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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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修道院の売店と電話


レゾンとバーバルは、どんけつ相撲の子供達の傍で。床にクッションを置いて座って、ポツポツ、話を続ける。



修道院では、自給自足だけれども、そんなにちょうどよく全ての品が作れる訳もないし、抑えながらも購入しなければならない物がない訳でもない。

だから、余った手作りの品々を、地元の人の手に、相応の料金で売ることもある。


ギフトの竜樹が来て情報を貰ってから、その品々は、一心に祈り真面目に作業する修道士達によって。今までの地元の皆の家で作る同じような生活のものとは少し変わって、地ビールやお菓子にジャム、細工物など、あると嬉しいけど一つの家で生活した上で作るのは大変かも、な細々としたものも作られ売られるようになったという。


修道院の入り口付近に作られた、小さな売店は、季節にあるものを売り切りで、結構人気。少し遠くからでも足を延ばして、人が来る。


そう、自爆のレゾンの、父や母も。




「ヘェ〜そうなんですか。修道院の売店が有名になったおかげで、レゾンさんのお父さんお母さんも。」


竜樹が、よちよちぽっこりお腹のラマンを抱っこして、腕の中、へこ、へこ、とどんけつお尻して得意げ、見上げてニコーッと笑いかけるのと顔を見合わせてニン、として。お手てをパシパシ、受け止めながら、修道士レゾンとバーバルに応えた。


コックリ、と沈黙のレゾンは頷き、バーバルが補足する。

「ええ。お店の売り当番が回りまして、特別事情があったり、不得意な者以外は、販売をやります。レゾンと俺の当番の時に、レゾンの父親と母親が、多分会えるかどうかと気を揉みながら、アグルムの宿をとって、修道院の売店に毎日来てたんでしょうね。レゾンに会えて嬉しそうに、でも何も言わずに、売店の品を買っていきました。」


レゾンやバーバル達修道士は、郵便が発達した事で、俗世と切り離されていた中にも、家族と連絡を取り、懐かしい交わりを確かめ合う事が出来た者も多いという。

俗世を捨てるには、それなりに理由があり。

絡んで置いてきたしがらみがあるものだが、時が経てばお互いに思う事も増えて、居ない事で、ゆるりと許しに近づく事もあるのである。


売店の事は、レゾンが父母から来た手紙に、ポロッと返事をした中にあって、一人息子を忘れられなかった2人は、ただ一目、と、いそいそやって来たのだ。


売店に来た人と話をしてはいけない事はないから、何回目かの来店時に、レゾンとバーバル、レゾンの父母は言葉を交わした。

強面を皺くちゃにした、白髪まじりの父は、レゾンが修道士になった事で、本当に騎士が嫌だったんだ、騎士団で色々な事があって、レゾンは向いてなかったんだ、そしてそれでも頑張って、レゾンなりのやり方で決着をつけたんだ、とガックリ納得していたのだという。

争い嫌いのレゾンを情けなく思っていて、自分と同じ職を、と頑なに騎士を勧めていたけれど。

ただ、ただ、息子の手を握り、俯いて、すまなかったの一言が言えずに。


レゾンは無言ながら、父の背に、母と共に手を当てて、何とも言い難い気持ち、お互い許しの時を過ごした。


「そうですか、そうですか。うん、そうですか。中には本当に俗世のしがらみから、逃げてやっとの思いの方もいらっしゃるでしょうけど。そんな方は守られながらも、少し時を置いて、残してきた人達ともやり取りができるなら、郵便の案を出したかいがありましたよ。」

竜樹が、胸元をムグムグ噛んでいるよちよちラマンの髪を撫でながら、ニコニコと笑えば。コックリ、とレゾンとバーバルは、穏やかに微笑んで、目を伏せた。

ラシーヌも、周りの皆も、そうかそうか、と微笑んで。


2人は泊まっていく事になり。明日の、歌の競演会まで観ていくと、竜樹と、ラシーヌの勧めによって決まった。

目を白黒させながら、ミュジーク神の神託について聞いては祈る、素朴な2人に、そろそろどんけつ相撲が一巡した子供達が、レゾンとバーバル、灰色の服を着た修道士のお客様に興味を持って。

