お祭りは全力で楽しみたい
綿あめは初めての味。
シュワ、と溶ける所が、本当の雲を食べているようで、チームワイルドウルフは、美味しいねぇ美味しいねぇ、と、あっという間に食べ終わった。
「ほらほら、チームワイルドウルフ達!綿あめがどんなお味か、皆に教えてあげて?出店のお兄さんからも、お話聞いて、この収穫祭の情報を得て下さいね。はい、じゃあ、ファング殿下。」
ステュー隊長が、わちゃわちゃしている子供達をまとめて、背中に手を当てて促し、番組として成立させようと。
「!綿あめ、とっても、はかないお味がするな!お口に入れた途端に、サッと溶けて、でも甘くて、美味しい。綿あめ屋の店主、私は、綿あめのお色で、何となく味が違うように思ったのだが、合っているか?」
ペロ、と舌を上唇に出して、ファング王太子が、う〜ん、と考えている。こっくりねっとり甘かったり、ふんわり爽やかな香りがしたり、酸っぱかったりしたように、思う。食べ物の形が見えず、何味か知らないのに味を当てるのは、とても難しいのだ。
出店のお兄さんは手を止めずに、串をくるくる綿あめ絡めながら。
「合っていますよ!ピンクは桃の味、緑は緑りんご味、甘酸っぱい感じだったでしょう?黄色は、きゅんと酸っぱい小夏柑って果物ですよ!」
ヘェ〜!と皆してお口をもに、ハムムとしながら上目遣い、お味を反芻するも、淡い上品なお味は個々に違いながらもふんわりしていて、境目は混じっていたし。意識して食べてなかったので、もっと食べたい、確かめたい感じになった。言われてみれば?なのだ。
アルディ王子が。
「色は果物のお色なの?とってもきれいなお色じゃない?でも、果実水とかって、緑りんごとか緑じゃないよね?」
なかなか鋭いのである。
着色料か、などと、この世界ではまだ添加物に厳しくもなければ、咎めたりした訳でもないけれど。お兄さんは、お客さんに綿あめを渡してお金を受け取りながら、後ろめたい作り方などではないよ、とばかり、詳しく説明してくれた。
「桃味の桃色は、桃の皮の色だけを魔法で分離したものでつけているよ。緑りんご味も、皮から。黄色の小夏柑は、実が最初から黄色が濃くて、色をワザと着けなくてもそのままで綺麗なんですよ。どれも、鑑定で食べても問題ない、って出ているから、安心して食べられます。竜樹様が、食べ物に色を着けるのに、害がないものを、ってすごく良く考えて下さったからね。味はどれも、果実の汁そのものを煮詰めて、加えているよ。」
綿あめの色は淡くて、言われてみれば自然由来と思われる、けばけばしくない優しいものになっている。
子熊のカルタムが。
「あんぜん。おいちいでちゅね。たちゅきたまが、おちえてくれたでちゅか?」
と聞いて、それに補足して虎獣人の眼鏡男子アルノワも。
「竜樹様は、どうやって沢山の出店に、美味しいお菓子やお料理を教えたの?お兄さんは、どうして新しいお菓子の、綿あめをやろうと思ったんですか?」
お客さんの買うスペースをルムトンとステューが開けさせているし、テレビにチラッと映りたい!な子供や大人が、チームワイルドウルフとのやり取りの説明も聞いて惹かれて、綿あめ買い待ちをしているので、お兄さんも愛想良く返事をしてくれる。
「竜樹様は、最初、教会の子供達のお店用に色々、この収穫祭でもお料理やお菓子を考えて下さったそうなんだけど、子供達では作るのが難しいものや、数が多くて教会だけじゃ勿体無い、ってなったそうでね。お祭りは盛り上がればその方が良いよね、って、まず、新聞やテレビ、ラジオで、出店で新しいものを扱ってみたい人、って募集したんだ。」
ヘェ〜、と子供達はお目々パシパシしながら感心している。竜樹様と一緒にいたように思ってたけど、いつそんな仕事をしてたんだろう。ファング王太子とアルディ王子は、お父様とお母様もお忙しくて働き者だけど、竜樹様も何だかいっぱい働いてるな、と思った。
