間に合わないが、2次試験
「絶対に、間に合わないんです•••!!!」
ううう、う。
竜樹は涙をだーだー、いや比喩です。本当には泣いてないけど本当に泣きたい、そんな気持ちで机に突っ伏した。
「テレビとラジオの採用試験番組、収穫祭までに、間に合わない•••!!!」
やめてー!!とバーニー君が、側で耳を塞いで、いやいや〜!と顔を振った。
「間に合わないなんて言葉、今もこれからも一生聞きたくない〜!!!」
新聞寮の交流室、竜樹のお膝や背中には、サンとセリューとロン、そして紅一点ジゥの、寮の小ちゃい子組がだまだまになって、はてな?となっている。
そして、その小ちゃい子組に混じって、幼い内に攫われて花街に売られ、今竜樹の元で心の栄養もらい中の、もう外見は大人、中身は逆行気味の青年ヴィフアートが、ぺと、と竜樹の腕に引っ付いている。
竜樹は頑張った。
そしてバーニー君も頑張った。
採用試験番組の、下準備、全部提出された試験映像に音声、ついでに教科書の作成者応募資料もチェック済み。どういう順番で取り上げて、特徴はどんなで、どんな所に見所があり、ダメはどこで、どう突っ込むか、何を聞くか、審査員は誰に、などの荒い原稿は、できたのだ•••が。
「あと5日じゃ、人を集めて番組作って編集して放送して、収穫祭前に採用して、ちょっとは鍛えて!収穫祭って大きなイベント、大きな成長の機会に参加させて番組作りの手伝いや見学だけでも経験させて!ってどうしてもやりたいのに、出来ない!!!」
うわぁ〜!!!
竜樹とバーニー君は、協力し合って徹夜も時々して、ようやく番組の原稿まで出来たのに、撮影実行が間に合わないのである。
ヴィフアートが、きゅーん、と眉を下げて悲しそうな顔をする。竜樹が大変そうで悲しみ、もあるが、加えて感情を真似る、自分が壊れて揺らいでいる時、頼りになる人の真似を自然としちゃうのは良くある事である。
子供達も、んー?と困り顔を真似っこした。子供達の場合も、その場の雰囲気に感情がつられている。
どちらも竜樹は、どんと来いで、真似っこするならして成長してね、泣いて笑って大きくなろう、なのだが。
いやしかし。
「間に合わない時!社会人たるもの、次善の策を考えておくもの!いやむしろこっちの方が良かったくらいにしてみせる!バーニー君!」
「ふぁい。何かお考えが?」
ガバリと起きて、キリッとした竜樹に、ふにふにな、何でも実現バーニー君が机から半分顔を上げて、ラフィネかーさが淹れてくれた、ノンカフェインの紅茶を啜った。
もう、寝れないのはごめんである。竜樹とバーニー君は、身をもってカフェインの使い方を学んだ。
カフェイン飲んだからって、確かに一時集中出来るが、疲れたな、寝たら気持ち良いだろうな、っていう願望は無くならないのだー!
何なら、飲んでも眠すぎたら寝ちゃうし。薬だから、鑑定して決めた、この世界の人に合った一定量より、多く飲んだらダメ!と重々に言われているし。竜樹は寝ないで休まず働くブラックな恐ろしさを、ニュースでも聞いて知っているから、バーニー君にもその恐怖を伝えて、間に合うより寝るを選んだ2人である。
「収穫祭に、2次試験として、番組作りを体験する、ってやつをやろう!今現在働いているスタッフに、応募した人達を呼んで班わけして付けて、簡単な事なら助けてもらって、難しい事は見学して勉強してもらう!で。こちらも面倒を見るほどの余裕はないから、って事まで打ち明けておいて、体験してもらってから試験番組作れば、その場での審査員との受け答えに説得力や、進みたい番組の傾向が、はっきりするのでは?チームで、事務経理をやったりした人達だって、実際の番組作りを知るのは良いはずだよ!」
コクン!とバーニー君は飲み込んで。
「竜樹様!!流石です!それです!それで行きましょう!そうとなれば、早速応募してきた人達に召集をかけねば!」
タタッと、立ち上がって。
「筆耕事務部隊に、手紙を出す準備をさせます!竜樹様、原稿を作って下さい!人海戦術で筆写して、チームのリーダー宛住所に速達かメッセンジャーで送りましょう!急な話ですから、連絡がつかない事を最大限に無くすため、ニュースでも放送しましょう!そして、連絡が付かなかった者は、落とすのでしょうか?!ちょっと、忙しい日程で、可哀想な気もしますが。」
「落とさないよ〜。っていうか、物凄く人間性に難ありな人以外は、人手不足だから、採用したいと思ってるけどね。皆が納得して、かつ、才能を芽吹かせる事ができ、上手く回る部署や番組の種類に振り分けたいからさ。それに。」
「はい。」
うん、うん。
顔を見合わせ、2人の心は一つになった!
