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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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471/692

逃げて生きた

誤字報告ありがとうございます!

レゾンがレザンになってたです。


「ど〜んけつ相撲で、はっけよいの・ドン!」


ブフと噴いて、ニカカカカ、肩を揺らして笑っているバーニー君をそのままに、竜樹はハイハイと場を作る。ちょっとだけフカっとした、大きな木の切り株位なクッションの周りに、いつも皆が寝ているお布団をぐるり。ガードは完璧だ。

そんな簡単な用意で、さあもう準備は完了。


「じゃあ、最初に竜樹とーさと、ラフィネかーさが、やってみるね。狭いけど、クッションの上に、背中向けあって立ちます。お尻の力とバランス感覚、フェイントなんかも良いかもね!さあ、いくよ!ドン!って言ったら、様子見ながらお尻で押し合いっこだよ!」


ふむふむ。ラフィネも、さあ、とクッションの上に乗って、戦闘体制、にふふと笑って、お尻を竜樹とくっつける。

竜樹も、よーし、と拳を握ってへっぴり腰加減、お尻を左右に、ふりり!


「どーんけつ相撲だ、はっけよいの・ドン!」


へこっ。


前傾になりつつ、お尻を突き出し合って、おとととと。ドン!と勢いよくお尻で押された竜樹が、つま先立ってわたわた、あ、あ、ああぁぁぁ〜!


子供達も、アワアワ!おちるう!竜樹とーさ!キャハハ!なんて笑ってる。


どた、とお布団の上に転げ落ちて膝を突いた。辛子色スモックを揺らして、ラフィネが、ああ!と口を押さえ「竜樹様、大丈夫!?」声をかけるが、竜樹は、あはは!と笑ってお布団に両手、起き上がって髪をかきあげ、ちょっと照れ臭く頭をぽりぽりした。

「ラフィネさん強ーい!あはは、負けちゃった。こんな風にー、クッションから落ちちゃった方の人が負けです。さあ、やってみたい人〜!」


はい、はい、は〜い!!!!


立候補が沢山いて、小ちゃい子から順番に。

テレビ電話の向こうからは、アンクル地方の教会孤児院の、ぽっこりお腹の赤ちゃん、ラマンも、小さなお手てをはーいして、どんてちゅ、どんてちゅ!と言って他の子達と転移魔法陣へ、いこっ、こっ!と向かった。

どんけつ相撲やりたい子が、続々と寮の交流室に集まってくる。


小ちゃい子組の、ロンとサンで。

どんけつ相撲だ、はっけよいのドン!


へこっ


お尻を突き出し、ロンが、手を振り回して落ちる。サン、前屈みになりながら、おととと、堪えるが〜、ととっ、落ちちゃった!引き分け〜。


ニリヤ王子とネクター王子の兄弟どんけつは、ネクターの勢い尻に、ドンっとニリヤが吹っ飛んで、布団に頭からコロリ、一回転。子供って柔らかいから、そして頭が重いから、くにゃんころろと丸まって、ペタンと座って手足をお布団に投げ出したニリヤは、キョトンとしていたが。一瞬置いて、キャハハハ!とお口を大きく開けて笑った。

ネクターは心配して降りて肩に手を掛けたが、その手を握って、おもしろーい!!とばんざーいである。


「アハ!」

「あははは!!」


大きい子組のジェムとアガットのどんけつは、お互いにタイミングが、へこっ、へこっ、とズレて、中々決着がつかなかったが、いつも大人しいアガットの猛攻尻があり、ジェムは、わたた!と落っこちた。周りのお布団にダイブ。

ワイルドウルフ勢の戦いも、またバランスが良くて。お尻尾ピルピル、ファング王太子とアルディ王子の戦いは、へこっとアルディが落ちそうになり、尻尾でファングのお尻尾にしがみつき、おっとと、でも、でも、あぁぁ〜!と2人して落ちる!なんてことも。

