番組を見ながら、応援してる
【番組放送時】
ブルーヴェール侯爵家では、息子のマール青年と、父のヴィーフが、声もなくテレビを観ていた。
胸が切ない。気を抜くと、ふ、と声が漏れてしまいそう。泣きそう。
何でこんなにぶっちゃける。
こんなに身を切らなくても、良いじゃないか。色々な事を、隠したって。
コクリコという娘さんも、その産まれるだろう赤ちゃんも、何で。
画面の中では、コクリコが笑っている。
そして、男2人にとって、今まで曖昧な知識であった女性の事が、『あかちゃんがうまれるしくみーおんなのこと、おとこのこのちがい』によって明らかになったのは、良かった、と言えるだろうか。
少なくとも、女性は、理想の中の夢のような存在ではなくて、それぞれ生きていて、生理や不妊に悩んでいたりもして、自分達と同じ世界線に、1人1人がしっかりと存在しているーーー。
ありありと、それを、見せつけられたような気が、マールもヴィーフもしていた。
そしてコクリコのお腹の中が、今、身体スキャナで。オリーブ女史によって、説明される。
『はーい、ゆっくり見ていきましょう。もう産まれてもいい時期なので、子宮が大分下がっています。胃や心臓への圧迫が消えて、スッキリ楽になってきてるはずですよ。この時期に、食べ過ぎて太っちゃうと、お産が大変になります。皆も想像してみて。太る、ってことは、赤ちゃんが出てくる道が、狭くなる、って事になるね。そこにも脂肪がつくんだもんね。窮屈な道を通る赤ちゃんは、大変じゃない?苦しくて、なかなか通れない!だよねー。でも、だからって食べないのも、ダメよ。赤ちゃんもお母さんも、栄養が必要ですよ。バランス良く、しっかりと、適量を、です。膀胱、おしっこを溜める所が、大分窮屈に押しやられているのが分かりますか?赤ちゃんに蹴られて、ちょろ、とおしっこが漏れたりしちゃう事も、あったりします。だから、この頃の妊婦さんは、布ナプキンを当てておくと良いですね。おしっこ漏れるなんて、赤ちゃんみたい?笑っちゃダメよ。恥ずかしくないんだよ。大きな赤ちゃんがお腹にいるから、仕方ない事なんですよ。はーい、子宮の中です。赤ちゃんを、断面図じゃなくて、立体で外側から見たような感じで見られるモードにしますね。その方が、赤ちゃんの可愛さを、充分みんなが分かってくれると思います。』
ふわわわぁ。
ヴィーフが、ポワポワと頬を上気させ、あわわ、と唇を震わせる。目は感動の涙で滲んでいる。
魔法によって、身体スキャナで鮮やかに画面に映し出されたお腹の中の赤ちゃんは、頭を下に向けて、まあるくなっていた。
瑞々しくて、薄い肌、何かクリームみたいにくっついていて、生々しい。でも、いかにもできたて!だ。
もぞ、と時折動く。小ちゃなお手てを、握ったり、開いたり。良くできてる、やっぱり小ちゃな足を伸ばしてみたり。指には、ちんまりとした爪もある。頭には、コクリコと同じ黒の髪が、うっすら生えている。瞼が薄くて、きゅ、と瞑ったその中の瞳は、何色だろうか。お腹からは、臍の緒が胎盤に繋がっている。
ふわぁああ!
検証中の子供達も、わあっと歓声を上げた。
マールも、あ、あ、あ、と喉から声が出そうだった。
何で赤ちゃんを見るだけで、こんなに胸が熱いんだろう。生命がそこにある事が、こんなにも。
ヴィーフは、ほろほろ、泣いている。
「うっ、ふっ、うっ•••!」
「•••うっ、うん、ゴホン!感動し過ぎでしょう、父上。まだ産まれてませんよ。」
自分の動揺を隠したい気持ちもあって、マールは父ヴィーフに、そんな事を言って咳払い、諌めてみたが。
「だって•••だって、あんな小さいのに、生きてる。お腹の中で、あんな風に。かわいいね!かわいいね!」
ズビッ、と鼻を啜る。
侍女がハンカチを持って、ヴィーフに渡した。その侍女も、感動したのか、目が潤んで頬が赤らんでいる。
「マールもあんな風だったんだよなあ。お腹の中までは見られなかったけど、きっと、あんな風に、キャローレンのお腹の中で、10つ月も大事に育てられたんだ。」
うん、うん、とヴィーフは微笑み、嬉しそうである。
うっ。それを今言う。
何か泣けてくるだろ、とマールは、グイッとワインを飲んで、お代わりを侍女に要求した。どさくさに紛れて目尻の滲んだ涙を拭う。
まだ、産まれてもないのに、泣くのは早すぎる!!!
