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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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エステ実演の構想


「さあ、半分このよいこ達、クレール・サテリットの爺ちゃんと、初動の実務には欠かせない、バーニー君が来るまで、歓談ってやつをしてましょうか?」


竜樹が言って、ヴィフアートをギュッとしてぽんぽん撫で撫で、ロテュス王子にギュッとしてほっぺにすり、として、よいこ達を一部宥め、一部褒めて。

ヴィフアートは良いとして、おじさんのほっぺすりすりが、ロテュス王子に褒めた事になったかどうかは分からないのだが、された本人はとても嬉しそうに目を細めてポポッとしたので、まあ良いだろう。


「さあ、自己紹介から。ヴィフアート、アー兄ちゃん。名前をロテュス殿下と弟妹殿下達に、教えてあげてね。」

促されて、もじもじ竜樹の胸を弄りながら、アー兄ちゃんは、名乗る。


「ヴィフアート、です。特別に、半分この、エルフ達も、アーでいい。花街で、•••その。酷い所にいて、竜樹様に助けてもらって、ここに来たんだ。」

言って、瞳を揺らす。

自分が負けている、と思っている事を言うのは、それはそれは、とても屈辱で心が押し潰される事だ。


「私はロテュスだよ。王子だけど、まだ子供だから、男でも女でもないよ。私達エルフも、ジュヴールで奴隷みたいに押し潰されてきたんだ。テレビで観たりした?私も呪われていて、竜樹様に助けてもらったんだ。」

アーくんと、同じだね。


え、ええ!?

ヴィフアートは驚いて、目をくり、と大きくする。

ロテュス王子は、もう一度ヴィフアートの手を握ると、同じ同じ、とニッコリ、ふりふりした。


テレビで観たのは、チラッとニュースで。確かにエルフ達が酷い目にあったのは見たけれど、こんなに美しく、朗らかで伸びやかなロテュスが、王子自身が呪われていたなどと、ヴィフアートは思いもよらなかった。


「助けてもらって、広いお胸に抱き留めてもらって、面倒見てもらって。お目々もキュートだし、手もあったかいし、そりゃ惚れちゃうよね。アーくんも、竜樹様の伴侶になりたいの?」

正面からいくロテュス王子である。顔はのんびりしているので、他意はないのだ。ただ、そうかな?って聞いただけ。

ぶるるる!とヴィフアートは顔を振って、否やを示す。

「まさか!竜樹様と、俺が伴侶だなんて!ただ、ただ、一緒にいて欲しくて、父ちゃんみたいに。俺、子供の時、攫われたから、父ちゃんや母ちゃんが、こ、」

こ、い、し、い。


子供の頃に諦めて封印した、本当のこころを話すのは、辛い。

その一言を、苦しそうに捻り出して震えるヴィフアートを、ロテュスは、ウチのエルフの、怯えていた、かつての子供達のこころとおんなじだ、いや、それ以上に傷ついている、と分かった。

そしてヴィフアートは、どんなに父母が恋しくても、どこでどうやって攫われてきたのか、分からないから、帰ることは出来ない。帰れたとしても、既に時が経ち、傷だらけのヴィフアートを、父や母が温かく迎えてくれるかどうかも、現在生きているかどうかさえ、不明なのだ。

ロテュスは、魔法がエルフほど得意でなく、共感覚もない人間たちが、この広い世界ではぐれたら、会うのが大変なのを、とても良く分かっていた。


チュッ


「な!!」


竜樹の胸元で、だまだまになった2人。ヴィフアートの額に、ちゅ、をしたロテュスを、カッと赤くなって、された方は押し遣る。何のつもりか!

「竜樹様が父ちゃんなら、アーくんは私の子も同然だね!歳からいっても、きっと私の方が歳上だし。アーくん、よいこだね。私もよいこ。私は伴侶、アーくんは息子。ずっと一緒で、半分こだね。」

ニコッ!


