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検証•••中?


子供達は、行き先を決めると、行こっ、行こっこっ!と、コケコッコみたいにして、それぞれチーム毎に駆け足で(一部ゆっくりと)バラけていった。子供って、何故何でもなく移動するのに走るのだろう。

身体全体が跳ねている。

追うカメラさん含め撮影隊スタッフが、わちゃ〜っ!と運動能力を試されている。


広場に設置された、野天のモニタースペースで、竜樹とモルトゥ、ルムトンとステューは座って、追うカメラの画像を見始めた。

チーム王子が、一番近く、広場で聞き込みを始める。


どこを目印に、という事でもないけれど、設置されたベンチ、その側で、王子達は、こしょっと集まって、立ったまま。


「少しバラける?」

「そしよ、そしよ!」


耳打ち相談、オランネージュとファング王太子、ネクターとニリヤ、アルディ王子の順で、それぞれ4歩分くらい離れた。


「いや近いな。」

ルムトンが突っ込む。

「全然なってねえな。自然に、聞いてないように聞くって、割と難しいんだ。人によっては聞いてると怒るし、不審がられるしな。」

モルトゥが解説。

「王子殿下達は、全く自然じゃないね。でもね、離れるのもね。何か寂しいんだよね。仲良しさんだな。」

ステューも、うんうんして。



お天気、空は爽やかに晴れて。

雲が薄くたなびいて、高く。長袖で、ちょうど良い気温。

パラパラ、人が通り過ぎる。

通るたびに、くすくす、きゃっ!としていた王子達だけれども、しばらくすると、それにも慣れてしまって。


ひよ、ひ〜よ。どこかで鳥が鳴く。

さぁっ、と風が通る。


く。

くあぁ〜あ。あふ。


「あら〜らら。ニリヤ殿下、大きなお口で欠伸です。」

「昨夜は良く寝てきたけどねぇ。」


ニリヤが、じっと地面を見つめている。

じっと。

じっと•••。


ぱし、ぱし、瞬き。

•••••••••。


あ、アリンコさんだ。

じー、と見ていると、何だかゾロゾロ、1方向に向かって、隊列が続いている。引っ越しかな。

ゆら、ゆら。ちょうちょのはね。

アリンコさんが、死んだちょうちょを分解して持っていく。羽なんか食べられるのだろうか、分からないけれど、沢山のアリンコが集って、大荷物。


段々、真剣に顔が下向いてきちゃう。

腰が曲がって、しゃがんじゃう。

遂には、ちょうちょの羽持ってく隊列を追い始め、1歩、2歩。

ネクターが、んん?となって、視線の先を見て、ええ〜っ?とニリヤに続いた。ゆっくり、ゆっくり、アリンコ速度で王子達。


「完璧にアリンコがメインになっちゃってるよ。」

あはは。ルムトンがぽんぽこなお腹をでっぱらせて笑う。

「何もしないで聞くの、子供、飽きるよね。そりゃあね。」

ステューがフォロー。

「王宮は通る所は石畳だから、あんまりアリンコいないかもねえ。庭園はアリとかいなさそうにピシッと整えてあるし、珍しいのかな。」

普段、お仕事ってなると、王子達は子供ながらにすごくがんばるね!ってなるんだけど、何かをするんじゃなくて、待つのは難易度高いかもしれないねぇ。

竜樹もタハハと笑った。

「そうだな。待つのって難しいぜ。ぼーっと見えるようにするんだが、耳や目は集中してなくちゃならない。ただじっとしてりゃいいか、っていうとそんな事なくて、いい話聞く為には、釣りみたいにしなきゃなんだ。」

川釣りする奴に聞いた事あるんだけど、とモルトゥは続ける。

「さぞ美味そうに餌を釣れそうな所に動かさなきゃだったり、取られた餌を変えたり、様子見ては場所変えたり。聞くのも似てて、時には呼び止めて話しかけてみたり、人が集まる場所探して移動したり、なんだり。待ちながらも、何もしないんじゃない。忙しいんだぜ。」


