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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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413/692

アイリスに引き継ぎを

誤字報告ありがとうございます!

ほごれて、って言わないんだね。無意識だったけど、方言なのかもしれませぬ。ほぐれて、だね。


「こんにちはー。」

お茶屋、『葉の雫』。

ジェム達も当然お店は知っているが、そこの少女、アイリスとは面識がない。


女の子達は、ジェム達、街の浮浪児達ーー元だがーーとは、あまり関わらないように、何となく保護者も隠していたから。そしてそれを敏感に悟ったジェム達も、女の子達には触れないようにしてきた。

浮浪児あがりの若い、悪い兄ちゃんに娘がそそのかされて、なんてのは、飽きるほど良く聞く話であるから。


だが、ご近所でもあったから、当然アイリスの名前位は知っている。それが、賢い子だというのも。


「あら!トラム!•••今、お店大変なんじゃないの?大丈夫?私、何か出来ることある?」


アイリスはキリッとした太眉を、凛々しくシュッと筆で書いたように、微妙な心配の表情に。それだけで、心根の優しい子なんだな、とジェム達にも伝わった。

他にも、メガネの少年リブレ、その双子の片割れシグネ、小さな鼻ペチャの女の子ミニョンが、葉の雫の店内でゆるりとしていた。


「うん、アイリス。ジェム達が、ギフトの竜樹様を呼んでくれて、すっかり良くなったんだ。お店は取られなくなったよ!借金の契約書は、ぎぞうだったんだ!」

葉の雫にいた子供達は、ふわぁ!と喜びと驚きに、目をくりくりさせた。

「まあ!まあ!!良かったわね!モティフ親父さんが店を潰すほどの借金なんて、する訳ないと思ったわよ!•••竜樹様が助けて下さったのね。そっちの•••ジェム君達?」

ちろ、とジェム達に視線。街の浮浪児だった頃に女の子から浴びたそれとは違う、友好的な視線だ。


「ああ。すれ違った事くらいはあるかもだけど、初めましてだね、アイリス。俺、ジェム。」

「プラン。」

「アガット。」

「ロシェだよ。」

「ネフレです。」

葉の雫は小さい店だから、子供達がこんなに集まれば、店内はいっぱいになる。

アイリスのおばあちゃんが、あらあら、と言いながら出て来て。

「今日は王子様方もいらっしゃるし、随分と賑やかな日だわね。アイリス、子供達のお話?お茶でも淹れて、ゆっくりお話したらどう?」

と、親切に言ってくれた。


「あ、ありがとう、おばあちゃん。でも、お茶飲んできたから、お構いなく。」

ジェムが遠慮するが。

「私、アイリスよ。よろしくね。竜樹様の新聞寮で暮らしているのよね、知ってるわ。ウチのお茶、美味しいわよ。少しで出すから、飲んでみてよ。新聞寮では、すごく美味しいご飯が出るっていうじゃない!珍しいお茶も!話を聞かせてよ!」

と目を輝かせるので、うん、いいよ、と、試飲用のカウンターは悪いから避けて、お茶の缶が入っていた木箱などに座りつつ、落ち着いて話をする事にした。


「王子様が来たって?オランネージュ様や、ネクター様、ニリヤ様に、ファング様アルディ様。だろ?5人いた?チーム王子は、何しにお茶屋に来たんだ?」

「うん5人。ロケ弁食べてったわよ!」


ロケ弁。

ぐううう、と腹の虫が鳴るのは、誰のお腹だったのか。


「俺たちトラムんとこで、お茶菓子で、お昼ごまかしちゃったな。」

「前に街で働いてた時みたいに、ついお昼抜いちゃったね。」

「明るいウチに動いてないと、暗くなると働けなかったもんな。」

「今は違うのに、つい、だね。」


「実は俺、凄くお腹、減ってたんだ•••。」

ぐううう。

ネフレがお腹に手を当てて、恥ずかしそうに申告する。いつもは走ったりしないのに、全力で走ったし、街中を歩き回ったし、少しお菓子で休んだけど、食事を抜くってこんなにクるものなのだな、とネフレはしみじみ。

