ご学友は、ほんとの友達でつ
ファングはすぐに、側仕えの者を通じて、厨房に連絡を入れた。
今夜の晩餐、ご学友達を招待するから、そんなに豪華でなくても良いが、美味しくて食べ応えのある、堅苦しくない夕食を、頼む、と。
ご学友にもそれぞれ連絡を入れて。
お父様とお母様は、アルディが出来た時みたいに、しばらくはお2人で籠って、ラブラブ出てこないであろう。発情期を邪魔するやつは、尻尾掴まれぶん投げられろ、という言葉が、ワイルドウルフにはある。それだけ大事にされている時期だし、民などは出稼ぎから一時帰国して、子作りする者もいたりするので、しばらくぶりの逢瀬、国を挙げてラブラブ推奨、な期間なのだ。
ファングは発情期の間、ワイルドウルフにいれば食事も1人だろうし、その間に、オランネージュ、ネクター、ニリヤにアルディ達のいるパシフィストへ一度行って、滞在の準備をせねばならない。
お父様が、ああ言った、という事は、きっとお母様と籠る前に、パシフィストのハルサ王様に、テレビ電話でお願いをしてくれているだろうからーー今日の夜、ご学友との夕食会が済んだら、弟のアルディ達とテレビ電話で、結果を話せるだろう。
ご学友の家でも、保護者のご夫婦が発情期に入ったりしてるので、子供達は放っておかれてサミシイ、ツマンナイとこだ。夕食の招きに、凄く喜んでいるお返事が、直筆カードで渡されて、小さな弟や妹がいる家などは、一緒でも構わないでしょうか?と申し出もあり、家族を大事にする獣人のファングは、もちろん、いいよ!正式な晩餐じゃなくて、友好のくだけた夕食会だからね!とカードを持ってきた従者に、側仕えを通じてお返事をした。従者もその家の坊ちゃんお嬢様には、思い入れがあるものなので、ファングの応えに嬉しそうな顔をして帰った。よろしく伝えてくれる。
午後はパシフィストで知った、縄跳びや、ボールを使ったサッカーのドリブル、壁打ち、キャッチ!などをして1人遊びを楽しんだ。ストイックである。
やっぱり、皆と一緒がいいな、と思ったけれど、ご学友が毎日遊びに来てくれていた時分の前には、弟のアルディがいなくて、良く1人で遊んでいたから、慣れているファングでもある。大人の従者が遊んでもくれるけど、それだと手加減してファングを立ててくれるので、誰も忖度しない、思いっきり遊んで転んでだまだまになり笑い合う、パシフィストのお遊びが恋しかった。
お風呂も入って、寛ぎの普段着で、ご学友を迎える準備。ご学友達にも、正式な服装でなく、普段着で、と伝えてある。締めるとこは締めるでいいが、普段は緩くて良いよね、とファングは竜樹を見て学んだ。
竜樹は仕事仲間と、ゆるっと親密だ。無理がない。君臨しない。立場で押さえつけない。
だから、皆、発言が自由である。肩肘張っていない。苦言も遠慮なくあるし、言っていいのかな、なんて遠慮せず良い意見が出る。
キチンとしてなきゃいけない時があるのも分かるけれどーー自然体。その良さを、知ってしまった。
目標にするのは、お父様のブレイブ王で、皆に尊敬されて。少し距離は置かれているかもしれないが、お父様はあれはあれで、好奇心旺盛な、少し子供っぽいとも思える所を、周りの皆に微笑ましく受け入れられて、全ての人に、とは言わないが、敬されつつも仲良くやっている。
ユーモアが、案外重要だって。
オランネージュに教えてもらった、王様稼業のコツは、言われてみればなるほどなのだ。
王様は、愛されて、ナンボ。
皆に、やいやいあれやれこれやれ、言われるだけの王様は、疲れ切ってしまう。助けてもらわなくちゃ。
竜樹のスタイルも、大いに参考に。
年寄りの侍従、狐獣人の、馴染みのレスペールが、呼びに来て、ニコニコしてファングの支度を待っている。
「レスペール、嬉しそうだね?」
「ええ、ええ。ファング王太子殿下。ご学友達の勉強会は、ファング殿下がいなくて、もう、もう、しゅ〜んとしたものだったのですよ。帰国されて、真っ先にご学友とのご夕食、レスペールは、ファング殿下のお心遣いに、この国のお子達へのお気持ちがちゃんとお有りになる事、とても嬉しく思っております。」
褒め言葉に、お父様から言われたからなんだよなぁ、とちょっぴりむぐぐ、と気まずい気持ちのするファングである。
「わ、私はワイルドウルフの王太子なのだものな。いかにパシフィストの王子達と仲良くなろうと、この国の者達を、忘れてはならないな。」
うん、うん、とニコニコにっこりのレスペール。ファング殿下も、赤ちゃんの頃からお仕えしているけれど、大きくなられたなぁ、と感慨深く。
程よい部屋に食卓を用意して、もうご学友が控え室に揃ったと連絡があり、ファングも、キリ!と顔を締めて、•••いやいや。だから、パシフィストだとゆる〜で、同じ国のご学友だと、キリッとがおかしな話なんだって、と頬をパンパン、叩く。
ニコ!と笑って口の端、緩めて、いざ。
「ファング王太子殿下がいらっしゃいました。」
先触れの侍従の後を追うように、サッと、ご学友と合流する為の控え室に入る。
ニココ!
