代書屋と4人の少年探偵
代書屋に勤めるレトゥルーは、ああ、またああいうお客さんだ、と眉を顰めた。
おどおどした老人。今回は老婦人。
お喋り好きなようで、不安を掻き消す為か、しきりに話しかけてくる。
曰く、遠く離れて暮らしている息子が、仕事のお金を落としたらしい。都合をつけてやらないと、仕事を無くす。そしてここへ送ってほしいと手紙がーーー。
ひっそり伝える。
「おばあちゃん、良く考えて。それ、本当に息子さんからのお知らせ?私、代書屋さんやってて長いけど、良くそういうのにーーー。」
ポン、ポン。
レトゥルーの、細い肩を、上司のヒゲヤロウが柔らかく叩く。ああ、また。
「どうされました?お急ぎの様子ですね?特別に私が担当いたしましょうか、あっという間に出来ますよ!」
ニヤリと笑って、ヒゲヤロウは老婦人を連れて、自分のデスクへ行き、犠牲者の数を更新した。
レトゥルーは上司のヒゲヤロウに、ニヤニヤされながら怒られて、辞めさせられたくなければ、黙ってお客様の望み通りにしてやれ、と。
「お前、病気の娘がいるんだろ。辞めたら家族はどうなるんだ?分かるだろ?な?」
クソッタレ!!!!
辞めたい。でもな。
心に多大に引っかかりのある仕事を終えて、家に帰る。
「おとーたぁ!!」
「ただいま、クゥール。今日はご機嫌いかがだったかな?」
トタトタ嬉しそうに、でも息を切らしてレトゥルーに駆け寄ってくるーーほんの少しの運動でも息を切らす娘は、2歳。何でだろう、おかしい、おかしい、と妻と2人して治療院を巡った。風邪もひきやすい。嫌な予感がした。
ついこの間までは分からなかったけれど、竜樹様が作ってくれた身体スキャナで、全身をくまなく診てもらったら。
心臓の、右と左のお部屋の壁に、生まれつき穴が開いていますね、と言われて。
はふ、はふ、しながら抱きついてきた娘の、何と可愛らしい事か。抱き上げて、長身のレトゥルーの胸の中、むふふ、むふん!とご機嫌な娘、クゥールの小さな背中を撫でてやる。ふくふくお腹に、最近流行りのプリント布、繊細な植物、花がすうっとまばらに描かれた、白いフリル袖のワンピース。
「今日も素敵だね、おはなだね?」
フリルをつんつん。
「あい!おとーたぁ、おちごと、おちゅかれたま。ごはんちょーよ。」
「はい、ごはんしよ。」
「レトゥルー。お疲れ様!」
妻のロゼが、ニコニコと、手拭い布で手を拭きながら出てくる。部屋には、夕飯の良い匂いがしている。
クソッタレ、この家を守らねえで何を守る!あの職場は、もうダメだ。娘の治療の事もあるから、あまり不安定な稼ぎにはなりたくない。うまくやらねば、だが、あんなに派手に悪い事を見逃して、最近は金を荷物で送るーー禁止されているのにーーそんな文面や宛名を頼まれたりして、いつ自分も巻き込まれて捕まってしまうかと。
「竜樹様が、身体スキャナを伝えて下さって、本当によかったわね!10日後は、貴方も休めるでしょう?クゥールの心臓の壁を造ってくれる治療、一緒に行ける?」
今日は魔猪を使った、肉どーふよ。
竜樹様が出したレシピ本のを作ったの。
薄切り肉がしみしみで、やわやわのおトーフ?と甘辛く煮込まれたおかずは、それだけで晩酌がすすみそうな一品だ。ご飯も豆ご飯、緑色が美しく、そして美味い。野菜の付け合わせも、いい。
妻ロゼは娘の治療方針がたってから、嬉々として竜樹様関連の情報にハマっている。楽しくて、嬉しくて。レトゥルーも嬉しいし、美味しい。竜樹様様なのだ。未来は薔薇色だ。
「休みは何としてもとるからね。大丈夫だ。」
「良かったわ。やっぱり、ちょっと不安だものね。一緒にいて欲しいの。」
もぐ。
ロゼは、自分でも食べている娘のお口に、あーん、とおトーフを匙で入れてやって、嬉しそうにもぐつくのを、夫婦で笑って。
「貴方、お仕事で、何か悩んでいること、ある?」
ロゼ、君は良く気がつく妻なんだけど、そんな事まで気づかなくても良いんだよ。
