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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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ジャスミンとクピド


プルプル震えるのは怒りか恐れか。

ジャスミンは唇を蒼くさせて、微笑を変えない大いなる母、クローザと対して。その内、ガックリと膝を床についた。本性から見定められて、挫折をせよと見切られて、観念したのであろう。

パパのショーが、手錠で戒められて小さく蹲った娘の背中を、優しく撫でて。

「ジャスミン。クローザお母様に委ねて、学ぶといいよ。パパやジャスミンみたいな、ついつい卑怯な事を考えちゃったり、嫉妬したり妬んだり下手な策を弄しちゃって結局失敗する、小さい器の人々はね。信用できる愛情あるクローザみたいな、大きい器の人の胸で、泳がせて貰えば良いの。•••ジャスミンの、小さい所を含めて、可愛いなぁ、と思ってくれる相手じゃなきゃ、幸せになれないんだ、ってパパは、知ってたよ。」


きっと、神様からの呪い返しがあったればこそ。地に堕ちてギャオギャオ鳴いてる鳥の雛みたいな、ちょっとハゲててキモい所を、発見して好んで掌で愛でて育ててくれる奇特な人、っていうのがね。現れると、思うんだ。

ショーは、妻クローザをポポッと見て、うんうん、と頷いた。

クローザは微笑を深めて、夫と娘を見て、一つ、頷く。


ひく、とジャスミンの口端は引き攣る。

「•••そ、そんなの嫌ヨォぉぉ!!!タイラスが良かったの!爽やかで優しくてカッコよくてまともな!私も甲斐甲斐しくて美しくて優しい、人から認められて羨ましがられる夫婦になるのぉ!!お母様みたいな、私が!私が世界を回すの!!選ぶのは、決めるのは、私なのよお!!」

稚拙であるが、飾ってはいない本心、本気の魂の叫びである。


ショーは優しい目だ。

「泣くんじゃないよ、夢をみるのも、目指すのも、良い事だけど、だけどね、ジャスミン•••。自分の本性がどんな自分か、なんて、誰も選べやしないんだからね。小さい自分を知っているのも、そんなに嫌な事ばかりじゃないんだよ。」


「ジャスミンちゃん。器が大きい人は、世界を回してるのは自分だ、なんて言わないわよ。そう思ってたとしたら、それは勘違いよ。どんなに策を練っても、世界は思い通りにいかない事だらけ、人はそれぞれ思惑があって、それが同時に変化しながら存在していて、生きて動いていて、って知っているわ。沢山の選択肢と未来を見定めて、その中の決めた幾つかを、ツンツン、と行先つついて、自分も変わっていきながら、相手も生かして、生きていけたら。くらいな感じよ。多くの出来事は、現実合わせよ。」


どんな事があっても対応できる。それは、腹に力が溜められないとダメなの。

「こんな事くらいで泣いてるようじゃあ、全くダメなのよ。」


う〜!うっ、うっ、うっ!

ジャスミンは床に伏せたまま、唸っている。そんなに直ぐに思いが変わる事はあるまい。だけれども、呪いという犯罪を犯した娘であっても、こんな風に厳しくも温かく迎えてくれる、家族がついているのだ。


ジャスミン嬢は、クローザお母様とショーパパに任せておいたら大丈夫だな、こりゃ。と。

見ていた竜樹達は思って。

護衛担当のマルサが、この場での指示を出した。


「セヴレ伯爵ショー、クローザ夫人。ジャスミン嬢の手錠は、神様の呪い返しが及ぶまで、解く事は出来ない。騎士もつけたまま、歌の競演会の会場入りをしてもらう。だが、家族が付き添う事までは、禁止はしないから、好きにすればいい。」


父と母は、胸に手を当てて深く礼をし、マルサの寛容な指示に感謝した。ジャスミン嬢は、唸ったまま。そこに伏して、竜樹達が部屋を出ても長らく、起き上がれなかった。



今日はお祭り、やる事がいっぱいある。

次は、間に合わないから2次試験、テレビとラジオの公開採用の前段階。応募者達を集めて、歌の競演会含め3日間の収穫祭を特集して放送するお仕事に密着してもらって。少し出来たらお手伝い、出来なくても見学、どんな番組作りがやりたいか見当をつけてもらうにキッカケの、学びを大いに。