魅惑の笑顔に、額を押さえて、猫がフーッとするように肩を怒らせたヴィフアートは。


「し、しかたねぇから、一緒にいてやんよ!」

ツンツンのツン、と、花街時代の、表向きの丁寧な言葉遣いをふっとばして、ウーッと真っ赤になって唸った。


「何だこの、可愛いこ達は。俺は突然、モテモテだな。」

アッハッハ、と竜樹が笑えば。

「そうねえ。良かったわねえ。竜樹お父さんらしいわねえ。」

うっふっふ、とラフィネもニコニコ笑った。


ニリヤと、ネクターと、オランネージュは、うんうん、と納得のホッと笑顔で頷いていたし。狼耳を揺らして、ポポッとなったファング王太子とアルディ王子は、床に腹ばいのまま、くっついてクスクス、と笑った。この締まらなさが、竜樹様らしいな、って確かに思ったのだ。

小ちゃい子達は、なかよしだねー、って見ていたし、いつもの子供達への竜樹とーさの可愛がりと、区別がつかなかったので、後で皆、なかよししよ!くらい。

後から入った子組は、おおお、と何となく驚き感動して見ていた。


「さてさて。エステ組のお姉様達とも、お名前交換だよ。」


水を向けられて、興味深く、かつ、何だかホワッと温かい気持ちで、ヴィフアートとロテュスと竜樹を見ていたエステ組の5人も。

ニコッ!と笑って、自己紹介を始めた。


「ルーシェですぅ。気怠く見えるみたいだから、スッキリ元気になるエステが知りたいな、って思ってますぅ。よろしくお願いしますぅ。」

何だか気分はホワホワで、語尾がのびのびなルーシェであった。


「ミィルです。蝶々のモチーフが好きだったんだけど、花街を出たんだから、一新したいわ。何か良い、エステの施術の時にしてても違和感のない、モチーフないかしら?って思ってます。」

あれだけ毎日していた蝶々の飾り達を、一切持たずに、同僚の花達にあげてきたミィルは、落ち着いて話す事ができた。可愛いこ達による、ホワホワ効果で。


「リュネルです。勉強は大好きだから、エステも、施術による身体の反応や効果を知って、お客様にお伝えできたら、って思っています。どうぞよろしく。」

丸メガネをキラリンと光らせて、微笑みと共に紹介するリュネルは、伸び伸び勉強できそうだわ、と嬉しく。


「クラリスです。竜樹様がおっしゃったんだけど、脱毛って言って、どこもかしこもツルツルにするのも良いけど、雑誌でモデルさんの顔に、ホワホワの短い薄い色の産毛があって、頬を守って光っていて、桃みたいで、それがとても素敵だったんですって。そういう、整えた中にも自然な美も、忘れずに提案したいわ、って思います。」

頬のほんわり薔薇色なクラリスも、竜樹と話して刺激があったらしい。


「レガシィです。私は痩せてて、幼い顔だし、大人っぽい身体を作っていったりする、栄養の事や、バストアップについても知りたいわ。やっぱり無理して身体を作る、っていうのじゃなくて、整える感じで。身体に合ったブラジャーで、辛くなく、寄せて上げて、っていうのも良いなって思ってます。」

己を知り、攻略する道を見つけんとするレガシィは、幼い顔立ちだが、中身はちゃんと、大人である。


ロテュス王子も、竜樹に寄り添ってはいるが、お姉様達に向き直り。

「皆さん、初めまして。色々もう、エステに関しても考えて下さってるのですね、頼もしい!私の弟妹を紹介しますね。このエステ事業を、協力して、成功させましょう!では、はい、エクラから。」


エルフには珍しい、黒髪で耳も尖っていないエクラ王子が。

「私は、エクラです。ジュヴール王キャッセが、エルフの母のヴェルテュー妃を、その、慰み者にした事で産まれました。エルフとしては、半端者なのですけど、それにも関わらず兄様や弟妹、母も、そして血の繋がらないエルフの父王リュミエールも、温かく迎えてくれて、今ここに立っています。皆さん、そしてアーくん、エルフの王子として、恥ずかしくないよう努めますから、どうぞ、よろしくね。」

出自を明らかにしたのは、きっと、同じだよ、って言いたいから。悩んで、でも頑張って、そこにいる努力をしていこう、と励ましたいから。見かけが違う事で、エルフ達は差別をしたりしないけれど、それでも思う事があるだろうエクラ王子は、ルゥちゃんについても、とても親しみをもって、何か困った事があったら助けてあげたい、と思っているらしい。パパズクラブに入るかもだ。