「あらら。王子殿下達は、全員でアリンコの隊列を追っちゃってるよ。」


とこ。とこ。

ちょうちょの羽、ゆら、はた。

ふ、と立ち止まって、ニリヤは遂に、地面に四つん這いになって、じっくり覗き出した。

カメラが、ニリヤの後ろ頭と巣の、アップになる。


「アリンコさんのす、よくみえないねぇ。」

「中どうなってるんだろうね。」

「ちょうちょの羽、巣穴より大きくない?」

「こんなの、はいらないね!どうするんだろ?」


ぐい。ぐい。

ちょうちょの羽は、無理矢理に運び込まれようとして、ぎゅむぎゅむとつっかえて。


「あ、ニリヤ殿下、やめ、やめ!」

「危ないぞ!危ないぞ!」

大人は、その予想がついた。


ちっちゃな指で、アリンコさんと、ちょうちょの羽を。

摘んで。


プチ。


びくびくん!!

ニリヤが肩を揺らした。目を大きく見開いて、集まって巣を覗き込んでいた兄王子達や、ファング、アルディ王子に、お口を驚愕って感じに開けたまま、眉を顰めて。

助けを求めるように見るが。

「アリンコ、生きてる?」

「何でつまんだの、ニリヤ?」


「はねを、ちっちゃくしてあげようかと、おもって•••。」


まじ。まじ。見る。

摘んだ指の先。生きてる2匹ほどが、ちこちこ動いて、ポトリと落ちる。ちょうちょの破れ羽は風に震える。

動かない1匹のアリンコ。

お腹が凹んで、潰れちゃった。


お手てにのっけて、つんつん、するけれど。しんなり黒い点、小さな小さなアリンコさんは、ニリヤの指でも、とっても太くて、力が強くて、プチっとなっちゃったのだ。

触覚が、へにゃと萎れて、さっきまで生きてたのに、ピクリとも。


フニャ。とお口が横倒しの瓢箪みたいに泣く口になった。


「う、うえ、」

「!!ニリヤ?」


「うぇぇええ!アリンコさん、つぶれちゃった!」


あー、あららら。


ネクターが、しゃがんだニリヤを後ろから抱き起こして、立たせて頭をポンポンする。

ひん、ひん。泣いて、泣いて。オランネージュも、抱きしめて頭を撫でるし、ファング王太子とアルディ王子も、ニリヤ殿下〜、ニリヤ〜、元気出して〜、と肩に手、悲しげに。

通りかかる人達が、何だろね?と見ていくが、撮影しているので、遠慮して避けていく。


「ぼ、ぼく、ひっく、アリンコさん、ひっく、たすか、け、た、かったのに、ぐすっ。」


「あー、殺すつもりがないのに、殺生しちゃうと、何とも言えない嫌な気持ちがしますよね。俺、道歩いてて、トカゲがいたから避けたら、避けた方にトカゲも避けて、まともに踏んじゃった事があって。田舎育ちだから、生き物の生き死には街中より身近だったけど、あれ、嫌だったなぁ。」

