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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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433/692

丸くするには闘わないと


「良くいらした、我がワイルドウルフへ!!」

「ようこそ、いらっしゃいました皆様!」


ブレイブ王とラーヴ王妃が、わざわざ王宮から出かけて出迎えてくれた、転移魔法陣を出たばかりのエントランス。

ここはワイルドウルフ、艶々した木と、ピカピカの大理石で造られた転移スポットは、転移後人の流れが滞らないように、床に矢印で進む方向が、ほわんほわんと点滅している。


開きっぱなしの観音開きの扉を開けた所で待っていてくれたブレイブ王、ラーヴ王妃は、さっと竜樹筆頭のテレビクルーと3王子、そして眷属夫婦レザンとエタニテ、息子のデュランに近寄り、耳をひこひこ、尻尾をブンブン、順繰りに固く握手を求めた。王様王妃様は狼獣人、手が温かく厚く大きい!

ファング王太子とアルディ王子は、帰ってきたお国、声をかけてもらう順番を待ちながら、それを嬉しそうに見守っている。


「竜樹様、直にお会いするのは久しぶりですね!今回、クマの郷のリーダー選抜対戦をテレビ、ラジオが取材して下さると決まって、とても嬉しいです!こちらでもテレビ、ラジオの販売が、お陰で人気急上昇となっておりますよ!」

ニコニコのニッコリ。

ブレイブ王にしてみれば、他国に先駆けてワイルドウルフを取り上げてくれるのも嬉しいし、それに。


「レザン父ちゃん、エタニテ母ちゃんも、蟠りもあろうに、良く来てくれました!経緯を聞くに、寛恕の心で対戦して下さって、クマの郷からワイルドウルフを盛り上げて下さる事、嬉しく思います。」


そうなのだ。

眷属の2人が、故郷に顔を見せ、あまつさえリーダー選抜の対戦をしてくれると言う。

竜樹に、「勝ってしまいますよ!?クマの郷のリーダーになっては、眷属なのに獣人の決まりに囚われて、自由に神のお導きの元、父ちゃん母ちゃんを出来なくなりませんか!?」と心配顔を見せた、信心深くも親切なブレイブ王だったが。


「大丈夫。勝っても、次代のリーダー、妹さん夫婦を甘やかして、レザン父ちゃんとエタニテ母ちゃんが割を食う結果にはさせませんからね。うまいことまとめます。この、ギフトの竜樹の、舌先三寸で!!」

と説明して保証したら、すごく楽しそうに、くふふふ!と笑ってくれた。ラーヴ王妃なんて、手を打って大笑いしていた。

「ワイルドウルフにとっても、願ってもないね!ありがとう、竜樹様!」

「甘ったれの妹とやらに、同じ女性として、エタニテ母ちゃんがお産の苦しみを負わされた事、苦く思っていましたの!ありがとうございます!竜樹様!!」

胸の前に手を組んで、頬を赤らめて真剣に。

「妹のイリキュートは、自分の事ばかりで、謝りもしていないって、聞いています。一杯一杯なのは、私だって王妃の勉強を必死でしましたから、女性を率いる学びの難しさ、辛さは分かるつもりよ。でもね、だからこそよ。辛さを知って、他者に優しく、優しいだけでなく、未来に生かす事が出来なければ。」

ラーヴ王妃は、自分も人を傷つけ反省する事があるからこそ、許せないと言う。


「ダメな子だから仕方ない、よしよし、と撫でるばかりでは、済まされません!そして•••竜樹様の方法は、お優しいわね。切り捨てる、でも、追い詰める、でもない。そして、やっぱり、厳しいとも思いますわ。子供子供した甘ったれには、ちょうど良い塩梅だと思いますの。」

くふん、と鼻を鳴らして、ウンウン、と満足の頷きだった。



「息子さんのデュラン君に、故郷を見せてやって、どうか寛いでいかれるよう。ファング、アルディ、良く帰ったね。オランネージュ殿下、ネクター殿下、ニリヤ殿下、そしてデュラン君とも仲良しなんだろう?お客様をおもてなしするのに、また協力しておくれね。」

