閑話 11年後のイーヴ
商店街のほど近く、パシフィスト王都中央学園からもさほど遠くない路地に、その居酒屋はある。
11年前は、『酔い処イーヴ』と言ったそこに。
『のんある居酒屋イーヴ』と、かかっている看板は木で、そしてピッカリ樹脂で覆われた「学園指定登録飲食店 No.001」と書かれた登録証が、その下に誇り高くきらめいている。
中では軽快な音楽が流れていて、小型のテレビをチラッと観ながら見目麗しい、キラキラした金髪を後ろに纏めて尖り耳の、長身の男性エルフが、仕込みの真っ最中。椅子を出し、座って床に木箱で受けながら、芋の皮をシュルシュル、小さなナイフで器用に剥いている。
エプロンが似合って。
側には小さな、5歳くらいの見かけの男の子のエルフもいて、小さな丸椅子に座って。大小2人はそっくりだ。ぎこちない手つき、ピーラーで皮剥きをお手伝いする男の子は、とっても良い子。時々、テレビに目が吸い寄せられて、お手手が止まっている。
ショリショリ。
『ーーーじゃんじゃんバリバリじゃんバリリ!魔獣対策もこれでOK!スゴンドゥヴィ商会の新型スタンガンなら、まさかの事態にも即対応!従来の1.5倍の威力があり、500メイルの遠距離からでも、即座に対象を麻痺気絶状態にもっていきます。』
ショリショリ。ぽと。
『それでいて、安全対策も益々強化!絶対に人に向けては発動しません。小さなお子さんのいる冒険者のお父さん、お母さん、安心して下さい。』
ショリ。ショリ、ショリショリ。
『スタンガン他、冒険者御用達武器防具小物など、各種取り揃えて、各国都市支店でいつでも手にとって、お試しご購入できます。経験豊富な元冒険者の店員も多数常駐、困ったら何でも相談してみて!』
ショリ。ぽと。ぽとん。
『冒険者には!スゴーン・スゴーン・ドゥ・ヴィ〜♪しょーうかい♪』
「すごーんどうびー、しょーうかい♪」
男の子が、ショリ!とピーラーを引き、ふんふん、と首を振ってテレビの音に合わせて揺れる。CM音楽やジングルって何故か音が耳に残るよね。頭の中でリピートしてしまう。
それをチラッとまた見たエルフの男性、父親は、ふ、と笑んで、手は止めないままに、追いかけて歌った。
「スゴーン・ドゥ・ヴィしょーうかい♪」
男の子は父親エルフを見て瞳を合わせ、にへ!と笑う。
ふふふ、と微笑み合う親子は、ふん、ふん♪と昔懐かしい曲を、途切れ途切れに声合わせて歌い始めて、テレビの音と混ざって。
午前中、まだ早いゆったりしたひととき、親子朗らかに、仕込みは進んでゆく。
アムーレが『のんある居酒屋イーヴ』のドアを押して入ると、ベルがカランコロンカラン♪と軽やかに鳴った。
「エドゥ、聞いてくれよぉ〜!」
アムーレはあれから、そうイーヴと別れてから11年。太りはしないが歳の影響は振り払えず、不健康にはっきりぽっこり出たお腹に、皺の刻まれた顔はやつれ気味、褪せた金髪は白髪混じりで染めてもおらず、水色の目は疲れに鈍い。
明らかに、紛う事なく、そこらにいるおっさんである。
エドゥと呼ばれた父親エルフは、皮剥きの手を休めぬままに。
「アムーレ。そっちの『酔亭アムーレ・フランカ』だって仕込みの時間だろ。またサボりか?」
吐息をふーんと吐いた。
「まあ良いじゃない、固い事言わずにさあ。何か飲むものちょうだい、もやしのヒゲ根取り、これでも終えてきたんだからね!」
やり切った!って顔をして、整ったそこら辺のテーブルから椅子を引き出し座り込み、図々しく飲み物を要求する。
「もー。アムーレおじちゃん、エピスはどうしたの?おいてきちゃったの?またしこみ、かわりにさせてるの?」
男の子が、眉を顰めてアムーレに剥きかけの芋をふりふり、プンプンする。
エピスはアムーレの娘だ。歳も同じくらい、5歳になったばかり。
「うーん、だってエピス、怒るんだもん。少し、少しだけ休憩だよ!もう2時間も仕込みした!」