グニャリと踏んだ感覚を、今でも思い出す。あの、虹色のトカゲ。

小さな尊いものを、損なってしまった、やるせない気持ち。

竜樹は肩をキュと、ふにーと眉を寄せて、モニターを見た。ニリヤはまだまだ、ショックで、ぐすぐすしている。


「純真なんだねえ。俺たち、アリンコ潰しちゃったくらいじゃ、泣かないじゃん。繊細なんだよ。」

「ねー。まあ、大人が泣いたら嫌だよ、ルムトン。」

そりゃそうだ。


慰め王子達は、困ってニリヤをヨシヨシしていたが。オランネージュが、電話をピッと出して、ピピッと番号1番を押した。

トゥルルルル。


『はい、ルムトン副隊長です。』

「オランネージュです!ニリヤが泣いちゃったんだ、助けてほしいです!竜樹につないでください。」

『あら、泣いちゃった?ほう、ほう、なるほど。ちょっと待ってくださいね。竜樹様〜!』

見てたけど、初めて知ったテイで。


『は〜い竜樹です。オランネージュ?』

「竜樹!助けて〜!ニリヤが泣いちゃった!アリンコさんが潰れちゃったんだよ!」

「わざとじゃ、ないの。」

「ちょうちょの羽を、小さくしてあげようとしたんだよ!」

「1匹だけ、摘んじゃったのだ!」

必死で電話に寄って、言い募る王子達。誰もイライラして、泣くなよ!とか怒らないのが、良い子なところ。


『なるほど。わざとじゃないんだね。じゃあ、ニリヤと話をしてみるから、代わってください。』

「うん!ニリヤ、竜樹だよ。」

オランネージュが、電話を差し出して。


ひっく、ひく。しゃくり上げながらも、二つ折り開いた電話を受け取って、ニリヤはしょんぼり。

「ししょう〜!っく、うええ〜!」

ポロポロ、涙が溢れる。

ネクターが、真っ白なハンカチをポケットから出して、たふたふ拭いてやる。

アリンコさんが乗ったお手ては、ゆるく握られて、汗ばんで。


『どうした〜ニリヤ。アリンコさん、潰れちゃったのか。』

「う、うん。ぼく、つ、つぶしちゃった!もう、うごかないんだよ!あるいてたのに•••。」

『そうかぁ〜。可哀想なこと、しちゃったねえ。悲しかったねえ。辛かったねえ。』

言いながら、竜樹は歩いて、王子達の側へ。

ほんの少ししか離れていなかった広場の中で、すぐに目に見えて、慰めの言葉が、電話とそのままの空気を伝ってと、二重に聞こえ。


「あ!竜樹!きてくれた!」

「「竜樹様!」」「竜樹!」


「おー来たよ!ニリヤ、ほら、おいで。」


グスン。頬伝う涙も、そのままに。

ぽすん。

竜樹の下腹に、顔を埋めて。

「アリンコさん、どれどれ。見せてみな。」

「っく、う、うん。ひっく。」


握った手を取って、一緒に見る。

「あぁ、本当だねえ。潰れちゃった。アリンコさん、ごめんね。わざとじゃなかったんだけどね。」

「ご、ごめんね。グスン。」


「さあ、地面に置いてあげて。アリンコさんが、巣に仲間を運んで、お葬式するかもだからね。」

「おそうしき?」


本当にお葬式するのか。アリは、アリの死骸を食べるのかな、と検索したら、仲間のお葬式をする、と、出てきた。巣に運ぶには違いないだろう。一度巣に入れて、お葬式をした後、巣の外へ、お墓へ運ぶのだという。


ニリヤを促して、手のひらのアリンコの死骸を、巣の近くに置く。すぐに仲間がやって来て、ちょんちょん、と引っ張って、巣の中に消えていった。


竜樹は、マントのポケットから、葉っぱに包んだ、ナッツの素朴なクッキーを出すと、パキンと割って、一欠片をニリヤの口に。一欠片を自分が。そしてほんの少しの欠片を、アリンコの巣の近くに、落としてやった。

ニリヤは、ぐしゅん、と涙をお手てで拭きながら、もぐもぐと口を動かした。


「なむなむ。アリンコさん、次は長生きのアリンコさんに生まれてきてね。もう潰さないからね。」

「うん。もうぼく、つぶさない。」


クッキーに早速気づいて、巣に運ぶアリ達を、皆でしゃがんで見届けると、ニリヤの涙は、あらかた乾いていた。

ポンポン、と頭を撫でると、目を閉じて、ふー、と息を吐いた。


「元気出たか?慰まった?」

「うん。なぐさまった。」

くし。湿ったまつ毛を拭けば、茶色のまん丸瞳が、パチリと瞬く。

「じゃあな、お兄ちゃん達と、お友達のファング殿下やアルディ殿下達と、お仕事検証、がんばれる?」

「•••がん、ばれる!」

うん!と力強い頷きに、よーしよし、とぱふぱふぎゅーのをしてやって。

「じゃあ、皆も頑張ってな。また何かあったら電話してもいいし、モニターでも見てるからね。待ってるね。」

「「「は〜い!!」」」


竜樹は帰って、さて改めて、お仕事検証となった。




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