綿あめハッシ
「アンファン!お仕事検証中!」
「はーじまるよ〜!」
わわわわわ、のわ!
ボケボケ副隊長大男お腹ぽっこりルムトンと、ガミガミ隊長小男ステュー、カメラの前でドアップから、後ろ歩きでわわわと手をフリフリしつつ引いて。
引いた所は。
「はい!こちら、本日の歌の競演会会場前、出店通りの始まりでございます!」
ステューが、ささっ、と両手で指し示す通りは、賑々しく、既に食べ物や飲み物を買うお客さんが流れている。
「凄い、良い匂い。堪らないねぇ!歌も、食べ物も、楽しんじゃおう!だね!」
ルムトンが、にへへ、と笑って。目の上に手を翳して、あちこちを楽しそうに見遣る。
キノコのニンニク焼き、ごった汁、お芋の茹でたんに甘味噌バターダレ。などなど、竜樹がこんなの美味しいよ、と発表したレシピをアレンジして出した出店もあれば。
秋鳥のロースト栗の実たっぷり、や、茹で一角猪野菜のピリ辛ダレを絡めて、鉄板でちーちー焼き塩と香草、果物フレッシュ切って串に刺したやつ、など、伝統的なお祭りの食べ物も多数出ている。
「秋だからねぇ〜。」
「収穫祭、感謝祭だもんね〜。毎年美味しいお店は出るけど、今年から、歌の競演会や、お酒の品評会、織物会館の催しにね。」
「そう、古物分離再生市や、サーカスにエステ!色々3日間でやるんだよねぇ。楽しみ!」
「ねー楽しみだね。我々も、アンファン!お仕事検証中!で、3日間、子供隊員達と、お祭りの催し物のお仕事の裏側や、お得情報なんかも、お知らせしていきたいよね!」
「是非是非!はりきっていきましょう!」
ルムトンとステューは、にん!と大振り手振りで、説明をしていく。
出店通りは混んでいるけれど、そのちょうど始まりの、広くとられた一角馬車だまりのスペースを利用して、歩いているお客さんには迷惑をかけないようにやっている。
「さてそんな出店通り。こちらに集まってくれたのは〜、新たな検証チームとして、ワイルドウルフのみんな!が来てくれていま〜す。こんにちは!初めまして、俺、ルムトン副隊長です。」
「初めましてぇ、ステュー隊長ですぞ!」
「「「はじめましてぇ!」」」
獣のお耳にお尻尾な、獣人っ子チームが、ぴょんぴょん飛んでカメラに映った。ちゃんと小ちゃい子も、検証チームのお衣装のツナギも作ってもらって。ブーツに黒いベルト、胸のワッペンは検証隊のマーク、唐草に報告書と虫眼鏡が、カッコいい!女の子の、スカート付きに見える作業用の短いエプロンも、なかなか可愛いのだ。
ルムトンが、ニコニコして、背を屈ませながら。
「はい、じゃあ、自己紹介からお願いします!テレビやラジオの皆に、分かるように、お名前言ってもらいたいんです。」
「そう、今日は歌の競演会だから、ラジオでも放送してんだよね!」
「そうそう。ラジオ放送では、耳で聴いて分かるように、ツッコミ入れる担当のチャーリアナウンサー、先日失恋したばっか、って言ってました、なかなか良い青年なんだけどね。面白い顔の。」
「うんうん、って俺たちから面白い顔って言われたくないだろ。チャーリアナウンサー?」
『はーい!』
映像切り替わって、円形野外ステージの放送ブースから、チャーリアナウンサーが。大きなヘッドホンにマイクを付けて、目が大きくて眉は濃く、何となくユーモラスな大きなお口に丸い鼻。ニコニコ笑って。
『ルムトン副隊長、失恋暴露しちゃいやですよお!チャーリです、皆さん今日は、ラジオ放送よろしくお願いします!』
画面が半分ずつになって、ルムトン副隊長やワイルドウルフチーム達とチャーリが映る。
「ごめんごめん!親友だと思ってる、って言われたんだよねぇ!」
『言われましたぁ!』
タハッとなってるチャーリアナウンサーは、何だか頭をぽりぽり、むにゅんとお口が笑って、人が良さそうである。
「俺も〜、親友だと思ってるぅ!」
『ありがとうございま〜す!ルムトン副隊長〜!』
「男同士の友情で、良い番組にしていきまっしょう!じゃあラジオ、よろしくお願いしま〜す!」