貴族の女子、マテリアちゃんと、オランネージュ王子の対決もなかなかで、遠慮し合って、ちょい、ちょちょい、と弱くお尻を出し合っていたが。負けるなー、がんばれー!の男女応援に、よしっ、と2人、せーので、どん!結局2人、おっきく吹っ飛んで引き分け。笑いながらオランネージュは、お布団からマテリアちゃんを助け起こした。


チーム荒野の、視力に障がいのあるプレイヤードと、アミューズも、さわさわ、と自分が立てるクッションの範囲と、落ちた時のお布団との段差を確かめたら、後は何とも大胆。グーの手握って、どん!と押せ押せ、プレイヤードが押し勝って、アミューズがとっとっと、と落ちた。


同じくチーム荒野のモデル体型のピティエと、それより大分背の低い、足での歩き練習中のエフォールも、尻の位置がたがい違いになりつつ、どん!何故だか押しながら2人、ぐるぐる回って、結局ピティエが落ちた。エフォールは、やったね!の拳突き上げ。


元王女のシエルとエクレの姉妹対決は、大人しめの姉、エクレの勝ち。

エルフのお助けお姉さんマレと、ベルジュお兄さんとのエルフ対決は、マレお姉さんの勝ち。


お布団ふかふか、落ちても笑ってる皆に、マヌケな戦いに、子供達も竜樹もラフィネも、マルサと護衛達も、カメラのミランとお助け侍従タカラも、バーニー君も、お世話人エルフ達も、元王女エクレとシエルも、レザン父ちゃんもエタニテ母ちゃんも来て、手を打って笑った。

ポムドゥテール一家も、タイラス一家も、涙を流しながら大笑いである。


ぽっこりお腹の赤ちゃんラマンが、ちっちゃくて大きいそのお尻で、よちよち、えい!えい!へこ、へこ!と皆の真似をして、少しお姉ちゃんのジゥと戦い。おっとっと、と、待ち構えてる竜樹とーさの腕の中、クッションから落ちて抱っこ、その拍子に。


「キャハハハ!どんてちゅ!ちっこ!でちゃ!」

満面の笑みである。


「んん!?ちっこでた!?あらららら。大変だ大変だ!」

竜樹が、まだ出る?出ない?なんて聞きながら、未使用のおしめを取って、あわーと交流室の隅っこで取っ替えをしている間に、ポムドゥテール嬢とお助け侍従のタカラが戦ったりして。ポムドゥテールのこれ以上ない真剣な表情、そしてへっぴり腰に拳を握って、が、またこのぬけた戦いに笑いを呼んで、皆してお腹抱えて。


かす、かす。


ひゅ、ひゅ、ひゅ、ひゅひゅ。


喉から空気が、ひゅひゅ、と漏れる。おかしくって。ああ。


ラシーヌは、涙を滲ませながら、車椅子の上、動かない四肢、出ない声で、でも腹の底から、ひゅ、ひゅ、ひゅ、と愉快に笑った。苦しいくらいに。




その時、交流室の入り口に、おずおずと。

灰色の修道服が、2人。

黒のファヴール教皇が、ピシリとした背を肩を、ふふふと笑いに揺らしながら、灰色の2人をさあ、さあと背中を押して。

修道士のレゾンとバーバルは、一体何をやってる所•••?とハテナになっていたが、車椅子の、昔馴染みの、忘れられない、ああ、ラシーヌを目に、ハッと。


「ラシーヌ•••?い、生きて。本当に石化が治って•••?!わ、笑ってるのか?」


ずんぐりと、のっぽ。ラシーヌの石化に関係した2人、自爆のレゾンと魔道具おっつけバーバルが、お口を開けてあんぐりと、呆然と。笑う子供や女性達などに目もくれず、吸い込まれるように、笑うラシーヌから目が離せずに。