パタパタと竜樹の所に集まってくる。


「ししょう、おきゃくさま、ゆってたひと?」

ニリヤが口を開くと、まん丸のお目々が幾つも、竜樹の後ろから興味津々で覗く。

「そうだよ。お話した、レゾンさんと、バーバルさんだよ。皆、こんにちは〜だね?」

「「「こんにちは〜!!」」」


「はい、こんにちは。」

レゾンとバーバルも、子供達に笑いかけながら、片方はぺコンと頭を下げ、片方は手を挙げてひらひらする。

和やかな様子に勇気を得て、段々と遠慮なく子供達が修道士達を囲み始める。


「レゾン、バーバル。修道士は、俗世のお父様と、お母様と、会えないの?」

ネクターが、眉をキュ、と寄せて聞いた。ウンウン、と子供達が、悲しげに見上げて2人の手や肩に触れて。

幼い子らの憐れみに、小さな悲しみに、2人は顔を見合わせて。


「その話をしてたんですよ、今。郵便のおかげで、レゾンは両親と連絡がとれましてね。修道院の売店で、会う事が出来ました。私の親も、代書屋で手紙を書いて、送ってくれましてね。こちらでは、穏やかに、平和に、毎日を過ごしているよと、返事も書けましたよ。」

バーバルの言葉に、眉の強張りを解いたネクター達は、2人を質問攻めにして、修道士の生活が物作りと祈りとで充実している事を知り、2人が子供達に友好的なのを感じ取って、しまいには引っ張って。


どんけつ相撲、しようよ。

おんなでも、おとこでも、かんけいない、たたかいだよ!

修道院でもめたら、皆で遊ぶといいんだよ!

わぁわあわあ。


畑仕事に荒れた手をぐいぐいと、どんけつステージに連れて行くと、口々に教えて囃して。戸惑う2人は、あっという間に台上に。


ど〜んけつ相撲だ はっけよいのドン!


へこっ


修道士になっても強そうに見える、手も足も長いバーバルに、ずんぐりなレゾンの戦いは、へこっ、ぽよんと弾力あるお尻に弾かれて、バーバルが勢いよく布団に飛んだ。

ラシーヌは、ひゅひゅひゅ、とまた笑って、そうして子供達と混ざって。照れ笑いのレゾンに、ジェムなどは、レゾンのおじちゃん、やっぱりすげえ。自爆は、おとことして、責任とったの、そんけいする。と肩をポンポン。彼なりに思う所があったようである。

だよねだよね、でもさぁ、などと盛り上がって。



そんなこんなしている時に。


ポンピラパンポン♪ピラリン♪


「あら、電話だ。珍しい。誰からだろ。」

竜樹が、わいわいの子供達に、キャイキャイの赤ちゃんラマンを放って、ズボンのポケットからスマホを出す。元いた世界の日本から、遠方の国へ引っ越したよと、親しい知り合いに連絡をして誤魔化している竜樹に電話をかけてくるのは、弟コウキか妹サチか、はたまた両親か、と思ったのだが、画面に映る名前は。


『片平裕人』


え。


懐かしい。一度電話番号を交換して、あっさりした市販の絵柄の年賀状のやり取りだけ。スマホに変えても機種変更しても、ポツリポツリと送ってくる連絡先で、かろうじて残っていた縁の、あの、会社に居場所を作ってあげられなかった後輩。


ポチ


「•••もしもし?」

話をすれば影。

一体なぜ、急に連絡をと、躊躇いながらも電話に出れば。


『もしもし?畠中先輩?』


変わらぬ、仕事できそうな、はきはきした声が、だけれど向こうも躊躇いを滲ませて、響いた。


「うん、俺だよ。畠中竜樹だよ。片平くん、久しぶりだね。電話くれるなんて、どうしたの?」

ニリヤが、ん?って顔をしてこちらに来る。お電話には、オランネージュ、ネクター、ニリヤの3王子も、サチやコウキと話したりする事で出たりもするから、気になって。


『畠中先輩。その、その、俺、ずっと、先輩に言いたかった事があって。』


「うん?なに?」


『俺、今、義肢装具士やってるんです。あれから、義肢装具士のコースのある大学に4年通いなおして、義肢製作の会社に再就職して。それから•••このごろ、やっと慣れて、まだまだだけど、自分でももっと頑張ろう、って少しずつ手応えを感じてきていて。』


ええ!へえ、ええええ。

「えー!!すごいじゃないか!すごい、すごいね!」

ああ、彼はちゃんと。


『えへへ•••。畠中先輩に、いつか、ちゃんとやってるよ、俺、ちゃんとした大人になろうとしてるよ、って。•••言いたかったんです。』


電話口の笑い声は屈託なく、嬉しさ、こそばゆさに包まれて、ふわっと対話する2人を上気させる。



片平は、竜樹と同じ会社にいる時、先輩竜樹の事を、面倒くさい先輩だなぁと思っていたらしい。


『だって先輩、会社の人達とお昼ご飯に行くって時でも、迷子や、障がいをもった人が困ってたりだとか、お爺さんお婆さんとか、そんな人達に、タタッて走り寄ってってさ。俺は後から行くからさ、なんて言って、いつも手助けしてたでしょ。俺、いつも、そんなの今用事のない、暇な、自分以外の誰かがやってくれるんじゃないの?良い人ぶって、待ち合わせとかも、面倒くさいな、手間だな、って思ってたんです。会社でも、自分の仕事以外の困りごとに、良く手助けしてたし。そんな事しなければ、さっさと自分の仕事が終わるのにな、って。』


