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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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458/692

半分こ


ジェム達を新聞販売所への出勤、見送ると、残りは後から入った組と小ちゃい子組、王子チームとなり。それぞれ押し花のお仕事や、後から入った子組の中で大きい子達は、新聞販売所へ働きに出るための、お金の計算のお勉強や、文字、接客について反復学習を始めた。

その中でも、9歳の男の子、プーリュは、左手の親指が無いのだが、養ってくれていた片腕の情報屋、モルトゥと、先天的に喪失している腕指を、少しずつ作っていくお試し治療に。侍従のユミディテが引率に来て、連れていく予定で、そわそわしている。


「竜樹お父さん。指、ほ、ほんとにできる?治療にお金、使わせて、ご、ごめんなさい。」

プーリュは、ごめんなさいが口癖で•••いつも苦しい所にいて、周りの人に許して欲しい気持ちがあるから、どうしてもつい言ってしまう。

竜樹はプーリュの前にしゃがんで、ギュッと抱きしめてやり、ポンポン、と背中を叩いた。

「良いんだよプーリュ。指が治ったら、きっとプーリュも、不便が少し減るだろうよね。嬉しいよ。そうしたら、ありがとう、って言って、竜樹とーさに教えてね。さあ、ユミディテが来た。モルトゥとユミディテと行ってらっしゃい。(帰りに何か、内緒で美味しいものを食べといで!)」

銀貨を1枚、お小遣いに握らせて、ポポッと頬を赤らめて遠慮がるプーリュを促してやる。

モルトゥも、何となく照れくさそうに、もそもそやって来ると。

「じゃあな、竜樹様、行って来る。」

と一応、ペコンと頭を下げた。

ユミディテが、満々の笑顔で2人をお医者に連れて行く。


王子チームは、床にレポート用紙を置いて、自由に書ける大きめの用紙ももらって、まずはそれに、どうレポートの内容を攻めていくか、書き留めながら自由にディスカッションしていくらしい。ファング王太子は、腹ばいに寝転がって鉛筆と尻尾をふりふり。皆して円になっている。


元花街組、いや、もうその名前で呼ぶのは竜樹も遠慮している。これから6人は新しい生活を送っていくのだもの。

エステ組とヴィフアートは、押し花のお仕事を、ひとまずお手伝いする?と、ラフィネかーさ達と床に新聞紙や、材料のお花などを出して、準備していた。


もじもじ、としていたヴィフアートは、瑞々しいお花を、コロリ、と指先で弄りながら。


「竜樹様•••エルフのロテュス殿下って。」

「ん?」

なんだい?と聞く気持ちで。テレビ局の入社試験、撮影して応募された作品を評価する番組の、下準備を、長くしている竜樹は、道具をちゃぶ台に並べていたが、身体をちゃんと移動させてヴィフアートに向き直って。言ってごらん、と促した。


竜樹だって分かっている。

子供の頃、攫われて、それから碌な生育環境でなかったヴィフアートが。やっと頼れる安心できる場所で、見た目年齢よりも今はずっと幼く逆行していて、竜樹の元で育ちたいんだ、心を療養させて、栄養を貰って、傷だらけの心をふくふくになるまで、手を当てていて欲しいんだ、なんて事は。


「女性の方なんですか?テ、テレビでチラッと見た時は、あんまり女の子っぽくなかったけど。」


んん?とニリヤが竜樹とヴィフアートを気にしている。


ヴィフアートは、花街出身のラフィネ母さんと竜樹が恋仲なのは、嬉しかった。何だか、自分も許される気持ちがして。はっきり女性だし、お父さんは、お母さんと夫婦なものだ。ラフィネに、お母さんらしい、許されるような、ヴィフアートにも優しい包容力がある。