さあ、とファヴール教皇が、竜樹に目配せをして、ラシーヌの元へ2人を連れて行く。背中に手を当て、まごまごしている修道士達を、昔の因縁と引き合わせ。

ラシーヌの夫の、ベッシュが、穏やかな顔で目礼する。


「お久しぶりですね。レゾンさん、バーバルさん。」

2人は無言で、胸に手を当て、ぺこりと礼をした。


竜樹がラマンを、よいっと抱っこしながら。

「お2人を連れて来て下さって、ファヴール教皇様、ありがとうございます!」

ベッシュもポムドゥテールも、そして動けないが目で語るラシーヌも。

「「ありがとう存じます。」」

頭を、瞼を下げた。


「いやいや。転移魔法陣を試したかったものでね。あっという間にアグルムの修道院まで行けた!教会としても、都市や地方同士の連携が素早くなろうもの。良き機会であったよ。さあ、それより、懐かしい顔を合わせ、レゾン修道士、バーバル修道士、存分に語りなさい。また出会えた幸いが、ここにあるのだからね。」


鋭い眼光なのに、ファヴール教皇は機嫌良く、言葉でも2人を押した。


何を言おうか。

いや、自爆のレゾンは誓願で話せないし、ラシーヌも今までの石化の影響で話せない。そしてバーバルは、もじもじして、レゾンとラシーヌを、交互に見ては困っている。

何を言えば。

傷ついたラシーヌに、傷をつけ落とし前をつけた、レゾンとバーバルが。


ベッシュが、子供達のどんけつお遊びの喧騒に負けない、困った沈黙に、そっと話し出す。

「先程、ラシーヌは、竜樹様達に、病原菌を浄化してもらって、目覚めた所なんですよ。ラシーヌ、お2人に話したい事が、あるかい?」


ぱちん。


ベッシュが文字板を持って、瞬きで、ラシーヌはポツポツと、話す。


れ ぞ ん

ば ー ば る

あ え た な


眼差しが笑んでいる。

修道士の2人は、眩しいものを見るかのように、目をパチパチした。


レゾンは喋れないから、バーバルが、主に話す。

「ラシーヌ•••俺たちのせいで、長い事、すまなかったな。目覚めてくれて、本当に、嬉しい。しかし、なんて、その、何言ってもさ。」

うん、うん、とレゾンも頷く。

「俺たちが、何を言っても、言い訳になっちまう。ただ、ただ、石化の、治療が叶う事、良かったと。」

手を2人修道士は、胸の前で組んで、そっと幸いを祈った。


ひゅ


笑う。笑うラシーヌ。


れ ぞ ん

に げ た ん だ ろ

き し だ ん か ら


バーバルが、バッとレゾンを見る。

レゾンは、ムニュムニュ、と口を複雑な形に、何か言いたそうに動かすと、焦って、手をふわ、ふわ、と書く真似をした。辛子色スモック揺らして、タタッとラフィネが、紙と鉛筆を持ってくる。


『ラシーヌさん。

良く分かったね。

確かに、私は、逃げました。

騎士団から。合わない仕事から。

私を揶揄って、いじるばっかりの、同僚から。

将来を選ばせてくれない両親から。

モテなくて、望みのなさそうな、結婚から。

•••その言い訳に、ラシーヌさんを使ったようになって、ごめんなさい。』


ラシーヌは、目に涙を滲ませて。

ひゅ ひゅ とまた、笑った。


れ ぞ ん

に げ て も

い い ん だ


に げ ら れ て

よ か っ た


い ま

し あ わ せ か ?


