陣痛のはじまり
「ただいまー!コクリコおかあさん、どんぐりブローチつくってきたよー!にんぷさんの、あかしだよ!」
「お帰りなさい!ニリヤ殿下。まぁ!かわいいブローチですねぇ。ネクター殿下、オランネージュ殿下!竜樹様も、お疲れ様でした!ファング王太子殿下も、アルディ殿下も、お帰りなさい!」
翌る日、午前中。
寮で出迎えたのは、新聞売りに行かなかった小ちゃい子組達に、ラフィネ、やエルフのお手伝い、ベルジュお兄さんマレお姉さん。
そして、ニリヤが下腹に抱きついて、どんぐりブローチを見せているのが、妊娠中のコクリコ嬢。お腹はぽんぽこりんで、もう生まれても良いですよ、と言われて、毎日をドギマギ過ごしている。
「お帰りなさい、殿下達、竜樹様。マルサ王弟殿下が、日帰りって言ったじゃん!ってすっかり拗ねて、昨日はやけっぱちに、一日中子供達と遊んでくれましたよ。」
「あっ、ラフィネ!何でバラすんだ!」
マルサがぽっぽと頬っぺたを赤くして唸る。王弟殿下であるマルサは、竜樹の護衛筆頭なのだが、身分もあるので、今回はワイルドウルフへの随行を遠慮したのである。3王子達が、友達気分で、ファング王太子とアルディ王子にくっついて訪問するのとは、ちょっと意味も違ってくるので。
勿論代わりの充分な護衛はつけたし、何しろレザン父ちゃんとエタニテ母ちゃんがいるから、安心ではあった。
その2人眷属と息子デュランは、王様と王妃様に竜樹達が報告している間に寮に帰り、すでに子供達と遊んだり寛いだりしている。
うん、神様の眷属達には、なるべく堅苦しい事抜きに、自由にしていただきたい。
「俺は絶対、泊まりになるんじゃないかなぁ、って思ったんだよ!だってギフトの竜樹が、初めての国外だろ!?ワイルドウルフだって、歓待して引き留めたいだろ!それにあのボクシングの映画だろ、闘神様の顕現だろ!?やっぱりどこ行っても竜樹だな、って思ったね!酒盛りの様子は放送されたし、まあ竜樹は魔道具でノンアルだったみたいだけど、ってそれも大分話題になってたぜ。俺もすごく聞かれた。酒を飲みたくない奴って、案外いるのな!」
「ウンウン、マルサ、置いてって泊まってきてごめんよ。予定外の外泊はしても、浮気はしていません。」
胸に手を当て、わざとらしい神妙な顔の竜樹に。
「何言ってんだ、ばーか!アッハッハ!!」
バシン!とその背中を打って、やっぱり竜樹がいた方が張り合いがあるのか、少し機嫌が良いマルサである。
「ぼくたち、おとまりして、さっきまでブローチつくってたの。これ、ぼくがつくったんだよ!」
「まぁ!殿下が?素敵ですわね。これ、私に下さるの?」
どんぐりブローチは、小さなどんぐりが、大きな丸いどんぐりに寄り添って、焼き串で細かく、お目々とお口も描かれている。いかにも子供が作った意匠のそれを、コクリコは温かく受け取り、その場で胸に付けて見せた。
「どうかしら?似合います?」
ムフッと笑ったニリヤは、にあうー!とその場でお手てをひらひら、ぴょんぴょこ踊った。
「私達も作ったの。私はパージュお姉様にあげようと思うんだ。」
ネクターのは、木片に布を貼り付けた本と、楽譜があしらわれた、なかなか細かい細工。バラン王兄の婚約者、図書館勤務のパージュさんにあげるのだ。
「私は、マルグリット母様に。そろそろ妹とかできても、良いと思うんだ。」
「なるほど。2人ともなかなか上手だな。」
「ねえ。お上手ですね!」
マルサにラフィネと褒められて、満更でもなさそうな王子2人である。
竜樹は後で、自分が作った拙いどんぐりブローチを、そっとラフィネに渡そうと思った。いや、深い意味はないんだ。でも作ったから。他にあげたい人もいないし!!
脳内で言い訳を繰り広げ、ふるる、と顔を振る竜樹に、ラフィネは笑顔のまま、はてな?である。
「コクリコさんも、まだ何とか出産していなかったね。間に合ってよかっ•••。」
ちくん。
「あ、あれ?」
「ん?」
はた、と焦った顔のコクリコに、皆の視線が集まる。
「何かお腹、いたいかも?」
ちく、ぎゅう。
生理痛のような痛みが、不意に起こって、それはまだそんなに痛いのではなかったけれど。
周りが慌てて座らせた椅子で、うーん?どうかな?と首を捻っていたコクリコは。
「あっ、イタタ。やっぱりちょっとお腹が痛い。」
すわ!
子供達を集めて、番組のツナギを着せて、とタカラがあたふた駆け出そうと。
「これって陣痛なのかしら?」
はてな?のコクリコだったが、結果から言えば。それは確かに、陣痛の始まりだったのだ。
そして長丁場、出産を放送する番組の収録が、今、始まる。
本日は短くてすみませぬ。




