若き竜樹の失敗
交流室で、竜樹は子供達と、タイラス、ポムドゥテール一家とお話し中。
自爆のレゾンの話をキッカケに、遊びながら雑談。
テレビ電話で、他の地方の教会孤児院の子供達も、自由に聞いたり遊んでいたりする、ゆるっとした時間である。
「レゾンさんが、どんな気持ちで修道士になったかは、聞いてみなけりゃわからないけど、皆はどうやったらラシーヌさんが石化にならなかった、レゾンさんが自爆しなくて済んだと思う?」
そうなのだ。
肝心なのは、事が起きてから対処するのではなく、キッカケがあれば、誰かたった1人でも、「あ、女性騎士でも同じに誇りをもって、働いてるのだな。」と認めて、それを広めていくアイデアを考える事。
事件など起きなくても、そうして、だからこその急激な変化を齎す事がなかったとしても、代々の女性騎士と男性騎士とで、時間をかけて工夫し合って、で良いじゃないか。事件で人を損なうより、皆で苦労を、分け合って、作っていけばいい。そうして、その時間が、お互い分かり合えるという、理解を深める時間になってゆくのだから。
「んーと、ラシーヌおかあさまが、みんなと、ちからじまんしたら、よかった?つよいね!ってなったら、なかよくしごとできたかも!」
ニリヤが考え考え言う。
「力自慢?皆と?そうかもね、ちゃんと、試合やなんかで戦い合って、力を認めさせる!ってのも、あって良かったかもしれないね。舐めんなよ!同じに働けるんだぞ!ってね。」
竜樹が頷いて補足すると、子供達はわあわあと考えを喋り出した。
「つよくないときし、できない?」
ロンがお口に指をグニグニさせながら、考えている。
「すばしっこかったら、にげられるかもじゃんね!」
サンが、思いついた!って感じに言う。
「にげたら、だめよ。とうばつ?するんだよ。」
セリューがお手てをとんとん、とサンの肩に。小ちゃい子組の3人も頭を捻る。
竜樹が受けて、考えを深める。
「女の人の方が軽い事が多いから、もしかして素早かったりするかなあ。魔獣討伐だけど、素早くて怪我しない人が攻撃してくれたり、補助してくれたら、助かるかもだよねえ。強さにも色々あるよね。重くて、何がきても、動かないぞ!弾いちゃう!って人や、剣捌きが、すごく上手い人とか。助け合って戦ってもいいのに、何で女の人だめ?」
「何でかなあ〜???」
「なかよくしないの、いけないじゃない?」
ニリヤも腕組みして、ふんふんと。
ネクターが、首を捻りつつ。
「仲良くだよねえ。それと、少しは強くないと、魔獣と戦えないよねえ。認めさせる?馴染ませる?女の人の仕事を、勝手に決めつけない?どうだろ。ワイルドウルフでは、男と女の強さってどうなっているの?」
ファング王太子に水を向ける。
「ワイルドウルフでは、妻の方が強い、ってこと、結構あるのだ。獣人の種族が、混ざり合うとき、夫が栗鼠獣人で、妻が獅子獣人だったりする時もあるし。だから、ウチでは、男女で力を弱くみたりってことは少ないな。その代わり、種族同士で、弱チン、とか、力任せ!とかって悪口言う事は、あるな。」
狼お尻尾をふりふりさせながら、腕組み指をとんとん、いけないな!って風に唸る。
弟のアルディ王子が、黒い狼耳を、はたっと倒して、そうなの?と肩に手を置いている。彼は病気があったから、人と離れて育っていて、世に疎いのである。
ワイルドウルフ勢は、虎女子気が強いって言ったりする、とか、兎女子も結構強かだって、蹴りが。と頷き合う。
「人だと、男が女を殴ったらサイテーっていうじゃん。それって、やっぱ、沢山の男は、大体女より身体が大きくて強いからじゃん。」
「うーん?でもラフィネかーさ、竜樹とーさよりおっきいよ。」
竜樹は人種的特徴と、元々の世界で国でも大きくなかった事もあって、ラフィネより背が低い。
ジェムチームのサージュが、ふーむ、と考えながら。
「竜樹とーさはそうだけどさ、街の男どもは大きめあんばいじゃん。洗濯屋のおねえちゃんが言ってたけど、弟がいるけど、男は骨が太いから、ふざけてでも腕とかぐいっておされたりすると、痛いって。そういうのあるから、女守ろうってなるじゃん。」
ラフィネが微笑みながら。
「あら、じゃあ、ラシーヌさんは、やっぱりお家で大人しくしてたら良かった、騎士をやりたいのに、諦めたら良かった、って思う?」
投げかける。
うーん、と考える子供達である。
「それは、なんかちがうくおもう。」
「騎士、だめくない。」
そうよねっ!とチーム女子のマテリアちゃんや、テレビ電話の向こうの女子、元王女エクレにシエル、エルフ世話人の女子達もウンウンである。
「えー、でも、おかあさ、病気なったら、かなしいよ。」
「だよねー。」
「とーさも病気やだけどさー。」
「「「だよねー!!」」」
「おかーさに、ごはんとか、やさしくしてほしいもん。」
「それは騎士でもできるだろ?」
「男も家事だぜ?」
竜樹やラフィネ、お助けエルフや司祭達の薫陶で、子供達は家事に忌避感がない。
子供達の話し合いに、当事者だったラシーヌは、車椅子に寝ながら、何だかほんのり微笑んでいる。その時は、そのようにしか出来なかったけれど、ああしていれば、こうしていれば、と思ったのは確かである。
もっと受け入れられるようにするには、どうしたら良かったのか?