「カリスです。私も出自は、エクラお兄様と一緒だよ。ジュヴールで育ったから、エルフの森の生活の事は、詳しいエルフの大人に聞いていたんだ。森の生活を取り入れて、今の街中での生活と融合させて自然に暮らせるには、って考えてるんだ。よろしくね。」

ヴェルテュー妃に似たカリス王子は、キャッセとの間の子だが、共感覚が発達していたりもして、エルフとしての自覚は持ちやすいのだろう。兄エクラより、若干自然に、今の王子としての居場所から、より良くエルフを助けたいと思っているようだ。


「ウィエよ。私も出自は、キャッセとヴェル母様との間に産まれたエルフよ!まあ、でも、それが何だっていうのよ?エルフの子は、エルフよ!なりたい私に、私はなるわ!私もエルフとして、多分将来、女性になって、その立場からも、何か良い事をして皆に貢献したいわ。エステ、素敵じゃない!沢山、美容の事、聞いてきたの。お話しましょう、皆さん!」

ウィエ王女は勝気な所も真っ直ぐに、愛らしい姫君である。


ああ、誰も彼も、色々あるのだ。

ここには、事情のない者などいない。普通の生活を、やっていく事。その有り難みを知っている者達だらけな自己紹介は、身のうちの、もしかしたら人によっては恥とも思える瑕疵を曝け出し、それでいて傷を慰め合う気持ちを全面ではなく、少しだけ確認して、多くは未来への希望を込めて。


さっきより、少しだけ近づいたチームエルフとエステ組、アー兄ちゃんは、竜樹とラフィネ母さんも混ぜて、タブレットを見たり、チームエルフが纏めてきた美容の資料を見たりしながら、活発に楽しく話し合った。


遅れてクレール・サテリット爺ちゃま、ニリヤ王子の庶民側の爺ちゃんで、現役腕っききな商人、良きアドバイザーがやってきた。エステにも多大な関心を寄せ、モデルにもなろうと、意気込む気持ちの若い爺ちゃんである。

そして現れた、何でも実現バーニー君は、魔法院から、既に出向ばかりで。事業の立ち上げから引き渡しには必須な人員として、竜樹に重宝がられてまた、美味しい寮のご飯に釣られてここにやってきた、商家出身のバリバリ実務系魔法使いである。


「さて皆、揃ったね!俺から一つ、初めて跳ぶハードルを、提案しようと思う。今度の収穫祭、歌の競演会や、お酒の試飲会なんかも纏めて行われるお祭りに、エステの臨時出張所、デモンストレーション、実演しながらエステってどんなもの?ってとっかかりを紹介するコーナーを設けたらどうかな?って思いました。広場で会場を作ってやれば、皆に見てもらいやすいんじゃない?どう?これ、準備期間は短いから、今できる事で軽くだけれど、挑戦してみるつもり、ある?」


ふお。

奮い立つ。

そこからが飛び交う意見交換で。

「実演なら、肌を露わにするエステじゃない方が、良いわねぇ。」

「フェイシャルなんか、良いんじゃない?」

「竜樹様が言ってた、毛穴の汚れを、スポスポって絶妙な力で吸引してくれる魔道具、ぜひ作りたいわね!」

「あ、俺が見たやつだと、実演してもらった時に、取れた毛穴汚れや角栓を、途中のフィルターで溜めてて、こんなにとれたよー、って見せてくれましたね。」

「「「それ良い!!」」」

「カウンセリングもちゃんとしたいわ。」

「その人の肌質や、肌荒れを拡大して見せて、どんな美容基礎化粧品が合うか説明したり、乾燥具合を、そうね、度合いを決めて、この辺ですよ、って目に見えるようにするの、やってみたいわよ!」

「肌のお色も、見本と比べてどのあたりか、ってやると良いかも?」

「美容化粧品の販売は、やる?肌質とか、少なくとも、相談に乗った方じゃないと、お渡ししたくないじゃない?合わない基礎化粧品は、使っていただきたくないわ!」

「エルフの森の美容基礎化粧品は、肌質に合わせて色々あるから、こんな組み合わせには、こんなセット、って限定でお肌を診た人だけに発売しても良いですね!」

「ビタミンC、売りましょうよ!美白に良いのでしょ?それなら、ある程度、数が出せるんじゃない?そして、元々が果物とかなのだから、あまり厳しく診なくても、肌に悪かった、ってことはなさそうじゃない?」