だけど、高貴な身分の、美しいという、瑕疵のない子供のエルフが竜樹の隣に立つ、というのは、何だか。

気持ちが、モヤっ、イライラッ、とするのである。


クシャ、とヴィフアートの髪に手を入れて撫でながら、竜樹がのんびり応える。嘘もダメだし、誤魔化しもダメだ。そうして、ちゃんと、ヴィフアートを思ってるよ、大丈夫だよ、って安心をあげなければならない。

「ロテュス殿下はね。エルフで、まだ子供だから、男でも女でもないよ。将来、なりたい方になるんだって。まだ、俺と子供を作りたいか、パートナーになってバリバリ動きたいか、決めかねてるんだってさ。一応、王子って事にはなってるけどね。ヴィフアート、何か心配かい?」


男にも、女にも、なれる。

それは、やっぱり、完璧って事じゃないか?

私とは違う。私、私なんか、穢れた、身を売る、女でもない、とうのたった、価値のない、雑用係のーーー。


しゅーん。

頭を俯かせたヴィフアートに、どうしたどうした、と竜樹は寄って、胸に抱いて、ポンポン。

欠けた器に、傷に沁みて、それが盛り上がり、跡になり。痕跡は残ったとしても、愛情というものが、注いでもじゃあじゃあ穴から溢れなくなるまで、治るほどに。

今は、注意深く、ゆっくりと、手当て、愛を注いでやらなければいけないのだ。


ふにぃ、と鼻を鳴らして、ヴィフアートは頭を竜樹の胸に擦り付けた。

離れたくない。離れたくない。自分にその資格がなかったとしても、この胸の中から。


こんな時、後から入った子組や、小ちゃい子組達も、どこかで寂しい思いをしてきているから、大人なのに変なの!なーんて言わずに、ただ黙ってヴィフアートが甘えているのを見守る優しさがあった。

王子達も、分からないながら、自然にこの癒しの作業を見守る。

ニリヤが何か言いたそうだ。


ヒュン!

キラキラ!

と空間が光って、転移してきたのは、エルフのロテュス殿下と弟妹達。チームエルフである。


とう!

「おはようございま〜す!皆さん!竜樹様、エステ事業の先頭に立ってくれる女性達は、どこですか?ロテュスが、ご挨拶と、お話に参りましたよ!」

「私たち、森の美容化粧品には、詳しいわよ。」

「今日は粗く話をして、こちらでも、中でも詳しいエルフと繋ぎますからね〜。」

「わ、私もできる事があれば、何か。」

ロテュス殿下、ウィエ王女、エクラ王子、カリス王子。


ヴィフアートを、胸に抱いてポンポンしていた竜樹に、ロテュスは、全くその状況を気にせずーーだって、竜樹様は皆を癒す人じゃない?あるある!ーータタッと駆け寄り。

ウフッ、と片腕に手を絡ませて、邪魔はせずに頭を擦り寄せた。


ム、ムムムーッ!


ヴィフアートは、何でこんなに腹が立つものか、分からないけれど。

ムギュ!と竜樹に抱きついて、ギン!とロテュスを睨むと。

「お、お前!この、エルフ!ちょっと、う、美しいからって、良い気になるなよ!!」

ガガガオ!と噛みついた。


確かにロテュスは、人ならぬ美しさ、流石にエルフの中でもたおやかなヴェルテュー妃と、流麗なリュミエール王の間に生まれたエルフである。

んん?キョトン、としたロテュスは、怒りもせず。

「あ、ありがと?君も美しいね!」

と無邪気に笑った。


「褒めてねーんだよ!」

ぐぎぐぎぎぎ。

相手にされない、というのは、増して腹立つものである。

「俺は竜樹様に、や、優しくしてもらってるんだから!一生懸命に働いて、お助けするんだ!」

この間、竜樹は、どうしたもんかな、と思ったが、案外ロテュス王子が落ち着いているので、少し静観である。よしよし。ヴィフアートの背中を撫でて落ち着かせてやりつつ。


「ああ!そうだよね!」

ニコッ!とロテュス王子は笑う。

「何がだよ!」


「竜樹様は、とっても魅力的な方でしょう?あなたも、助けてもらって、きっと力になりたいんだね。分かる分かる!何となくそんな気持ちにさせちゃうんだ、竜樹様って。エルフ達もそうだもの。お気持ちが、でっかくって、優しいの。仲良くしようね、私はロテュス、竜樹様の、は、伴侶になるエルフだよ!」


ん、ん、ん、んもう!!!