参加証を手に、既に王宮の広間に集まった、採用試験応募者達は、ざわざわしながら指示待ち中。


王宮の廊下を、お助け侍従さんに先導されながら歩いてきて、広間に近づくと共にスタッフ達が竜樹を待ちかねて迎えてくれた。ちょこ、と打ち合わせして、うん、よし、と確認し合う。

ここに揃うは、竜樹に。同じく採用試験の作業を手伝ってくれた、何でも実現バーニー君。お助け侍従のタカラ、勿論護衛のマルサ王弟もいる。その他、あまり普段目立たないが、人事営業番組作成部門の長もいた。


竜樹達がいよいよ広間に入ると、その姿に気付いた者から黙ってゆき、沈黙が広がっていった。すっ、と竜樹が手を挙げる。

2、3人がしつこく話を続けて、それが残って響くと、恥じたように急にピタリ、と止まった。

お助け侍従のタカラから、マイクが渡される。

フィン、と竜樹の後ろに、大きな画面が出来る。大映しでマイク竜樹がパッと。


「おはようございます。」

『おはようございます。』


竜樹が挨拶をすると、喋りが画面に文字となって流れる。視覚聴覚その他に、障がいがある方も採用試験に応募できるから、その対応としてだ。

皆、貴族式に、ザッと胸に手を当てて礼をしてくれる。若者が多めだけれど、それなりの年齢の者もいるし、男女の比率は3対2位だ。今回は主に貴族から募集しているが、中には商家からや、全くの平民も、竜樹が知り合った推薦枠で、又は話の伝手を辿って問い合わせてだったりで、幾らかはいた。


「本日は、テレビラジオの2次試験に、急な連絡だったにも関わらずお集まりくださって、皆さん、ありがとうございます。今一度言っておきますが、試験と言ってはいるものの、この、収穫祭の3日間の放送の、お手伝いと見学に参加できなかったとしても、選考には関係しません。ただ皆さんの、今後の仕事の展望が、描きやすくなるかな。こちらも、知ってもらえば助かるな、というものであります。ですから。」


と竜樹は一度黙って、皆を見回し。


「もし、体調不良や家の都合などで、3日間全てを参加出来なかったとしても、全く問題ありません。ただ、参加者が誰で、何名いるかは把握しておきたいので•••皆さん、ご飯の用意ってものがあるのですよ。食べたいですよね?普通の方は、ご飯を、1日に何回かは、ね?俺は食べたいですよ?」


ど、ふわ、と笑いが緩く起こる。

「そう、色々と用意の都合もあるので、途中で無断では帰らずに。付いていてくれる、テレビやラジオの放送に慣れた、お助け侍従侍女さん達に、一言、詳細を伝えてから帰るなり休むなり、して下さい。特に体調が悪い人を、放っておく訳にはいきませんから、すごく悪くなる前に、報告してきて下さいね。」


うんうん、と真剣に頷く者などもいて、竜樹はフニャ、と笑った。

「さて、番組のお手伝い、って言いますけど、初心者の皆さんに、凄いことを要求したりはしませんよ?カメラのケーブルを、絡まないようにさばいて邪魔にならないとこに動かす、とか。お弁当の時に、お茶を、運んで配ってくれる、とかで良いんです。淹れられたらもっと良いけど、侍女侍従さんのお仕事みたいかな?高貴なお生まれの方も、この中にはいらっしゃるから、何でそんな事、と思うかもですね?でも、誰でも最初は、その場にいて邪魔にならない事、そして自分が出来る少しの事を、する。良く、見る。見習いって、そういうもの、ですよね?特に今日から3日間は、見学も大きな目的だから、作業に没頭してしまう感じの事は、元からお願い出来ません。お茶は、配りながらスタッフと話を出来るかも•••今働いている人と、コミュニケーションをとって、意見を少しでも聞けるきっかけになるかも。」