「久しぶりだな!皆!今日は来てくれてありがとう!」
ゆる〜の気持ちで、心から、話せたら。
ファングは、両手を広げて、パッと大らかに、胸を開いた、つもり。
ばばっ!とソファから立って、ご学友達が礼をする。男の子3人に、女の子2人。幼い弟妹達も、合わせて3人、はっとして、お兄ちゃんお姉ちゃんの真似で、よちち、と立って、礼をした。
「ファング王太子殿下、無事にご帰国、嬉しゅうございます!私達、学友は、今日のご夕食に招かれ、とても光栄でございます!」
セルクル公爵家ルトラン、熊獣人の貴族の子である。アッシュグレーの髪色、瞳、幼いながらに精悍な顔は、嬉しいと言いつつ、固い。偉い位順番に口開きだから、彼がいの一番に、堅っ苦しい挨拶をした。
たらり。
うん、こんな感じだった。そうだった。むむー。
パシフィストだと、ジェム達は。
「ファング様、これ美味しいからねぇ!いっぱい食べなよ!」
なんて言って、食事を配る時に大盛りにしてくれたりする。あんまり好みじゃなさそうで断る時も、食べた事ないから、残したくないし、まずは少しにしてほしいな、って言えば、そっか!気に入ったら、お代わりしなよ!ってすぐ了解。慣れると、とても心地良いのだ。
「う、うむ。丁寧な挨拶ありがとう、私も会えて嬉しいよ、ルトラン。」
ペコリ、と深く礼をするルトランが、仰々しく、そそ、と弟を呼ぶ。
「ほら、カルタム。ファング王太子殿下に、ご挨拶なさい。」
「あい、にーたま。」
幼いカルタムも、精一杯に礼をして、兄と同じ、アッシュグレーの熊耳をはたっとさせながら。
「きょ、きょうは、わたくちまで、いっちょにおよびくださり、うれちくおもいます。ファングおうたいちでんかに、おかれまちては、ごきげんうるわちゅう。」
ぷるぷる、とお辞儀をしたままだと、あんよが震えている。頭が重くて、バランスが取れないのだ。ルトランが支えてやっている。
うん。いいのに。幼い子に、無理に礼儀なんて。
でも、ちゃんとするのを教えてあげないと、これから困る。のだよね。
ファングは、笑顔のまま、堪えた。
「カルタム。素敵なご挨拶、ありがとう。今日は良く来てくれたね。」
ニコニコ!と、今までより、いつもよりも、随分と優しげ笑顔なファング王太子に、カルタムは嬉しくなって、頭を上げて、ニパ!と笑った。
ルトランは、む、とカルタムに、お説教したいような顔をしたが、ファングはパシフィストで、小ちゃい子組達と慣れ親しんだので。この位の子が、とっても可愛くて、そしてやんちゃで、いう事聞けなくて、訳が分かってないとこもあって、でも素直で、慕ってくれて可愛くて(2回目)、こんな挨拶をするのがとても大変な事だと知ったのだ。
「私も、今夜はファング王太子殿下にお会いできて、嬉しいです。パシフィストにいらっしゃる間は、とても、私たち、寂しかったです。」
獅子獣人の、お日様色の髪にお耳な男子クリニエも、しっかりした身体に、豪快な力自慢、なのにいつもの割と心細やかな感じで。ショボ、と鼻をスンとした。そうなのだ、結構彼は繊細なのだ。
そうなのだよな。そうなのだ。
皆、挨拶を、待っているご学友、誰しもが、ファング王太子を、じっと見ていた。パシフィストに行く前より、切実な気持ちで。
取られちゃう。私たちのファング王太子が、取られちゃう。
あんなに、パシフィストでは、楽しそうに。私たちといるより、ずっと笑顔で。弾けるような笑い声。
私たちといる時の、取り澄ました顔なんかじゃない。
本物の、ほんとの笑顔のファング殿下は、パシフィストに取られちゃう。
そんなの、いやだ。
ああ、お互い様なんだね。
ファングがパシフィストで、人間関係にカウンターショックを受けて、目が開いた感じがした。という事は、今までのご学友達へ、ファング自身も、開いてなくて見えていない事があったのだ。