子供達が考えてくれるのが、嬉しいのだ。
「ラシーヌお母様が、男騎士と戦って勝ったとしても、変わらなかったんじゃないかなあ。騎士団にはいるのに、試験は受けた訳じゃん。実力があるのは、知ってたのじゃない?お話でも、守るべき女性なのに、子供もいるのに、実力があって、うに〜?って分かんなくなっちゃった、みたいな風じゃなかった?それって、女の癖に!って、嫉妬もあったんじゃない?」
オランネージュが、なかなかの考察をしてくる。
「女の癖に、って、何か割と聞くー。」
「お姉ちゃん達に嫌われてる感じの、何か勝手な男衆らはよく言うよね。」
「でもさあ、俺らも男の癖に、って言われたくねーよなー。」
ジェム達も、ふーむ。
「エルフはどうなの?マレ姉ちゃん。」
寮のお助け世話人エルフのマレお姉さんは、眼鏡をつ、と鼻の上で上げて。
「エルフは男女の力の差はあまりないので、男が女が、ってあまり言いませんねえ。成人するまで、同じ性ですしね。ベルジュも、男ですけど、ここでお世話人エルフしているでしょう?なりたくても、仕事の条件や何か、力及ばずでなれない、って事はあるにしろ、なりたいものに、なれば良いですよね。男も、女も。」
ダヨネ。
うんうん、と意見の一致をみる子供達なのだ。
「しっとを、どうにかすればいいかなあ?」
「みんなが、ワイルドウルフとか、エルフとか、こうだよー、ってもっとしってたら、そうかあーって、なるかも?」
ふんふん。
竜樹はなるほどねー、と聞きつつ。
「あのね。もうひとつ。嫉妬も、確かにあるだろうけど、居場所を、奪われる!ってのも、あるんじゃないかな。」
「いばしょ、うばわれる?りょうのばしょ、うばわれるのは、やだよ!」
小ちゃい子組のロンが、フンス!と鼻息。
ジェムは、何となく、あ、って感じに口を開けている。
ふふふ、と竜樹はロンの頭を撫でてやりつつ。
「俺がね、元の世界で働いてた時、俺もその、商会に入って2年目でさ、そんなに沢山の事を知ってる訳でもないのに、新しく後輩が入ってきたの。お仕事ができる、気の利く子でねえ。どんどん仕事やっちゃう。あー、俺、先輩として、立場ないじゃんね、って、比べて情けなく思ったんだな。暇になったから仕事何か下さい、って言われたりしてさ、でも、今自分がやってる仕事あげちゃったら、今度は俺が暇になっちゃう。何をすれば良いの?俺、この商会にいる意味ある?ってね。辞めさせられたら、お給料貰えない、ってのもあるけど。そこにいて良いよ、ってのが無くなるのって、凄く、こう、不安なんだよ。」
あんぐり、とお口を開けた子供達は、それでそれで?とお話をせがむ。
「竜樹とーさ、その後輩いじめたの?」
「やめさせた?」
まさか、と小さな心達は、きゅむきゅむとする。
ううん、と竜樹は後悔の滲む顔で。
「虐めなかったけど、どうして良いか分からなくて、お仕事は自分のを、あげたりあげなかったりしたな。同じ場所で働く人たちで、仕事をどう、ちょうど良く、上手く回していくか、って難しいんだよ。仕事を作ったり、多すぎたら減らすために工夫したり。後輩は、居場所を俺と争う感じになって、それで、何か有耶無耶な内に、この商会やめますー、ってやめちゃった。」
きっと、あの後輩を生かす事が出来なかった俺も、商会も、ソンしたんだよねえ。
あー、と声の落ちる子供達である。
「もっと上司に相談すれば良かったなあ、沢山人に頼って、どうしよう、どうしたら良い?って聞いて、彼の居場所を、ここで働けて嬉しい!って、商会も、良い人が来て助かる!って、なれば良かった。もし、そこまでやっても彼が生きないなら、彼と相談して、まあ辞める事になったにしろ、もっと良い条件で辞められるように、次は良い所へ行けるように、助けになったら良かったよね。きっと、彼は社会に対して、嫌な気持ちを持ったと思う。彼の寂しそうで、でも吹っ切れた笑顔でのさよなら、忘れない。こういうの、失敗して、ずっと後悔すること。覚えてて、次はしない、って頑張る事だね。」
