繋がっていて
片平裕人は、竜樹との通話を、ふち、と切った。そうして、鼻息ふんふんと、興奮しながら一緒に通話のカメラ映像を覗いていた、彼女の美咲と顔を見合わせて。
「は、畠中先輩、マジ異世界いた•••!!」
「•••凄いね!凄いね裕人くん!君の先輩は、違う世界に渡って、そんでも、ちゃんとそこで馴染んで生活してるような、頼もしくてすごい人だったんだね!」
はー、と息を吐いて胸に手を当てる。美咲は、片平よりも盛り上がった位に興奮している。
『異世界にいるなんて、家族以外には言ってないんだけど、片平くんなら他の人に言いふらしたりしないでしょ?』
なんて、あっけらかんとして、畠中先輩は笑った。
それを聞いた時、向かいのソファにいた彼女の美咲が、んん!?と面白そうにこちらを、パッチリ目を見開いて見て、身を乗り出した。
片平は、慌てて。
「待って待って今、今俺、彼女と同棲しててここにいるんです、先輩に電話するの知ってて応援してくれたから、この通話も、向かいで、ああ、興味津々で聞いてるんです!」
本当か?まさか?イタズラか?いやまさか、あの畠中先輩が?異世界なんて?とあたふたする片平の横から、紹介を受けて、彼女の美咲がひょこひょこと寄ってきて顔を寄せ。
「こんにちは!初めまして、裕人くんの彼女の浜辺美咲です!畠中先輩の事は、裕人くんから良く聞きました。あの、私、少し聞いちゃったけど、遠慮した方が良いですか?何かエンタメ関係の、何かまだ発表してない異世界とかゆう場所ですか?私黙ってますんで!」
ふふふふふ、と畠中先輩は笑って。
『ビデオ通話しよう、秘密だけど秘密じゃないよ、本当に異世界にいるなんて、知った所で信じてもらえるかもわからないし。浜辺さんも、遠慮しなくて良いよ。片平くんの今を聞けば、軽々しい人じゃないって、わかるもの。』
と改めて通話をしなおして、そして。
ひこひこと、作り物じゃなさそうに動く、黒い毛の狼獣人のお耳に尻尾、アルディ王子。赤毛に先っぽが金毛なお耳は、黒狼のアルディ王子のお兄さんだというファング王太子。虎の子や、白クマの子達もいて、日本人顔じゃない子供達も、大人も、まるでコスプレな服でもあったり、わあわあとこちらに手を振って。
オランネージュ、ネクター、ニリヤという3王子も、こちらに、目をくりっとしながら。
『(〜〜〜ーーー!ーーーー。)初めまして!第一王子オランネージュです。』
『(ーーーー?ーーーーー!)竜樹のこうはいのひと?第二王子ネクターです。』
『(〜〜〜?ーーー!ーーーー。ーーーーー。)こんにちは?かたひらくん!ぼくニリヤです。だいさんおうじだよ。』
ごにゃごにゃごにゃ、と現地の言葉らしき言語に被せて、それぞれの元の少年の高い声で、不思議と日本語が聞こえてくる。
「こ、こんにちは!か、片平です•••え、え、VR•••?でもこれ、普通のビデオ通話だよね?こんな仕様、•••ある訳ないよね?」
「リアリティ凄くない•••?ええ?」
『ふふふ。夢みたいに思っててくれても良いけどね。こっちの世界で、俺、子供達を養子にして、そっちの何か良い情報を選んで、少しずつ広めながら、にぎやかに暮らしてるんだよ。王子達とも仲良しだよ。こういう風に、世界を渡ってきたひとのこと、こちらではギフトの人って呼んでいるんだ。』
何故、世界を渡ってしまうかは不明で、帰る事はできないんだって。でも俺は、充電しなくても使える不思議なスマホがあるから、家族とも連絡とれるし、まあまあ、何とかやってるよ。
「ええ、ええええ•••。」
まだ信じるに半ばの片平と美咲に、異世界にいる先輩は、ニシシシ、と笑って。
著作権幸運支払いの事を教えてくれたり、外の空を飛ぶ、郵便飛びトカゲをカメラで映して見せてくれたりした。
楽しくなってきた美咲と、驚きの中で戸惑う片平とで、異世界でも1日3食だよ、とか。魔法があって、エルフもいて、転移魔法陣があって、なんて話を楽しく聞いて。
「は、畠中先輩。ど、どうして。」
こんな、広まっちゃったら大騒ぎになりそうな秘密を、俺たちに。
話してくれるんですか?