「はいっ!お父様!」

「はい!お父様!!」

ファング、アルディ王子は、お父様に背中をぽんぽん、頭を撫で撫でしてもらい、誇り高くフコッと嬉しそうである。


コクリコ嬢の出産立会い、撮影は、自然のものであるから、もし陣痛が始まってしまったら連絡はもらうとしても仕方ない、残った子供達と大人で撮影して下さい、と言ってある。

コクリコは、竜樹様と王子様達が戻られるまで、我慢しときますね!なんて冗談を言っていたが、アハ、と笑いながら。

「いいんだよ、良いお産になるよう、祈っているから、自然に、その時が来たらでね。行ってくるね!」

と伝えて。

出産は計画的にどうしてもいかない部分があるので、それでやる事を全て待ちにしてしまうのではなく、合間にできる事はやっていこう、と竜樹とテレビクルーは決めた。


「本当なら、宴など催したく思いますが、お仕事の合間なんですものね。早速、クマの郷へ参りましょう。」

今回、竜樹が来る事で、ブレイブ王様とラーヴ王妃様も、リーダー選抜対戦試合をご覧になる事が決まった。

準備は郷内の広場に、バトルフィールドを縄で区切るくらいと聞いている。故に、発案から5日程で、サックリ取材旅行(日帰り)が実現した。

はしっこく屋台なども出るから、今から3王子とデュラン、ファング王太子とアルディ王子は、どんなのあるかな!?肉の串、ある?なんて、お小遣い握りしめて、ワクワク楽しみにしている。


「ようこそ、いらっしゃいました!クマの郷へようこそ!」

木の枝に、色とりどりな、紙で包んだお菓子の門。

転移魔法陣をくん、くん、と2度ほど経由して、サラリと着いたそこは、そこそこの規模の町。木造の家々が並ぶ、自然も豊かな街道、三角のフラッグが、賑やかにはためく。

クレヴィリーダーとミュリエルが、招き入れ、まずは彼らの家に。

リーダーの家は集会場を兼ねているのだそうで、広く大きなお部屋があって、木の床に編んだ敷物が、簡単に移動も掃除もできるよう、正方形、ズラリと敷き詰められていた。

そこの真ん中に、ふかふかクッションを沢山用意、どうぞどうぞ!と座ってね、される。

一行は腰を落ち着け、お茶を飲み、お饅頭みたいな小麦粉のドライフルーツ餡な、お菓子を食べて。

テレビクルーは撮影の下見に。


「本当に良く来てくれました。」

しみじみ、クレヴィが喜びを噛み締めて言う。

このお家に来るまでも、歓迎で出迎えてくれた郷の皆が、わあっと歓声、レザンに恐る恐る声を掛けた男衆は。

「レザン、良く帰ったね。リーダー選抜対戦やってくれるんだって。俺たちが郷から追い出したようなもんなのに、ありがとうな。神様の眷属にもなったって。そういやなんか、すごく、その、凄く強そうになったし、神々しい感じ、分かるよ。今日はリグレスを頼むな。」

《任せてくれ。悪いようには、しない。》


うん、と頷く頼もしいレザン父ちゃんに、皆して、ふわぁ、と嬉しそうになったのだ。

わあわあ、取り囲み、懐かしいね、良く帰ったね、俺たちが悪かった、いつだって帰ってきて良いんだぜ、勿論、ギフトの御方様んとこいたって良いんだ、なんて口々に。

デュランは大勢の同じクマの獣人に囲まれて、目を白黒。

「エタニテ!アンタ良くこんな良い子を産んだね!郷の外での出産は辛かったろ、ごめんねえ。おばさんにぎゅーさせて?何て可愛い子かしら!」

《おばさん、デュランよ。よろしくね。》

ニコニコの女衆達の囲み囲まれを、妹イリキュートは遠巻きにチラッと見にきて、ふ、とエタニテと目が合ったら走ってどこかへ消えて行った。


あー、と女衆達は、低く声漏らす。

「イリキュートもねえ。悪かぁないんだけど、ちょっと僻んじゃってねえ。」

「私たちが、触りすぎたかねぇ。色々教えてやろうか、ってするのが、文句みたいに思えるみたいなんだよね。」

「私がリーダーの妻なんだから、皆、私の命令で動くんじゃないの?なんて、まだひよっこなのに、皆をしらっとさせたりしてねえ。」

「何か行事でもないのに、普段から命令なんてしたりされたり、しなくても、皆上手くやってってるよねえ。それに、まとめる、って命令じゃないしねえ。」

強いクマの女衆達は、自然と助け合って。自立的で、自発的なのだ。まとめる、は、そこに、ちょっちょっと、こぼれ落ちそうな所を、どうかな?と口にして行動するだけで良かったりする。


