あの時のお父さんは
竜樹と商談のさわりをしたミゼばあちゃんは、ふーっ、と満足のため息を吐くと、ベンチの背もたれに、円やかな背をふ、と寄りかからせて、ニコッとした。
「皆のお陰で、ミゼばあちゃまは、とっても楽しい時間が過ごせそうよ!」
えへへ、と嬉しそうな『チーム貴族と荒野へ向かう者達』の4人である。
それを見ていた聴衆たちの1人、若い女性が。歩数地図表の本を、良かったら見せて見せて、と盛り上がり、仲間たちでエフォール達に色々と話しかけてきた。和やかにお話する4人と、ミゼばあちゃんである。
「私も、体育館で遊んだり、プールに行くようになってから、体調が良いのよね。身体動かすと、ちょっと身体が重い日なんかも、スッキリするし。ただ、毎日は行けないから、歩数計があってお散歩できたら、毎日楽しくできそうだから、是非出してもらって、買いたいわ!」
「そうよね!」
周りで若い男性達が、散歩かぁ、とエフォールの胸の歩数計を、まじまじと見る。
「俺、簡単にお金のやり取りくらいしか、できないからなぁ、計算。」
「楽しそうだけどな、歩数で地図埋めるの。」
「旅とか普段、できないもんね。」
俺仕事で結構歩くから、埋められそうじゃん、とか、普段座り仕事で全然歩かないから、散歩してみたいかな、とか。
「あ、じゃあさあ。」
アミューズが考え考え。
「もしなら、8000歩歩くと、簡単なお知らせ音楽でも鳴るようにしておけば、良いんじゃない?」
ふむ、ふむ、と周りもなるほどする。
「そうだね!それなら私達も歩数計つけられるしね!音が鳴るまで歩けば良いよ、となるし、毎日数を足してって、音が出るのなんかもできたら、少ない歩数しか歩けなくたって、ちっちゃい子たちも楽しめるかも。」
「地図も、簡単なのもあったら良いよね!」
冒険の旅にでるやつ!
神話の劇の、舞台になってるとこ!
俺は美味しい酒場巡りが良いなぁ。
とか、とか。
ミゼばあちゃんは、心にそれらのアイデアを、出せたら良いわ!と応えながらメモ、しっかと書き留めた。
ワイワイしていると、その脇から、タタタ、タタッ!と、すばしっこいネズミのように身体を丸めて、焦茶に金の誰かが走り込んできた。
あわあわ、わわわ!
「わっ!!」
「な、なに?!」
ベンチに座る4人、長いベンチには、アミューズのミニコンサートを聴いていた者達で暇な連中が、所々に座って話をしていたのだが、狙ったように。
真ん中のエフォールの足元を掻い潜り、かき分けて、ベンチの下に頭を突っ込んで。焦茶色の髪を乱して、一筋金髪が顔に。小さな男の子が、はあ、はあ、しながら、まん丸に丸まって、皆の足の後ろに潜り込んで。
「こらあ!待ちなさい、モア!」
「モア!何で逃げるんだ!」
働き盛りらしき、ちょっとくたびれてはいるが、中々仕立てのしっかりした上着を着たハンチング帽の男性と。今日はちょっとしたお出かけなのかな?平民だろうが、素敵な小花柄の紺のワンピースに、すらっとした腕がなかなか素敵な、女性。肩に、膨らんだ荷物の沢山入ってそうなトートバッグ。追いかけてきたのは•••両親だろうか?
お尻をエフォールの足の下に覗かせて、お顔を伏せて肩を弾ませているモア•••胸の、髪とお揃いの焦茶のおリボンも解けかけたモア、どうしちゃったんだい?
