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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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422/692

歌う情報屋さん


さて。

『チーム貴族と荒野へ向かう者達』である。

足が悪い、歩行車のエフォール、視覚障がいのある、ピティエ、プレイヤード、アミューズの4名が、ハンデをものともせず意気揚々と、お仕事検証に挑みます。


広場をゆっくり歩いて、ベンチで少し散って座って、静かにお話聞いてみよう、と計画していた4人だったが。程よい所のベンチには、既に人が座っていて、空いているのは中央のシンボル的な大きな長いベンチ、1基のみである。

そうなのだ、他は、親子連れや恋人達など、近くきゅっと座りたい人たちが、大きなベンチを避けて親密に。うふふ、きゃっきゃ、と楽しんでいて。


「おっきなベンチしか空いてないねぇ。とりあえず、そこに座ろうっか?」

唯一はっきりと見えるエフォールが、自然とリーダー、相談すると、ピティエも。

「うん、仕方ないね。そうしよっか。」

と頷いた。

「良いよー!」

「逆に皆でお話聞けるから、良かったかもねえ。」

良いお返事のプレイヤードに、こうでなきゃ!じゃなくゆるりと見方を変えるアミューズ。

カタ、カタン。カチ、カチン。

歩行車の音と、白杖を持ち探り探り歩く音とが、ゆっくりと。

ベンチを確かめて、普通のベンチ3基分はある長い座面に、エフォールは、よっこいしょ、ちょこん、と座った。

ピティエ、プレイヤードも、エフォールの両脇に、すとん、ちょん、と座った。広いベンチだから、ぎゅうぎゅうじゃなく、ゆったりと座っていられる。ふーっ、と皆で息吐いて、そして何故か、うふふふ、と笑って顔を見合わせた。ここまで来るのにも、何かと一苦労な4人であるから、やったね!て気分なのだ。

アミューズは1人、座る3人の前に止まって立って、足を少し開いて、楽な体勢をとる。


「じゃあ、早速始めようっか。」

「うん。アミューズ、何を歌ってくれるの?」


「あ、あ、ううん。あー、あー♪そうだね、何が良いかなぁ。」

「あれが良いな、竜樹様の聴かせてくれた、ほら、旅路を花が、ってやつ。」

ニコニコと、プレイヤードが思い出して薦める。


ゆったりした繰り返しの音が、まるで旅路のその、歩みを表すように。そして難もあるだろうその旅路も、紫の花に、照らす月、穏やかに続いていくのは人生めいて。

忙しい世の中から一歩外れて、少しのんびりめに、マイペースに、生きる冒険を繰り返し、花咲ける旅路をゆく、そんな4人にピッタリの選曲であろう。


「じゃあ、歌います。」


スゥ、と息を吸って。


〜♪ 〜〜〜♪



アミューズは堂々と、朗々と、歌う。人を急がせないその歌に、足を止める人多数。美しい少年の、繊細なのにしっかりした声。

原曲は女性が歌った曲だけれど、その人生の深みをも感じさせた声とはまた違った、アミューズの初々しい声が、高く、響く。


荒野を切り開いて歩んでゆく4人なのだが、その旅路がふくふくと、花で祝福されていても、良いでしょう?むしろその後を、花が次々と咲き追いかけてくるようにも。



ふん、ふん♪


3人は頭をゆっくり、音に合わせて振って。エフォールはゴソゴソと、歩行車の荷物入れから、途中だった編み物、5歳の女の子、ジゥ用の、若葉色髪に垂れ目のクマちゃんを取り出し、スッと編み出した。


ひと編み。舌ったらずなジゥを思って。かぎ針を、ゆん、ゆん、しゅ、とリズム良く、自然と曲に合わせて。


ひそ。

「素敵ね!あの子たち。」

「うっとりしちゃう。」

ああ。


素晴らしいものには、アリンコさんみたいに、誰でも足が吸い寄せられて。


アミューズは、次々と歌を歌った。

花つながりで、泣けよ笑えよと、花を咲かせてと、ゆるく切なく、その明るさがカーンと響いて。またそれも女性が歌った歌だが。深い人生を思わせる歌詞を、アミューズのまだ幼い声に歌われると、何だかむずむずするような、ギャップある清らかな感じがいじらしくて、老若男女、ふ、ふ、と足を止めずにいられない。


「すげえな、あの子。」

「••••••。」

ひそひそ。そして無言で目をつぶって、〜♪と音に心を乗せて、まずまずの人だかり。


ゆん、ゆん、しゅ。 ゆん、  ゆん。  ゆん。



あら、あららら。


カメラマンを検証中!のエフォールの母、パンセ伯爵家リオン夫人は、膝を柔らかく曲げて落ち着いた体勢を取り、ジーッと息子達を撮影していたのだが。思わず、ふはっ、と笑ってしまった。


素敵なゆったりした音楽に、高い空、清々しい空気。ちょうど良い気温に、少し昨夜、お仕事前で興奮して眠れなかったのか、コックリ、コックリ。


エフォール、居眠り。

ハッとしては、一目、一目。

そして、コックリこ。


(エフォール、ダメよ、起きてぇ!)

リオン夫人も思わず、気持ちの呟きを漏らして、エフォールどアップの映像と共にマイクに録音されてしまった。


花ときたら、風である。

風が強く吹いて、箱根駅伝、走り抜ける若者達の物語の主題歌。

途端にアップテンポで刻み始めた、青春の歌に、聞いていた女性が胸に手、組んでぴょんと飛んで、走り出す鼓動を皆で共有して。

ああ、駆け出したい!でも、聴いていたい!


