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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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闘神コンバトゥル


時は少し遡る。


ボクシングのアニメ映画を2本、流すよーと竜樹がクマの郷の皆に言えば、女衆達がご馳走をバトルフィールドに出してくれた。

布を敷いて、あちこちで、わーわーと賑やかに。

今夜、リーダー決定の宴をしようと、時止めの倉庫に作っておいたのだそうだ。女衆も宴は、男衆と同じように楽しむために。

男子でも料理の好きな者はいるが、どうしても女衆に比重が偏る。

老若男女、できる事をしながら、宴の準備が着々と整う。

それを、ニュース隊のスーリール達も「これはどんなご馳走なんですか?」なんて聞きながら、時間を保たせてくれている。


テレビ電話で急遽呼ばれ、転移でやってきたチリ魔法院長と、色々な事を想定して集まっていたテレビクルーとで、ボクシング映画の放映会を。そして番組としても流す準備を、パシフィストのテレビ局と連絡をとりながら。

実際に竜樹の元の世界で上映会をやるには、著作権の上映権利の許可を貰ったものでやるらしい。そして、その中でも、野外でやるのは禁止の作品も多いそうだ。

この作品が流したい!と、幸運著作権支払い窓口担当ぽん太君に電話をして、しばらく。何をどうしたものか、ぽん太君がはあはあしながら、「許可特別に幸運払いでとれました、ぽん太はスペシャルマーベラスプレミアムパフェを食べても良いと思いませんか!」と言ってきた。

うんうん、食べても良いと思います、と妹サチに、ぽん太君を労うように!と連絡をした。


大きなスクリーンを魔法で作って、バトルフィールドから見やすいように高い位置に。突発的な出来事に、チリ魔法院長、仲間として頼もしい。


そうして、竜樹が。

「このお話は、俺の世界でも、社会現象を起こしたようなすごい作品です。きっと皆さんの心も、大きく揺さぶられると思います。」

ヘェ〜、すごいのやるんだ!と子供達も、目をキラキラさせて。まだ何も映していない、白いスクリーンを、見上げて。

映画の上映を、町々を巡って、キャラバンで、なんてのも良いなぁ。と竜樹はニコニコした。その時は、是非に、この世界で作った映画を流したい。


「今日この日、リーダー選抜対戦の決定がされた時に、皆さんとこの物語を観られる事を、とても嬉しく思います。始まり始まり•••。」


物語が始まれば、ご馳走を、もぐ、もぐ、としながらも、皆、画面に釘付け。あんまり真剣に見てるので、ニリヤなど、ぽろり、とお口から、お肉がこぼれていた。おとと、と竜樹が受け止めて、入れてやれば、目は集中してスクリーンのまま、モグ、とした。


1本目、ライバルとの死闘を終えた所で物語が終わり、画面がブラックアウトすると、ふーっ、と息を吐く音がそこかしこで聞こえる。

ブレイブ王様が、すくっ、と立ち上がって、多分むずむずする身体を堪えきれずに、しゅ!しゅ!とシャドウボクシングした。

すると、男衆、時には女衆達まで、しゅしゅ!尻尾ピンピン!のぶん!で、お耳の毛がぶわっと毛羽立ち、皆して。

物語のセリフを言いあって、なりきりボクサーに。

3王子とファング、アルディ王子ももれなくにわかボクサーになったので、ラーヴ王妃様がそれを見て、尻尾をフリフリしながら、ほほほほ!と楽しそうに笑った。


竜樹がスクリーンの前に出て、マイクで。

「皆さん、手に汗握るお話でしたね。さあ、さあ、物語はまだ続きます。ただ今、休憩中となります。今のうちに、お食事、おトイレなどをゆっくり済ませて、じっくりと視聴するご準備をしてください。1時間後に、物語は始まります。次は主人公は、どんな相手と闘うのでしょうか?!」

おお、と緩んだ空気が広まる。


「そして、身体を動かさずにいられない!うずうず、にわかボクサーの皆さん。物語が終わったあと、竜樹と、闘魂司会のアルトによる、ボクシング講座が開かれます。ボクシングは、プロともなれば、その腕が凶器とも扱われる闘い技術優れた、つまり、きちんと準備しルール通りに行わなければ、危険でもあるスポーツです。ヘッドギアをつけて、グローブをして、眷属たるレザン父ちゃんの胸を借りながら、一発パンチを入れて、受けてみる。そんなお試しを、皆さん、してみたくありませんか!?」


してみたーい!!!