はわぁ、うんうん。

皆、それぞれ意欲的で素直に、竜樹の話に聞き入っている。


「人事、事務、経理、営業などなど、撮影じゃない部署希望の方も、どうかどうやって放送が出来てゆくか、よーく見ておいて。どんな仕事か知ってる事務方営業でいて欲しいのです。そしてこの3日間の放送では、あまりドラマ、物語を作るだったりとか、CMを作ったりするような事はなくて、ニュースやお祭りの特集、アンファン!お仕事検証中!なんかの、バラエティが主です。だけれども、物語を作りたい人も、撮影がどんなふうに、の基本は参考になるでしょうし。また、物語って色々な人が出て、色々な場面がありますよね?広くどんな事でも興味を持って、テレビに映る、ラジオで放送される、というカメラの目とマイクの耳をもって、見学してみて下さい。テレビ局やラジオ局を舞台の物語、だって考えられちゃうかもですしね。」


なるほど!と誰かが呟いた。竜樹へ向かう沢山の目は、新しい物事を知る興奮で、キラキラと光って頬も幾分、ほんわり赤く高揚している。


「では皆さん、質問など無ければこれから「はいっ! 」」


見事な金髪は、繊細な刺繍糸のよう。毛先だけくるんくるんと巻いている。綺麗な光沢のある、こちらでは珍しい、サテンリボンで縛った先は、背中で散らばって、豪華に光を撒いている。

ふっくらした薔薇色の頬に唇、そこに乗った、いたずらっ子じみた得意げな表情。ニンヤリと。


クピド・ライサンダー。

ライサンダー伯爵の娘だ。

竜樹は、彼女がクピドである事を、まだ知らない。応募の書類は、まだまだ普及して時が浅い、写真を添付するものではなかったから。

花街出身、今はエステ組の、いつも眠くて気怠げな所が色っぽいルーシェが。貴族の娘だった頃、落とし屋に落とされ、花街へ追放されたきっかけの一端になったお嬢様、それがクピドだ、という事は、ルーシェのおっとりした、照れ照れの家族からの手紙の報告で、知っていたけれど。


クピドが何故、ルーシェが花街へ行くきっかけになったのか。

さわわ、とクピドの周りの応募者達が、囁きで会話する。

(クピド様)

(クピド様だわ)

(庭師と仲良くなって、とある貴族家に預けられたって聞いたけど)

(何だ君、情報が古いなぁ!彼女はそこで贅沢三昧して、見放されて実家に戻されたんだよ!)

(どうしてこの応募に)

(お家の方はご存知なのかしら)


ひそ、ひそそ。


彼女は庭師と懇ろになった。いや、庭師が、「とっても可愛い彼女が出来たらなぁ。欲しいなぁ。」と同僚とたわいもない話をしていた所に通りかかって、ならばこの私が!と押し売り彼女に立候補し。とんでもない!お嬢様となんて!と、庭師が恐縮してジリジリ遠慮するのを。


「何で?あなたは可愛い彼女が欲しい。そして私は可愛い。私も、一度くらい、恋愛がしてみたかったの!身分違いの恋、素敵じゃない!?物語みたいで!これってお互い、とっても良い案ね!つべこべ言わずに、私のお相手をなさい!」

と強引に迫り、結局彼を退職させる羽目に、という、何やってんだな迷惑我儘お嬢様、クピドなのだった。退職した庭師を、知り合いの貴族のお嬢様達に経過を得意げに話しながら追いかけ回していたので、家の中だけで話が収まらなかったのだ。


その騒動で、沸いた噂を沈ませる為に。共同事業を持ちかけたクピドのライサンダー伯爵家は、彼女をエステ組ルーシェの実家、トランキール男爵領へ隔離するため、上から命令じみた強引さで。ルーシェが落とし屋に騙されたのを、そんな身持ちが悪い娘さんがいる所にウチの娘を?と睨みをきかせて花街へ切り捨てさせておいて、クピドを預けたのだが。

クピドは共同事業の初回利益を使い切るほど散財して、わがまま三昧。家も引っかきまわされて、こりゃたまらん、事業しても得がない、とライサンダー伯爵家に返されたのである。