《イリキュートがゴメン。段々、うまくいくヨ。》

「良いんだよ。私たちも、そう思ってるよ。」

「まだ若いんだもんねえ。」

どんなに渇望しようと、ピヨピヨが大人になるには、相応の時間がかかる。

女衆達は、若く誤ったイリキュート達夫妻を、温かく見守っているようなのだった。


「なかよしなんだね?」

竜樹にニリヤが、不思議そうに。

「ねー。最初から仲良し、してたら、いいのに。」

「だねだね。大人って時どき、わけわかんないよなー。」


「ほら、王子達だって、もう、もう!知らない!な〜んて、ほんとは仲良しなのに、喧嘩しちゃったりするだろ?」

竜樹に撫でられて、てへへにへっとした子供達は、そっかぁ〜、と。

遠巻きに見ていたクマの子供達に突進して、仲良し、なの?と聞き始めた。

ぶっといしっかり手足のクマの子達は、気の良い奴らで、3王子もファング王太子やアルディ王子も、わちゃ!と。子供達の、ひみつのかいぎ(でっかいひみつの話し声は、竜樹にはよく聞こえてたけど)に出席した。


(イリキュートすきじゃない。レザンにいちゃん、おれたちにやさしかったのに)

(エタニテおねえちゃんも、良く遊んでくれたのよ)

(でもイリキュートも、かわいそうなとこある)

(エタニテおねえちゃん、とっても、皆とお話するの、上手だったんだ。)

(たよりにされてた)

(くらべると、やっぱりね、ってなる)

(リグレスも、まだまだレザンにいちゃんみたいに、大人じゃないって)

(つい、かまっちゃうんだよな〜、だって!!)


うんうん、ひそひそ。

俺は、皆に受け入れられてたエタニテ母ちゃんに嫉妬して、自分と比較して、意地悪な気持ちも少しあって郷から追い出した、ってのにも1票入れたいな。


お姉ちゃんがいなくなれば、きっと私にだって。


残酷で幼く、身勝手なその気持ちを、自覚しているなら、その後の皆の対応が、どれだけビシバシ心にきたことか。そして、簡単に折れてしまった。負けを認めるのは良い事。そこからまた、成長していける。

でも、負けの気持ちを引きずって生きるのは、あんまり良くない。

まあ、推測でしかないけれども。


お茶飲みをして、バトルフィールドへ。

花で飾られたロープは、かなりの広さを囲っている。観客も集まって、賑やかに食べ物の煙もくもく。

ああ、お祭りの匂いだ。


アルトが対戦相手から聞き取りをして、情報を集めている。また素敵なバトルの司会をやってくれるかな。

本当は、リグレスとだけ対戦出来れば良かったんだろうけど•••そうは問屋が卸さない。


「面白くなくちゃ、テレビもラジオもね。」

ニヒ。


引っ掻き回すつもりはないけれど。

レザン父ちゃんとエタニテ母ちゃんが味わった事と比べられはしないけど、閉鎖したコミュニティの中での評価で悩むのも、また違った閉塞感、行き詰まりがあるのだろう。


「ぶち壊してやろうじゃん!」


どこにいても、何をしてても、自分で選べば自由になれる。

掴み取れ!


「さて、始めましょうかな。」

クレヴィが合図して。

アルトと頷き合うと、マイクを構える。


「さぁ〜!クマの郷、リーダー選抜対戦試合、神眷属レザンに無謀にも挑む男ども!ここに集いし選手達は、皆志を胸に、闘いを求めてここへやってきた!刮目せよ!胸を張れ!誉ある神をもご覧になるかもしれない、レザンとの試合に挑戦できるのは、この中の誰だ〜!?」

並ぶ若者達、先頭にリグレス。

レザンは特別席で最終試合を待っている。エタニテが隣に座り、デュランがお目々をまん丸にして、アルトを見ている。



「それではルールを説明しますーーー。」

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