「ああ、ビタミンCで具合悪くなる人は、飲み過ぎなければ、ほぼいないでしょうね。でも、特効薬なんかじゃなくて、肌の力を整える、ってちゃんと説明すべきですよ。」

「「「もちろん、もちろん!!」」」


「酸っぱいものから出来るなら、私の実家の領地の果物農家から、すごく酸っぱい、料理の調味料に使う、スモモス、っていうのがあるから、それから分離できたりしないかしら。きっと今も、時止め倉庫に在庫があるはずよ。そ、その、経済的にも困ってるみたいだって、手紙にあったから•••私事でごめんなさい、よ、良かったらよぅ。」

それまで活発だったのに、ルーシェの、もぐもぐした発言に、皆、ハッとした。

「良いですね!思いついた事があったら、バンバン言って下さい!ご領地の事でも、何でも!」

竜樹が、うんうん、と頷く。


「そうね、そうね。私たち、自分のやらかしで、実家や領地に迷惑かけたんですもの。無理にじゃなくて、竜樹様が、お互いに良いな、って思える提案があるなら、言わせていただけたら、嬉しいわ!」

ミィルも、興奮して、手を揉み揉みする。


「うぃんうぃん!」

ニリヤが、出産レポートのディスカッションの間から、ちょろろ、とやって来て、一言、竜樹の背中から、今だ!と発言した。笑いたいのを堪える、護衛の王弟、マルサ叔父様である。またニリヤにポカポカされたくはない。可哀想だし。


「そうだね、ウィンウィンだね。お互いに良い事なら、喜んでだよ、皆さん!」

竜樹が言って、ふわぁ!とエステ組が、浮き立ちあれこれ考える。


バーニー君がサラサラと意見を書き留めながら。

「意見は自由に、咎める事はないですから、思った事を言って下さい。出来るか出来ないかは、後で考えたら良いんです。最初は、ドーン!と、これ良い!を沢山出しましょう。後から、可能になる事だって、沢山ありますから、やる気が出たり、目標にもなりますからね。」

仕事また増えたー、とか普段、やあやあ言ってるバーニー君だけど、お仕事の進行は、バッチリ助けて促す彼である。うん、プロ。


ミィルは。

「私の実家の領地、蜂蜜が沢山とれるの。これといって他にとれるものがないのだけど、使えるかしら?」

「あー、蜂蜜の入ったシャンプーリンスとか、見かけた事あるなあ。ん、保湿効果あるって。べったり使う訳でもないだろうし、イメージも良いんじゃない?」


「もったいないよ!はちみつ?おいし?」

ニリヤがギャン!とする。

確かに食べないで美容に使うのは、贅沢な感じはするけれど。

「捨てる訳じゃないんだから、全部美容に使う訳じゃないし、適した蜜とそうでないのもあるだろうし、等級もあるんだろうから、使いやすいのを、とか、考えても良いよね。」


ええ、ええ!

ミィルは嬉しく、頷く。


「私の領地では、レバーの凄く大きな獣がいるの。魚も獲れるのよ。獣も魚も、肉にして食べるんだけど、あんまり高級じゃなくて、独特な癖があるから、売れ行きは悪いのよ。ビタミンBって、レバーやお肉、良いのじゃなかった?それから分離して飲むなら、味は関係なくないかしら?」

リュネルが、メガネをキラッとさせて。

「良いね、試してみたいね。そういう、今、皆があまり活用できてないもの、大歓迎だよ!」

「エルフも、栄養面からの美容、大注目ですよ!私たち、結構長い事、碌な食事してこなかったから、お肌や髪が荒れているんです。今、本来あるべき姿に戻り中なんですよ。補助してくれる栄養があったら、嬉しいかも。」


「私の領地では、パックに使えそうな、ふかふかの葉っぱがあるのよ。沢山生えて、水分を吸収して、瑞々しく、湿気を与えてくれる、地元の女性が使ってた地味な品なんだけど、エルフの森の化粧水とかを染み込ませて、お肌に合わせてパックを作ったら、良くないかしら?」