格上のライサンダー伯爵家の娘、クピドを。領地を富ませて領民の生活の為に、娘のルーシェを切ってまで迎え入れたトランキール男爵家の側から、いりません共同事業も止めにします、と言うのは、どれだけ敷居が高かった事だろう。忸怩たる思いがあった事だろう。

それをするほど、トランキール男爵家は引っかきまわされた。

クピドの「ちょっといい案だと思うの!」に。


彼女は我儘に思えるし実際そうだが、いつも彼女なりの思惑があって行動している。

「私がトランキール男爵家で我儘して散財すれば、呆れられて話が戻されて、花街へ行った娘さんが戻るかしら?そうね!そうよ!やっぱり娘さんは家族の元に戻らなきゃ!」


(クピド様、お話してみた事があるの。決して悪いお気持ちではないのだけど•••とにかく、思いつきを行動されるのが、突拍子もないのよ!)


(私も被害に遭ったんだ。格上の家の子に虐められてさ、クピド様が庇ってくれたのは良いんだけど、正々堂々と決闘しなさいな!とか言われて。元々格上の家の奴を、利害関係もあるのに、叩ける訳ないじゃないか?結局手加減せざるを得ないし負けて、ますます増長されちゃって、それから奴隷みたいな扱いでさ。クピド様は、「まあ、勝ったなら格上の者として、格下の者には優しくして面倒をみてあげなければですわよ」って言った。その後放置だよ。無責任にさ。そんなの聞く訳ないじゃない?結局家が利害関係を解消して決別するまで、最悪な上下関係が続いてさ•••。)


ルーシェの実家は、クピドに引っかき回されて未だに経済的にも精神的にも、回復の途中。娘と、細々と繋がりを復活させ、愛の絆を、お互いの傷ごと、怖がりながらも確かめて手を伸ばし合うことを。

竜樹のお陰で、まだ、始めたばかりだ。


クピドは悪い気持ちの娘ではない。

だが、悪い。考えが浅くて、無責任なのだ。


「お手伝いをして、良いのですわよね!私が、番組により良いインタビューをして、その映像をあげてもよろしくてよ!働きますわ!!」

クピドはやる気に満ちている。恐ろしい。

私が頑張れば、テレビ番組だって、もっと賑やかに、大人気になっちゃうんだから!なのである。


あ、と竜樹は思った。

これは多分、勘違いなお嬢様だぞ、と。

彼女がクピドだと、知らないけれど。でかい口を叩く新人は、その通り有能なでっかい奴な事もあるけれど。細々とした事や地味な仕事や補助は出来ないで他人に押し付ける癖に、自分は有能で大きい仕事をするべき!と思っている面倒臭い勘違い君な事もまた、多いのである。


こういう人、たまにいるよね。

実際に仕事をして打たれて、心を入れ替えてくれる事も、あるけどネ。


と、社会人経験のある竜樹は、細目になって笑った。

後ろで、何でも実現バーニー君が、彼はクピド嬢の事を、顔もその突拍子もない性格も知っていたので、ニハハー、竜樹様どうするんだべぇ(いやバーニー君は実際には訛っちゃいないけど)と悪い顔で笑っていて。


「そこのあなた。お名前聞いてもよろしいですか?」

要注意人物は把握するべき、と名前を聞く竜樹である。


「ライサンダー伯爵家、クピドと申しますわ!」


ああ、例の。

ああ、彼女が、応募してきたクピド嬢。


ふむふむ!と納得の竜樹である。


「クピド様。」

落ち着いて、竜樹はゆっくり言い聞かせる。


「貴方は有能な方かもしれない。ここで、思いついた事を実現させて、お手伝いを、すごくしてくれてしまうのかもね?でもね。周りの対応する人達が、その手が、今日から3日間、絶対的に足りないんです。」


凄く突出した、有能な人物を生かす為に、皆の業務をめちゃくちゃにして、周りの、普通の、努力を地味に続けていられる者達を犠牲にして使い潰すか。

それとも、商会、会社と言いますね、俺のいた世界では。会社に所属している、ほぼほぼ善良な、毎日仕事を責任もってこなそうと働く社員の皆さん、みんなをそれぞれ生かして、より良い仕事をしていく為に、調整をしていくか。


