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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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バトルは音楽にのって


「お前ら吟遊のやつらの歌なんか、どうせやっつけ適当その場任せの、勢い歌じゃないか!」

華やかなシャツに上着、鼻筋がすん、すらり、と通った青年貴族の歌い手が、バン!とテーブルを叩いて言えば。

そうだそうだ!わーわー!

追随する男女貴族歌い手たちが囃し立てる。


何だってぇ?!

「お貴族様は決まりきった歌しか歌えないんですよね!楽譜にないと、お手上げ!それにお高い舞台ばっかり、一体何人が歌を聴けますかね!あちこち沢山の、皆に歌を聴いてもらえる、吟遊詩人こそ歌うたいだって!神様だって認めてくれる!そうだろ、皆!」

いかにも細そうに見える若者吟遊詩人が、思いの外大きな響く声で、リュートを背に握り拳振り上げて。

ぜったいそーだ!そーだそーだ!

わあぁうぉぉおおお!


崇高なる貴族の歌い手、対するは下々の民の味方、吟遊詩人。

夕食前の寛ぎの控えの間、自由に歌を歌う者達で交流してね、の配慮が何故かこうなって、サロンはお茶菓子の置かれたテーブルも揉まれてぶつかってガタガタ、荒れ模様。


吟遊詩人達が貴族を殴ったりすれば、流石にお咎めがあるだろう。

だから盛んに罵り合ってはいるけれど、殴ったりはしていない。明日リュートを演奏したりもするのだし。

貴族側も、それを笠に着て暴力を、とはならないよう。罵る吟遊詩人の胸ぐらを、青年貴族が掴んだりしてはいるけれど、ガクガクと揺らすばかりだ。


そういうところはとても、お育ちが良いな。と駆けつけた竜樹は、感心しながらも、はふー、と頭をぐしゃぐしゃかき混ぜて、溜息をついた。


けんか!けんかだ!いっしょにいくう!とついてきた、オランネージュ、ネクター、ニリヤの3王子も、お口をへの字にしている。いやオランネージュは面白そうだけど。入り口付近で、巻き込まれないよう、護衛に守られて。


遠巻きに、おどおどしていた女の子、竜樹の半分くらいに頭がある。子供ながらにリュートを背負って一端の吟遊詩人なのだろうか、鮮やかなライムグリーン色の長い髪を編み込んでほつれ毛ホワホワ、あわ、あわ、と止めたそうに手が前に出る。


ネクターが、女の子に手を差し伸べて。

「大人のけんかに混ざったら、危ないよ。こっちに来ていたら?」

と呼んだ。

オランネージュも、ちらり、ニココ、と微笑みかけ、ニリヤはおいでおいでのお手てしている。

女の子が躊躇いながらも、王子達の所へ避難した。見計らってライム色の髪の毛を撫でこと一つ、竜樹は足を一歩前へ。



「私たち貴族の歌い手が、正統な神に認められるべき音楽家だ!」

「いーえ!いくらお貴族様の言葉でも、歌のことばっかりは譲れないね!俺たち吟遊詩人が、真の歌うたいなんだって!」

わぁわあ!ごちゃごちゃ!もみもみあい。どっちも引かない。



うん。どっちも良い歌、うたうじゃん。


竜樹は今日のリハーサルを思い出す。呪い騒動があって、全ては聴けなかったけど、それぞれに魅力的だったじゃんかよ〜。

正統な、とか、真の、とか言い出すと、揉めるに決まってるって。元祖がどっちか争いなんかも、タハッとなるよね。

喧嘩の原因なんて、当事者以外には割と、何だかなぁだったりするものだが、本当、不毛である。


主に吟遊詩人達を慮って。

近くから来た者もいるが、結構遠くから来た者も多い彼らに、歌の競演会前日、宿のお金や食事の心配をさせず、皆同じ条件で、落ち着いて休んで声を整えてもらおうと。

王宮の宿泊施設に出場者を集めているのが、ここにきて仇になったか。

貴族の歌い手も、中には遠い領地の出身の者もいる。

彼らは音楽の使徒であるから、実家は吟遊詩人達よりはもちろん豊かであろうし、特別に自宅で存分にケアしたい、と芸術家ならではの快適環境を欲するかと思えば。前日の環境の条件を同じにする、というのに、文句を言うでもなかった。