エフォール達は、んんん?と座面の下に、それぞれ足を浮かばせたりしながら、その小さな、はふはふした息の発生源、熱い震える身体を慮る気持ちで。誰しも懐の窮鳥には、情けをかけたくなるものである。
ベンチの前に、むん!と立った女性は、「モーアー!」と腰に手を当てて頭にツノ、が見えそうに怒っていた。
その後ろから、息きらせて、たたん、と腕を振り抜いて追いついた男性が、ふにゃん、と情け無い顔をしながら。
「ああ、はあ。全く、ちょっ速なんだからな!誰に似たんだ。はー。皆さん、ごめんなさい。うちの子が、足元にお邪魔しちゃって。」
「すみません、失礼しちゃって。ほら、モア!今日はお宿で、おもちゃも沢山あって、楽しいのよ?優しいお姉さんも、いるしね?何が嫌なの?お母さんと、やっぱりねんねしたかったの?」
ツノを引っ込めて、エフォール達に謝るお母さんは、はふー、しょうがないなぁ、って感じにモアに話しかける。
「ほら、お邪魔になるから、モア、お話聞くから出ておいで。」
お父さんがモアの、頭隠して尻隠さずのそのお尻を、ぽんぽん。皆の前にしゃがんで、大きな手で叩くと、プルル!と一層モアは震えて、そして叫んだ。
「やだ!おとーさん、おかーさんいじめる!ぼくが、まもってたのに!おやどで、べつのおへや、やだ!そのあといじめ、するんでしょ!」
ええ!?
と、長いベンチにいた老若男女が、モアとお父さんお母さんを、驚きの目で見つめる。
ええー!?とモアのお母さんが目を見張り。
「そんなこと、ある訳ないじゃない?お父さん、お母さんを虐めたことなんて、ないわよ?モア?」
「い、虐めてないよモア!皆さん、誤解ですからね!俺そんな事しません!妻と子供が大事です!」
モアのお尻に手を置いたまま、ギョッとしたお父さんも、いやいやいや!と反論する。
まさかね、とその様子に、ちょっと疑うも、女性の方がちっとも虐められている風でないので、見守る皆は、ふ、と肩を下ろした。
「モア、ほら、まず出といで!」
「い〜や〜!!!おやどにいかないー!」
お父さんが、まだぽんぽこな、柔いモアのお腹を避けて腰を引っ張るが、ベンチの脚にしがみついて、抵抗。何だこれ。
あー、とお母さんは、肩を落としてガッカリと。
「せっかく恋人気分で、お宿に泊まりに•••お出かけ•••ふう。モア。分かったわ。そんなに嫌なら、お家に帰りましょ。」
「そんな〜ジョリ、殺生な。お宿、予約済みなのに〜!」
ふえ〜、と情けない顔のお父さん。ジョリも残念そうに、しゃがんでスカートをキュ、と膝の後ろにたくし込んで。
「うん•••ごめんね、ティトゥルー。もう少しモアが大きくなって、聞き分けができるようになるまで、お互い、付き合ってあげましょう?せっかくのお宿、お出かけなのに、ごめんね。」
お父さん、ティトゥルーの顔を覗き込んで、肩を撫でて、済まなそうに。
モアはそれでも、半目になって、ベンチの脚を離さなかった。よそゆきの、ピッと皺のないシャツが、泥に塗れて、じゃりっと粉こなである。
「モア君。」
ピティエが、座面の下に向けて、手をひらひらさせて。
「今日、お兄ちゃんたちは、情報やさんをやってるんだよ。モア君のお話は、情報やさんに、とっても役に立ちそうだな?良かったらお兄ちゃんたちに、お話聞かせてくれない?」
優しく話しかけた。
ピティエは弟や妹はいない、末っ子だけれども、大分、寮の小ちゃい子達に慣れてきた。彼らは、大人みたいに誰かのお役に立てる、って、とっても喜ぶのである。モアも、きっとそうだ。
「じょうほうや、さん?」
モアは、低く、語尾を跳ね上げて唸る。
「そうだよ!」
「さっきだって、コッチの、ミゼばあちゃまのお悩みだって、かいけつしちゃったんだからね!」
エフォールとプレイヤードも、うんうん、って口添えする。
「もし、難しいお話だったら、子供の味方の、ギフトの竜樹様に、お電話できちゃうんだよ?本当にお父さんがお母さんをいじめてたら、コラッ!って怒ってもらうから。」
「ギフトの?たつきさま?」
ゆる、とベンチの脚を掴むモアの腕は、少し緩んだ。
ミゼばあちゃんは、えええ?とハラハラ見ている夫婦、ジョリとティトゥルーに、ニッコリ頷いて、人差し指を口に当てて、しいー、よ?と見せた。大丈夫大丈夫、この子達にお任せなさい、と口パクで。
むふふ、お仕事ゲットの予感である。
「お父さんとお母さんも、走ってきて疲れたでしょ。ベンチに座りなよ。俺たちがお話聞くからさ。何で、お母さんが、いじめられてる?って思ったのかな、って。」
アミューズが言って、あわわ、とピティエが慌てた。それ、聞いちゃう?ちょっと、多分それ、お宿って言ってるし、夫婦は仲良しそうだし、子連れだしで、竜樹様がラフィネお母さんに渡した特別優待券、『夫婦のちょっと特別な夜〜たまには恋人同士の気分で〜』みたいな事が関係してるんじゃあ•••?