「その、どちらが貴方は会社として望ましいと思いますか?」


クピド嬢は、きょとん、としたが。躊躇わない。間違えてなんて、いないのだ、自分は。


「有能な者を生かすべきですわ!だって、他に代わりがいないのですもの。」


竜樹は、目を、シパシパ、とさせて、微笑を崩さない。


「クピド様。会社は、何のために存在すると思います?」


ざわざわしていた、クピドの周りの応募者達が、問われて考え出す。

何のために?

自分が所属したい会社は、テレビ局は、ラジオ局は、何のために存在しているんだ?考えた事も無かった。


「情報を発信して、人気になって、儲かるためですわ!」

自信満々なクピド。だが、竜樹は、慈愛の瞳で、続けるのである。

「それも、重要です。何故なら、会社には従業員、皆さんがいて、お給料で生活をしていかなければならないから。儲かるのは、儲けないとね。だけど、何のために、とした時、もっと、もっと、会社がある事の意義があるんです。」


意義。

応募者達は、吸い込まれるように、地味でショボショボしたおじさんの、だけど、何故か期待を抱かせる竜樹の言葉を待っている。


「テレビ局やラジオ局が、情報を発信する事で、世の中の人の生活を、豊かにする助けとなること。知る事は、力です。知っていたら、命が助かる事さえ、あるかもしれない。天気が嵐だと、前もって知っていたら、危険な地域の人は避難ができます。犯罪、こんな手口があるよ、と知れば、注意ができます。それから、ちょっと、毎日が、明るく、楽しく、なるきっかけを運ぶ。そんなニュースや、泣ける物語、考えさせるドキュメンタリー。笑えるお笑い、バラエティで、ほっと一息。見るかどうかは、放送を受け取る人次第ですが、それを差し出して、どうぞと準備しておく。そんなお仕事です。放送に携わる、会社に勤める、という事は、社会の豊かさに、1人1人が、貢献できる、って事です。事務方だって、お掃除のおばさまだって、皆、それぞれ、役に立ってる。誇りをもって、良い仕事をする、そんな意識があって欲しい、ですけれどまた、皆さんがこの会社で、お給料をもらって、生活していける、沢山の人が会社によって生計をたてられる、そこでは結婚もあり、お金をもらって趣味の事をやれたり。仕事で自分の力を発揮して、生き生きとする人もいるでしょう。沢山の人が、会社で生きる。存在する意義が、外に向けてと、属する人に向けてと、2つあるんですね。だから、会社が。」


会社が?

胸に火を灯した応募者達は、言葉を待って。


「会社が、誰かを犠牲にするものであっては、いけないと、思いませんか?」


合わない、って事は、あるかもしれない。

だから、自分に向いた所を探したり、合わせる為に努力したりだって、あるでしょうよね。

調整は、必要だけれど。


「天才的な1人の人も生かすけれど、その為に誰かを犠牲にする会社は、いけないな、って思います、俺は。ましてや、会社のために、理想のために、身体や精神を壊してまで働くなんて事は、なしにしましょう。誰かの生命を助けるために、使命感を持って仕事する、それがあったとしてもですよ。」


幸せのために、やってるんです。

それには、あなた方も、含まれています。


「クピド様。この収穫祭を、皆が楽しもうと、それをお伝えして、助けようと、今テレビやラジオの会社で働いている者達は、責任ある仕事を、既にそれぞれ任されているんです。手が足りない。クピド様は、良い案があるとはいえ、まだ初心者ですよね。皆に補助してもらわないと、何も分からない。ですよね?」


きょとん、としたままのクピドは、つっかえながら。

「え、ええ、初心者で、す、わ。」


「今日から3日間、どうか、先輩達の仕事ぶりを、よく、よ〜く見て、新たな仕事を発生させるのは、ちょっと我慢して、勉強してみてくれませんか?何故なら、貴方は、まだテレビラジオ局の社員じゃありません。全てのことに、責任を持って、ウチの社員です!って、出来ないでしょ?まだまだこちらも貴方も、見定め中、じゃないですか?」


