開いて委ねて飛び込んで
さて、竜樹もモニタースペースに帰ってきて。
本当ならば、子供達の活動は並行して行われているから、竜樹やルムトン達だって、複数のモニターを見ながら、忙しく喋りっぱなしで、マルチに。素材として撮影しているのだが。
その撮影時系列に沿って番組を作ると、勿論のこと、1チーム毎の活動が分かりにくくなるから。番組にする時は、ある程度チーム毎に纏めて編集する事になる。
チーム王子は、気を取り直して、頑張る気力を見せた。まずは相談である。
「どうしようね、聞くの続ける?」
「何か、みんなそんなに、重要なこと喋らないね。」
「きくのむずかしい。アリさんみちゃった。」
「モルトゥすごいねぇ。すぐ分かったもの。」
「私たちが、幾らここで聞いていても、すぐにはモルトゥのように、分からないかもだな。」
それも検証の一環としてアリ、なのだが、ここに集うは王子達。国の頂点に立つ、結果を出さずには許されない立場の子供達である。
普段から、お国のお仕事、頑張るんだよ、と言い聞かせられている彼らは、成果が出ないのに続ける、それを見せる、というのに、年齢的な事もあってーーー飽きていた。テレビ的にも、動きがあった方が組み立てはしやすい。という事まで考えた訳ではないのだろうが。
「オランネージュの考えって何?私達が持ってる情報?」
アルディ王子が、オランネージュの腕に手を絡ませて、尻尾でお尻をトンと叩いて促す。この位の少年少女達は、何となくくっつかって、距離感が近く、何と可愛げ、わちゃわちゃしている事だろう。
ネクターもニリヤの肩を抱いて。
「何かある?兄様。」
ムフフフ。
笑ったオランネージュは、ファング王太子を、アルディ王子と絡ませた反対の方の腕で寄せて、顔を近づけ、ヒソヒソ体制をとった。皆、何、なに?と、よりくっつく。
まあ、ヒソヒソ声も撮影しちゃうのだけど。
「さっき行った新聞社に、私達の情報が売れないかな、って。例えばー、父上が朝、最近楽しみに食べているお菓子だとか、一緒に食事するのは、どの位の間隔で、とか。好物とか、お母様と仲良しな所とか。お仕事で言っちゃダメな事は言えないけど、そう、これは、ロイヤルファミリーの秘密、独占インタビュー!ってやつに、なるじゃない?」
ふっふっふ。
「あ!それでいったら、私たちのワイルドウルフのお国の、お父様やお母様の事も、記事にしてもらえる訳か。」
ファング王太子が、その利点に気付く。
「ごえいするのに、好きなものとか言って平気?毒とか盛られない?」
ネクターが心配して言う。うんうん、そうだよね。その情報は、普通の人には、面白いねって微笑ましく見てもらえる事だが、悪さを企む者にとって、幾らでも悪用が出来るのである。
「大丈夫かな、王子達。」
「ね。そのインタビュー、面白いだろうけど、ちょっと心配だね。」
「ううん、でもさあ。」
ルムトンが、ふっくらしたお腹をポンポンと叩きながら。
「俺たちも、テレビに出て、顔が広くなったから色々言われる事もあるんだけど、それを気にしてたら、固くなって、何にも出来なくなっちゃうんだよ。勿論、皆に、ルムトン、ステュー、面白いね!って受け入れてもらいたいよ。でも、全員には無理、受け入れてくれない人達、悪用する人達を見ては喋れないっていうかさ。オランネージュ殿下の案は、確かに危ういけど、毒が入れられないように気をつける仕事は、周りの大人の仕事であって、王子の仕事では、なくない?」
「難しいよな。俺らも、皆に知ってもらいたい、と、危ないから嫌われるから家の事とかまで来られたりしたら困るから、って秘密にしてたい事だってある。でも、ラジオとかで、気にしすぎてガッチガチに守って、自分の事は開かずに喋ってると、全然伝わらないんだよ。」
どこまで喋るか。何を喋るか。
「開くのって難しいよね。何でもオープン、だと守れない。開かなければ、心が伝わらない。上手に喋る方法を、テレビやラジオに出演している皆で、それを聞いてる皆でも、考えて、やってみて、作っていくべきなのかも。」
竜樹は情報化社会の中にいたから、情報の慎重な扱いについても、見聞きしている。
まだ大らかなこの世界だけれど、そしてそれが良い所なのだけれど。何か悪い出来事があって進むにつれ、情報を扱う経験を積まなければならないのかな、と思うと、身が引き締まる思いがした。
昔の日本だって、雑誌にタレントの自宅の住所と電話番号が掲載されていた、そんな時代が、あったのだ。
オランネージュは、にこにこ笑った。
「私たちの仕事は、分かってもらうこと。そうして、お国を上手く、回していく事だろう?だったら、ある程度の危険は承知で、お父様の好物なんかの、そういうものが好きなんだねー、って、私達の王様はこんな人なんだねー、って、開いていく事は、すべきと思う。勿論、お父様の食べるものは、直前に鑑定がかけられて、毒の有無は毎日確かめられているし、毒を防ぐ魔道具もつけていらっしゃる。鑑定まで疑っちゃうと、何も食べられなくなる。守りを維持するのも、周りの者の仕事だし、私は守ってくれている者達を信じて、委ねてみようと思う。」
きっと、情報を開いても、ちゃんと守ってくれる。
出来るだろう?