グッタリ、テーブルに顔を伏せるアムーレを甘やかしていては。
「「エピスもいっしょにつれてきなさい!」」
せめて5歳の娘に、仕込みをおっつけてくるのは止めなさいよ。とエルフ親子は腰に手を当て、怒る。
「わ、わかったよぅ。エドゥ、アビル、親子揃って厳しいんだからな〜。」
むく、と半目で起き上がったアムーレだったが、それと同時にカランコロン♪とドアベルが鳴り。
「ちょっと!おとうちゃん!またイーヴにきてサボって!」
キュッと上がった眦は、母親譲り。気が強そうだが、丸い眉に目尻の黒子がそれを和らげて、ふくふくと可愛らしい娘ちゃんである。ピンク小花柄の、水色のワンピースが、ぽんぽこしたお腹に沿って広がって、何ともキュートだ。
「あぁ〜エピス、良い所に。ささ、少し休もうよ。」
椅子をガタンと出して促すアムーレである。
「いそがしいのよ?しこみ、テルさんひとりにまかせっぱなし、ダメよ!」
もー、と頬を膨らませ、お口を尖らせる。
「エピス、少しだけ休んでいきなさい。今、はちみつのお茶を出してあげるから。少し休めば、アムーレも気が済むでしょ。」
「やすんできなよ。」
エドゥ、アビル親子は芋の皮剥きを途中で止めて、お茶とお茶菓子の用意を始める。
いつもの事なので、自分達も一旦休む事にしているのだ、アムーレがサボりに来ると。
「エドゥおじちゃま、アビル、ありがとう。いつもおとうちゃんが、じゃまして、ごめんね。でも、はちみつのおちゃは、すてきね!」
「そうでしょ。おかあさんが、こないだ『葉の雫』で、かってきたんだ。」
「アイリス第二側妃様が、店番にちょくちょくいらしてるんだって。相変わらずだね、あそこも。」
ハハハ、と笑いながら、エドゥはエピスにお茶をスッスッと淹れてあげる。ついでに自分と息子、そしてアムーレにも。
ふわ、と湯気の出るカップに、甘い香りのはちみつ茶は、ほんわり。
エルフ親子は、すす、と啜る動作も同時にそっくりに、ほわ、と嬉しそうな顔をした。
「スノーボールクッキー、美味しくできたよ。これもお食べ。」
「かわいいおかしね!いただきます。」
青の小皿に乗せられて、各自に配られたスノーボールは、エドゥのお手製だ。これからエルフの料理人、仲間のトルヴィがやって来る。イーヴのお料理はトルヴィが担当なのだが、甘味はエドゥ担当で、色々やっているから、スノーボールクッキー位は朝飯前。
『闘魂!女子プロレス!今夜19時!永遠の因縁相手、ジュヴールの貧民街からのし上がってきた生粋のファイター、茜色のコンスタンスと、栄光のチャンピオン、エルフのヴェール・マランの対決!勝敗は今まで0ー5とマラン優勢だが、しかしコンスタンスも脂が乗っている!さあ、どうなる女達の熾烈な闘いはぁ!ーーチャンネルはエルフチャンネル、輝くときを、かがやくままに。今夜もこれで決まり!』
「あー、ヴェール・マラン、まだやってるんだあ。」
「おとうさんの、なかまのエルフ?」
うん、仲間だよー。
親子は、お茶とお茶菓子を口にまったり味わうと、脇に置いて芋剥きを再開した。
ショリショリ。
「ジュヴールから助けられて、すぐに女子プロレスの選手になったから、かれこれ11年は戦ったんだねえ。早いなあ、時が過ぎるのはなあ。」
「ジュヴール、エルフに、わるいことした、くにね?」
ショリショリ。
「そうだねえ。エルフを呪って、言う事きかせてねえ。バカだったねえ、もうあの時のジュヴールの上層部、首謀者達は、ほとんどいないし、呪いの管理者達は呪い返しの後遺症で今も悩んでるらしいから、全く悪い事は出来ないもんだよねえ。」
クシュ、と口の中でクッキーを噛み締めたアムーレが、会話に入る。
「こないだ初めて謝罪金を払ってくれたらしいじゃない。エドゥも、貰ったの?」