次の日は休みで、朝は遅く、クゥールが突撃してくるまで惰眠を貪っていた。ロゼは誰かと話をしているようで、興奮した、まあ!それで?今?などと声が聞こえてくる。
クゥールを抱っこして、起きてくれば、テーブルの上には、葉っぱで包まれたサンドイッチと、コロコロのきゅうりとチーズのサラダが乗っていて、網のフードカバーで保護されていた。
自分でお茶を淹れて飲みつつ、クゥールのぬいぐるみさんとお話して、1人遅い朝ごはんを摂っていると。
洗濯を終えた妻ロゼが、フンス!と鼻息も荒くエプロンをババッと取り、食卓の椅子に引っ掛けて、ババーンと宣言した。
「広場に行きます!お散歩よ!朝ご飯美味しかった?さあ、さあ、貴方も顔を洗って、サッパリしてらっしゃい!クゥール、お出掛けのお帽子被ろうね!」
お散歩に並々ならぬ決意を滲ませたロゼに、レトゥルーは、う、う、うん、と狼狽えながらも返事をして、気怠い休みの遅い朝、さあさあと急かされて支度をした。
るんたたとご機嫌な娘を時々抱えて、広場に来る。
ロゼは、目的があるようで、一心に道を突き進み。長いシンボル的なベンチがある所へやってきた。人だかりがしている、何だかカメラがあって、撮影?大人も沢山いて、不思議な作業服を着た子供達が座るーーー。
お話合いを終えた若者が、ニッコリと、お礼を渡して去る。子供達、その内1人は青年と言っても良いか、やたらと美しい、白い杖を持った3人に、何やら不思議な支え車を目の前に置いた、藁色の髪の1人と。
「ロゼ、ロ、ロゼ、これって撮影なんじゃあ?」
「そうよ!あの、すみません!順番、次にお願いしても?他にお悩み相談の方、いらっしゃる?抜かしてないかしら。」
ええ、えええ?!
カメラの撮影するその前に、グイグイと引っ張られ、レトゥルーは娘クゥールを胸に、なんで!?と驚きを隠せなかった。クゥールの小さな茶色の、ピカピカのお靴が、ぷらん、と揺れてレトゥルーの腹にぶつかる。
「お悩み相談、お願いします!初めまして、私はロゼ、主婦してます。こちらが夫のレトゥルー、代書屋さんです。娘のクゥール、心臓の壁に穴が開いてて、今、治療を予定しています。はふはふ息切れするし風邪もひきやすくて、竜樹様の身体スキャナで診てもらって、やっと原因かな、って分かったんです。」
ニッコリ笑う少年達は、3人は目がじっと変わらないし、微妙に合わないから、目が悪いのか。
「初めまして!私はエフォールです。足が悪くて、私も竜樹様の身体スキャナで診てもらって、腰の神経繋いだんだよ!クゥールちゃん、良かったねえ。原因分かったんだ。」
「はい!ありがとうございます!」
「あいが、ちょ。」
ニコニコ!と笑顔の妻ロゼは、とっても嬉しそうな、本当に薔薇色のほっぺで。
「えふぉるたん。クゥールでちゅ。だっこ!」
「抱っこするの?いいよ、おいでー。」
降りる、降りるとバタバタしたクゥールは、真ん中の藁色髪の少年の膝によじよじ上り、とん!と腰を落ち着けた。気に入ったらしい。
エフォールは、支え車の荷物入れの中から、藁色のクマちゃんの、編んだぬいぐるみを出すと、ふりふり、とクゥールに振って見せて、抱かせてやった。
「ウフフ!くまたん!」
「クマちゃんだねぇ。」
こちらもまたお兄ちゃんに構ってもらって、嬉しそうな娘、クゥールである。
「初めまして、私はプレイヤードです。今、『アンファン!お仕事検証中!』っていう、テレビ番組の撮影で、情報屋やってるんだ。お悩み、聞きますね!」
「ピティエです。」
「アミューズです。」
「ミゼリコルドおばあちゃまです。」
不思議な取り合わせである。少年、青年、老婦人。カメラマンには女性もいて、皆一つの塊として、ジーッとこちらを撮影している。
「あの、あの、こちら、竜樹様の番組なんですよね。」
「そうだよ。竜樹とーさとも、電話で話せるよ。」
アミューズと名乗った少年が、気さくに話す。多分この子は平民だな。他の子は、何となく貴族っぽいが、ん!?竜樹様と!?