むぐぐ、とレゾンの口は山なりになって、じわり、目に涙が。

かしかし、と鉛筆が走る。


『今の生活は、穏やかで。

ラシーヌさんの事を後悔すること以外は、小さな満ち足りた幸せが、沢山あって。

畑仕事に、手仕事。

競わない、乱暴な事のない、ものをつくる、毎日。

地元の人に、食べる分以外の、ジャムを売ったり。緩やかな、人とのつながり。

私が欲しかった、生活は、これだって、思って。

皆が、欲しがらなくちゃダメだ、って言ってたものは、私は、何一つ、欲しくなくて。


とても、とても。

幸せです。』


ひゅ ひゅ

ラシーヌが、笑って、固まった指先を、ピクリ、ピクリと動かす。

娘のポムドゥテールは、ラシーヌのしたい事が分かったから、手を取って、固まった腕を、レゾンの方へと伸ばさせてやった。

レゾンが、躊躇いながら、それを握る。


じわり、体温が、交差する。



よ か っ た


わ た し は

き っ と

な お る と お も う


だ か ら

わ た し を

だ し に

に げ た こ と は


ゆ る し て や る よ


グニュグニュ、と口を噤んだレゾンは、顔をクシャッと歪ませて、バッと紙と鉛筆を握った片手で目の上を覆った。震える肩、ふくふくの頬、灰色の修道服の胸に、ぽたり、涙が落ちてシミになる。ふっ、ふっ、と、声にならない吐息。

それを見ていたバーバル修道士が、スーッ、と息を吸って、ハーッと吐き。

ニッコリ、と笑った。


ば ー ば る も

ゆ る し て や る よ

も う

つ ぐ な う な


げ ん ぞ く

し た い か ?


ラシーヌの問いに、バーバルは、笑ったまま、ふるふる、と顔を振った。

「俺も修道院で歳をとっちまったよ。今更、俗世で、何をしようってんだ。レゾンからは、逃げただけだってちゃんと言われてたけど、俺が、嫌になっちまったんだ。•••俺も、逃げたのかもな。あの、グダグダになった騎士団を、男女共に誇りをもって働けるようにする、そんな、仕事から。」


あそこに残った同僚たちは、今じゃちゃんと、レゾンとラシーヌの望みを叶えているのだろ。娘ちゃんの、ポムドゥテール嬢が、問題なく仕事できるほどに。


「俺にゃ出来なかった。不甲斐ない自分の、罪を自覚しながらそこにいる、腹に力を溜めてひっくり返す、それが出来なかった。•••ラシーヌ、ごめんな。何も出来ないで、ただ、祈るばかりで、俺も、穏やかに、幸せに暮らしていたんだよ。」

バーバルは、しゅん、と萎れて告白する。

誰もが強い訳じゃない。屈強な男が、負い目を持ったまま心戦えるかどうかなんて。そして、レゾンの口の代わりとなったバーバルが、修道士になった事、それがある意味逃げだとしても、ラシーヌ以外、誰がそれを咎められるだろうか。

生きるために逃げる事を、誰が。


い い よ


ぎ ふ と の

た つ き さ ま が

だ い だ ん え ん に

す る と い っ た


わ た し も

そ れ が い い と

お も っ た


わ た し た ち は

も う

じ ゅ う ぶ ん

く る し ん だ


れ ぞ ん

ば ー ば る


の ぞ む ま ま に

こ こ ろ は れ て

い き て


わ た し は

た た か う

き っ と

う ご け る よ う に

な っ て み せ る


ニッ、と笑った目元に、レゾンもバーバルも、震え、涙を。飲み込む嗚咽を。


「レゾンさんも、バーバルさんも、良かったらこの寮に泊まってって下さい。懐かしいラシーヌさんと、積もる話もあるでしょう。お二人が、普段、修道院でどんな工夫をして、どんな暮らしをしているか、私も興味がありますよ。自給自足なのでしょう?ポムドゥテール嬢から、今の騎士団のお話も、聞きましょうよ。」

ニッコリした竜樹が、肩を震わす2人に、赤ちゃんラマンを抱っこしながら言葉をかける。

「ファヴール教皇も、お急ぎでなければ、夕飯を召し上がっていってくださいな。子供達も喜びますから。」


「うむ、喜んでご一緒しよう。」


ファヴール教皇が、まとわりつく子供達を腹に抱きながら、ニヤッと応えた。




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