表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

453/692

床で、膝を抱えて、5人と1人


ひっく、えぐ、ぐすっ。

「す、好きな人と、一緒になるんだって、するのは特別な仲良しの事なんだってぇ、言ったぁ!」


うんうん。うん。


ぐす、えっ、えっ。

「なのに、傷ものだな、は、花街に、行けって、急に態度が、か、かわって、ひっく。」


うん、うん。


えぐ、えく。

「嫌だったぁ!知らない人と、す、するの、すごく、こ、こわくて!」


うん、•••うん。


うえぇえ、ひっく。

「お、お父様、たすけて、って、言った、言ったのに、ふしだらだ、ってぇ。お前は死んだことに、す、するってぇ。」


うん、うんうん。


わぁん、うぇえ、ぐしゅ。

「嫌だった、ね、ねたくない、辛くて、だ、だれも、助けてくれない!」


「うん、•••ごめんね。酷かったね。」


うええぇぇぇ〜ん、ひっく、うええぇ〜ん!

「•••!!!!もう、やだ、や、うわぁん!」


ポンポン、ポン。

背中を叩く手は、限りなく優しい。温かくて、少し湿っていて、そんなに大きくもないのに、包み込んでくれるよう。


スーシェは号泣も号泣、未だかつてないほど、喉が枯れるほど、咽び泣いた。周りの4人の花、ミェイル、リュネット、クラモワ、レガーメも、何だかぐずぐず泣いて、わんわん、酷い有様になっている。口々に。


「こ、こんなことするのは、き、君だけだよって、言ったぁ!結婚、し、しようねってぇ!」

えぐえぐ、ひっく。

「恥晒しだって、い、今まで、自慢の、頭のいい、ひっく、娘だって、言ってたのに、やっちゃったらそれだけで、それ、だ、け、で!うぇぇ!」

ぐすん、うわぁぁん!

「い、妹は、身持ちが、かたくて、よかったってぇ!お前なんか、どこにでも、い、いっちゃえ、ってぇ!」

ひん、ひん。

「死んでしまえ!って、お、お母様にぃ!」

うわぁぁぁん!


「男と、ね、ねるの、慣れてきちゃって。どっか壊れたみたいに、へらへら笑えるのよ。」

「無理矢理が好きなやつとか、死ねばいいのに!」

「べ、勉強してないと、なんか、気持ちが死んじゃいそうで。」

「あんな事言われたのに、助けてお母様!って、夢をみるの•••。」

「夢なんじゃないか、目が覚めたら、お家にいて、お父様やお母様が、笑って、って•••そんな気分の時に抱かれるのは、苦痛で、叫びたいくらいで!」


ひん、ぐすっ。

落ち着いてきた花達は、気づけば床に座る竜樹の胸元に、5人して座り込んで寄り添って、身を揉んで。嫌だった事を全部ってくらい、吐き出していた。


ぐす。ぐす。

もう充分泣いたわ。なのに竜樹様の手が離れるのが惜しくて、元気になれないわ。

スーシェは気を取り直したかったけれど、何だかボーっとして。もう、父も母もしてくれない、ただの、いやらしい意味のない、温かい抱擁から、抜け出せなかった。


ゴホン、とサテリットのおじいちゃんが、咳をする。

「罪深い事を、許してくれとは、言えまいね。サテリットのじいちゃまからも、若い花も実もある女性に、申し訳なかったね、って、謝りたいよ。•••エステサロンは、女の人が主にお客様だと思うよ。男性の方向けの脱毛、全身美容のお店はまた、そのようにエルフ達と作ろうね。ねえ。このサテリットのじいちゃまが、頼むから、こんな辛い勤めは辞めて、エステサロンに再就職しないかい?一生懸命働けば、その分やりがいのある職場にも、しようよね。」


