われて•••惨めで•••誰にも正当に慮られないで、私が可哀想じゃないか。ガシャガシャと、手錠と鎖を揺らしながら、ジャスミン嬢は半泣きで。


「今、あなたへの評価は、あの少年よりも地に落ちているという事よ。ジャスミンちゃん。それはそうよ、悪意がない、寿命を10年も使って事を収める覚悟ありきで呪ったあの子より。歳も大きくて成人していて、なのに私欲満々で、あの子を利用して、タイラス様をも利用したあなたの罪が、重いだろう事は言うまでもないわ。あなたの性格では、難しいだろうけど、現実を受け入れなさい。そこから始まるのよ。•••それにしても、ジャスミンちゃん。あなた、惜しかったわねぇ。あの子がもう少し大人で、愛情の事も、感情を深めて分かっていてあなたを好きなんだったら、お嫁さん候補にしてもらうのに•••。彼、なかなか器の大きな子じゃなくて?」

「ああ、そうだよねクローザ。何かそこはかとなく、でっかい子の気配がするよ•••!ジャスミンを任せるには、多分普通の感覚の男性じゃダメだからなぁ。彼が大人になっても、ジャスミンをかわいいと思っていてくれたら良いんだけど。」


母クローザも、父ショーも、半べそなジャスミンを前に、惜しい!って顔。割といい性格をしている夫婦なのだ。


「!!嫌よ!あの子と私で、幾つ歳が離れてると思っているの!!あの子が成人した時は、もう私、行き遅れよ!」

カッ!と泣き怒るが、年齢の計算を即座にやって可能か判断してるとこは、なんとも女心、なのである。


うん、呪い返しが、どんなのくるか分かんないしね。その心配してた方が良いんじゃないの。

と竜樹は席に着き隣にキャリコを座らせながら思った。それぞれ、先ほどの裁きと呪いに関連した人々に、コリブリには、何とかしてやろうよね、の気持ちと、ジャスミン嬢には、何とか反省させてやれればなぁ、の気持ち。


全ての人に良きように。

大団円と竜樹は言ったが、上手くまぁるく閉じる円を、ぐるりと描けるかどうか。さあ、お立ち合い!である。


チームワイルドウルフと、ルムトン副隊長ステュー隊長、撮影スタッフも関係者席に落ち着いて。

ざわざわしている観客席に、司会のパージュさんが、コホン、とマイクに入らない咳を小さくして。

ウ、ウン、コホン。


フォン、とマイクが起動する。

パージュさん、ニッコリ!笑顔で始めよう。


「皆さん、しばし、しばし、ご静粛に。ーーーありがとうございます。それでは、準備もできてきたようです。お待ちかねのーーー第一回、歌の競演会を開催致します。」


わあああぁ!ピュウウイィ♪

指笛も賑やかに、ワッと盛り上がった会場。オーケストラピットから、シャラララン、シャラ、シャラララン♪と鈴の清らかな音。

しゅわしゅわ、と皆、静まり耳を傾けて。


「ハルサ・ソレイユ陛下、マルグリット・ソレイユ王妃殿下、ご入場です!」


パーパララーッパララー♪

ラッパが威勢良く告げる。王様、王妃様、来たり来たり。そう、国を挙げての収穫祭、感謝祭なのだから、やっぱり歌の競演会、お2人に見ていてもらわなくっちゃね!

ハルサ王様は、ニコニコと嬉しそうに手を振って出てきて、腕にはマルグリット王妃を抱いて、何とも朗らかだ。王妃様も上品に手を振って、華やかな笑顔。

お祭りだもの。和やかにゆきましょう。


ステージ真ん中で、王様のお言葉。


「本日は、歌の競演会を無事に開催でき、喜ばしく思う!一時前に、公平な裁きの御神、エキリーブル神様にもご来臨いただいて、歴史に残る感謝祭の第一日となろうか!私もこの国の王として、天から地からの恵みたるもの全てに感謝しつつ、楽しもうと思う!今歌いうる、極上の歌を捧げよう!感謝をもって祭を始めよう!」