信頼され、身体いっぱいに開いて委ねられた時、人は何を思うか。
ステージから、腕を開いて飛び込んできた者を、人は思わず、反射で受け止めるものではなかろうか。避けないものだ。
そして真っ当な者は奮い立つ、信頼された喜びを。
周りを信頼できないから何でも自分でやる、なんていう小ささは、憎むべきものではないけれど、頂点に立つ大らかさ、人に任せる鷹揚さとは、違う。流石の王太子、オランネージュなのである。
「だな。私たちは、元々、そんな信頼できる王宮を作っていくべきだもの。周りの大人達に、その仕事は任せよう。」
ファング王太子も、うんうん、と頷く。その周りの失態があった時、直接責任をとる、危険を受ける立場であるから、だからこそ決断が出来るとも言える。
ネクターは、まだ心配そう。眉がギュッと。寄っている。
「まあ?好物が知られてしまって、お父様がプレゼントだらけにならないかな?そして嫌になっちゃわないかな?って心配は、あるけれどね。」
ネクターの背中を撫でて言うオランネージュに、くすり、と、やっとネクターも笑った。
鷹揚なオランネージュ、心配性のネクター。これで兄弟のバランスが、王室内で取れているのだろう。
「いっぱいすきなもの、もらえたら、うれしいねぇ!とうさま、よろこぶかも!」
そして天真爛漫なニリヤとで、パーフェクト、な3カードなのである。
「じゃあ、新聞社行こう!私もお父様が、いっぱい気にかけてくれる家族思いな所、知って欲しいな!素敵なお父様に、優しいお母様。ワイルドウルフの王室は、素敵なんだよ!って。」
くふ!アルディ王子も、さんせーい、なのだ。
「情報の危険さを知って、それに飲まれない所は、良いね。流石王子だよ。」
モルトゥも、ふす、と鼻息を吐く。
新聞社まで、先程は、撮影隊用の一角馬車で移動した。時間の節約をするためである。今度は一角馬車はないから、何かしら考えてやらないと、長く歩く事になる。
お金を払って借り、操縦して乗る、小さな一角ロバの引き車はあるのだが、それだと一つに全員は乗れない。もっと大きな貸し出し騎獣では、子供達には荷が重い。
「巡回バスみたいなものって、作るべきかなあ。」
竜樹が思う事は、何でもメモメモ、のタカラである。
広場近くの商店街、一角ロバ貸し出し所で、お財布と相談して。
「一角ロバの引き車、一台銅貨4枚。でも、2台じゃ、絶対私たち乗り切れない。どうしよう。」
「どうしようね?交代で、歩く?」
人の良さそうな、日焼けした皺のある、短い髪をツンツンさせた店主は、とても目立つ撮影隊に囲まれた王子達の、その相談を聞きながら。王子様達相手に商売なんて、どうしたもんか、金なんてどうとでもするんだけど、多分これが、商店街のおっちゃん連中で受けて決めた、特別扱いしないに抵触しちゃうのだろうなぁ。もごご、と黙った。
「ぼく、きいてみるね?」
「ニリヤ、何をだい?」
ニリヤは知っているのである。
ジェム達が教えてくれた、市井の知恵。
「まとめておとく!ねぎりのごくい!」
「値切り〜?!」
王子様なのに値切っちゃっていいのか。とか、止める間もなく、たたった、とニリヤは、沢山の一角ロバを並べた店構え、店主の前に立った。
「おじさん!いっかくろば、かりれる?」
「お、おう!借りれるよ。ウチは一角ロバの引き車屋だからね。入用かい?」
多少引き攣ってはいるものの、年季が入った商売人、聞かれて普通に応える。
「うーん。ぼくたち、ろばかりたいんだ。3だい、かりたいの。でもね、おかねが、どうか10まいしか、ないの。まとめておとく!しちゃダメ?」
うーん、うーん。
店主は考えるフリをした。
聞かれたら、良いだろ。これは流石に、特別扱いじゃないだろ。元はとれるし、これくらいのおまけ。良くある良くある!
「まとめておとく、を知っているとは!こりゃ参った!仕方ねえ、王子様達には、銅貨10枚で、一角ロバの引き車3台を、貸しちゃおう!おまけだよ!」
「やった〜!!」
ぴょん! 飛び上がって喜ぶ王子達。銅貨2枚分のお得で、これだけ喜べるのだから、そちらがお得である。
「やったね、ニリヤ!3台借りれた!」
「そうか、まとめて、おとく。覚えておいて損はないな!」
「だねだね!」
だからといって王子達、何でも値切っちゃいけないよ。
後で教えてやらなきゃかなあ、竜樹がモニター前、考えていると、店主はテキパキ操縦の為の説明をして、チーム王子から、なけなしの銅貨10枚、全てを受け取った。
店主がそのお金を、売上とは別の場所、懐に入れたのは、記念にこの10枚を取っておくため。
立ったまま乗る方式なので、オランネージュ、ネクターとニリヤ、ファング王太子とアルディ王子に分かれてそれぞれ、出発である。
「おまけありがとう、店主!」
振り返りオランネージュが言えば。
「いえいえ、王子殿下達に乗っていただけるなんて、嬉しいですよ!お帰りお戻しは、また、こちらへ。周りの大人に、困った時は良く聞くんですよ!」
心配そうに、それでも笑顔で手を振った。
パカポコ、パカポコ。
ロバは進む。
王子達を乗せて。
小走りの撮影隊を、引き連れて。