「「テレビとラジオの試験番組の原稿、(2次試験で落として人が抜けた事で)作り直すの、真っ平ごめん!!」」
です!
だよねー!!
案外こんな事で、人の人生の一つの選択肢は決まっていってしまうのだ。そんなもんだ。
ヴィフアートは、くすん、と笑って、賑やかで魂の底から、ゆるり朗らかさんな、頼り甲斐ある2人に、楽しい気持ちになった。
「たつきとーさ、うまくいく?」
「おしごと、だいじょぶ?」
サンとセリューが、目をくりっとさせて聞いてくる。
竜樹とーさは、ぽふ、とその頭を順ぐりに撫でて。
「うん、上手くいく!いかせる!大丈夫にさせる!間に合わない時の、良い考え、できたー!だよ!」
やったー!と喜んでくれるサン、セリュー、ロンにジゥである。素直。
ヴィフアートは、自分も頭を、んん、と出して、竜樹に撫でてもらった。
「ファング、今日も皆でお泊まりなのか?」
オランネージュ、ネクター、ニリヤの3王子にアルディ王子は、ジェム達とも、こちゃこちゃ!としながら、お布団に寝っ転がって交流室、ワイルドウルフのファング王太子と、そのご学友達とテレビ電話している。
仲良くなって、毎夜、皆で連絡してるのだ。
『そうなのだ!皆、お父様やお母様が、発情期で、帰ってもしょんぼりだし、遊ぼうよ、って事になって。そうそう、私達も収穫祭の少し前から合わせて、そちらに行けるからね!』
ファング王太子が、ベッドに寝転んで、ご学友と弟妹ちゃん達とこちゃこちゃになりながら、片足ふんふん振り振り。
ご学友で熊獣人のルトランが、パジャマに前髪を洗いたてで濡らしたまま。
『私たちも、一緒に行きます〜!』
弟のカルタムも。
『いきまちゅ!せりゅくん、カルタムとおはなちごっこ、ちてくえまちゅか?』
おーい、セリュー、呼んでるよ!と呼ばれて、竜樹とーさの所からセリューが。まだ上手く語尾などが喋れないカルタムと、にこにこ会話する。
「カルタム、こっちくるの、あそぼうぜー!おはなしごっこ、たつきとーさのたぶれっとの、おはなしのほんがあるから、よみっこしよ!」
『ウン!』
「おいでおいでー。まあ、でも、発情期中で、おやごさん達と連絡とか、許可とか、とれてんの?」
一応オランネージュが心配する。
ニヒ、と笑う、ご学友のルトランは、あんなに堅っ苦しかったはずなのに。
『大丈夫ですよ。ファング殿下のお付きで行くんですもの、安心でしょう?皆、無断では行きませんから、ご安心ください、オランネージュ殿下!•••まあ、出かけたのを知るのは、きっと父様も母様も発情期あけでしょうけどね。』
そして大層ビックリするだろうが。
『竜樹様に招待された、ってとっても光栄です!!』
んん?
と原稿を書き始めた竜樹は、子供達の動向を気にしつつ。
そうなのだ。
親御さんと、離されるこの発情期、子供達はというと。普段獣人は、家族を大切に親密に過ごしているのに、この時期だけは放っておかれて、ワイルドウルフでは皆、さみしくつまんなく過ごして、しょんぼりするものなのだそうだ。
竜樹は思った。
そんな時こそ、テレビやラジオじゃん、と。
クリスマスに、竜樹が子供の頃は、いかにも季節な、サンタクロースやクリスマスが絡む子供向けの人形劇や、アニメ、お話なんかを、テレビで昼間、やったものだ。いつもと違う番組に、ああ、季節だなあ、って。
親御さんの代わりには、テレビやラジオはならないけれど。同じワイルドウルフの子供達が、発情期と被る時期、テレビで収穫祭を楽しんでレポートする姿を放送したら、家でボッチでお留守番な子供達も、楽しくないかな。季節のお知らせになんないか。
なんて思ったのである。
だから、ご学友とファングの分、竜樹はお手紙を書いて、事後承諾になりますが、発情期で子供達が寂しがっている間、アンファン!お仕事検証中!に、ワイルドウルフチームとして、お子様に参加して頂きたく。
勿論、最大限に、無事楽しんで帰宅までをお預かりして、お届けしますーー。と。
執事達や、両親の代わりに臨時で緊急な事を発情期ならばと請け負った、独身の伯父叔父や伯母叔母、または現役から引退したであろうお祖父様とお祖母様の、つまり一族の許可をもって。
ワイルドウルフチームは、満足のパシフィスト行きを勝ち取ったのであった。
『楽しみです!』熊ルトランが、にこり。
『たのちみでちゅ!』弟熊カルタムも、ニッコニコ。
『私も、仲良くしてね!』
獅子獣人の、男子クリニエが、低い優しい声で、眠そうに布団にモグリつつ、囁く。
『ほんとの友達に、なってくれる?』
心配そうな虎獣人のアルノワに、ニリヤが、もうおともだちよ!みんな、なかまだ!なんて言っている。