くすん。

スーシェは、ようやっと竜樹の胸から頬を離した。

「私たち、ふ、普通の、生活ってやつ、ほ、放り出されてもで、できないわ。ご飯も作れないし、お洗濯も、できない。お、お部屋の片付けは、できるようになったけど、基本的に、花街みたいな、住み込みで何でも用意されてるとこでしか、い、生きた事がないですもの。ひっく。ここに来る前は、もしかしたら、貴族だし。」


ブハ、とマルサ王弟殿下が噴き出した。

「ここでも、もしかしたらなのかよ。サテリットのお祖父様、何か考えがあるのですか?」


スーシェ達が泣いている間、どんな顔をしたら良いか分からない、とソファで、立ち上がろうか座ろうか、そわそわしていたマルサ王弟だったが、気がやっと向いてきたスーシェに、ホッとしたようだ。


「そうだねえ。寮を作ろうよね。ご飯や洗濯は、段々やれるように、寮母さんを雇って、補助をしてねえ。」

サテリットのおじいちゃんが言えば、竜樹も。

「洗濯は、洗濯機、ってやつを魔道具で作れば、洗剤入れて水をホースで繋いで、洗って濯いで絞るとこまでは自動で出来るようにしませんかね。干す時、ぱんぱんって、シワを伸ばして干しさえすれば、ちょっとくらいやり方が違ったって、大丈夫だし。おしゃれ着は、そもそもクラージュ商会のクリーニングで良いですしね。その服の見分けかた、とかも、親切に一から教えてくれるような、面倒見の良い寮母さんを、複数置きたいですね!エステサロンの寮にはね!あと料理はね、好きずきだけど、簡単メシから、習いたい人は、ちょっと凝ったものまで、寮母さんと一緒に作れるといいよね。自分で選べて、好きに出来るように、台所を解放してー。」


おお、おおう。

これが怒涛の、竜樹様の知識か。

確かに、魔道具でそこまでやってくれれば、干すのは出来るかも。料理だって、やってみたい。


「思ってたけど、洗濯用品も色々作りたいんだよね。針金ハンガーとかでいいんで、こちらの場所を大きくとる、紐に引っ掛け干しから、狭い所でもいっぱい気持ちよく干せるような。幾つも洗濯バサミのついてる、沢山干せる、四角い洗濯ハンガーなんかも、あったら下着や拭き布が干しやすいじゃない?そういやこっちにはタオルが無いけど、タオル地、織り機を魔道具で作れば出来るんかしら。ふっかふかの、拭き布なんだけどさ。この夏タオルケット欲しかったなぁ。」


おお?おお、おおう。

入り口で待機している侍従、タカラがメモメモしている。


「生活の事はね。ギュッと押し付けられてやるのでなければ、見方を変えれば楽しみにもなります。自分で身の周りの事が出来る、って自信になるし、気が向けばジャムを煮たり、そんな穏やかな生活と、キリッと働くお仕事の提案を織り交ぜて、どうですか。女性の職場で、難しい事もあるだろうけど、今までも女性の職場だったのだし、相談にも乗るから。」


ぐす。

「肝心の、エステサロンでは、実際どんな仕事をしますの?」

うんうん、それが一番心配。

スーシェ達にも、出来る事?

頑張れば、やれる?


「エステは、え〜っと、こちらの資料をご覧下さい。俺のいた世界のエステはこんな感じ。」


痩身エステ、ダイエット

フェイシャルエステ

脱毛

バストアップ

リラクゼーション

アロマテラピー


あと、エステじゃないけど、ネイルも、メイクアップも、ヘアケアも素敵でいいかな。


「他にも色々あるけど、あんまり特殊じゃなくて、エルフ達の知識や魔法と合わせて、あと皆さんの美容術や化粧法で、できそうなのが、この中でもあるだろうと思うんだ。あとね、大事にして欲しいのは、一時的に綺麗にはなれるけど、健康に悪かったり、キツすぎるものは、取り入れないで欲しいの。身体も心も、健やかに豊かに美しく、でね。」


