うたう
子供達が、はじめておつかいをする番組(毎度みる回は変えている。楽しく観たいから)を観て、バラン王兄は、う〜んと唸った。
「これって、実に効果的に曲が使われているよね。ずっと流しっぱなしでも、うるさくなってしまう。ちょうど良い所で、ちょうど良い曲が、そしてあくまで主役は子供達で、でも、とても心動かされる•••。」
ふふ、ふんふふ、ふふ♪
鼻歌でテーマ曲を歌いつつ、上機嫌。
「それだけじゃなくて、たぶん、撮影するのに、音をどこ録れたらいいかとか。邪魔な音を目立たないようにしたり、又は聴きずらい小さな音を、聴きやすくしたり。でも、ある意味作り変えてしまうような、やり過ぎは良くないし。音に敏感な、バランス感覚の良い人が、必要なんですよね。」
「それは、私しかいないだろう!」
むふん、胸を張る。
しかしである。
「王兄様に、音響をやってもらうというのも良いんですけど、良くない所は良くないって俺たち言いますし、作るにあたっては、身分を慮りませんよ?」
「望むところだ!」
それに、ギフトの御方様が何を言うかね。よっぽど私より、身分は高かろう。
とととん、ととん♪ テーブルをフンフン叩く。
「いやあ、実際の権力はないですからね。」
竜樹は、図に乗らないスタイル。言いたい事は言うが、まだ公にはニリヤの保護者なだけだし、何の仕事の責任もない。自由はいいが、そんなに実績もないし、対価をもらう仕事もしてないのである。
それで権力だけあると言っても、押し出しが効かないというやつだろう。
『神の目』騒動はあったが、あれの功績は主に作ったチリと、国と神殿に任せたい。
「あとですね。やりたい事をやるのに、もし貴族達、だけじゃなく、外部で横やり、反対するだけじゃなくて、テレビって情報は力になるから、良いように使いたい人達がいたら、守ってもらいたいんですよね。ゆくゆくは。」
それって、王兄様ピッタリの仕事でしょ?
「むむーん、その仕事はあまり面白くないな。全然音楽的じゃない。」
「その代わり、音楽番組を作るとなったら、意見聞きますよ。自分の番組守るとなったら、やる気出ません?」
出る!
「作ってみたい!音楽番組!」
それでですね、音楽番組も色々あるけど、みんなが参加できるとなったら、こんなのがありますかね。
「みんなの、歌声を自慢しよう!っていう。素人参加型の番組です。」
司会者が、参加する人の細かい情報を伝えてくれて。時には会場で観てる家族に手を振り。何でこの曲を選んだのか、や、誰に伝えたいか。上手い人もいれば、ユニークな人もいる。衣装を工夫してみたり、お年寄りが震える声で歌ったり。
伴奏も、どんどん遅れて伸び伸びになっちゃう人に合わせて、ゆっくりに合わせてくれたり。
「うーん!いいね、いいね、面白い!音楽がみんなのものって、気がするね!」
でも、お祭りでやるには、素人参加型だと、大変そうだなぁ。
「まず、出てくれるかだよね。みんなで歌う歌はあっても、1人で歌う歌、というのは、吟遊詩人や歌手がやるものと思っていて、みんな楽器なども持っていないし、ちゃんと舞台で歌った経験がないだろうね。」
この番組に出ている人達みたいに、舞台で歌う、というのを見慣れていないと思うんだよ。緊張して黙ってしまったりするだろうし、それを、観られるように面白くするには、司会の腕もいるし、すぐには無理だよね。
「ゆくゆくは、誰でも歌や楽器が楽しめるようにしたいけれども。」
そして、この首都でやるとしたら、首都の住人しか出られなそうだ。なかなか、普通の平民は、住んでる土地から出られないから。作物や、牧畜の地に縛られていて。
色んな場所の歌が聴きたくないかい?
そして、それを、主要7都市だけでも、広げて届けたい。
「テレビって、こんなふうに持ち運べるなら、色々な所で観られるのだろう?」
竜樹は、ピッタリはまる感覚を覚えて、パチン!手を打った。
「そう、そう、そうなんですよ。ヨーグルトの時に思ったけど、この世界って、都市から地方、地方から都市への情報が、届いていない事結構あるのじゃないかな?地方に、面白い事やいい情報が、埋もれてるんじゃないかな?って。」
俺のスマホの情報を、みんな斬新がるけど、この世界の中に、面白い事は沢山、芽吹いてるんじゃないか。
「俺発信で、なんでも開発するより、勿論、良い事を内緒にしておこうとかではないけど、双方向でやった方が良いんじゃないかな?」
これが、自分達の、世界だ!って気がするでしょ。
うんうん。
王兄は頷くが、他の者達は、今ひとつ分かりかねる表情である。
「俺も地方に討伐に行った事があるが、地方は、畑や牧草地や森ばっかりだと思うぞ。都市に持ってこれるような情報なんて、あるかな?」
マルサは、懐疑的である。
「その、畑や牧草地や森ばっかりな所がいいんだよ。住んでるのは人で、その地ならではの情報が必ずある。ヨーグルトだってそうだったろ?歌だってあるだろうよね。きっと。」
「ヨーグルトは、美味しいですよね。」
チリがにこーとした。
「お通じも、良かったんですよね、今日。お通じがいい、それだけで、こんなにも爽快です。そんな情報が、他にもあるなら、知りたいですねえ。」
つんつん。服の裾が引っ張られて、竜樹は横のニリヤを見た。
キラキラした目、小鼻が膨らんで、フン!と息が出た。
「ぼくも、うたいたい!このせかいの、おうたを!」
そうか、歌いたいか!
むーん、ニリヤだったら、国歌なんかどうかな?
お祭りが始まる時に、王子達が3人で、国歌を歌ったりしたら、かわいいよね。
「国歌?」
バラン王兄、国歌はないのですか。
「ちょうど太陽と星と月なんだし、それらが空にあってみんなを見守っているよー、つつがなく暮らせるように協力して頑張るよー、なんていう曲、作ったらどうです?」
「おさなごの言祝ぎ!作詞作曲!いいねいいね!それは私より適任者がいるから、私が頼もう。任せておいてくれ!」
「あと、王兄様だけが音響担当だと、仕事いっぱいすぎるから、あと1人くらい担当する人欲しいです。」
「それも任せておきたまえ!ちょっと風変わりだが、ピッタリな者がいるよ。」
いやーいい感じ。
パン!とバラン王兄と竜樹が、手を打ち合わせれば、そこに一言。
「素晴らしいですけど。それは、一体、どうやって採算が、見合うのですか?」
バーニー君が、眠たそうな目で。
ぽつりと言った。