ぽぽぽ、とほっぺを赤くするピティエだが。丁度その時。
もそ、ごそごそ、とモアは這い出してきて。手を座面の下に出していたピティエの腕に、ぎゅっと掴まり、登ってくると、そのお膝に、向かい合わせに、ちょん、と乗った。
威圧感の全くないピティエは、モアのお話聞かせてのお眼鏡に、かなったようである。
じっ、とピティエの顔を見つめて。
「おにいちゃん、おめめ、なんかちがうね?」
視線と焦点の合わないピティエの、灰緑色の瞳に水色のサングラス。
ザリザリした土の手触りに、パタパタとシャツを払ってやり。
「そうだよ、お兄ちゃんは、お目々が少し悪いの。光も眩しくって、だから、このメガネをしてるんだよ。モアのお顔も、よく見えないんだな?」
と片手は腰を支えて、もう片手は頭の、多分あるだろう所をふんわりと、撫で撫で、した。
「ふうん。でも、おにいちゃん、きれいね。」
ふす、と鼻息のモアは、ピティエのツナギの胸に、お顔をぽすんとくっつけて。モデルのピティエは、毎日のお手入れもあって、今日も輝くばかりに魅力的である。その魅力はモアにも通じるのであろうか。
「おにいちゃん、ぼくのおはなし、きいてくれるの?」
ぎゅっと、胸に縋り付いた。
「あのね、ぼく、おかあさんだいすきなの。」
話し始めたモアに、ベンチで4人とミゼばあちゃんの並んだ横、ピティエの隣に座ったジョリお母さんは、困り顔のまま、ふふっと笑った。
「うん、うん。大好きなんだね。」
「うん。それでね、いつもいっしょに、ねんねしてるの。おとうさんも、しかたないから、いっしょ。」
見えないと知っても、見上げてピティエの顔と視線を合わせてお話する。皆、ふむ、ふむ、そちらを向いて聞いている。
「お父さん好きじゃないの?俺は竜樹とーさ、好きだよ?」
アミューズの言葉に。うーん、と長考したモアだったが。
「おとうさん、いじめるのまえは、すきだったんだけど。いっしょあそぶし、かたぐるまもだし、おしごと、かせいでくる。」
モアなりに、慕っていたようなのであるが。
「お父さん、どんな虐めした?」
プレイヤードが、叩いたりしたのかな?でもな、それにしては、と訝る。
「ねんねしてるとき、おとうさん、おかあさんに、ぼんってのっかってた!おかあさん、あーってくるしそモガ「わぁあああ!!!」」
うん。夫婦生活ですね。
ジョリお母さんが真っ赤になって、あわわとモアのお口を塞いだ。たはー、とティトゥルーお父さんも額に手、ぐったりと頭を落として、とほほ顔である。
(だからやっぱりダメって)
(いやいやだからさそれを踏まえて今回お宿にさ?)