『これからコクリコお母さんは、お産をします。産まれるよ!ってお印は、どんなものだと思いますか?分からないねー。陣痛、っていう、お腹に痛みがやってきます。生理痛みたいな痛み、って言っても、みんなは生理痛きたことない人が多いか。お腹重いなー、痛いなー、って、下しちゃった時みたいに痛いかな。最初は、我慢できる痛みで、それが、段々と強く、そして、痛みには波があるんだねえ。痛くなりっぱなし、じゃないの。痛い時間、平気な時間、また痛い、って、痛みがやっぱり、段々と間隔が狭くなっていきます。破水、って言って、お腹の中の赤ちゃんがいる羊水が、ぴゅっ!て出てきます。子宮の入り口が、開いてきます。赤ちゃんが通れるようになるんだよ。それが、全開、竜樹様のお国の測り方で、10センチになったら、もう、いきむ!お腹に力を入れて、赤ちゃんが出るように、ふんばる!でも、息を止めて、長くいきんだりしないんだよ。呼吸法ってのがあります。赤ちゃんの頭が出たら、いきんじゃだめ、とか、難しいねえ。この辺は、竜樹様のスマホで見られる情報からも、いっぱい勉強しました。私たちに昔から伝わる方法にも良いものがあり、新しい知識にも良いものがあります。その都度、周りのお産婆さんやお医者さんが、指示もしてくれます。赤ちゃんが出る時、おまたが裂けちゃう事があります。そうならないように、前もって、少し切っておくと、酷く裂けたりしません。そこは、後で治すよ。』
子供達は、初めての情報に、赤ちゃんの映像に、目が釘付け、へええー!である。
マールもヴィーフも、ヘェ〜!だ。
『さて、自然な分娩はそんな風だけど、お産にも色々あります。赤ちゃんが大きすぎる。小さすぎる。早く出過ぎちゃった。難産でなかなか出てこない。お腹を切って出す安全なやり方を、竜樹様の協力で、確立しつつあります。お腹の中で、臍の緒が首に絡みついてる。魔法で動かして、解いてやらなきゃね。頭が下になってない。逆子って言って、赤ちゃんの腕が引っかかったりして、なかなかスムーズに産まれません。頭を下にする方法、色々あります。陣痛がこない、破水しない、もう、本当に、色々ある!』
うんうん、うんうん。
ヴィーフが真剣に頷く。
あの時、竜樹様が教えてくれた方法があれば、キャローレンは助かったかも。悲しく、そう思えるけれど、間に合わなかったものは、もうどうしようもない。せめて、これからの赤ちゃんとお母さんに、良くあってくれたら、と、グッと手を握る。そして番組を見る。
『皆は、コクリコお母さんのお産に、出来るだけ関わってもらいます。もし、危険になったり、いよいよ出産て時には、別室で、モニターを見て、応援してもらうよ。血も出るから、見てて具合が悪くなったり、見てられない!ってなったら、無理しないで、見えない所に行ってね。大人の人に、辛いです、って教えて。だけど、良かったら、コクリコお母さんの出産を、見届けて、応援してね。』
はーい!!!
『応援、するーっ!!』
ニリヤ殿下が、大声で、お手てを上げていた。
マールの右手も、ピクッとしたが、まさか、はーいと上げられるはずもない。でも、応援している。マールと、ヴィーフも。
いや、この出産ドキュメンタリーを観ている、色々な家の人々が、今。
コクリコの出産を、見つめて、真剣に、応援、している!!
話のキリの良いとこなので、短めご容赦でございます。