「新しい出店のお料理やお菓子は、街に一つずつだけ、じゃなくて、幾つか枠があって、だから綿あめも、ウチでなくて他のお店もあるよ。ただ、他のお店は、また別のお味で工夫してるから、俺は良かったらウチでも買ってみてね!って美味しい自信ある。•••応募して仕入れの伝手や、今までやってた出店がどんなか、やる気や技術、やってみたい理由なんかを竜樹様とお話して、篩にかけられて、勿論機材のお金やレシピ代も払える人、って事で、大体応募した人がそれぞれ、満足いく結果に落とし込まれた、って形だね。王都だけじゃなくて、地方都市でも、収穫祭やっているから、わざわざ遠くから転移魔法陣で教わりに来てた人もいたよ。」
「王都だけでお祭りやってるんじゃ、ないの?王都に遊びに来る人が、減っちゃわない?」
垂れ耳兎少女、ラランがちょっと心配、とつっこむ。
「いやいや!逆に、お客さんが来すぎても混乱するから!事故も起こるし!って、竜樹様が仰ってさ。今までだって地方都市でも、この時期にお祭りしてたもんね。地方の大画面広場で、歌の競演会なんかのテレビを流して、それぞれ遠出が出来ない人達も、今まで通りか、もっと盛り上がって、お祭りしてるよ。地方も潤わないと、冬支度出来ないじゃんね、って竜樹様達が考えて下さったんだ。それでも王都に遊びにや買いに来る人は毎年来るし、冬の買いだめの意味もある、転移魔法陣が出来て、他国からも人出があるし、今年は、いつもより人が多いんだから。ウチも嬉しい悲鳴だね。」
「そでつか。どちてわたあめやさんした、でつか?」
子虎のエンリが、再びの質問をする。応えている内に、おにーたアルノワのいっこの質問を忘れちゃってるのに、気づいたエンリなのである。小ちゃくても、ちゃんと聞いてるんだぞ。
「うん、俺は元々果物の串の出店を何年かやっていてさ。その話をして、今年、美味しいけどそのまんま串にはしにくい果物に伝手がある、って竜樹様と話しているうちに、段々と、それを加工して、綿あめにしたらどうかー、って感じになったの。竜樹様、すごく出店の俺たちに熱心に話を聞いてくれて話してくれてね。今までの伝統料理を少し味変化させての方がいいね、ってヒントをもらった所もあるし、あの竜樹様の事だから、とても貧窮している、けどやる気のある人には、軽い誓約をしてもらって、個人的に貸し付け制度で支援して、お店をやらせたりも、させてくれたみたい。勿論、その分、売り上げから幾らか余分に返すんだけど、やるからには無理なく儲かるように、競合しすぎて売れない事にならないように、ってすっごく親身になってくれて、敢えて王都じゃなくてわざわざ地方都市で売るようにした連中もいるし、とっても良心的だな、って皆ほくほくだよ。俺も、この綿あめ、とっても美味しく出来たから、来年はどんな味にしようか、ちょっとした催しにまた売ろうかな、なんて考えながら、凄く楽しい!よ!」
竜樹は、お祭りが全国365日、どこかでは催されている、というケとハレの国、日本が出身である。勿論お祭りは、大好きだ。
出店にはノスタルジー含め思い入れがあるし、教会にばかり新しい味が伝えられてズルい、って声も少しあった。それでも教会優先ではあるものの、パシフィストの伝統的なお味達も味わいたいが、新しい味があれば、またお祭り全体が盛り上がるだろうと、何だか張り切ってしまったのである。
お祭り、楽しいよね。
準備してるの、すごくいい。
とは彼の談である。なかなか進まない、テレビラジオの採用試験の準備の息抜きが、大々的な事になって、採用試験の準備で同じく苦労をした何でも実現バーニー君と共に、出店で食べまくろうね!•••っと現実逃避のための仕事を増やしてますます疲れた、ダメな大人2人であった。
うん、切羽詰まって試験前に逃げてするゲームって、不思議と面白くて手放しにくい、みたいなもんだろうか。