「ああ、貰ってないよ。リュミエール王様が、ジュヴールの国の民達の貧しさをみて、まだ良い、って返したらしいね。ジュヴールのルプランドゥール・リュンヌ連合国王様は、何とかエルフと繋いで、転移魔法陣を一つでも作りたいと、少しでも良いから貰って下さい、って下心も明かしつつ、頭を重々に下げたって。だけど、王様は良いんだけど、まだまだ民がねぇ。」
エルフを虐げていたジュヴールは、その後の連合国やエルフ達の尽力で、何とか自分達で考えて、呪いで管理されずに、生活をするのに慣れてはきたけれど。
「今の中心的な親世代が、エルフを使ってた最後の年代くらいで、未だにあの時の楽ちんさを忘れられないみたいね。何だか、エルフがいさえすれば貧しさも何とかなるし、上手くいく、って憧れが変に増幅しちゃって、まだあの国にエルフを呼べないって。農地は回復してきたらしいんだけど。」
「うへえ。気持ち悪いな。」
エドゥは悲しげだし、アムーレも首をキュと縮める。
エルフが今、ジュヴールに行けば、拗れた偏愛によってたかって引っ張られて、酷い事になりそうである。実際、エルフチャンネルの視聴率は、ジュヴールで抜群に良くて、アナウンサーに女優さんや男優さんなども、熱狂的狂信的に好かれている。
それを教育に使うエルフではあるが、ちゃんとしたまともな関係の成立には、次の、少し冷静な世代が育ちつつあるので、待つのが正解かもしれない。
「崇め奉られても、困るしなー。」
「だろうね。お前、ふつーのオッサンだしな。」
アムーレに言われたくはないだろうが、いやいや、ふふ、とエドゥは笑って。
「そうだよ。俺は普通の、エルフの親父なんだからね。」
「アビルのおとうさんだよ。」
ぅあぶぶぶ、ひく、ひ、ふえ、ええ!
今まで、ピクリともしていなかったのに、エドゥの足元の揺籠に乗って、静かに眠っていた、次男のシヴァが、ふえふえと泣き出した。
おやや、よしよし、と手をエプロンで乱暴に拭いて抱き上げ、エドゥはおしめを変えてやり、ミルクも作った。
エピスが、エドゥおじちゃま、ミルクあげたい〜!とねだるので、手を添えてミルクやり。穏やかな時間が流れる。
「はよーさん!」
カランコロン♪
料理人のトルヴィが、出勤してきた。両手に大きな紙袋、背中にも食材を背負って、今日届けてもらった仕入れに足して、商店街でお買い得品を狙って買い込んできたようだ。
「「おはよう!」」
「はよーす。」
「おはよう、トルヴィ。お芋はもう少しで剥き終わるよ。」
「ありがとう〜。今日は試験の打ち上げで学園の生徒さんの予約が沢山入ってるから、お芋いっぱい使おうよねえ。」
コロッケ、グラタン、フライドポテト、ポテトサラダ。お腹にたまる食べ物を、年頃の若者達に、沢山食べて欲しい。少し前の季節に、旬でとれたお芋の、時どめ流れ品が、何せお安かったのだ。
「きょうは、がくえんのこたちが、よやくでくるんだね。」
アビルが、鼻をクシュ、と擦ってでんぷんをキラキラ白く頬につけた。
「そうそう。」
トルヴィは、買ってきたものを、時止め冷蔵庫などに整理して保管しつつ、ふんふんふ〜ん♪と鼻歌。仕事を始める。
「今日は、ニリヤ殿下が予約してるよ、アビル。」
「え?ニリヤでんか!!?」
あの。
王子様の旅シリーズで、国内外のあっちこっちを、時には飛びトカゲを乗りこなして飛び回る、あの、あの、ニリヤ殿下。
今はパシフィスト王都中央学園の1年生である。
「試験が終わって、夏の長期休暇に入るだろ。おぼんもあるし、旅シリーズで、また撮影に出かけるから、学園の仲良しの同級生達と、試験がんばったね俺たち、気をつけて行ってきてねニリヤ殿下!って趣旨の、のんある飲み会をやりたいってさ。」
「うわぁい!ニリヤでんか!」
テレビで旅シリーズなど、諸々の番組に親しみがあるアビルは、嬉しい!と両手を叩いて喜んだ。
のんある飲料が普及して、居酒屋イーヴも大変儲かっている。始めた当初から大人気になったが、その頃お客さんだった、身体に気をつけなければいけない層、妊婦さん、お酒が苦手な人から、今はもっと広がって。