とひそひそポッポし合う夫婦に、周りの聞いていた人々は、ニヤニヤ微笑ましげである。
う、ううん!咳払いする。ピティエは赤い頬を、ペチ、と叩いて気合いを入れる。何しろ、それは、犯罪とか、虐めなんかじゃ、ないのだ。むしろ仲良しだ。
「ええと。こないだ、竜樹様に、せいきょういく、の番組のための、お試し、ってやつを、やってもらったんだよね。」
お口を塞ぐジョリお母さんの手を、むぐぐ!と振って外したモアに、ピティエはちゃんとお話してあげないと、って思った。お父さんがお母さんを虐めたと、誤解してるなんて悲しすぎて。それに•••竜樹に性教育の話を聞いて、自分でも恥ずかしいばっかりじゃなくて、納得する事があったし、大事な事だから。女の子も男の子を、男の子も女の子を、怖れないで、尊重してって。
うん、伝えるのだ。
うん、うん。
「あ、あの竜樹とーさのお話か。」
アミューズも、腑に落ちた。
「だね、うん。モアだって、知ってたら、大事な事ってわかるよね。」
大人になるの、怖くないよ、と教えられたエフォールも、もっと小さなモアに、伝えなくちゃ、って。
「分かった。あの話、モアに教えてあげよう!」
プレイヤードも、真剣である。
ミゼばあちゃんは、うふ、と微笑み、お悩みバスターズ•••あれ?情報屋だっけ?の4人が、何を話すのかな、って期待して待った。何があっても、このミゼばあちゃまが、若い夫婦にも良いように、フォローをしてあげましょう、の心持ちで。
「モア。モアのお母さんは、赤ちゃんになる前の、たまごをもってるんだけど、そのたまご、どのくらいの大きさか、知ってる?」
ピティエが、そうっと、言葉を一つ一つ吟味しながら、問いかける。
「たまご?おかあさん、たまごもってるの?」
ジョリお母さんは、ええ?!と慌てたが、うんうん、とピティエが頷いて。
「そうなの。女の人は、たまごをもってるんだ。」
うーん。
「このくらい?」
モアが示したのは、お手てで、くるんと包めるくらい。それを手探りで触って確かめたピティエは。
「うーん残念。このくらい•••よりも、もっともっと、もーっと小さい、ゴマの粒よりもちっちゃいくらいの、大きさです。」
人差し指と親指をきゅーっ、と小さく小さく示して、それでも、と。
「ええ〜っ!!!?そんなに、ちっちゃ!」
ええ〜っ!?そんなにちっちゃいんだ?と聞いてる大人達もびっくりだ。竜樹は、尖った鉛筆で、ちょん、と紙に突いた位の大きさ、と言っていたが、1ミリもないのである。
「そうだよ?だから、お母さんが、お胸に抱っこしたりしたら、なくなっちゃうよね?」
ピティエの、ちっちゃ!の指を掴んで、うん、とお目々をおっきくして、頷く。
「だからね。たまごは、お母さんのお腹の中の、赤ちゃんを育てるところにあるの。なくならないように、大事にしまってあるんだね。でもさ、モア。赤ちゃんて、お母さんだけで、できないでしょう?」
「うん。おかあさんと、おとうさんと、あかちゃん。」
だよねー、とアミューズも笑う。
「お父さんが必要だよねえ!」
ティトゥルーお父さんが、む、ススッと威厳を出して背筋を伸ばす。何故か。パチン!とジョリお母さんが、優しくお父さんの背中を叩いた。照れ照れ。
「お父さんはさ、赤ちゃんのもとを、半分持ってるんだよ?お母さんのたまごと、お父さんの赤ちゃんのもとと、半分半分でくっついて、1人の赤ちゃんになるんだ。」
「ぼくも、おとうさんと、おかあさん、はんぶんこ?だからおとうさんと、お目々がにてる?」
ティトゥルーお父さんと、モアの目は、おんなじ焦茶色である。ありふれた色であるが、そりゃあ分かりやすく、ティトゥルーお父さんからの遺伝であろう。
「そうだよ!モアはお父さんと、似てるね!」
エフォールが確かに、と頷く。
そうなんだねー、とこの場合、ぼやぼやっとしか見えない3人は余分な口をきかず、うんうんとした。
「でもね、たまごは、お母さんのお腹の中にあるでしょう?」
ひそ、と大事なことを言う時は、声を秘密に落として。
「うん•••?おなか。」
「だから、お父さんも、子供のもとを、お母さんの、大事にしまってある、赤ちゃんの育てる場所に、入れてあげないといけないよね?」
ひそ、ひそそ。
「うん。」
何故かモアも、ひそりとする。
「お父さんが、赤ちゃんのもとを入れるのには、おしっこをするときと似たかんじにするの!だから、お父さんは、お母さんと仲良しにぎゅっとくっついて、お腹に赤ちゃんのもとを、入れていたんじゃないかな?」
うん、子供に説明するのの、限界がこの辺であろう!