「で、でもさ。それ、新しく入ってきたのに、やりすぎじゃん!でしゃばり、ってのじゃん?俺たちだって、稼ぎすぎたら、痛い目に遭わされたぜ?」
ジェムは世の中の厳しさを説く。俺らの竜樹とーさが、嫌な人だったらいやだ。味方をしたい気持ちなのだ。自分がその時、なんで!?って思った気持ちと混ざって、むぎゅりとなる。
「うん。彼はやり過ぎたかも。そうも言える。馴染むために、真っ直ぐだけじゃなく、人との調和で、出来ないふりで助けてもらいもしながら、少しはソンをしながら、トクもして、上手くやっていく。そういう考え方もある。だけど、能力のある人を、伸び伸び働かせてあげられなかった、っていう、俺や上司、商会の力不足もある。竜樹とーさだって、失敗はするよ。むしろ沢山失敗してきた。余裕も力も、その頃、足りなかったんだな。男とか女とか、できるできない、とか、居場所取り合い、とか、色々あるね。自分の中のしっとに力不足、どうすれば良いかねえ、って、竜樹とーさは、そりゃあ結構考えた。」
ふんふん。子供達は真剣である。
「答えは。」
「「「こたえは?」」」
「答えは、一個じゃないね。たーくさん、ありすぎて、やれる事が、いっぱいあるよ。」
たーくさん、で竜樹は、腕を振り上げて、まるっ、とした。
「俺が、商会が、上司が、もっと力を、余裕をつける。話を広げて、他の、人が足りない違う部署に後輩を貸し出しちゃう!とかだって、相談すれば出来たよね。後輩は、居場所取らないよ、だけどお仕事もっとできるよ、って俺と腹を割って話すでも良い。2人で上司に、もっと仕事下さい!って言ったり、それでもなければ、自分達で仕事を作る!何か工夫をしたってよかった。後輩は、商会を半分に働いて、副業やれるようにしても良かったし。うまくやっていく色々を、嫉妬や思い込みや、経験不足で凝り固まってないで、エイっと気持ちを開いて話し合う。戦って、勝って後輩が俺の上に行っちゃう、捩じ伏せちゃう事だって、それはそれで解決かも。オランネージュ、お父様のハルサ王様は、ユーモアが大事だ、って言ってたよね?」
突然話をふられて、オランネージュは、ハッとして、うん、うん、と頷く。
「男でも女でも関係ない戦い遊びをしてみようか。遊びたくない子に、無理にはしないけど、良かったらね、って、小さな遊びで、親しみ合う。そうして、遊んで、話をして、アイデアを出し合って、居場所のつくりっこが、出来たら良いねえ。」
例えば、マヌケで可愛い文房具で、ちょっと仲良く話をしたりだとか、お菓子を一緒に分けて食べたりをキッカケにでも、もう少し結果は違ったかな、なんて竜樹は、いっぱいいっぱいだった過去の失敗を振り返る。全てが竜樹のせいでもないが、まあ、親身になるには、大人力が足りなかったのだ。
もしかしたら、彼は、竜樹がいた会社を辞めた事で、もっと伸び伸び、素敵な場所に行けた可能性も、なくはないけれど。それと同じく、辞めた後で、あまり良くない条件の場所に行った可能性もある。
その全てに責任は負えない。
けれど、納得いって動けたな、って、社会に入って、信頼できる人もいるな、って、ちょっとでも思えてくれる力になれたら、良かったのに。
後悔は刻み。
ゆるりといこう。
さあ、そして今は、子供達とお遊びだ!
ラシーヌは、石化の影響が残る顔で、微笑し見守る。
騎士として、真っ直ぐなこと。
それは悪くないけれど。
ユーモア、ユーモアか。遊びか。
娘のポムドゥテールは、一歩先の時代をゆく。彼女はちょっとズレていて、だからとっても良いのかもしれない。
もっと、騎士団の皆と、くだけて親しんだら良かったな。
「なにあそぶ?」
「いばしょ、つくりっこ!」
ムフン、と竜樹は得意な顔をする。
「低反発枕作った時、かなり硬い、低い円柱の、大きなクッションができたから、使えるな〜と思ってたんだよね。」
その上に立って。
お尻あい。
「ど〜んけつ相撲で、はっけよいの・ドン!」
どんけつ•••?
ハテナな子供達を他所に、先ほど帰ってきていた何でも実現バーニー君は、ブフ、と噴いた。