ワァァァァァア!!ハルサ王様!おうさまー!と掛け声も波。

しばらく皆に手を振って、王様王妃様は、ステージ上の特別席へ着席する。


パージュさんは、歓声の波の山と谷を上手く乗りこなしながら、盛り上がって落ち着いての所ですかさずアナウンス。


「開会を祝って、まずはオランネージュ・ソレイユ殿下、ネクター・エトワール殿下、ニリヤ・リュンヌ殿下による、国歌のご披露です。」


おぉ。春から用意してきた国歌のお披露目。感動をもって、竜樹は。

あ、3王子達、ステージからはけて割とすぐだったけど、ちゃんと所定の入場位置につけたかな?と心配していると、観客席の後ろの方から、ワァァァァ!かわいい!おうじでんか〜!などと声が上がってきた。


シャラララン♪シャラン♪


鈴の音。


オランネージュ、ネクター、ニリヤ。

観客席の後ろの方から、とことこ、歩いて入場。キラリン、ピカピカ、と歩く場所を魔道具の光で光らせて、太陽、月、星が歩いてくるよう。

真っ白なお衣装ひらり。

ニリヤは満月のボタン、ネクターは星のボタンで留められたローブ、オランネージュは太陽の。腰くらいまでの金の縁、王子様だけれど、宙翔ける軽さをはらんだ、ゆらめく薄布。

ズボンも白、ゆったりとして、裾の広がったもの。靴は皮で作った柔らかな真っ白、紐あり。キュポ、と包むように履けて、汚れの1つも見られない。


とことこ、とこ。

シャラン♪シャララン♪

ピカピカ、キラッ


すぐ側を、ちょっと興奮したふくふくほっぺでお鼻をツンとさせて、澄まして歩いてくる、皆の、座っている観客達の、すぐ側を。

私たちの、王子様。


テレビでよく見ている、王子様を生で見る事が出来て、観客席はまた、ふわっと興奮しながらも、胸ドキドキ、拍手、3王子を迎えて。


オーケストラピットの脇、ステージへの階段を、おととと、となりながらも3人上がって、シャラン!と鈴の最後の音が鳴った時。再び、今度は本番、舞台の真ん中、オランネージュを挟んで山の形にでこぼこ、3兄弟は、ピッと姿勢を正した。ネクターは、懐のポケットから、ラプタというオカリナに似た、丸っこい笛を出して構える。


オーケストラピットのピアノ。バラン王兄が、3人を見て、視線を合わせて、うん、ではいくね、せーので。


ポロリン♪ラリラロポロリン♪



温かく 日差しを浴びて


道をゆく 我らが祖国


夜なれば 星を頼りに


輝ける 月に誓いて


目指そう 調和を


豊穣なる 大地を 海を


受け継ごううおぅ〜♪



永遠の希望を〜♪




ピロリラリロリ♪


緊張しまくっていたネクターも、指が動いたか失敗せずに響く丸い音、ポロポロと可愛らしくて。

オランネージュとニリヤの歌は、澄んで、ひねくった技術のない、ストレートな、だけどそれをやるのにちゃんと学んだ美しい少年らしい高い声で。

3人とも、堂々と。





「うけつ、ごおぉぅ とわのきぼうを〜。」


感情を僅かに取り戻したばかりのキャリコ少年は、口ずさんでいた。席に座って、ステージを眺めながら、音が、空っぽな自分の中を響いて。響いて、ゆらゆら、何だか何かを、溜めて、ゆくような。穴の底へ、溜め込まれて、まるで。


音楽がキャリコの身体を、心を、埋めて作ってゆくような。

歌を美しいと、心地よいと、思った事などなかったのに。今は。

揺蕩うような音の流れに身体を任せて。

席で、大の字になって、だらんとしているキャリコの、ビー玉の瞳に、生命の揺らぎ、星が生まれた事を。

隣で聞いて、見ていた竜樹は知った。

そして、撫でこ、とキャリコの頭を撫でると、竜樹も。


うけつーごおぉぅ♪永遠の希望を〜♪


と歌った。

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