ピティエ達は、図に描かれた、もっと分かりやすい、そして直接的で嫌らしくなく学術的な、それでいて平易な言葉で説明してもらったのだが•••モアにそこまで、そしてこの広場で言うのは、お年頃のピティエとしても憚られたのである。
「虐めてたんじゃ、ないんじゃない?」
「うん、俺もそう思うな。」
エフォールとアミューズも、応援のお言葉である。
パチクリ。
お目々をこれでもか!と大きくして。ピティエの顔、ジョリお母さんの顔、ティトゥルーお父さんの顔を順々に見たモアは。
「いじめてなかった?あかちゃん、してた?」
ひそそ、のまま聞いた。
うん、うん。お父さんとお母さんは、大きく、ちょっと恥ずかしいけど、頷くのである。
「モア、お父さんは、お母さんを虐めてないよ?赤ちゃんしてたんだ。」
「そうよ。お母さんも、虐められてないわよ。赤ちゃんしてたのよ。」
ひそそ、と応えるのである。
ここで、何言ってるの、モア!なんて、怒らない、優しいお父さんとお母さんで良かったな、とピティエはホッとした。
トゥルルルル
あれ、電話だ。
驚いて、ふす、ふす!と鼻息の荒いモアだが、一旦おいといて、エフォールは電話に出た。
ポチ
「はい、エフォールです。」
『はいはいこちらは、竜樹です。うっふっふっふ!ティトゥルーさん、俺、知り合いなの。可愛いねえモアったら。皆も良く、赤ちゃんのことを伝えてあげられたね。お母さんとお父さんの仲良しを、あんまり小さい頃に見ちゃうと、勘違いのまま、悩んじゃう子もいるんだよね。ちっちゃい心が、悩んでいたら、可哀想だもの。俺も一言、モアとお話するよ。』
「うん、竜樹様。モアに代わる?」
『お願いします。』
モア、ギフトの竜樹様からお電話だよ!と渡されて、小さなお手てに余る電話、エフォールに促されてピティエはそっと、お手てを補助してやった。
「た、たつきさま?ギフトのひと?」
『はーい!竜樹だよ。ギフトの人です。モア、初めまして。お父さんのティトゥルーさんからは、モアのお話、聞いていたんだよ。』
「ええ!?ぼくのおはなし?きいてた?」
『うん!そうだよ!』
新聞販売所で。
『俺、子供いて、まあまあ大きくなってきたから、もう一人って思ってるんだけど。家では同じベッドで3人で寝てるから、なかなかそういう雰囲気にならなくて。息子が、お母さん子で、嫉妬するんだよね。それに、敏感なんだ。夜、妻に話しかけると、割とすぐ起きちゃう。涙を飲んで寝た事が何度もあった。』
『あれが上手くいってたら、今頃もう1人いる訳だな。』
『子供が欲しいとかじゃなくても、奥さんと仲良くしたい時あるよ。』
『相手も、子供の様子見てたりして、気が散ってあんまり乗り気にならなかったりして•••。』
『家が狭くて、どうしようもないんだよなあ。』
など、などと、話し合っていた男たちの井戸端会議で、意見を出してくれた内の1人が、ティトゥルーだったのである。
『ティトゥルーお父さんは、モアの弟か妹が、欲しいんだー、って、俺に話してくれたんだ。お家が賑やかになって、モアも仲良しして遊べるし、楽しそうでしょ?でも、モアが、夜起きちゃうから、可哀想で、なかなか赤ちゃんづくりを出来ないんだよ、って。困ってたんだ。』
「こまってたの?」
初めてきく!!と真剣に聞き入る顔に、ミゼばあちゃんも4人の荒野チームも、成り行きを安心して見守る。
『うんうん、そうなんだよ。』
竜樹は、いつもの穏やかな口調で、ちいちゃい子にも分かりやすく話した。