お酒がまだ飲めない未成年者に、お酒の雰囲気を、健康的に味わってもらえる。それも、安心安全で美味しい、優良な店舗にのみ与えられる、学園指定の飲食店、というものが出来てきたのだ。
イーヴはその、学園指定の飲食店の、一番最初の認定を貰えた。エルフのロテュス王子の参加する、飲み屋だけど徹底して飲まない人に優しい居酒屋は、このジャンルのお店としても、代表的存在だ。
シヴァが、グイグイとミルクを飲み終わった。お手伝いのエピスも、満足して鼻をピスピスした。
小さな背中をとんとん、けぽ、とゲップ。
「あ〜あ、イーヴ、子供を2人も産むなんてな。」
アムーレは何を言いたいんだか、モグモグと口の中で喋る。
俺と夫婦だった時は、妊娠しなかったのに。
子供を作る気もなかったアムーレなのに、何故か気に入らない事があるらしく。イーヴの2人の息子を見ると、いつもモグモグ不満な顔をする。フランカとの間に、自分もエピスという娘をもうけているが、それとこれとは別なのらしい。
エドゥは、イーヴの愛を得られた勝ち組の男として、シレッとした顔で、仕込みの続きに入った。
カランコロン♪
「あー、暑かった!ただいまーみんなー。」
「あ!おかえりなさい、おかあさん!」
「おかえり、イーヴ。」
「おっかえりい!」
ニコニコと出迎えるエドゥとアビルを、ハグハグっとして、ほっぺにチュッチュッとし合う。トルヴィに手を挙げて挨拶し合い、アムーレに、またか、サボってるのか、と視線を投げる。畳んだクリーム色の日傘を片手に、白に青の涼しげなワンピースをひらり。パッと輝くような、若さはこなれてきたが、女性として充分に魅力的なイーヴが、黒に赤のメッシュ髪をゆるふわにまとめて美しく、ガラス玉光る簪で留めた夏らしい、色っぽいうなじを晒して、ニコニコ!と笑った。
「エピスちゃん、いらっしゃい。ごゆっくりね。」
「はあい!イーヴおばちゃま。おいしいおかしと、おちゃを、いつもありがとうです。」
良い子ねーエピスちゃんは。
「アムーレの娘ってのが、びっくりしちゃうわねぇ。」
「何だよ、イーヴ。文句あるの?」
アムーレはムスッと、テーブルに低く伏せて顔を上げる。
「いいえ、ありません。」
ニコニコ。
笑顔でアムーレを黙らせたイーヴは、エドゥとアビルに報告を始めた。
「お義父さんと、お義母さんには、季節のゼリーの詰め合わせギフトを送ったわ。おぼんにこちらに遊びに来てくださるように、一筆書いたけど、会えると良いわねえ。アビル。」
うん!とふくふく笑うアビルは、一生懸命喋る。
「エルフのおじいちゃんとおばあちゃん、また遊んでくれるかなぁ!」
「そうだと良いねぇ、アビル。」
撫でこ、とされて。両親の愛情をたっぷり受けたアビルは、ムフ!とお芋を剥き終わる。
「できたー!」
「ありがとうね、アビル。」
「ご苦労様、アビル。」
エドゥが水の魔道具蛇口を捻り、手を洗う。掛かっていたタオルで、念入りに拭くと。
「おいで、イーヴ。髪が乱れているよ。君の髪を結うのは、俺の仕事なんだから。ちょっと結いなおさせて。」
「あら、ありがとう、エドゥ。」
初めて会った時も、イーヴの髪を結ったエドゥである。
それから時を経て、今エドゥは、イーヴの専属髪結であり、また伴侶でもある。
さらり、と髪を解いて、愛しげに、丁寧に、梳る。
「何かさぁ〜。」
うううう、とアムーレは唸る。
「イーヴ、歳とったはずなのに、前よりずっと綺麗になってない?」
惜しい、と思わせる。アムーレよ、他の女に目を向けてないで、フランカに愛情を注ぎなさい、とエドゥもイーヴも思ったが、直接は言わずに。
「そうお?旦那が良いのかもね。まごころがあるもの。」
「愛してるよ、イーヴ。」
うふふ、私もよ。
仲良し夫婦に、ケッと半目になるアムーレである。フランカは最近、お店に来る若い連中にご執心で、あんまりアムーレに優しくしてくれないのだ。