確かに花街での美容は、この一夜限りの続けてやっちゃいけないやつ、なんてのもある。ダイエットだって、決して健康には良くないものも。


「心も身体も、健康じゃないと、結局、お肌が荒れたりするでしょ。基礎を整える事を土台に、そこからお化粧、でね。だから、皆さんも、沢山寝て、食べて、動いて、心安らかに、健康的にならないとだよ。エステサロンのエステティシャン、施術をする皆さんが美しくなかったら、説得力がないでしょう。」


美しく。

沢山眠れる。

健康的に。

5人は、指をもじもじし出す。夢だ。それは、夢じゃないか。


「そして皆さんにやってもらいたいのは、技術の習得と、エステサロンの立ち上げだよ。サロンは一つじゃない。一つのエステサロンで、全部やらなくてもいい。2分の1健全化するんだもん、花街改め、半分美容の街になるくらいでいい。特徴を作って、お客様が選びやすいようにする。貴族の女性目当ての所や、平民向けのカジュアルなもの。結婚前に美しく、の、ブライダルエステ、なんてのもあったらいいじゃない?分からない所から、これができる?あれがいい?って、この世界なりのエステを創り上げていく。その、先頭をきる5人となって欲しいんだ。沢山勉強しなきゃだけど、やりがいもあると思う。エルフとも、仲良くして話し合いしてね。」


私たちが。先頭きって。

仕事を任される。

認められる。見込まれる。

信じてもらえる。


ふわ、と熱く胸が浮き立つ。

それと共に、不安が。


「で、できるかしら。」

「私たちに、できるかしら。」

「不安よ。」

「でも、でもでも、やってみたいわ。」

「お化粧なら、美しくなるための色々なら、毎日やってるもの。」


ニコ、と控えめに笑った竜樹は。

「大丈夫。まずは、普通の生活に慣れていきましょう。少しずつ、やれる事を増やしていこう。では、今日から花街は出ていける?」

マルサ王弟も、サテリットのおじいちゃんも、ニコニコのニコだ。


え。


「きゅ、急ではなくって?竜樹様?」

うんうん、と5人が頷くけれども。準備というものもある。心も、荷物も。


「このまま、何日か花街で待機、なんてさせないよ。その間、お客様をとらずにいられるかい?お店にいたら、現場は、なし崩しだったりするでしょう?今日、辞められるって話をしたのに、まだ我慢して夜を過ごすだなんて、そんな夢のない事を、させられないよ!皆、新聞寮にとりあえずいらっしゃい。個室も空いてるし、交流室で、子供達と寝ても良いしね。」


あ。お客様。

スーシェ以外の4人は、あー、と低く声を出す。

確かに、この話のあと、花街のおつとめは辛すぎる。


子供達。

ふ、とスーシェが、揺れる目をした。

「子供達のいる、新聞寮に、呼んで下さるのね。う、嬉しいわ。嬉しいわ。赤ちゃん、男の子の赤ちゃん、触れるかしら?」

泣いて赤く腫れた瞼を擦って、ぐす、とハンカチをドレスの胸元から出し、どこに入ってたんだ、というマルサの素朴な疑問は置いといて、ぐしゃぐしゃの顔を拭いて。

もじ、もじ。


ん?男の子の赤ちゃん?

限定?

と3人の男達は思ったが、素直に応える。

「男の子の赤ちゃんは、ツバメくん、っていう、5ヶ月の赤ちゃんがいるよ。今はねぇ、コロコロンて、寝返りするよ。他にも、転移魔法陣で繋がってる孤児院に、よちよちのラマンとか他にも。赤ちゃん好き?」


好きっていうか。と、スーシェは口籠ったが、そっと呟く。

「わ、私、赤ちゃん産んだの。お、お客様で、孕ませるのが好きな人、っていうのがいて•••下衆よね•••私、気に入られたのね。赤ちゃん、男の子だった。面倒は見てくれるのよ、そのお客様。ちゃんとした外に貰われて、仲の良い、1人跡取りがいる商人夫婦に。すごく、家族、幸せそうなんだって。お客様の情報渡す代わりに、ミニュイの旦那様に、産んだ子の情報もらってんの•••。」


あ、ワルの本当のトップなミニュイの旦那様と、繋がりあったら、エステサロンで信頼されないかしら?