そう、ここまでは、誰も文句を言ってなかった歌の競演会。


俄かに揉めているのには、竜樹達と吟遊詩人達と、貴族の歌うたい達に、認識の違いがあってのこと。


元々は秋の収穫祭、感謝祭として、貴族も民も一緒となった、楽しいイベントとして盛り上げて、の気持ちの竜樹や吟遊詩人達だったが。


貴族の歌い手達は、今まで明確に順番など付けてはこなかったものが、この度決まるとなって、誇りをかけ今後の歌手活動をかけ、気持ちは厳しいコンクール。

緊張し、ピリピリ、イライラ。

そこにミュジーク神の祝福もかかるとあっては、尚更、優勝は譲れない!のである。


「何がきっかけで、こうなったの?」

オランネージュが、ライム髪の少女に。

お鼻はちゅんと、お口ふにゅりと大きな、ホワホワの少女は、揉め揉めの塊から目を離さず、ふしゅん、と鼻息吹いて。


「最初、吟遊詩人仲間のお兄さんが、私に。まだシトロンちゃんは子供だから、ミュジーク神様の祝福があると良いね、これから長いもんね、幸せに音楽で食べてける、って言って。」


ふん、ふん。

3王子、お目々をパチクリ。


「その時は、のんびり話してて、他の吟遊の人たちも、だねだね、もし自分たちの1人が選ばれたら、シトロンちゃんに譲っちゃっても良いくらいだよ、なんて。吟遊の人達は、皆、歌で食べてる!どこに行っても、何とかやってけるさ!って、自信あるから、祝福されたら嬉しいけど、結果にはこだわってないよね、って。」


ふん、ふん。

竜樹も一歩出た足を引っ込めて、ホワホワライム髪少女、シトロンちゃんの話を聞く。


「そうしたら。」

しゅ〜ん、とシトロンちゃんは、しおしおになるのだ。

「わた、私のお父さんが、皆に、では祝福される事になった時は、ウチのシトロンに皆さん譲ってくれる、それでいいですね?って言い出して。」


うん?

シトロンちゃんに似た、ライムがオリーブになった髪のおじさんが、ヒートアップしてわあわあ言ってるな、と目の端に。


「お父さんが無茶苦茶言うから、え〜っと、ってなった雰囲気だったんだけど、そこに、貴族の歌い手のお兄さんが。譲れるような簡単な気持ちで歌うなら、出場を辞退しろ!って。」


熱血の登場である。

いや、でも、仕方なくもあるのだ。

なんせコンクールだから。

いい順位がとれたら、今後、歌う舞台が増えるだろうし、家名に恥じない順位をとれるかどうか、自分の歌が神に通じるかどうか。彼らだって複雑で、真剣なのである。民に混じって何処でも歌える吟遊詩人達と違って、彼らはお仕事のパイの数が、狭く決まっているのだ。


「戯れ歌うたう連中は、この崇高な歌の競演会に出る、心構えがなってない、絶対祝福なんかもらえない!って。耳汚しだ!って。」


そこまで言われちゃ、吟遊詩人達だって黙っちゃいない。彼らだって、立ち位置は違えど、真実。歌が人生なのであるから。


それからは、わぁわあわあ、の揉め揉めである。


「ケンカしてたら、みゅじーくしんさま、しゅくふく、くれないかもよ?ねぇ?」

ニリヤは、ネクターと頷き合って、眉を寄せて。

オランネージュが、くふん、ニヤニヤしているので、竜樹は人差し指でツンとほっぺを突いてやり。


「そうよね、こんなケンカし合ってて、素敵な歌うたえないわよね。」

睫毛をパシパシ、お口をムニュムニュむぐりと結ぶシトロンちゃん。


あー、と一同、途方に暮れ。

なんだな。

何か罵り合いが音楽に聞こえてきた。見た事あるぞ、こういうの。


事の始末をお助けしようと、付いてきていたバーニー君が、どうしようかね、ホゲー、って感じで揉めを眺めているので、ギン!と視線を送る。カメラのミランも、タカラも、お助け侍従さんも竜樹待ちだし、護衛達は護衛対象から目を離す事はない。