ジェムが驚き、眉を寄せて謝る。

「!ごめんな!ネフレ、俺たちの調子で引っ張り回しちまって!その、アイリス!」


うっふふふふ!と朗らかに笑ったアイリスは。にん!と口を大きく、受け皿の形にした。

「良いわよ!ロケ弁、食べるって言うんでしょ!今日ここは、テレビ番組の、休憩所ね。美味しいお茶で、休んでらっしゃい!」



「アイリスたんのおちゃ、おいちいでちょ。」

「うん、うまいよ。ご飯に合うね。」

もぐ、もぐもぐ。


ミニョンが、得意げにカウンターに爪先立ち背伸びして、試飲のお茶をジェム達に、おととと配る。リブレとシグネも手伝って。

上半身迎えに出ながら受け取って、ロケ弁をやっと食べられるネフレは、身体にどんと染み渡るようなタンパク質、肉団子をハグリと頬張った。ふー。やっとお腹が落ち着く。

トラムも、余分のロケ弁をもらって。慣れない箸に苦戦して、アイリスにフォークを借りてモグモグしている。


「じゃあ、このお弁当みたいに、お米の料理も多いのね。」

「うん。お米、お腹に溜まるし、力出るし、あれるぎーは出ないし、美味しいよ。あまじょっぱかったり、おかずは味のしっかりついたのが、多いと思う。油で揚げたのもあったりするよ。」

「じゃあ、やっぱり、さっぱりするお茶が合うかしらねえ、量り売りもするから、少し買っていかない?」

なんて声に、プランが預かってた残りのお金を出して。

「これで買えるだけって、もらえる?」


銅貨12枚。

預かった銅貨10枚は使わずに、ジェム達が稼いだ分の残りだ。


「良いわよ。この黒茶なら、一握り分位だと思う。•••うん、このくらいね。缶までの値段はないから、湿気取りの葉っぱで包んでおくんで、早めに飲んでね。」

量りで計って、くるくると緑の大きい葉っぱに包み、キュッと茎で縛る。銅貨を受け取り、紙袋に入れたお茶を手渡して。

「ありがとう。今夜、竜樹とーさ達と飲むよ。」

「お土産できちゃった!」

ムフフ、と嬉しそうなアガットに、ジェムもプランも、ロシェもネフレも。えへへっと笑う。

稼いで、使う。喜んでもらう。

それはとっても、嬉しい事だ。


「ジェム達も、カフェインレスのお茶って、飲んだ?」

アイリスが、2煎目のポットを、カウンターから出て注いでまわる。王子達と、ピティエに紹介してもらう約束をしたのだと。

「ああ〜、あれは、美味しかったねえ。お菓子も、黄身しぐれだっけ?あんこが入って、お茶と、こう、ちょっとずつ食べて、飲むかんじなんだよな!」

「お上品な、お茶とお菓子なのね?」

うんうん、と頷く。

「おとなのきぶんのお茶とお菓子!だな。」

「ヘェ〜、飲んでみたいなあ!楽しみ!」

「ピティエ様の喫茶室に、行ってみたら?アイリスみたいな女の子だったら、騒がないし、お店でお茶できるだろ?」


うーん。

「ピティエ様に紹介してもらってからに、するわ!何だか、探るみたいで、いやだから。」


良い子達だなぁ、とニコニコする大人達、撮影隊である。


ロケ弁を、モグモグと食べ終えたトラムは、葉の雫に来た当初の目的を思い出した。


「アイリス。前に言ってただろ、ジェム達がやってた、街の細かい仕事を、俺たち街の子供がやったらどうか、っていう考え。ジェム達に聞いたら、良いよって。アイリスはどう思う?」


ああ、あれ?