エフォールも、ビクッとして、歌が始まると同時に、ニコッとして。チーム荒野を行く者達は、タンタンタ、と足をリズムに乗せて踏み、エフォール、プレイヤード、ピティエも一緒に口ずさんで。



ルムトンが目をつぶって、手を振ってリズムをとる。風の歌が終わるまで、何も言えなかった。曲を邪魔したくなくて。

「•••素晴らしいね!アミューズ、もう、歌い手じゃん、天職だね!」

「〜〜〜♪ ハッ、いやいや、のってる場合じゃないよ、情報屋だろ?吟遊詩人じゃないんだからさ!」

ステューがノリかけて、いやいやと気を取り戻す。

「もう良いじゃん、歌も情報って事で。この荒野を行くチーム、なぁんかまったりとして、いい雰囲気なんだよなぁ。」

「それは言えてる。」

モルトゥが、ううん、と唸る。

「何でもして良いんだけど、こんな方法があるとはね。アミューズにしか使えないけど、このチーム、期待できる。」

俺もこんなスゲェ歌声がありゃあなぁ。

柄にもなく憧れ、モルトゥの頬はポッポと赤くなっている。



歌が終わり、拍手大喝采、ミニコンサートは一旦休止となって、いやー良いもの聴いた、と立ち去り難く皆が話し合っているので。


すく。ゆるゆる。と編み物を傍に置き、歩行車を支えに。立ったエフォールが、リーダーらしくこう口切り。


「皆さん、お集まりいただき、聴いてくれて、ありがとうございます。私たちは、今、『アンファン!お仕事検証中!』のテレビ番組撮影で、きています!」

(頑張って、エフォール!)

口だけぱくぱくと、応援のリオン夫人。


プレイヤードも。

「私たち、情報屋のお仕事を検証中なんだ!もし、もし良かったら。」

ピティエも。

「何か、これ!っていう•••何でも良いんです、情報を教えて、聞かせてくれませんか?」

「「「「お願いします!!!」」」」


お願い事を、叶えてあげたい。

聞いていた聴衆達は皆、そんな気持ちになったけれど、かと言って何を話したら良いものだか、どうする?どうする?とわやわや話している。

えーと、えーと、と、聞いた方も、聞かれた方も、どうしたら、と困っていると。


「あらあらあら。エフォール様。ピティエ様にプレイヤード様も。アミューズ、歌、素晴らしかったわ!」

「ミゼリコルドおばぁちゃま!」


やり手の商人、ニリヤの祖父、クレール・サテリットじいちゃんと合わせて時々寮に来ていて、エフォール達と顔見知りになった優しい老婦人。ニリヤのお母様、リュビ妃様方のおばあちゃん、ミゼリコルドのおばあちゃまが、ヒョコ、と聴衆の中から顔を出した。

たまたま散歩で通りかかって、歌を気持ちよく聴いていたのだけど、エフォール達と聴衆が困った様子なのをジリジリと、黙っていられなくて出てきたのだ。


「可愛い情報屋さんね。何でもお話して良いのかしら?ちょっとここに座っても?」

ニコニコと灰の瞳も眉も優しく笑いかける。ふくっとした老婦人に、エフォール達もホッとして、ニココ!とした。

「はい!おばあちゃま!」

「何でも、お話してください!」

「私たち、聞きます!」

アミューズも、白杖を、スッと出して確かめながら、声のする方、ベンチへと向かって、手を出してくれたエフォールの導きで、プレイヤードの隣に腰掛けた。ミゼおばあちゃまも、反対側、ピティエの隣に座る。


「そうね。私の、お悩みってやつを、聞いてくれないかしら?皆。」

「おなやみ?なあに?」

ハテナの顔をする子供達に、ミゼばあちゃまが語るところによれば。


ニリヤのじいちゃん、クレール爺ちゃんは、今、竜樹がちょくちょく持ち込む仕事で大忙しである。

仕事をするのが趣味のような人だし、やればやるほどニリヤ、孫にも会えるので、嬉々としてやっている。

ただ、竜樹から新しい案件を持ち込まれても、自由に動けるように、今まで堅実にやってきた商会の実務からはゆるりと遠ざかり、信頼できる者に任せて監督だけして。依頼があったら遊撃隊のように八面六臂の活躍で走り回る。


「クレールは良いわよ。楽しそうだもの。それに竜樹様が、ちょいちょい使って下さるので、本当に充実しているみたい。私も、そろそろ後進達に任せて、と育てるためにちょっと、仕事から引いたの。」

「ミゼおばあちゃまは、どんなお仕事してたの?」

アミューズが問えば。

「接客、会計ね、主に。税金を払うための書類の作成や、毎月の収支をつけて、ここはこうだったわー、とか、この仕入れが響いたけど、まあ回収できるわねー、とか、クレールの相談にものってたの。」

「すごいばあちゃんなんだね!ミゼばあちゃま!」

「色々できるんですねえ。私も、お店やってるけど、収支を考えながら、こんなお茶を出そうかな、とか、やる事いっぱいあるのですよね。」

それが楽しくもある。やりがいもある。

ウフフ、と笑い合うミゼばあちゃまとピティエである。苦労を分かり合えるって、とっても親しみがあるのだ。


「お仕事引いて、教えてるんですか?」

「教えて•••それも、事細かに教える段階は、もう過ぎちゃったのよねえ。」


私、暇になっちゃったのーーー。


ミゼばあちゃまは、ほとほと困った顔で、ため息を吐いた。


本日は短めご容赦です。

月末ですね、忙しい皆さん、今月も何とか乗り切って行きましょう!

雨も、危険じゃなければ、嫌いじゃないよ。



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となりました。2024年5月31日付け

沢山の方に読んでいただけて、とっても嬉しいです。いつもありがとうございます(^_^)



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