ヴィフアートはカリカリして。


そこへ、ニリヤが、腹ばいからスクっと立って、たかたか!と駆け寄ってきた。身振り手振りも大きく。


「アーにいちゃん、ししょうはね、ロテュスでんかがいないと、さびしいよ。だいじょぶ、はんぶんこ、だいじょぶよ。ししょうのおせわをするのは、とってもたいへんなの!みんなが、おてつだいするのよ?アーにいちゃん、おにいちゃんとして、ししょうのおせわ、とっても、きたいしてるから!ちからを、はんぶんこよ、かしてほしいの。ロテュスでんかと、アーにいちゃんで、なかよくはんぶんこの、ししょうよ!」


んんんん?


ブハッ!!と護衛で王弟のマルサが噴き出して、声もなく、うくくくくっ!と震えて笑っている。


『赤ちゃんも、お母さんがいないと、寂しいよ。大丈夫、半分こでも、赤ちゃんを育てるのは、とってもとっても大変!皆が手伝って、赤ちゃんは育つんだ。ツバメだって、そうだろ?ニリヤの事、お兄ちゃんとして、すごく期待してるから!力を、半分こ、貸して欲しいな?どうかな、ニリヤ。』


確かね、言いました。ニリヤが、ルゥちゃんを、自分の赤ちゃんなのに、コクリコお母さんに、とられちゃう!って思った、その時に。竜樹が、噛んで含めるように。

ニリヤよ•••まあ、何だ、大きく間違っちゃいないんだけどさ。


目を、くり!と大きくして驚くヴィフアートに、ロテュス王子は、くふん!と楽しそうに笑って。


「そうだね!半分こしよう。竜樹様はおっきいお方だから、お世話が大変なんだー!それがまた、嬉しいんだけど、君がお手伝いしてくれたら、もっと嬉しいよ。助かるなぁ。」

何とも。エルフの大らかさに、ヴィフアートが敵いっこないのである。

ラフィネも見守りつつ、くすす、と笑っている。


「アーにいちゃん!おにいちゃんは、いつまでも、おちこんではいられない!のよ!げんきだして、がんばろ!」

ニリヤの激励に。


むぐー。

何となく、そう、取られちゃうんじゃないか、って。ヴィフアートだって思ってたのだけれど。

この大らかなエルフと、胸のあったかい竜樹様は、半分こでも、充分にヴィフアートを温めるかもしれない。うん、かも。そうかも。

ちょっと面白くないけど。


「分かった•••ニリヤ殿下が、そうまで言うなら。半分こ、半分こな。よろしく、お願いします。」

おずおずと出す右手を、ロテュス王子は、ギュッと握って、ふりふり。

「よろしくね!」

笑顔で。


ああ〜。

こういう子だから、竜樹様は側に置くんだし、ラフィネさんは許すんだし、複雑だけどさっぱりした、いい関係なんだわ。

ルーシェ達エステ組は、うんうん、うん、と納得して、ただただ、頷くのだ。


そして王弟マルサは笑いすぎである。

「竜樹のお世話、ひひっ、くくく、確かに大変!!俺も他の護衛達と、半分こしてるぜぇ、くふふっ!」

ひーひー、あー笑う!


もー、わらうなぁ!

とニリヤがマルサ叔父様へポカポカしに行って、ごめんごめん、なんて謝って。

ロテュス殿下との対面は、人となりも知れて、まずは和やかに始まりそうなのだった。


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