片平と畠中先輩は、本当に、ほんの少しだけ会社で一緒にいた、限りなく細い関係を繋いできた、知り合い程度の遠い間柄にすぎない。
迂闊じゃないか。簡単に人を、信じすぎじゃないか。
俺や美咲が、もっと軽い人間で、畠中先輩の事を世の中にバラして、異世界とこちらの世界をバンバン交流させようなんてして、見せ物にし、大騒ぎにさせちゃう事だって、ありうるだろう、と。
眉を寄せて、口を尖らせて言う片平に。
『ふふふ。片平くんがそんな風に言う、って事は、こちらとそちらが安易に繋がる事に、ちゃんと危機感がある、って事だね。•••俺、SNSやなんかで、今でもそちらの人と話をして、情報を集めたり広めたりする事だって、こちらから出来るんだよ。そっちから人を招べないし、帰れないだけでね。まぁ•••まだ影響も考えて、俺もした事はないんだけど。』
そりゃそうか、スマホ使えるんだからな、と納得。でも、選んで広めてこなかったんだ。片平と美咲は、それを尊重すべきだ、と片平は思いながら言葉を待つ。
『片平くんと浜辺さんに言った、てのは。』
ぱち、ぱち、とショボショボ目が瞬く。
『俺が、嬉しかったからだね。俺、片平くんの才能を会社で持て余して、せっかくなのに相談も力も貸せずに辞めさせちゃった事、後悔していたから。でも、片平くんは、そんなの気にもしてなくて、自分で道を切り拓いて、ちゃんとやってた。それが、嬉しくて、頼もしくて、連絡してきてくれたのに、嘘や誤魔化しを、言いたくなかったんだ。』
片平は、だからって不用心過ぎる!と怒りたい気持ちと、認めて心開いてもらった嬉しい気持ちとで、心がグニャグニャになった。
「ねえ、ねえ。畠中先輩。」
美咲が、そわそわと、頬を赤らめつつ、けれども、スーッと息を吸って吐いて、落ち着こうとして。
「そちらの世界では、こちらの世界の情報を、参考にして影響を受けて、何かしらの良き発展を迎えてるのですよね?」
『そうだね。丸々その通りに、って事ではなくて、自分達なりの方法で、噛み砕いてね。』
「そうしたら。」
美咲のキラキラした興奮した瞳に、片平は、?と口を噤んで待ち。
「影響を受けて幸運を支払ってもらう、支払いの関係だけじゃなくて、こちらにも、そちらの良い所が影響を及ぼす、お互いに、なんて、素敵だと思いません?」
「美咲!!そんな•••!」
秘密を、信じて開いてくれたのに•••!
『お互いに、影響を?』
畠中先輩は、気を悪くした風もなく、子供達とダマになりながら、落ち着いて聞き返す。
「はい、勿論、畠中先輩の所に、異世界ヤッホーな人達が、興味本位で連絡を昼も夜も、なんて事にはさせませんよ!情報を何でも晒して、心も現実も、お互い荒らされる、なんて事も、できないようにしましょう。連絡先は、絶対秘密にします。きっと、魔法の力とかだって、どうやってこっちに持ってくるもんだかも分からないし、あっても、混乱しちゃうし。だから、真実ですよ、なんて言う必要ないんです。いや、真実です、って風にして、皆に遊び感覚で見てもらったら良いのかな。エンタメですよ、エンタメ。」
エンタメ。
片平と畠中先輩、2人とも、同時に同じ言葉を繰り返し。
美咲が、ニコニコと、考え考え話す。
「そちらでは、畠中先輩が窓口。そうしたら、こちらも、誰か1人が、窓口になって、エンタメとして、小説とか漫画や、異世界からのアクセスですよーなんてノリで、異世界のニュースや、生活の事や、そちらの世界の、畠中先輩の事を紹介して描いたら良いんですよ。落ちてからの経緯、なんて、単純にすっごく面白そうでしょ?」
「それをしたからって、何になるの、美咲?」
片平には、意味が不明だったけど。畠中先輩は、キラン、と目を輝かせて、ニン、と笑った。
美咲は、えへへと微笑んで。
「何になる、っていうか、まあ、異文化交流よ。何かになるから、って理由でばかり、人は関わる訳じゃないわ。でも、そちらが影響受けるだけじゃなくて、お互いに、って何だか、世界のバランスが良いと思ったの。それに、強いて言うなら、発明は、その概念からって言うじゃない?そうしたら、物語みたいな中から、将来、本当に実現しちゃう、なんて天才が、こちらの世界でも現れるかもしれない。転移魔法陣、作れる天才がこちらの現実だってあるかもしれないわよ、未来は。今の現実だって、昔の夢物語だった事が、沢山あるんだもの。」
『いや、転移は元々そっちの小説や漫画からの概念もあったんだけどね。まあ、エルフが元々持ってた魔法陣だけど。』
「そうなんですね!でもでも、そうしたら、転移魔法陣の運用に関して、例えばー、こちらでも、新幹線が止まる駅とそうでない駅で、発展具合が違うじゃないですか?そんな、異世界での工夫とか、短い旅バージョンで紹介するんだって、面白そうだし、こっちの皆の興味引くんじゃないです?」