『えんり、おともだち、でつ!』
よちち、な子虎の妹ちゃん、エンリちゃんは、もの怖じる事なく、くふ!とコロコロベッドを転がり、お姉ちゃんお兄ちゃん達に可愛がられ。
『ええ、ええ!私たち、女子も、仲間に入れてね!』
馬獣人、顔はながくないが、キリッとしたベルベットのお耳が素敵な、ポニーテールの髪を解いてさらさらな、シュヴァ。両肘を付いて、頬に手、ふむん、と可愛い。
『そうねそうね、女子も男子も、ね!』
垂れ耳兎獣人な女の子、ララン。
『ぼ、ぼくも。』
もじもじ弟のルルンも。
『『『よろしくお願いしまーす!』』』
ニッコニコの受け入れパシフィスト側に、行くワクワクなワイルドウルフ側。
ムフフフ、と笑い合う子供達に、ファングも良い笑顔で、肩をキュッ!と一度上げて、コロリン!とカルタムをお腹に乗っけて転がった。
アルディ王子が、私も今度、兄様、抱っこ〜!とお耳をひこひこ、すんすんした。
お兄様、取っちゃわないよ!アルディ殿下!とワイルドウルフのご学友達は、アハッと笑って。
竜樹は、ふふ、と微笑み、2次試験の手紙の原稿を書いた。
『テレビ、ラジオ局に応募してくれた皆さんへ
急な、お知らせで失礼します。ギフトの畠中竜樹です。
皆さんからいただいた、試験の映像、音声は、厳正に審査し、ただいま採用ドキュメンタリー番組として成立させるべく、準備をしている所です。
その際は、皆さんに、番組に来ていただき、直接、いただいた映像や音声を放送し、視聴者の皆さんに楽しんでもらいながら、質疑応答、良い所ダメだった所、改善点や、それを踏まえての、これから配属されたい希望の部署、番組を、こちらの審査と擦り合わせて決めていく、つもりです。見せるやり方を実践で学んでもらいます。
そして、その番組を収録する前に。
2次試験として、収穫祭の様々な番組の撮影を、手助けしたり、見学したりする機会を設けました。
収穫祭ですから、この、手紙を書いている時点で、5日しか時間の猶予がありません。
ご都合もあるでしょう。
連絡がつかないこともあるかもしれません。
なので、この2次試験は、合否を問うものではない、とします。
ただ、参加していただければ、テレビ、ラジオの実際の仕事の現場を見て、将来をもっと具体的に、こんな事やりたい、できる、と思い描き、質疑応答に臨めるかと思います。おすすめです。
そして、現場のスタッフは、皆さんのお世話をする余裕は、当日、全く、ありません!
簡単なお仕事の手伝いなどは嬉しいのですが、是非とも、経験を積むために良く見る、現場での身の置き方を勉強する、そんな気持ちで、スタッフの手を煩わせないよう、ご配慮願います。
とはいえ、何も分からない皆さんを、ただそこには置きません。テレビ番組を良く手助けしてくれる、侍従さんチームから助っ人を呼び、皆さんを引率して、どこに行って、何をしたら良いか分からなくなった時には、さりげなくフォローをしてもらうようにします。心配する事なく、胸を開いて、学びにご参加下さい。
きっと、この経験は、テレビ、ラジオ局に採用されなかったとしても、皆様の良きものになると思います。
それでは、参加可能な方は、同封の参加証をチームリーダーが持って。以下の日時場所に集合して下さい。
時:満実の月31日 午前9時
場所:王宮正門(門番さんに参加証を見せて下さい。入れてくれて、案内の者が付きます。)
3日間の予定です。
動きやすい普段着で参加いただき、着替えもご準備下さい。
お付きの方は、連れて来ないで下さい。実際働く時は、お一人になりますから、今から慣れて下さいね。
食事は出ます。
宿泊は、王宮客室になります。
人数が多いですし、皆、一番下の新人からの扱いで入る事を鑑みても、お部屋のグレードなどは、割と下めです。どんなに位の高い貴族の方でも、変えられません。
下働きから仕事を覚える事も、知っていて下さい。
事務経理営業担当も、番組作成の現場を、この機会にどうぞ、見て知って下さい。
もしそれが受け入れられない時には、テレビ、ラジオで番組を作るのは無理かな、と思います。現場を知らずに、上に立つ者を作らない。これが私の考えです。良く考えて、無理な方はご辞退願います。
それでは、どうぞよろしく、皆様ご参加下さい。』
時にバーニー君と相談し、お助け部隊や侍従侍女チーム、実際のテレビラジオ局の今働いている者達にも、ささっと聞いて、その日の内に速達が出された。夜間郵便窓口の方、ご苦労様です。王都で近い人は、メッセンジャー。夜明けと共にで依頼。
転移魔法陣がなかったら、実現出来なかったこの2次試験、風は今、竜樹に吹いているのである•••!!!