出会ったばかりの頃は、あんなに甲斐甲斐しかったのにーーー。
「おとうちゃん、おかあちゃんと、りこんしないでね。」
エピスがさらっと怖い事を言う。
「しないよ!」
「しないわよ、フランカは。」
大丈夫よ、とイーヴはエピスに笑う。
だって、負けた事になるじゃないねえ。あの負けず嫌いのフランカが、絶対私は幸せになってやる、と宣言したフランカが、イーヴの目の前で、間違いでしたと認めるような事は、しないだろう。
そして、若い男に、ふらふらしているのは、若い女性をチラチラ見ずにはいられない、アムーレへの牽制である、とイーヴもエドゥも知っている。
何だかんだ、合ってる夫婦、なのだ。
アムーレとフランカも。
『アミューズ』
『プレイヤード』
『ピティエの』
『『『お喋りラジオ!』』』
『毎週、日の曜日21時放送中!仲良し3人組の、障がいあるなし関係なくおハガキ読み読み盛り上げて、荒野を直走る笑って泣いて時には真剣に、時にはふざけての1時間!悩み相談も受付中!みんな、聞いてね!』
テレビでは3人の収録風景が、賑やかに映っている。
「ヘェ〜。今日はラジオを取り上げて番組やるんだね。」
「ぼく、みたい〜!!プレイヤードの、ガーディアンウルフのえほん、だいすきなんだもん!」
盲導ウルフはお仕事中!って絵本、確かに本棚にある。分かりやすく視覚障がいの人の事や、盲導ウルフについて書かれた本だ。
「仕込みのお手伝いしながら、みるかな?」
「それでもいい?おかあさん、トルヴィ、おとうさん?」
「良いよ。」
「良いわよ。」
「良いよ〜アビル、助かるよ〜!」
のんある居酒屋イーヴには、今日も幸せな日常が。
あの日、エルフと出会った偶然から、あれよあれよと幸せの押し売り、ロテュス殿下にも見守られて、イーヴは今、とても充実した人生を送っている。
「ロテュス殿下は、最近どうされてるの?」
「竜樹様のお子が可愛くって可愛くって、連れ回してるよ。ラフィネさんが、喜んでるらしいね。あのお母さんも、女性のサポートで忙しいからね。」
「そうなの。」
「竜樹様とも、ラフィネさんとも、相変わらずらしい。ロテュス殿下が、2人の家族、息子みたいに可愛がられてるよね。まあ、竜樹様の未来の伴侶なんだけど、不思議な関係だよねえ、あの3人。」
「幸せなら、良いわよ。」
ふふ、とイーヴは笑う。
「だね。」
とエドゥも笑う。
フランカが、アムーレを呼びにくるまでサボりは続く。
毎日の事なので、皆、フランカの怒鳴り込みには慣れっこである。
カランコロンカランコロン♪
「こらぁ〜!いつまでも2人でさぼってんじゃないわよ!私にもお茶、ちょうだい!!」
「おかあちゃん、はちみつのおちゃ、おいしいよー!」
「フランカ、俺、もやしのヒゲ根とり、頑張ったから!」
スノーボールクッキーをカシュ、と放り込んで噛み締めるフランカに、こんな時が来るとは、全くエルフの魔法だなあ、とイーヴは。
結いあげてもらった髪を、ふる、と振って、ニッコリする。
それは、とても素敵な魔法だ。
押し売りされて、本当に良かったなぁ。私、あの時、ロテュス殿下に意地悪な事を言ってしまったのに。
酔っていて正確には分からないが、ゆら、ゆら。揺らいだ、ロテュス殿下の美しい瞳を、覚えているのだ。
呪いに教育を。
意地悪に幸せを。
エルフはお人好しだ。
だからこそ、大切にしてもらえる。
今、エルフ達は大陸中で大活躍で、生き生きと飛び回り、仕事に育児に頑張っている。
ロテュス殿下が、エルフが、幸せになりますように。
イーヴは祈る。
きっと、私が貰ったように、こんな風に、平和に、温かく、やりがいのある、充実した人生を。
のんある居酒屋イーヴは、今日も美味しい料理、素敵なもてなしで、お客さんを待っている。
アビルとシヴァは、正確には、エルフなので男の子風、です。まだ性別決まっていません。