片平の親御さんも、意地悪などはしないけど、用事があったり、忙しい時に特別人助けするタチでもなく、多分誰かが何とかするでしょ、とスルーする傾向にあった。また仕事も個人で完遂する部署の職種であったり、あまり近く人と付き合わない、そんな個性であったりした。


『親もそんなだし、俺、畠中先輩ってスマートじゃねえな、この人会社で出世しねえな、って思ってたです。』


正直な感想に、竜樹は思わず笑ってしまった。

けれど、片平に、彼女が出来た。


『すごく、美人で、それで、片足が、義足だったんです。』


あるデートの時、彼女は、竜樹みたいに、困ってる人がいれば堂々と手助けをしに行った。片平は、ええ、と面倒くさく思い、けれど、眩しい彼女に、ちょっとした心の引っかかり、何の気なしに彼女に竜樹の事を話した。


『彼女、畠中先輩は、本当のちゃんとした大人だ、って言った。そうして、片平くんは、まだまだ子供だね、って。俺、悔しかった。勿論、用事があったりして、困った人が前にいる時、必ずしも自分ばかりが助けなくちゃいけない訳じゃないって、彼女は言ったよ。それに、強要する事でもない、人と近くなきゃいけない訳じゃないって。でも。』


社会の中で、自分とそれ以外の人とを、柔らかな関わりのあるものとして受け止めて、できる事に手を貸して、生きていくこと。助けて、助けられて。

大人として、受け入れている世界が広いし、それに、いざって時、頼り甲斐がある。何か、会社のマニュアル通りじゃない事があっても、臨機応変に、受け止めてくれるんじゃないか。

通り一遍の、損得だけじゃなくて。


『それに、きっと畠中先輩が困った時は、周りの人達、誰かが、柔らかく手を貸してくれるだろう、って。そう言われてみれば、会社で困った時、いつも畠中先輩には、声をかけてくれる誰かしらが、いたな、って。俺は、自分では、そこそこできるな、なんて思ってたけど。』


いつだって、どうしようか?の、イレギュラーな困りごとがある時に呼ばれて頼りにされるのは、竜樹だった、と。

大人だ、と片平は、確かに思った。


『俺、悔しかった。悔しくて、悔しくて、それで、彼女に認めてほしくて、でも、仕事でも少し速くできるくらいなだけで、結局畠中先輩の指示待ちで。暇ができても、畠中先輩にどうにかしてくれ、って頼むばっかりで、じっとしてるだけで、全然大人じゃない。大人じゃないな、って思ったんです。』


それから、悩んで、会社を辞めて。


『俺だって、困ってる人がいたら、サッと助けられるカッコいい自分になりたかった。やってみた。失敗もしたし、相手と自分とを尊重して話すのって、難しいんだな、って初めて思った。今まで、自分がうまくやりたいばっかりで、きっと相手に色々な事がしっくりこない事でも、気づかないでいたんですね。傲慢だった。色々なバイトしたりもして、助けられて、彼女と、話も沢山してーーー。』


そうして。


『今の職場に、辿り着きました。まだまだ俺、ユーザーさんと話すのも上手くないけど、奮闘してる。ちゃんとした大人になったでしょ、って。いつか堂々としたかった。今なら、畠中先輩に電話してもいいかな、って、彼女の義足を作ったんです。その仕事を特別に任されて、思ったんです。俺、頑張ってるでしょ、って。』


片平の声は明るくて。

竜樹の口は、段々と、ニニン、と弧を描く。

人は、自然と笑うものだ。

嬉しさが、それと自覚される前に、胸高鳴り、ニッコリと。

ああ、俺たち2人とも、別々に、大人になりたくて、足掻いていたんだね。


「頑張ってる。すっごく、頑張ってるよ、片平くん!君はすごい人だって、俺、ずっと思ってたけど、やっぱりすごい人だったね。」


『えへへ。畠中先輩にそう言ってもらえて、ほんと、嬉しいです。』


ところで畠中先輩は、今もあの会社にいるんですか?


と聞かれた竜樹は、ふひゃ、と笑って応えた。


「片平くんが、波瀾万丈だったみたいに。俺の最近も、なんだかすごいんだよ。何故ってーーー。」


異世界にいて、こっちの世界の子供達と、暮らしてるんだから。


『ーーーーはぁ!?』


片平のびっくり声に、竜樹は、うくくくく、と肩を揺らして笑った。

ニリヤが、竜樹の肩に手をかけて、むむん?とお電話の行方を気にかけて、そして竜樹につられて、ニハ、と笑った。




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