「良かった!あの、夫のレトゥルーが、何だか仕事で、悩んでいるみたいなんです。難しい仕事で、とかだったら、訳を言ってくれると思う。なのに、絶対に教えてくれないんです!何か秘密があるのかも。食事も細くなったし、眠れないみたい。休みの日に、出歩いて、くたびれて帰ってくるし。」
新しい仕事を探していたのである。代書屋の他の店に勤めたかったが、なかなか転職先が見つからなくて。
「貴方。竜樹様にもお話が通りますでしょ。ここなら、話しても良いんじゃない?そのお悩み、きっと溜めておいては、ダメなお悩みよ!さあ、ここで、お悩み相談、撮影でテレビにも、バーンと言っちゃいましょ!!」
ロゼ。君は何て度胸のある妻なんだ。そして優しくて頼り甲斐のある、私のパートナー。
「あの。」
言ってしまっても、良いだろうか。
どうせなら、ここで。大っぴらに。
「大丈夫だよ、レトゥルーさん。竜樹様もカメラで見てるから、なんか大人のじじょうで難しい事だったとしても、聞いてみれるからね。」
「ここにも大人のスタッフが沢山いますし、何なら相談できますから、お話聞かせてください。」
プレイヤード、ピティエが、その、てん、と恥じない瞳でじっとこちらを見ている。見て、見えて、はいないのかもしれないけれど、でも、本気で聞いてくれているのは分かる。
アミューズ少年も、朗らかにうんうんと、頷いて。
「あの。犯罪が絡んでいるかもしれないから、防音魔法をお願いしたいんですが。」
奴らを捕まえてくれ。
万が一にも逃げられないように。
悪いが俺は奴らの身を売って、自分は家族を守ってみせるんだ!
防音魔法を使える護衛が出てきて、一緒に聞いてくれる事になった。エフォールも、ピティエもプレイヤードも、アミューズもミゼばあちゃんも、真剣に聞き入る。何なら奥さんのロゼも、はっ、と目を見開いて、じいっと夫を見詰めた。
ふんふん♪とご機嫌なのは、エフォールの膝の上の、クマちゃんを抱きしめるクゥールちゃんだけである。
「多分、俺の勤めている代書屋、犯罪に関わってるんです。」
緑色がかった黒の髪、長身細身のレトゥルーは、背中を曲げてはいるものの、しっかと足を踏ん張って、腹に力を入れて話し出した。
ショボ、とした目は大きくて垂れて優しそうだが、今は少し涙袋の下に皺があり、精神的にも疲れていそうだ。
「代書屋で、犯罪!」
エフォールが、ふわ!と驚く。
「どんな?」
護衛が、ビシ!と鋭い眼光。マルサ王弟の配下である彼等は、何かあれば連絡がとれ、動ける立場である。
「やたらと同じ文面を持って、老人達がお金を送る手配をしにやって来ます。遠くで働く息子が、仕事の金を落として、用立てないと辞めさせられると。老人達は慌てて送ろうと、送り先を書いて手続きしてくれと言います。人は違うのに、いつも同じ宛先に送ってくれと書かれています。俺は、お客さんに、それって騙されてるんじゃない?って伝えようとしたんですが、上司に止められて。」
ふん、ふん。
ふす!と意気込んで、目がくりっと見張るエフォール達である。
「娘が病気なんだろう、辞めたくないだろう?って。でも、あんな職場にいたら、将来お先真っ暗です。だから、転職先を探してたんです。なかなか見つからなくて、私だって生活は大事だし、うまくやれないと、娘の治療にも関わってきます。だから、直ぐに犯罪だって、然るべき所に言う事も出来なかった。すみません•••。」
犯罪を暴くにも、生活の不安があっては。
「それはしょうがないよ。レトゥルーさんは、守るものがいっぱいあるじゃん。戦えば良いってもんじゃ、ないじゃんね。」
訳知りのアミューズが、うん、うん、眉を寄せて頷く。
だね、だね、とエフォール達も同意である。
「なるほど。他にもありますか?」
護衛は、深く頷いて、促す。
「はい。お金を荷物で送っては、いけないですよね。現金書留で、金貨10枚までが上限だったはずです。それだとお金を送った記録が残ります。なのに、記録も残さず、荷物で大金を送ろうとする者がいます。足のつかないお金に、なりますね?それって?って私は思いました。証拠なんかは掴めていませんが、きっと後ろ暗いお金のはずです。恐ろしくて、いつ自分も捕まるかとーー私は捕まる訳にはいかないです。家族を、そうです、守らないとなりません。ですが、もう言ってしまっては、あの代書屋に勤めたくはありません。辞める事にします。」
「お仕事、生活、どうするの!?」
プレイヤードがびっくり聞いた。だって探してもなかなか見つからなかったんだろうに。だから悩んでいたのじゃない?