「バーニー君、魔法でスクリーン出して下さい。スマホと繋げたい。」

「ほいきた。何やるんです?」


バトルはバトル。

思う存分、バトってもらいましょう。

音楽にのって。



「だからいい加減な気持ちの奴らに•••『それじゃバトル夏の陣!MC山崎とォ、対するはSUGI!』『わぁあああ!』


へ?


揉め揉めしていた塊が、頭上の大音量、ほわり光るスクリーンを、胸ぐら掴んだまま押し合いながら。はた、と見上げる。


『この試合のビート、お願いしまぅす!』

『ドゥン・ツ・トゥン ドゥン・ツ・トゥン♪パラパー・パッパッパラ♪』


3王子もお口あんぐり。

スクリーンでは、ラフな格好をした対戦者達が、ビートに乗ってドゥン・ツ・ドゥンと首を振り身体をゆすってステージをプラリ。

握手してじゃんけん、先行決めて。


『先行SUGIいってみましょうそれじゃファイっ♪』

『ドゥン・ツ・ドゥン』


『俺らのこの先空切り裂き♪現れた稲妻みろ山崎♪今夜、バトル勝つの、は俺、渋谷とどろくすげえ熱い♪』

『イェイェ♪落ちて感電電信柱♪すげえ迷惑俺んち停電♪いつも、の大口、叩く毎日、先に勝つのはこっちの方だぜ♪』


ぽか〜ん。


ドゥン・ツ・ドゥン

ビートとラップが流れる中、ニリヤが、イェ・イェ?ピョコと、お顔を揺らした。

ラップバトル。初めて見るそれに、吟遊詩人達は、思わず興奮、笑っちゃって。


スクリーンに映る動画を止めて、竜樹一声。


「音楽のバトルは、音楽で、しなさい!さて、先行は?指名しちゃうぞ、吟遊詩人チーム、MCノート!」


MCってなんだよ、とは聞き返さず、吟遊詩人の青年ひょろりのノートは、新しい音楽の形に、即興は俺らの独壇場たり、にしゃあと。

ジャカジャカジャ、ジャジャン♪

リュートを弾きながら、ステージ竜樹前に出てきた。


貴族の歌い手達は、何だかまるで不利?

竜樹様は、吟遊詩人側なのか!?とまん丸な目と目が、あんぐりお口が、物言わず竜樹を詰るが。


「貴族側歌い手達は〜、何かありものの歌で、愚か者め〜♪とか罵るやつ、あるでしょ!それを替え歌しなよ!死力を尽くして戦いたまえ!ではいくよ、ファイっ!」


パシフィスト秋の収穫祭の陣!


ええええ?!喧嘩止めないの?

お助け侍従さん達、驚愕。


文中ラップバトルがダサいのは、ひらにご容赦下さい。

( ´∀`)


いままで夜、家族のトイレに何度も付き合ってから、よく寝ないで「王子様〜」を書いていたのですが、夏の更新お休み以降は、ちゃんと健康にすぐ眠れるようになりました。

慣れたのかな。(o^^o)

物理的に書く時間が減るので、少し更新お休みが増えますけど、書きたい事ももりっとありますし、続けていけるように無理なく、なのです。

どうぞ引き続き、のんびりご都合に合わせて読んでいただけたら、嬉しく思います。

(╹◡╹)♡

やる気は失われていないぜ、のご報告でした。

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