ファングは、大事にされ敬され遠ざけられ。それに甘えて、1人1人を、見ていなかった所がある。
ご学友達は、ファングがいつまでも変わらず自分達を率いて、頭でいてくれる、との安心から、いつもの敬する対応だけで良い、と簡単に思い込んでいた。
関係を、これから、新しく。
もっと近く。親密に。距離を、遠くも近くも、その時々で、上手く回るように自由自在に。
言いたい事も、ちゃんと、言える関係に。
それは、ドキドキして、そーっとして、少し興奮して、きっと後悔も沢山あって。
す、とファングが手を挙げた。
皆、ん?と挨拶の途中なのに、不思議に思う。
よちちの弟妹達は、立ったまま、お兄ちゃんお姉ちゃんを見上げて、なあに?え?とファング王太子との間を、チラリチラリ、顔を振って見比べた。
「皆、アンファン!お仕事検証中!や、コクリコ嬢の愛し子の、出産ドキュメンタリー、見てくれたかな?」
見ました、と口々に。
そして、少し口惜しげに。
「ありがとう。それでね、ああ、さあ、そうだね、挨拶もしながら、皆、ちょっぴり今日はくだけて、私と仲良くお話しようじゃないか。まずは座って。」
ニコニコ!と笑顔で、しかし有無を言わさず促すファングに、???と思いながらも。ファングが、先ずはストン、とソファに座って、さあ、とニッコリ頷くから、皆、おずおずと座る。
「あのね。私は、パシフィストで、人と気持ちを開いて仲良くする方法を知ったんだ。皆、テレビを見ていて、私が、ワイルドウルフにいるより、くだけてるなぁ、と思ったりしたろう?アルノワ、どうだい?」
「はい•••。その、失礼を承知で言えば、ファング殿下は、私たちより、パシフィストの王子殿下達の方が、す、すきなのかな、って。わ、私たちの方が、ずっと前から、ファング殿下と一緒にいるのに!」
虎獣人の男子、眼鏡で、中々頭の良い、黄金と黒の混じりっ毛な、アルノワ。眼鏡をツイ、と上げながら、ショボンとした目の奥に、怒りを混ぜながら。
「ずっと、一緒にいるのに•••本当の関係を、作って、これなかったのかな、って•••。」
怒りが、しゅしゅーん、と、落ち込みに。怒りそのものも、ファングに、というよりは、不甲斐ない自分達に、なのだろう。
うん、と口角を上げたまま、ファングは頷いた。
「アルノワ、正直にありがとう。私も、もっと皆と、仲良く気持ちを開いて付き合うべきだったな、って反省したんだ。アルノワの妹ちゃん、お名前は?」
急に話を振られて、よちち、な子虎の妹ちゃん、エンリは、ぴょ、と飛んだ。毛並みが良くて、くりくりのカールが、フクっとした頬に似合う。
「え、えんりでつ。は、はじめまして、ふぁんぐでんか。」
「初めましてだね、エンリ。お兄ちゃん、しょんぼりしてたかい?」
優しく、腰を低く覗き込んで、ファングが聞けば、正直なエンリは、コックリなのだ。
「おにーた、ふぁんぐでんかの、おこころが、はなれてちまった〜!っていって、フニフニないてまつた。えんりが、げんきだつて、てゆっても、しょんぼりだちた。」
「え、エンリ!!」
ぼぼ、と顔を赤くしたアルノワだったが、ファングが立って、エンリのお口を押さえたアルノワの手に手を重ねると、ハッ、と真剣に、そして揺れる瞳で。
ファングは、手を握ってお口から放させてやり、ギュッギュッと。
「アルノワ。確かに、あちら、パシフィストで私は、心を近く、自由に仲良くし合う幸せを知った。こちらに帰ってきたくなかったくらいだ。でも、でも。まだ、間に合うだろう?私たちワイルドウルフの者同士だって。」
ふお、とアルノワの頬に血が昇る。
ああ、まだ、そうだ!
間に合う!