満場一致で、声がそこかしこ。


「お子さんの分のヘッドギアとグローブもありますから、ちびっこも参加してね!お楽しみに!!では、素手であちこち喧嘩始まっちゃうなんてのは堪えて、物語を楽しみにお待ちください!俺も、クマの郷のご馳走を今のうちに、たくさん食べておきますよ!」


どっ!と笑い声が聞こえて、休憩時間。

ほらほら、と上着の裾をラーヴ王妃に引っ張られて、ブレイブ王様も、むずむずを何とか堪えて、お花摘みに集中してご飯時。宴につきもののお酒は、クマの郷では夜から、最後に出るものだそうである。それだけお酒が貴重でもあり、特別でもある。

そしてお酒が入ってのボクシング乱闘にならないで良かった!と胸を撫で下ろす竜樹であった。


物語が終わる。

主人公が真っ白に燃え尽き、それほどに試合に力を出し切った後で。



「ボクシングジムと試合場を建築するとしよう!」


ブレイブ王様が、すっく!と立ち上がって、ギランギランの瞳で、拳を握って。


お、お? お、おー!!!!


クマの郷の皆が受けて叫ぶ。拍手喝采である。

お、おお、ブレイブ王様、ハマったんだね。と竜樹が驚いていると、ぶぶぶぶ、マントのポケットの中で、スマホが震えた。


何だろ?と取り出した途端。


ブワッ!ふわん ごううう。


スマホの画面から。

太い眉、鋭い眼光、さらりと布を纏い、靡くそれから惜しげもなく晒された、その完成された闘う為の筋肉。

真っ赤な髪が、びゅう、ひゅるう、と風に散る。ばち、ばち、とその度に火花。

神々しい美丈夫が。

その、ムンと結んだ大きな口、牙見えする白い歯、ニヤリと笑い。響く腹からの雄々しい美声。


『我は闘神コンバトゥル。拳闘物語、何と素晴らしい!』


ふわぁあああ!

皆、お口を開けて、スマホから空へ現れ出でた神を見上げて。


『平和な世には、要らぬとも言われる我だが、人の中に闘争心なくば、何が成し遂げられようぞ!なあ、皆よ!』


「は、はい!そうですね、闘神コンバトゥル様!今日は、物語をお気に召されて顕現を?」

神に少なからず慣れている竜樹が、呆気にとられた皆に先んじて、応えて。


『うむ、うむ!我は全く、気に入ったぞ!ボクシングというのだったな!我は、神前試合を所望する!!こんなに焦らされて、ちゃんとした試合が、見たいじゃろう?見たいじゃろおぉぉううう!?眷属レザンの1強というのも悪くはないが、もう少し、見応えのある、なあ?』


太い眉尻を悩ましげに下げて、神様からのお願いである。これ、神前試合しない訳には、いかないよね。


「はいっ!恐れ多くも直答をお許しくださいませ!」

ブレイブ王様が、その場で膝を折り平伏し、震えた声で、けれども大きく響く王様ならではの胆力で。


『うむ、よろしい。この国の王であるな、応えを許す。』

うんうん、とどこかユーモラスな闘神に、ブレイブ王は。


「神様の眷属である、レザン父ちゃんに勝てる者はおりますまい。ですが、ですが!不肖ながらこの私、狼獣人のブレイブ、素早さ、キレだけは獣人の中でも秀でていると自薦致します!闘神様の御前で、真っ白に燃え尽きるまで燃やし尽くすと誓いましょう!勝ちは絶望的、それでも一つでも拳を入れたい!そんな獣人の身の上で、精一杯の試合をお見せできるかと思います!どうか私めを、レザン父ちゃんと試合させて下さい!」

どうか、どうか!


おー!!

本気か、ブレイブ王様!

ラーヴ王妃様も、尻尾をピンピンに立てて、平伏して目を見張っている。


かっかっかっ!