「うーん、うーん、だけど、でも、そうだよね。そんな代書屋にいたら、いつ何があるか分からないもの。辞めたいの分かるよ。」
エフォールも、クゥールちゃんを撫で撫でしながら、ムニュ、とお口をとんがらせて。
「レトゥルー。辞めましょ、その職場。私も、手仕事でも何でもして、家計を助けるわ。クゥールの事だけ何とかなれば、後は何だってやっていける。良かった、話してくれて。そんな職場にいる事ないわよ。」
ロゼは、キッパリ言うと、レトゥルーの腕を取り、手を握って軽く揺らした。レトゥルーもギュッと返して、うん、うん、と見詰め合う夫婦である。
「その事でしたら、マルサ様がお力になれましょう。直ぐ辞めたいのはやまやまかもしれませんが、こちらの捜査の道筋だけ、つけるのに手助けしてくれませんかね?今マルサ様に電話してみます。電話というものを渡されて、こんなに直ぐに使うとは思っていませんでしたが、やはり道具というのは使い所、良い機会でした。レトゥルーさん、貴方奥さんに感謝しなければなりませんよ。」
ガッシリした、腰に剣を佩く護衛は、軽い左だけを守った皮の胸当てに続く脇に、ピタッとハマる皮の入れ物ーー竜樹だったら、まるでガンホルダーみたいだ、と言うだろうーーから、2つ折りの電話を取り出し。
トゥルルルル
ホチ
『あぁマルサだよ。見てた見てた。娘ちゃんがいるのに、良く話してくれたよ。良かったぜ。』
「はい、本当に。して、どのようにご指示下さいますか?」
マルサ王弟こと騎士団の特別顧問な竜樹の護衛筆頭は、さらさらさら〜っと道筋をつけてくれた。
レトゥルーはしばらく勤めるが、身体の具合が悪くなり辞める事にする。その際、口が固い、知り合いの代書が出来る男を、推薦する。勿論その男は、マルサの息がかかった捜査員である。スムーズにいくかわからないので、すぐにその代書屋に神の目を仕込ませ、客としても護衛を付かせて、レトゥルーの身は守る。
そして。
『コリエ嬢のお父さんの、筆耕の仕事を手伝えるように手配するからさ。のんびり働けて、そこそこ給料もある所だから、何とかなるだろ?代書屋やる位だから、字は綺麗だろう、レトゥルー。』
「はい!ありがとうございます!字の綺麗さは、自信あります!長年やってる仕事ですから!!」
「バヴァールお祖父様の所で働くんだぁ!」
エフォールは、既に実母コリエの父、バヴァールと会ったりもしている。愛嬌のある人で、親切で人の良さ滲み出る、優しいお祖父様である。エフォールを見る時、じわ、と涙ぐんだりしながら、いつも楽しい話をしてくれるのだ。
「バヴァールお祖父様優しいから、きっとレトゥルーさんも、今度はお仕事で悩んだりしないで、安心して働けるよ!」
うんうん、と納得の荒野チームである。
「ありがとうございます。ありがとうございます!これで生活の見通しも立ちます!」
「ありがとうございます!」
「あいがちょ?」
レトゥルー夫妻とクゥールちゃんのお礼に和み。くくう、とプレイヤードのお腹が鳴った。
ロケ弁タイムである。
レトゥルーはこの後、捜査員達との顔合わせなどもあって留められたので、家族でエフォール達の横のベンチ、座って屋台のご飯を食べる事にした。ロケ弁食べながら、雑談タイム、和やかに賑やかに、素敵なお弁当箱ですねから、ロゼの、竜樹様のレシピは本当に美味しくて、お米もお腹に溜まって良いですね、と。