『それを聞いて、俺は、宿屋のおじさん達と、良い事考えた!ってなったの。お宿に泊まったら、良いんじゃないかな!って。モアは優しいお姉さんに遊んでねんねしてもらって、お父さんとお母さんは安心して赤ちゃんがつくれる方法を考えたんだよ!』
でも、モアは、お母さんが虐められてると思ったんだね。
「うん•••だって、だって。お母さん、あーって。」
ショボ、とするモアだが、仕方あるまい。小さな子に、虐めてるのと夫婦が仲良くしてるのの、事の見分けが、つくはずがないのだ。
『モアは、お母さんを、守ってたんだね。偉かったね。』
言葉で人は人を撫でられる。
モアは、気持ちを分かってもらえた、なでなでされた、と、くしゅり、鼻を鳴らした。ピティエのツナギの胸にほっぺを押し付けて、もぐもぐ話した。
「ぼく、ぼく、あかちゃんしてる、って、しらなかった。だから、おやどは、いやだったの。おかあさん、まもるとおもった。」
『うんうん。だよね。モアは良い子だね。でも、もう大丈夫。お父さんは、お母さんと、仲良しなんだ。仲良しじゃないと、赤ちゃんつくらないじゃない?お父さんとは、お話したけど、本当に、ちゃんとした、頼り甲斐のある、良いお父さんだよ。安心して良いんだよ。』
「うん。ぼく、•••おやどにいく!おとうと、つくってもらう!」
ふす!
弟限定なんかい。
と皆、笑って、笑って。
ジョリもティトゥルーも、笑って、照れくさそうに竜樹と電話で話した。
『ティトゥルーさん、モア可愛いじゃない。お母さん守ってたんだって。そりゃあ、なかなか、機会がない訳だったね!優秀な護衛がいたんだから!』
「あはは〜!お恥ずかしい事です。やっと予約が取れて、今日お宿に泊まりに行くとこだったんですよ。竜樹様にも、骨を折ってもらって、なんとか家庭の難が乗り越えられそうです!」
『いやいや、意見を聞かせてもらって、助かったよ。その、何とものティトゥルーさんがお宿に行けなくちゃ、困るとこだったね。これからも、ご夫婦仲良くね。イライラして、モアを怒ったりしないご夫婦だから、俺も見てて安心したよ。つい、当たったりしちゃうもの。でも、きっと仲良く楽しく暮らしていけるね。』
「ありがとうございます、竜樹様。」
「ありがとうございます!」
ティトゥルーとジョリ夫婦、そしてモアは、納得して、幾分ヨレヨレになったモアのおリボンも結び直して、意気揚々とお宿に向かった。
モアは、見えなくなるまで振り返っては、皆にずっと手を振っていた。
よほど安心したものだろうか。
荒野チームの4人と、ミゼばあちゃんには、情報屋のお礼の銀貨1枚。
撮影で情報屋をやってるんです、との説明に、助かったよ、モアに、その情報。と、気分良く払ってくれたのだ。
ムフフ、と初めての報酬に、頬も緩む4人である。
その前に、すた、と歩き、立ち止まった影。
「あの•••ここで、お悩み相談、聞いてくれる、って来たんですけど。」
形が悪くて小さい、蛇苺なみのいちご。プロじゃない90代のおばあちゃまが作ったのを、今日、もらいました。スーパーの袋に、ボウルに1杯くらいの量を。食べても酸っぱいので、早速ジャムにしましたが、美味い!
味が均一じゃないものを程よく混ぜた良さ、ってあるね。
ヘタや汚れをとって、悪くなってる部分もこそいで。
手間はかかったのですが、市販にはない味。
大量に均一なレベルで作る良さも分かりつつ、こういうの捨てがたい。
と、思われるような、お話が描けたらなあ!
とヨーグルトにかけて味わいました。がんばります。