大声で笑った闘神コンバトゥルは。

『その意気やよし!やってみるが良い!』


ぶおん、と空中に床が出来て、そこにふんわり。

レザン父ちゃんと、ブレイブ王様が、浮いてゆるり、しゅた、と立った。

『ヘッドギアとグローブだったな!これは殺し合いではない。ルールがあるのもまた一興。グローブは一人では着けられないのだったな。どれ、私が力をば。』


ふっ、ふっ、とレザン父ちゃんとブレイブ王様の前に置かれたヘッドギアとグローブが、浮いて自動でしゅるる、すっ、きゅきゅ!と2者に装着される。どんだけ楽しみなんだ、闘神様よ。

アルトが、うわわわ、とあたふたしながら空中のリングに浮いて呼ばれる。レフェリーって訳ね。


慌てていたアルトだが、ギン!と闘う気満々のブレイブ王に。

ニヤッと不敵に笑ったレザン父ちゃん。

《ブレイブ王様。獣人の中では、すごく強いね。言った通り、1番くらいに素早いだろう。面白い試合になりそうだ。》

「ああ。レザン父ちゃん。本気でいくぞ!胸を貸してもらうが、一発なりと!」


「両者、準備はいいか!いいな!それでは。ーーーーファイッ!!!」

カーン!


試合開始の鐘が鳴り、2人のステップは踊るように。

良く、蝶のように舞い、蜂のように刺す、というが。

しゅ、しゅ、たん!

すた、バチ!ガン!ひゅ すたた!

ゆるうり ドン!


拳が交差する。のけ反ってブレイブ王が避ける。そこに追い打ち拳がくる。それをまた腕でガードして、もう片方の拳を後ろからドン!と打ち込むブレイブ王。

だがしかし、ひゅん、とレザン父ちゃんも髪一筋の動きで躱わす。


ひゅん ぐい ビシュ!

だん バチ!ガチン! 


あわわわわ。

空中に、ご親切に持ち上げられて撮影中のテレビクルーによって。スクリーンと番組に、試合の状況は確かに流れ、見守るクマの郷の者も、ラーヴ王妃も王子達も、視聴者も!!息を飲んで。

エタニテ母ちゃんは、ほやほやと笑顔だったけれども、お膝のデュランは、拳に汗、お口が開いたまま、身を乗り出して。


しゅ た タタン!


2人が間合いを取って、ゆるうり風が流れた。

ブレイブ王の長い艶々な黒髪が、汗に額、張り付きながらも、ヘッドギアからはみ出して、時にブワッと散る。


レザン父ちゃんの輝く白髪が、ヘッドギアからたなびいている。


いつしか2人共、目の下や鼻筋から、ピッと剃刀のような鋭い拳に皮膚が切れて赤、つう、と濡れている。


すた ぐわあ どドン!!!


「クロスカウンターだあぁぁああ!!!」


レザン父ちゃんが顔を僅かに逸らして、受けながらもブレイブ王の拳を見切り。ブレイブ王の頬には、バチリとレザン父ちゃんの拳が決まった。


ふらり ピヨピヨ ドサ。

後ろに倒れ、尻餅をついたブレイブ王の唇からは血が垂れた。


《流石だな、ブレイブ王様!俺の拳が決まったように見えて、やっぱり少しズラされた。吹っ飛ぶかと思ったのに。》

「•••言いやがる。あぁ〜!負けだ負けだ!悔しい!!」

バチン!と膝を打つブレイブ王の足は、動き過ぎて震えている。


両者立ち上がって、グローブでの握手にハグである!健闘を讃えあう。


むふふふふ、と闘神の笑い声が響く。

『うむ、うむ!中々の試合よな!褒めねばなるまい!可愛い人の子の、懸命な神前試合にあっては、祝福をやらねばならん!ブレイブ王よ!』

「はい!闘神コンバトゥル様!」

さ、とすぐさま跪くのは、流石に分かっている王様である。


『我はこのワイルドウルフに、祝福を与えよう。頑強な身体、素早い身のこなし、身体を動かす事の楽しさ、正しい闘争心。ほんの少しだけ、今までより獣人の力が、この国にいる時だけ、上がるようにしような。だからな、ブレイブ王よ。』

「はい!」


ムフフん、と闘神コンバトゥルは、空中で鼻の下をすんすんと擦るのである。

『毎年この季節頃に、国を挙げて、クマの郷で。拳闘大会をすると良いぞ!我も楽しみに観よう!そして、満足して、次の年の分の祝福を授けようて。あ、ちょい、まだ喋りたい事が、ランセ神〜!!!』