『は〜い!!』
チャーリアナウンサーの映像が、しゅるんと小さくなって。また出店通り前が大きく映る。
「はーい、ラジオとテレビ、だけど皆は思った事を、テレビを見たりラジオを聞いてる皆によく伝えられるように、元気にお話してくれたら良いからね!」
「「「はーい!!!」」」
「ワイルドウルフ国では、今大人のご夫婦達は、発情期なんだってね。子供達は、お父さんお母さんが、こもっちゃって、ぼっちサミシイ、ツマンナイなんですって?でも、そんなの吹き飛ばすくらいに、楽しい番組を!ワイルドウルフの子供達にも、見てもらいましょう!では、前の放送でも出てくれた、ファング王太子殿下と、アルディ殿下から、自己紹介を順番にやっていきましょう!」
「どうぞ!」
名指しされて、ふくっ、と小鼻の膨らんだファング王太子は、狼お耳をピコピコっと左右に揺らすと。自信のある、はっきりしたお声で。
「ワイルドウルフ王太子の、ファングである。狼獣人なのだよ。前回は、チーム王子だったのだけど、母国のワイルドウルフから、友達が来てくれたんだ!私の学友と、その妹ちゃんや弟ちゃん達だ!皆さん、よろしく頼みます!」
胸に手を当てて、キチンと目礼。まだ幼なくとも端正な、王子様!って感じである。
アルディ王子も、ファング王太子お兄ちゃんの肩に、手を乗っけて尻尾ぶんぶん。
「第二王子の、アルディです。パシフィストに来てから、弱かった身体の調子が、ぐっと良いよ。いつも応援ありがとう。私も狼獣人、ファング兄様の弟です。前回、チーム王子でした!今回は、チームワイルドウルフ、がんばります!お国のみんな〜!見てる〜?!」
フリフリ!と手とお尻尾を振る、お友達いない遊んでもらえない、と暗かったのに、今はこんなにも明るくなったアルディ王子である。
「よろしくお願いします〜。はい、ではね、初めましての皆、端っこから、どうぞ!」
ルムトンに促されて。
「ルトランです!熊獣人です。頼りがいのある、皆のお兄ちゃんやれたらな、って思ってます。」
少年ながら精悍な彼は、骨太くて大きめな体格をキュ、と肩寄せて笑って、なかなか魅力的。
その隣、よちちな子熊を撫でて促す。ハッとした子熊は、慌てて。
「カルタムでちゅ。ルトランにーたまの、おとうとでちゅ。にーたまは、ちゅごいんでちゅ。テレビとラジオのみてるひと、ごきげん、うるわちゅう。」
アッシュグレーの熊耳が、くりん、と精一杯に開いて、お目々見開いて。
「クリニエです、獅子獣人だよ。お国では、力自慢です。今回、ファング王太子殿下やアルディ殿下と、ご学友のみんなと一緒にチームワイルドウルフできて、すごく嬉しいです!」
お日様色の髪が、ふわっと広がって、しっかりした身体の少年だけれど。キラッとしたお目々は遠慮がちに瞬いて、心細やかさを示している。
「アルノワです。虎獣人です。皆、頭が良いね!って言ってくれるから、何か考えるの得意かもです。発情期で、私も妹のエンリも、お家でさみしかったから、友達たちとお泊まりでパシフィストに来れて、すごく楽しいです!よろしくお願いします!」
黄金と黒の混じりっ毛に、ツイ、と上げる眼鏡は、丸くて穏やか、彼に知的な印象を与えている。今日はとっても嬉しそう、お尻尾をくねらせながら、ニコニコしている。
「エンリでつ。とらじゅーじん、でつ。おにーたの、いもおとでつ。りぽーと、したら、おとーた、おかーた、すごいね!っていってくれるでつよね!エンリはやるでつ!」
毛並みの良い、くりくりのカール。ほっぺにかかって、可愛い子虎である。昨夜はニリヤ王子と、起きちゃって竜樹によいよいされながら寝ぼけていたけど、よく寝れたみたいで、元気元気なふくふくほっぺだ。
「シュヴァです!馬獣人よ。身体を動かすの、大好き!今日は歌の競演会で、座ってジッと見てるのちょっと不安。でも、舞台裏とかとつげき!できるのよね?頑張っちゃうわ!よろしくお願いします!」