『おはなしに、するの?ぼくたちの、ことも?』
ニリヤ王子が、ググッとお顔を近づけて、ふす!と鼻息を吹いた。
『俺も俺も!お話にしてよ!』
『おれもー!!』
おれも、わたしも!!とわあわあの異世界。
『あれあれ。まぁ皆、落ち着いて。』
子供達は、ぴょんぴょん飛び跳ねる。
『そうだなぁ•••そちらと、真実、ってテイで繋がるとして。利点は幾つかあるんだよね。例えば、病気や健康に関する知識とか、困った事を、異世界からのQです!なんて、専門の人に概念を教えてもらえたりさ。』
全部が知識使えるかって言ったら、分からないけど、困った時に助言とか、本当嬉しいと思う。
と、畠中先輩は、子供達の中の何人かを、ふっと見て言う。
『異世界Q&A、良くない?魔法や生活に関してこちらから答える事も、そっちで悪影響がないか情報を選択して、確認しながらなら、答えられるかも。』
それから、異世界が存在する、ってニュース、世界観をエンタメにして展開するなら、金銭も発生するよね。
『俺、1000年位生きるらしいんだけど、その間の弟コウキとかからのフォローを、子孫に繋ぐって考えた時、少しでも経済的にプラスがあったら、こちらへ手助けしてもらいやすいかも。•••俺はこっちの世界でそっちのお金を使えない訳だけど、短いスパンでは、俺の、マリコ母やタツヤ父に、少し生活費を足してあげられるかもな、なんても、ちょい思う。でも、一気に盛り上がって、一気に廃れたとしても、赤字が出たとしても、責任持てないし、こちらはこちらで生活をしてるから、悪影響があるなら、遮断するかも。そういうことも考えにいれておいたとして。』
「はい、はい。勿論です。」
美咲は、うんうんと頷く。
『まずは、神様に、繋がっていーい?って聞いてみないとね。それで良ければ、あとは、家族にエンタメ関係のプロがいるから、この案どう思う?具体的にどう制限、開示する?って意見を聞いてみたり。』
上手くすれば良い方法でも、扱いが悪ければ問題が起こる。当たり前だが•••ん?神様?
片平は、呆然と、かみさま、と口にして、美咲がすかさず。
「そちらの世界では、神様にお伺いがたてられるんです?」
う〜ん、と唸って上を向いた畠中先輩。
『何でもは聞けないけど、連絡、とれます。』
わぁ〜お、と片平と美咲は、もうびっくりし尽くした。足と手が、ソファからつい、うお、と上がった。
ふふふ、と笑い声。
『浜辺さん、発案者だけど、異世界エンタメのお仕事に関われるとは限らないよ?やっぱり、より良いように、こちらでも、家族とも、相談してみてだから。実際自分にトクなんてないかもしれないのに、こちらとそちらをお互いに、って言ってくれるのは、なぜ?』
なぜ返し。
ジッと横の彼女を見た片平は置いといて、美咲は、ふくっ、と若さ華やぐ頬を笑ませて、片平を見て、そしてスマホ画面に向かってニコッ。
「•••畠中先輩の話、片平くんから、たーくさん聞いたんです。もう私も知ってる人、って思えるくらい聞きました。興味本位も、実際あります。異世界の事知れたら、楽しいだろうな、って。他の世界に行きたい、って、皆、いつかどっかで、思う事あるもの。それが異世界だったら、どんなかな?!すごく面白そう、なんてね。だけど、自分でも良く分からないけど、それだけじゃなくて。もっと片平くんと、畠中先輩の話、してたいな、って、自己中ですね!•••ですね!ごめんなさい!」
はっ、ふふふ。
『続けて?』
畠中先輩は、タハッと笑い声。
「畠中先輩は、私と片平くんの、幸せのキッカケを作ってくれた人だから。本当は結婚式にも招びたいし、でも、できないし。繋がってたいな、って、思いました。異世界に、行っちゃったきりじゃなくて、こっちとも、関わっていて欲しい。うん•••やっぱり勝手ですかね。勿論、異世界のエンタメを、観させて貰えるだけで喜びます!ううん、何か助けが必要なら、頑張って手助けもします!」
1人で異世界に行ってしまった、あなたのこと、気にかけていたい。
片平くんと、大変そうなその、成り行きを、見守っていきたい。
美咲は片平の手を握った。片平は、それを受けて、躊躇って、そして。
こくん、と喉を鳴らして、照れながら。
「俺たち、先輩の異世界での困りごと、きっと助けます。ご家族もいるだろうけど、俺たちとも、この世界とも、ずっと、繋がっていて下さい。」
畠中先輩は。
『••••••ありがとう。片平くん。浜辺さん。何だか片平くん、すごく、ちゃんとした大人だよ。』
赤ちゃんや子供達を抱き寄せながら、にんにんのニッコリで。
どういう形かは、こちらで相談してからだけど、もし良かったら。
俺のこと、この異世界のこと、助けてくれる?
差し出した手に、手を。
信じて身を委ねてくれる気持ちの大きさは。
やっぱり畠中先輩は、俺よりもっと大人なんだ、って片平には思えた。