しょんぼりである。

せっかく、良い案で、賑やかに。

だけど。

「はい•••。」

竜樹の言葉は、逸るクピドを、何だか窮屈な、今まで考えた事もなかった気持ちにさせる。そう。

今まで駒でしかなかった、ぼんやりとした周りの人々が、くっきりと輪郭をもってクピドに迫ってくるような。

空気がいきなり濃くなったような。


「クピド様だけじゃない。皆さんに、私、竜樹は、期待をしています。きっと、それぞれを生かす仕事をしに、テレビ、ラジオ局に、来て下さる、ってね。お手伝い、見学、くれぐれも先輩のお仕事を邪魔せず、だけど、自分だったらこうしたいな、って目を耳をもって、色々と考えて、力を得て、蓄えて来てくださいね。お助け侍従侍女さんが先導致します。班分けしてありますから、これから名前をお呼びするチームに分かれて•••。」


手を挙げた侍女侍従さん達の元へ、新たな挑戦へと船を漕ぎ出す応募者達は、胸を期待に膨らませて、少し緊張もして、集まって分かれてゆく。

その中に、ルジュ侯爵家クラシャン嬢もいた。ストレート金髪で色白可憐な、娘さんである。聴覚障がいがあるから、意思を伝え聞く為の、魔道具を。竜樹発案の、相手が話した言葉を文字にする眼鏡と。自分が言いたい事を書いて読み上げ声にする、お話くんを持ち、意気揚々と。


そこかしこに、視覚障がいや、聴覚障がい、それに身体に障がいのある貴族の者達が、混ざっている。彼らはあまり外に出てこなかったけれど、竜樹のお誘いで、少しずつ外慣れしてきて、期待を満々に込めて、出て来ているのだ。

竜樹達はそれを把握していて、先導する侍従侍女さんにも伝えてあり、充分に配慮も事前に計画を練った。

後々には、軽度な知能障がいや、精神の障がいを持つ人たちも、もし働きたければ、お互い無理ない範囲で、合う仕事があったれば、働いてもらえるようになれば良いな、と皆で話し合っている。

だって、普通って言われる人だって、皆どこかしら偏っているのだし。

普通は、色々な人が、そこに存在しているのが、この世の中なのだもの。


そうして、テレビやラジオは、皆のためのものなのだから。



「あー何とかなったかなぁ。」

竜樹が、分かれてピヨピヨお助け侍従侍女さん達の後をついて行った応募者達を見送って。ふうぅ、と広間で息を吐く。

「ムフフ。クピド様のいきなりの発言でしたね。竜樹様が、どう言いくるめるのかな、って思ってましたけど。かいしゃ、に理想があって、人を生かす、って良いですね。」

うんうん、とバーニー君がニコニコしている。


「甘いのかもしれないけどねぇ。だけど、利益を吸い上げるだけのために、働けないじゃん。やる気出ないじゃん。自分も大事、だけど、自分が属する社会も大事。ってなると、一緒にいる相手だって大事って事でしょ。どっちが傷ついても、痛いに違いないんだもの。」

だから手当をしていくのだ。

皆で。それぞれのやり方で。


「クピド様も、何とかなればなー。」

「問題、起こしそうですよねぇ。でも、ちょっと、あれ?って顔してましたね。」

今まで、思い通りにしてきて、あんな事言われた事なかったでしょうねえ。


バーニー君は、人悪く、くすすす、と笑うのである。


「ああ、ねえ。多分彼女には、つっこんでくれる、同僚の厳しい女性達が足りない。」

竜樹には、先が少し、見えているようである。


「さーて、次は、アンファン!お仕事検証中!のワイルドウルフチームの撮影だね!」

「張り切ってましたね!子供達!」

にふにふ笑うバーニー君に竜樹なのだ。きっと面白い番組になる。ワイルドウルフの、発情期期間中の、サミシイ、ツマンナイ子供達に、お楽しみを!


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