「私たち、女子も、お仲間に入れて下さいませ!」
馬獣人の、筒を斜めに切ったような、艶々の焦茶短毛が光り輝くお耳、髪も同じく艶々で後ろに縛った令嬢。シュヴァは、くりくりとしたお目々に長いまつ毛、右の目尻にキュートな黒子。運動好きな活発女子である。
ふわっと息上がらせて、意気込み、アルノワとファングの手に、思わず手を乗せる。
「あっ、失礼しま」
「もちろんだよ、シュヴァ。皆で、仲良く、これからどうしていったら良いか、話し合おうじゃない?」
ファングのもう片方の手が、そっとシュヴァの手に乗って、見る間に頬が赤く染まる。
「私も、新しいこれからを、ぜひ一緒に、考えたく思います!」
その上から、はし!とまた手を乗せた女子、ララン。白と茶色の、長いお耳が垂れて、ミルクティー色の長い髪に、たふっとしている。垂れ耳兎獣人なのだ。色白で、血が透けるほどだが、健康そのもので、ツンと吊り目、割と勝ち気なのだ、彼女は。
そして、その弟、同じく垂れ耳、少し濃いクッキー色の吊り目男子、ルルンが、無邪気にお姉ちゃんの手に手を乗せた。
ファングが微笑んだので、ルルンも笑って、エヘヘ、と見上げた。
「さあ、じゃあ、食べながら話をしよう!堅苦しい話し方は、なし!言いたい事は言う、だけど、優しさを持ってね。皆、気を楽に食べて、話そう。あ〜それで、私はだねえ。」
ファングは、言いにくい事は先に言いたかった。
ギュッと握った、全員が集まって重ねた手を、頼りに。
「これから、7日に2日のお休み毎に、パシフィストに行って、あちらの友達とも仲良く、勉強してくる事にしたんだ!テレビにも、出られるし、竜樹様の元で、お国の為にもなるしね。」
ハッ、と皆、縋るような瞳に、揺れて。
「だからって、皆をないがしろにするつもりは、ないから!ないから、安心して。ねえ、皆、私はパシフィストで学んで、こちらのお国の、私たちと、もっと、もっと。」
もっと、もっとより良く付き合っていきたいって。
「堅苦しい挨拶とか、時には必要だって、分かってる。だけど、竜樹様って、普段、ゆるっとしてるんだよ。何で、って聞いたら、いつも堅苦しくして時に緩めるのも、いつも緩めていて時に締めるのも、同じ労力がかかる、って。竜樹様は、緩いのが好みなんだって。いけないのは、思考停止で、緩みっぱなし、堅苦しく締まりっぱなしな事だって。いつか、壊れちゃう、って。私たちは、まだ子供だ。楽しく、本音を隠さず、緩く、堅くも、付き合うやり方を、学んでいこうよ?それでなくても、私は、大人になれば、皆が堅苦しく儀礼的に扱う場で、ポツンとされる事も、多くなると思うのだ。そんな時、ずっと親しんできて、苦言も気安く言ってくれ、一緒に遊べる、そんな者達がいたらーー。」
私自身のため。
皆のために言ってる事じゃない。
だけど、皆のためにも、なる?
「ず、ずいぶん、都合の良いご学友じゃないですか!もう、もう、そんな調子の良い話、私たち位しか、受けないんですからね!」
アルノワが、わざとらしく、ツツン!と鼻を高くそっぽを向く。
「全く、まったくですよ!ファング殿下、私もパシフィストに、連れて行って下さいよ!」
コリーヌ嬢という、車椅子の好きな女の子がいるルトランは、そしたら私が、コリーヌ嬢を連れて、身体スキャナで再生医療をするのに下見をしますから!とちゃっかり。
「何だ、私の事は、口実かい?」
ファングに言われて、ルトランは堅苦しいのをやめて。ニシシ、と笑って。
「だって、私たち、実力重視で、はんりょが大好きな、獣人ですもの!あ〜あ、堅苦しいの、私も疲れてたんです。絶対、パシフィストに付いていきますからね!」
私も、私も!!
パシフィスト、楽しそう!
羨ましかったんだ!
テレビに出たい!
ファング殿下と、一緒に。
でたいでつ!
合唱に、えええぇ!?
とファングは、また驚きの。
その日、ファングは、今まで遠かったご学友と、気楽に食べて、遊び、話をして、結局、アルディ達ジェム達とのテレビ電話にも一緒に長電話、のんびり話をして、交流室で寝るみたいに、ベッドを、沢山繋げて皆で眠った。お泊まりにしちゃったのだ。
ただいま絶賛発情期中の、保護者面々が、後から、ひええ!と悲鳴をあげることに、何と楽しくパシフィスト側とも、お友達になってしまい。
幼い、よちちな弟妹達まで、ぱちぴふと、おともだち、あちょびにいきたいでつ、と興奮しており。
後にファング引率で、皆でパシフィストに遊びに行く事が、何故か決まったのだった。何故だ。
遅くなりまして、申し訳なく。
そして、明日の更新はお休みします!
皆様、楽しい連休を。
また色々楽しく次のお話も考えて、明後日から更新したいと思います!