王子達に出した小さなカップ、洗って伏せておいたのを取り上げて布巾で拭きながら、アイリスは、んー、と考える。

「男の子達は、きっとそういうことをやった方が、毎日が面白いし、やりがいもあって、変に戦いあったりしないし、お小遣いももらえるのよね。女の子達は、興味があって、やりたい子だけで良いかも。ジェム、本当に、私たち街の子供が、お仕事引き継いでも良いの?」


コクリ、すす〜っ、とお茶を飲み干して、ジェムは頷いた。

「うん、良いよ。かえって助かるくらいだな。危険もちょっとあるから、コツを教えたり、したいんだけど。あと、そっくり同じにしないでも、俺たちみたいに食べていかなきゃいけないわけじゃないから、危なかったり、辛い事はしなくていいだろ。やるのとやらないのと、あっても良いって思う。」


危険。って?


撮影隊もムルトンとステュー、竜樹達大人も、その場の子供達も、ハッとして。


道案内って言って、家まで連れてって、部屋に連れ込んで。

「お礼のお金なんか払えない、って怒る位ならまだましで、殴ったり、虐めるのが好きなやつとかいたりするんだ。」

「ああ〜腕に錨の白豚野郎とか?」

「あと、裏街通りのひょろひょろ歯っ欠けとかもだな。」

「あいつら、大体酔っ払ってるか、じゃなきゃニタニタしてるから、分かりやすいけど、初めて会うと騙されるかもなー。」

「俺、最初分からなくって殴られて、逃げた事あるー。」


だから、家までは行っちゃダメだし、まして女の子は、絶対お客さんと2人っきりになっちゃいけない。

「男でも、やらしいことされたり、するからな。」


おいおいおい。

聞き捨てならない話に、なってきた。


「ジェム達も、やらしい事されたこと、あんの?」

リブレが、くっ、と唾を飲んで、メガネをつと上げる。

「ギリギリないけど、危なかった事は割とある。相手が、たとえ、おばあちゃんでも、家の中まで行っちゃダメだ。家に悪い奴らが待ってる時がある。玄関の前も、扉を開いて中から手が届く所にいちゃ、ダメ。バッて開いて、グッと連れ込まれたりする。」


ひええええ!


「案内する前に、詰め所のおっさん達に、顔見せしとくと良いよ。途中で、回り道して寄ったりとか。見回りしてたら話しかけるとか。」

「落とし物探しも、割とゴネられるけど、落とし物回収屋の、ペルデュだって見回りに労力かけてるし。ペルデュも落としたすぐを見かけたら声かけて、タダで教える、って決めてるから、そうじゃなかったら、諦めてもらうしか、って何とか説得して、お印だけでもお金を渡してあげられるようにして欲しいかな。俺たちに実入りがない事も多いけど、人によっては凄く感謝されるよ。」


うん、うん。


ひええ、の顔をしたままのアイリス、リブレ、シグネ、ミニョンは。

「女の子は、やらない方が良いわね•••。」

「うん、うん。」

「だな。」

「きょわい!」


「そうかもな。まあ、危険を知っといた方が良い、とは思うけどな。普通にこの街も、人攫いっているしな。」

「うん。今日もすれ違ったよね。」


「いつ!!いつ!?」

ルムトン、ステューも、マジ!?と驚愕である。


「人攫いは、街の子供みたいに、身元が、はっきりしてて、探されるような子はあんまりさらわないから、そんなに心配しなくても、大丈夫なんだけどさ。」

ジェムは2煎目を、するる、と美味しそうに飲んだ。


「そうそう。竜樹とーさが、俺たちみたいなのを皆、貰ったから、やりにくそうだよね。」

ロシェもロケ弁のお弁当箱を閉めて、アシスタントに返して。


「まあ、人がさらえなくなったら、他の仕事するだろ。引き際が分からなくて、捕まってまで悪い事する奴は、3流だ、って前に飲んだくれの親父が言ってたね。」

「だね。」

プランとアガットも、ふー、とお弁当箱を片付けてお茶を啜る。

ネフレもお茶を貰いつつ、目が白黒。自分達も結構大変な暮らしをしてきたと思っていたけど、ジェム達って、本当に、凄い所を生き抜いてきた子供達なんじゃ?