馬耳の光り輝く短毛が、艶々の焦茶。ポニーテールが爽やかな女子、右の目尻の黒子が、キリッとした中にもちょっと可愛いのである。
「ラランです。兎獣人です。垂れたお耳、邪魔じゃないの?って良く聞かれるけど、邪魔です!でも良く音を聞く時には、ピンッと立つのよ?何となく大人しく見えるみたい、だけど、結構、強気でいっちゃう、って決めてるの!意地悪とかはしないから、仲良くしてね!皆さん!」
白と茶色の、垂れ耳を一度ピンッと立てて、ペタンと降ろす。ミルクティー色の長い髪、色白で、血が透けるほど。一見儚げだけれど。ツンと吊り目が、生き生きとエネルギーを発している女子である。
「ルルン•••でしゅ。ラランおねえちゃまの、おとうとでしゅ。たれみみうさぎでしゅ。よ、よろしくおねがいしましゅ。ルルンは、おはなし、あんましとくいでないでしゅけど•••が、がんばりま。」
おっとり。訥々と、でも一生懸命に話すのがまた可愛げな、クリーム色の垂れ耳兎弟ちゃんである。その目は、パチパチと瞬いて、なかなか思慮深そうだ。
「はい、ありがとうございます。皆さん、今日は歌の競演会の、裏方さんからステージに関わる方まで、お仕事を検証したりするんだよね!」
「お得な情報もお知らせできたら。」
ルムトン副隊長とステュー隊長が、自己紹介を受けて滑らかに進行していった、その時。
ふわ、ふわ、ふわっ。
子虎のエンリちゃんの前、少し高い位置に。雲、みたいなものが、ふんわり飛んできた。
ぴょん! ったし!
飛び上がって、ペシ!と腕振って掴んだそれは頼りなく、何だかお手てがべと、とした。エンリちゃんがキョロキョロ、と周りを見れば、あったあった。ぎふとのおじちゃん、竜樹がお祭りといえばな、お菓子もあるよ、とまた情報を教えてくれた、綿あめの出店が側にある。
クルクルクルゥリ、割り箸で雲の綿あめを巻き取って、巨大な大きさにしては、お客さんに手渡し。はし、とエンリちゃんと、屋台のお兄ちゃんは、目が合った。
ニコリ。
ニパッ!
パクリ。
握った綿あめのかけらを、お口に入れればあら不思議。しゅわ、と溶けて、あまぁいのだ!
「おいち、でつ!」
ルムトンが、カックンと膝を折って手を打って。
「ッハハハダハハハ!!エンリちゃん!エンリちゃんすごいねぇ、アハ、おいしいですね、綿あめね!」
「え、え?どゆこと?」
ステュー隊長は見ていなかったのである。
「ッハハハ、エンリちゃんが、今ね。ふわふわっと飛んできた、そこの出店の綿あめを、すかさず、ハシッ!と捕まえて、モグッ!としたんだよ。さすが虎獣人、はしっこい!」
竜樹は撮影隊の後ろから、ハッシと飛んで猫系にパンチ一撃、綿あめを掴んだエンリちゃんを見ていた。
ガックリ膝から落ちて笑った。
撮影は止まらない。着々と本番中•••生放送なのである。ステューも訳を聞いて、アハハハ!と手を打って笑う。
「そりゃお得だったね!お兄さん、飛んできた綿あめは、食べても怒らないかい?」
怒らない、怒らない。
ニコニコのお兄さんは、ステュー隊長とルムトン副隊長が賑やかにフってくるのに、うんうんと返して。
「綿あめ、美味しかったでしょ、お嬢ちゃん。良かったら買ってね!」
とおすすめした。エンリは、お口をもむもむしながら、うん!おいち!とお返事した。
「あぁ、良いよ良いよ、ルムトン副隊長が買ってあげちゃう。せっかくだもんね、皆で一個を、分けて味見してみようよ。お兄さん、一個買うから、お話聞いても良いですか?」
「はい、毎度あり!もちろん、いいよ!」
お財布お財布、とマネージャーから皮袋のお財布を取り寄せて払って、ルムトン副隊長は淡い雲、ピンクとグリーン、イエローなどでグルグル巻きに巨大な綿あめを受け取る。子供隊員達の前に差し出すと、わぁ!と集ってムシリムシリ。積乱雲がすぐにお天気良い日のぽっかり雲、くらいに減っていた。
活動報告にも書きましたが、10月はもう少し更新を頑張って参りますね。秋の読書物書き月間でございます。