ゆるゆる、と、不安を安心に変えたレトゥルーは、休日のお父さんの穏やかな顔で、娘クゥールに野菜たっぷりソーセージドッグをあげていたが。
「私ね、趣味で、お話を書いているんです。」
とニコニコした。
「ああ、レトゥルーのお話、面白いわよね。私も読ませてもらったんです。何か、日常の不思議を解決するやつなの。短編だったわね。」
ロゼも、もぐ、ごくん、とキャベツのカレー炒め入りソーセージドッグを飲み込んで。
「解決、っていうと。」
箸を器用に使うピティエ。
「ホームズみたいなやつ?」
アミューズが、黒酢あん肉団子を、モグモグして、ほっぺにあんをくっ付けて。
「ホームズ?」
レトゥルーの疑問に。
「探偵なんだよ。それこそ、犯罪を、ささいなきっかけから、つきとめる!」
「助手のワトソン君と、事件を解決するんだ。」
「依頼者がきてねえ。」
「ワトソン君が良いやつなんだよねー!」
「竜樹とーさが読んでくれるんだ!」
ホームズの概要を、断片的にだが色々と聞いて、レトゥルーは、ふむ•••と考え込んだ。
「•••私は、殺人事件なんかは、怖くて書けないかもですが、その、日常の謎ってやつは、楽しくて幾らでも思いつくんですよね。その、探偵っての、良いですね。それに•••チーム荒野の皆さん?とっても個性的で•••。」
それから、レトゥルーは、時間の許す限りエフォール達に話を聞いた。
推理する小説の、モデルってやつに、皆をしたいのだと申し出たのだ。
「新聞に、小説って連載されてますよね。あれ、募集があったから、応募してみます。収入は、色々あったら、今回みたいに悩み過ぎて困らないから、それに、久々に思いっきり楽しんでお話が書けそうだし。ロゼ、書けたら一番の読者で、読んでくれるかい?」
「勿論よ。」
「皆さんにも、書けたら、受かっても受からなくても、お見せしますね!」
『代書屋と4人の少年探偵』
後々大ヒットとなり、テレビでもラジオでもドラマになる、ロングセラーとして語り継がれる推理小説のシリーズ。
代書屋レトロは長身で丸めた背に、娘と妻をもち、細々と生活している。代書屋で頼まれた依頼から、いつも謎を発見して、いやいや依頼者の秘密を公にする訳にいかないし、と悩んでいる。
代書屋に謎を求めてやってくる、視覚に障がいのある3人の少年達、それから足が悪い少年を足しての4人組少年探偵。
ティエ。モデルで美しく、その上穏やかで紳士的。女性に聞き込みするならティエが最適。
ミュゼ。平民だが、声が美しく、歌が上手い。聴覚に優れていて、どんな音でも聴き分ける。
ヤード。ガーディアンウルフの飼い主で、嗅覚に優れている。いざという時の守りは完璧。
フォール。編み物上手な優しい少年。子供達に人気で、お話を良く聞けるし、どこに行っても馴染めて、何でも編み物してるうちに聞いてきちゃう。
代書屋は4人を毎回、心ならずもまとめて、結局するりと謎を解く。
締めゼリフは。
「ああ、また依頼人の秘密をバラしてしまった。どうしよう。職務規定違反だ!代書屋失格だ!」
である。
その作家は長年、覆面作家として表には出てこず、それでいて活発に執筆活動をしていく事になる。
まとまった本になった一番刷りが、その都度、チーム荒野たちの元に、それぞれ送られてくるようになるのだとは。
今この場では、まだ。誰も知らない。