「ビッシュ親父からは、あんまりお小遣いに関わらず、仕事を受けてやってよ。自腹で街のみんなの事をたくさん頼むからさ、親父は。俺たちの飯になるからもあったんだけどね。街の掃除とかだよね。今はメッセンジャーがいるから、長いお使いはあんまりないと思うし、他の商店の手伝いも、皆で受けると喜ばれるよ。」

「自分の家の手伝い、ってするより、皆で街の店の手伝い、ってなれば、何だかやりやすいだろ?」


なー、と子供の心理を分かってる元浮浪児達は、今は落ち着いた安心の笑顔で、プラプラ足を揺らしていたりなんかする。


「•••だからかしら。ジェム達、オランネージュ様と仲良くしてるのよね?」

アイリスが、何かにハッと気付いた。

「だから、って?オランネージュ様とは、仲良ししてるけどさ。」


いや、あのね。

「ジェム達みたいな、厳しい所を生きてた子と仲良し、でしょ。それも良いけど、きっとオランネージュ様は、普通の街の子とも、話をして、沢山普通の街の事、聞いてみたかったんじゃないかしら。だから、私に、文通して、って言ったんじゃ?」


ん?

ん?


ジェム達は、オランネージュの、ニパッとした顔と。目の前の、アイリスの、分かった!って顔ーーそれもまた、可愛い魅力的なーーを、見て、脳裏に思い浮かべて。

「これは。」

「あれか。」

「あれだな。」

オランネージュ様、アイリスを気に入ったんだな。目をつけた、ってやつ。


「あれってどれよ?」

はてな?のアイリスに、ジェムは。


「引き継ぎは、新聞販売所に来られると仕事中だから、まずいんだよね。竜樹とーさに頼んで、一角馬車出してもらって、時間をとって一週間くらい、午後、一緒に回ろうじゃん。多分、その時は、あー、街の勉強で、オランネージュ様とかが、付いてくるかもだなー、うん、何たって、この国の子供達の苦労について知りたいオランネージュ様だからさ、ね。俺たちも気をつけて、危なくない事だけ引き継ぎするから。」


もっともらしい顔をして言い出すジェムに、竜樹は、ぶふ、と笑った。

恋の気遣いさんかよ。


「?う、うん。またオランネージュ様達に会うのね。緊張するな。でも、ジェム達に一緒に回ってもらえたら、危険も教えてもらえて嬉しいな。お願いするね。」

「ウンウン。オランネージュ様には慣れる慣れる。基本面白い事が好きな人だから。」

「結構良い奴だよ。」

「話が分かるよ。」

「お茶目だね。」


そんな人なの?

アイリス達は、何故かオランネージュ推しされているのを受け止めて、不思議に半分、納得した。

我が国の王子様達は、思ったよりずっと気さくな人なのだろう。ご縁があるなら、仲良くもしよう。


「あー、もう残り時間、それほど無いね。」

懐中時計を見て、プランが時間の再計画を促す。

「広場に帰りながら、何か情報があったら貰って帰ろうかー。」



「帰ってきたら、ジェム達には、街の危険人物の情報を全部、ぜーんぶ!話してもらおう。このマルサが、奮発して、買おうじゃないか!何、聞いただけでは、すぐ捕まえやしないが、調べを進めたり、詰め所の者達に、怪しい連中情報を知っててもらえば、何かあった時に、間に合うかもしれないからね。」


おおう。

ルムトンとステューは、ホッとしつつ。

「良かったね、チームジェム。お金を使い果たしたけど、最終的に君たちには太い客がついたよ!」

「自分達が持ってる情報、ってやつだな!」

「街も、良くなりそうだね!」

「だね!」


頼むよ、マルサ。

ジェム達と子供達と、街の明日の為に。



帰ってきたオランネージュは、ジェムに話を聞いて。にんやり、ポム、とジェムの肩を抱きしめ。

ウキウキノリノリで街のお仕事引き継ぎに参加したいとおねだりし、周りに根回しをする事に。


「分かってるじゃないか、ジェム。」

ムフフフ。

「貸し一つだぜ、オランネージュ様。」

ふす、と鼻息を漏らす、何かと察しの良い、ジェムなのであった。

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