クラリスも、遠慮がちに、思いついて話してみる。

ウィエ王女が。

「パックやってみたいわ!!気持ちも良さそう!フェイシャルって、気持ちも良いものなのよね?リラックスするって。パック、用意しましょうよ!気持ちの良さも、デモンストレーションでは、体験して欲しいわね!」

と、うふうふに意見を応援する。


「私の領地では、フェイシャルや栄養に使えるものは、考えつかないわ。でもね、爪を美しく磨く習慣があるの。歳をとると、縦筋とか爪に出てくるらしくて、女達は、ヤスリになる、地元で採れる目の細かい石で、せっせと磨くのよ。爪の美容に良いっていう、木の実のクリームもあるし、薄く色づきする花も、色の種類が沢山あるわ。そういうのって、どうかしら。」

レガシィも、その土地ならではの特産を思いついた。

「「「素敵!!やってみたい!!」」」


「ビタミンCはエルフの里でも果物や樹液から採れそう!どこか一カ所に集中しないのも、生産調整には、いいかも?」

「ああ!そうよね!足りなくなったり、しそうだもの!」

「原料の安定供給、重要ですね。物によっては、化粧品なんかは、制限して売っても良いでしょうね。エステ店で使うだけのやつとか。あんまり、貴族向けだけに特化したくないから、庶民向けも色々考えましょう。」

バーニー君も、ふむふむと。


「妊婦さんの使える、匂いが穏やかで、安心安全なお化粧品も、あったら良いなってコクリコさんがおっしゃってましたけど、エルフの森や皆さんの経験から、作れるのじゃないですかね?」

侍従のタカラが、ちょちょ、と突っ込んで思った事を言ってみた。


「「「それは、良いかも!!」」」


ヴィフアートは、目を白黒させながら、女性達やエルフ達の意見を聞いていた。出自の事もあるのに、エルフ王子王女は吹っ切ったのか、飄々として、自然に頑張れている。

良いな、良いな、と竜樹の胸に顔を寄せたまま、聞いていた。

全てを。余す所なく。

聞いて、覚える。


ヴィフアートは、一度見たり聞いたりしたら忘れない、という、記憶のギフトみたいなものを持っている。

女子プロレス推進!ボクシング上等!な闘い好きすぎてレフェリーや実況をやるアルトも、一度見聞きしたものは忘れない能力の持ち主だが、2人には決定的に違う所がある。


アルトが、対戦成績や、そのバトルの流れ、文字や計算、勉強に関してその能力を使い、正の方向に楽しく使ってきたのに対して。


ヴィフアートは、怒られない、害されない、怪我をさせられない、暴力を振るわれない為に、やったらダメな事を中心に、呪いのようにダメを覚えて、そして、今まで遭った酷い仕打ちや、それをした人々の顔、表情などを、ありありと、忘れられずに覚えていた。負の記憶だ。


だけど今、ヴィフアートは、初めて覚えていっている。

希望や、未来への意見交換の色々を。

バーニー君に見出され、竜樹の側で、補佐を出来るようになるまでには、まだ、ヴィフアートは、心に栄養をもらって、ぬくぬくを沢山体験しなければならない。

今は、竜樹の胸の中。卵は、温めてやらなければ。


ファング王太子は、自分のレポートをやりつつも、こんな沸き立つ場にいられるのって、勉強になる!と、こっそり意見を足して書いておいた。勿論、領地や美容化粧品の詳細概要などは、書いていない。マナーとして。

ただ、竜樹の周りで、3王子や弟のアルディ王子と一緒にいると、楽しくて未来が明るい気分になるのだ。


帰って是非ともお父様とお母様に、伝えねば!

フンス!と意気込み、レポートも熟しつつあった。


クレール爺ちゃんは、ニコニコしながらも、実演の場では、女性に主に参加してもらって、男性は遠慮してもらう事やーーーエステ組の心理的な負担を慮ってーーー実際の運営や器具の調達について、黙っていながら、目まぐるしい速さで考えを巡らせていた。

興奮する。だから、竜樹様の仕事の案件は、楽しくてやめられないのである。

ぽふ、とレポートも完成しつつあり、飽きてお膝に座ってきた、孫のニリヤ王子を愛でながら。

この収穫祭での実演、必ず成功させてみせる!と拳を握るーー代わりにニリヤを撫でた。


成功への意気込みは、ここにいる者全員、皆、同じ気持ちで。


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