「ヘェ〜。お兄さんお話ありがとう!綿あめ美味しかったよ。皆も、良く上手にお話聞けました!この調子で頑張っていこう!それじゃあ、この出店通りを歩いて、円形野外ステージまで、目につくものをリポートしていこうか。」
「小ちゃいカルタム君、エンリちゃん、ルルン君は、特別にこの、ステュー隊長とルムトン副隊長が抱っこしてあげるから、高い位置からよく見て検証、よろしくお願いしますよ!」
はぁ〜い、と良いお返事。
ステュー隊長は子熊カルタムを、ルムトン副隊長は子虎エンリと垂れ耳子兎ルルンを、抱っこしようと手を差し伸べたが。
「あれ、やろうよ!」
「気合い、入れよう!」
「やろ、やろ!」
と何やらひそひそ。
「ん?何かやる事が?なになに、ルムトン副隊長に教えて?」
しゃがんだ大男に、子供達は、きあい、いれるーッ!と円陣を組んだ。
お客さん達が、何だ何だ?と興味深そうにしている。
ファング王太子が、手をサッと円陣の中心に出す。
皆、合わせてササッとそれにお手てを差し出して。
いくよ、とヒソソ。
「チームワイルドウルフ、がんばるぞーっ!」
「「「おー!」」」
「尻尾をたてろ!」
「「「オオオォォ〜ッ!!!」」」
ビビビ!とお尻尾を奮い立たせて。小ちゃい子まで、立派にお尻尾を震わせて立たせて、気合いが、入った!
「何それ何それ!カッコいいじゃ〜ん!」
「うおぉ、俺たちも気合い入っちゃうな!」
ステューとルムトンが褒めてくれて、チームワイルドウルフの皆は、昨日考えといて良かったぁ、てへへ、と円陣を崩して笑うのだった。
「あのさぁルムトン副隊長。」
リポートしながら、もう少しで野外円形ステージ、という所で。
眼鏡虎男子、アルノワが、ツイ、とレンズを持ち上げて位置を直しながら。
「私たち、お国で、アンファン!お仕事検証中!の番組、見てきたんだけれどね。」
「ウンウン。嬉しいなぁ、ありがとね。」
ニコニコとエンリとルルンを抱っこして、アルノワに目を向けるルムトンである。他国の子が、番組見てくれてる、って本当に嬉しい。
「アンファン!お仕事検証中!はさぁ、番組が始まる時に、お歌とかは、ないの?ニュースの時は、お歌があって、番組始まるじゃない?そういうの、あんまりなくていきなり始まるんだな、って思って。」
ああ、そういえばOPが無くて、さりげなく始まっている。
獅子男子のクリニエが、きょろ、っと目を面白そうに動かして、次いで。
「私たち、昨日、番組に出る前に色々お話してた。歌っていうなら、今日、歌の競演会なんだし、番組始まりのお歌も、もしかして、出演した歌い手の誰かに頼んで、作ってもらったら?って。記念になるし、良いと思わない?」
「ヘェ〜ッ!良いねぇ!予算の事もあるから、ちょっと偉い人に聞いてみよっか。竜樹様〜、ミュスカードディレクター、どうですかどうですか!」
ゆっくり歩きながら、こいこい、と2人を呼ぶ。聞いていた2人は、そそそ、と撮影隊の後ろから近づくと、話の輪に入って。
「良いねぇ良く見てくれてるねぇ。皆ありがとう。ミュスカードD、どうどう?」
竜樹が振れば、シャツにセーターで動きやすいカッコのやり手オジサン、竜樹と同世代のミュスカードDは、うんうん、と言葉少なに頷いた。
「歌の競演会で一番になるかどうかとは、また別に、番組のイメージに合う人を採用したいよね。皆に、それも考えて貰っちゃおう。良く皆、お歌を聞いて、誰に頼んだらいいかな、って考えててね。」
「「「は〜い!!!」」」
竜樹は、OPといえば、と考えを巡らす。歌があるなら、絵もなければ。美術大好き美術館キュレーターになった、ボンがいた肖像画工房から新しく出来た、アニメーションを作る会社に、アニメを頼むのはどうかな。賑やかに、そして、期待感満々に番組を始められる、ポップなオープニング。アニメーションの仕事始めとしても、良いじゃない?