ヒョイ、とスマホの画面から手が出てくると、闘神コンバトゥルの纏う布をぐいっと引っ張り込んで、画面に消えた。

声だけが響く。


『ごめんよ〜ワイルドウルフの皆、竜樹達い!ランセ神だよ!躾のなってない闘神が迷惑かけて、すまなかったね!•••でも、まあ、神が言った事は撤回できないもの。ワイルドウルフの拳闘大会は、ゴメンだけど、可能な限りは、やってね。不作なんかで辛い年は、やらなくても良いからね。それでも、ちゃんと毎年、祝福させるから。』

「いえ、我が国としてもありがたく!お言葉に甘え、無理のない年には、喜んで拳闘大会を催させていただきます!!」

ブレイブ王が、平伏したまま、尻尾ピーンで宣言する。


『うんうん。せっかくだから、お国が盛り上がるように、良いようにしなね。竜樹、テレビやラジオでも、放送やると良いよ。先程のボクシング映画のラジオ放送、ナレーションを追加して視覚がない状態での劇も良かったよ。ぽん太も時間を駆け抜けて許可取りに頑張ったかいがあった。』

そのラジオの許可もあって、ぽん太君は、はあはあ言ってたのであろう。急にナレーションを入れる羽目になったスタッフは、声がいいから、というだけで、一発本番で臨機応変な仕事をやらされ、ぽん太君同様、今は疲労困憊である。

実際は映画を聴く、という視覚障がい者のための上映には、もっと時間をかけて、絵を見なければ分からない部分の説明文を、準備するものなのだ。


『闘神が顕現に使った分のいいね、補填じゃないけど、今回ワイルドウルフでの撮影が可能になったお印に、私から5000送っておくからね。あと、母性を司る、メール神からも5000だって。獣人のお産の情報、よろしくお願いね、って。』

「ありがとうございます!ランセ神様!」


ではね〜 ね〜 ね〜


とエコーを残して消えていった声。

ふわふわと降りてきた、レザン父ちゃんとブレイブ王様、そして闘魂レフェリーのアルト。

闘神コンバトゥル様の顕現には、10000いいねが消費されていたが、闘神様からもいいねが5000あったので、プラス5000の加算であろうか。


「もう!もう!何て無謀な事をされるのです!生きた心地もしませんでした!神前試合など!」

ラーヴ王妃が、戻ってきたブレイブ王様の胸を、ぽかすか叩く。心配したのだ。神なれば、気に入らねば命など何とでもなされよう。配慮してくれていた、可愛がって下さった、と感じるけれども、あんな映画を観た後だから、ひやひやしたのだ。


「すまなかったね、ラーヴ。どうしても•••ウズウズして、やらずにはいられなかった!許しておくれ。さあ、無事に帰ってきた私に、愛しい妻を抱きしめさせておくれ。」

ぽろ、と涙ぐむラーヴ王妃を抱きしめて胸に、グローブを外して唇の腫れたブレイブ王様は、とほ、と。

「あぁ、でも、最後は私、カッコ悪かったなぁ。尻餅ついてしまった。」

「•••カッコ良かったですわよ。私の王様は。」


ヒューヒュー♪


と口笛鳴らしたくなった竜樹だが、まあ止めておいた。うん、来年あたり、ファング王太子とアルディ王子には、弟か妹ができるのでは、と思えるラブラブっぷりである。仲良し、いいね。

後日、ブレイブ王様は、神前試合で眷属レザンに一発入れた男、として益々尊敬を集める事になるが、今は知らず。


クマの郷の皆は、ほわーと喜んで、祝い酒だあ!となった。

夜というには早い午後、まだ夕方の明るさ。けれど腹も満たされて、良いじゃないかとブドウの地ワインを。

竜樹は勧められて、分離の魔法が込められた魔道具でノンアルにして良いか、子供との約束だから。と聞いて許可を得て加工し飲んだ。


スクリーンでは通常のニュース番組に、今日のクマの郷の事が。

「闘神コンバトゥル様顕現!有り難くも拳闘大会を!」

の見出しで早速取り上げられて。

ワイワイ、飲んで食って、食って飲んで。


その間に、竜樹もレザン父ちゃんも、話したい事を話したい人と、人達と、和やかに。

する事が出来たのだった。


イリキュートちゃんと女衆と竜樹の、ワイワイ女の子話、にしたかったのに、そこまで書けなかった。

もう少しだけ、クマ郷話続きます。お許しを。^_^

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