未だに床に膝を抱えて座り込んで、花の5人も竜樹も、円になって、しみじみと話を続ける。スーシェはベタベタの溶けかけ飴を、手にくっつかないように片手にギュッと握ったまま。


「いえいえ。ミニュイさんとは知り合いでして。花街2分の1健全化計画も、ミニュイの旦那に話を通して、とっても乗り気でオーケー出してくれたよ。いつまでも悪い奴らが、いかにもワルではやってけないし、成人向け写真集や映像パックに、注力もできるから、って。」

むっふっふ、と笑った、クレプスキュールことミニュイの旦那の、凄く嬉しそうな顔を思い出す。

竜樹が話をしたら、心から嬉しさが滲み出る、って感じで、背中をバンバンされ。

「花街を牛耳る大店主には、話を通しておくから、好きにやってみなさいね。大店主に金を出させようよね。サテリットのお爺様にお頼みおし。確かに、これからは、半分健全化するのが流れとしては良い時代だよ。花街が少ない客を、店同士取り合う前に、手を打てて、大店主もほくほくだね。」


女性達には、にっくき男どもの金を自由に使って、幸せ掴み取りなさい、って伝えてね。

ウフフ、といつもながらに、お歳を感じさせずに、白髪にラベンダーのメッシュが、色っぽく幾らか、落ちて。


「ツバメくんを、抱っこしてやってよねえ。スーシェさん。」

「!ええ、ええ!わ、私でも、抱っこできるかしら•••。私、名前を言っていないわ。竜樹様は、人の名前も分かるの?」


まさか!

「失礼ながら、ご実家かもしれない貴族のお家を調べる際に、5人の特徴も調べさせていただきました。だから、多分、かな?って。スーシェさん。もしかしたら、ご本名は、ルーシェさん。お兄様から、亡くなったはずの妹へ、お手紙を頂いています。」


ミェイルさん。本名、ミィルさん。

落とし屋に騙された娘を、格上の貴族の縁談を蹴ったために処分してみせなくてはならなかった、ご両親から、亡くなった娘へ、一通。


リュネットさん。本名、リュネルさん。

勉強好きで研究室へ推薦を頂いていた後見の方に、落とし屋に誘惑されたと、ご領地ごと怒りを浴びないよう見捨てるしかなかった娘へ、一通。



クラモワさん。本名、クラリスさん。

本来縁談を受けたご相手の貴族へ、スライドして嫁いだ妹さんから、亡くなった姉へ、身体を案じた一通。


レガーメさん。本名、レガシィさん。

一時の怒りで切り捨てた娘へ、後悔の毎日を送っている母から、亡くなったはずの娘へ。


「切り捨てた方も傷ついた、などと言うつもりもありませんけど、全てから切ったようで、ずっと思っていた人もいた事、知っても良いかな、って。」


もう捨てた過去かもしれない。

でも、過去からの手紙を。

「気持ちが落ち着いたなら、読んでみても、良いかな?って、お勧めします。」


お兄様のお気に入りの封筒。


懐かしいお父様とお母様の、震える字。


お母様の手紙に付けられた、いつものお香の匂い。


大分上達したのに、癖は変わっていない、妹の字。


どこか湿って乾いたらしい、ボコボコした封筒に、滲んだ母の筆跡。



「竜樹様•••。」

「私たち、これを読んでも、良いのかしら?」

「また、怒っているのじゃない?」

「お家を、貶めたって•••。」

「関わってくれるな、って言ったのに、って。」


ふんわり笑った竜樹は、5人の頭をそれぞれ、ふわ、ふわ、と撫でると。

「勇気を出して。過去は過去。だけど、納得がいく。それだけでも、価値があるから。」


まずはスーシェから、べりり、糊付けされた封筒を開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