「ねぇ、皆。お歌に合わせて、アニメを、出来たばかりのアニメーション会社に任せて、皆でこんなのが良いよ、って歌に合わせて作ってもらわない?」
「あにめ、ってなんですか?」
馬少女なシュヴァが、ポニーテールを揺らして竜樹の隣を歩く。そうだよね、見た事ないなら、アニメ知らないよね。ボクシングマンガの金字塔、あの有名な明日に向かっちゃうやつを放映した事はあるけど、あれを例に出すと、劇画調だから違うしな、と竜樹は考えて。
「可愛かったり、楽しかったりするカラフルな絵が、動いて歌に合わせて賑やかにする映像をね、作ってもらったらどうかな、って。皆で、アニメの事も今度、お勉強しに行かないかい?」
「「「いきた〜い!!」」」
ムフ、と竜樹もステューもルムトンも、なかなか良さそうだぞ、と笑う。
「ミュスカードD、予算どうですか?」
そう、何事にも予算はかかってくる。今の所、テレビの販売から何割かや、使っている魔石交換(予定)手数料、それからCMの収入で割り振られている予算は、まだ番組が多くない事もあって潤沢だけれど、だからって予算がザルではいかんよね。
ミュスカードDは、う〜ん、と考えたものの。
まるっ!
とニッコリ、手で大きな丸を作ってくれた。
「おぉ、予算もオッケー!まあ、これくらいの予算でー、とかは、大人が後で計算するとして、じゃあ今日、皆のお仕事は責任重大じゃない?お耳に、これからの番組の最初のお歌を作る、そんなのに相応しい人を、ぜひ聞き分けてもらわなくちゃ!」
ルムトン副隊長に、ステュー隊長も。
「ウンウン!作詞作曲や、アニメーション会社のお仕事も、検証中!で番組出来そうだし、楽しくなりそうだね!頼んだよ、皆!」
「「「はぁ〜い!!!」」」
そうこうしている内に、野外円形ステージの入り口へと、辿り着きました!
「さあ、じゃあ今日の歌の競演会のスタッフ達に、お仕事の話も聞きましょう。それから、国歌を歌うオランネージュ王太子殿下、ネクター殿下、ニリヤ殿下の出演前の楽屋裏も、突撃しちゃうんだよね!緊張してるかな?どうだろ?」
「オランネージュは、あんまり緊張してなさそうな気がするなぁ。」
ファング王太子は、友達付き合いも慣れて、何となく彼の感じが予想つくみたいだ。
竜樹も、オランネージュは緊張しなさそうだなぁ、と思ったが。
「ネクター、すっごく笛の練習してた。朝も、大丈夫かな、大丈夫かな、ってソワソワ言ってたよ。」
アルディ王子が心配そうに、眉をキュとさせる。
うん、ネクターは緊張しいかもしれないな。
「応援して、大丈夫だよ、って言いに行こうね。」
ステュー隊長が言って、竜樹は今朝の朝食時のニリヤを思い浮かべる。
国歌を鼻歌で歌いながら、ふんふんとご機嫌に配膳していた。
3人3様、さて、今はどんな様子なのだろうか?




