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まずはお仕事見学です



「『アンファン!お仕事検証中!』撮影開始しま〜す。では、カメラまわしま〜す。」


ここは大画面広場、一角に、一見重厚に見える、軽い机を出して、そこにステューが、隊長役として付いた。ルムトンがニコニコその側に立ち、子供達がパラパラと集まって、チーム毎に並ばされる。


3、2、1 キュー!と手でサインを出したディレクターを皆が目で追い、ステューとルムトンが、充分一拍置いて、弾かれたように喋り出す。


「さあ始めます、今日からこの番組、『アンファン!お仕事検証中!』という事でね。私、検証隊隊長のステューと。」

「副隊長のルムトンでっす!隊長、今日お仕事を検証してくれる、隊員達を連れて来ました!」

「うむ!よろしい、それでは隊員達、任務を与える。君たちには、様々なお仕事に挑戦して、調査、検証し、皆にどんなお仕事か、素敵な所、大変な所、どんな役に立ってるのか、分かるように報告してもらいたい!」

「わかりましたか〜?」


(子供達、無言)


ズル!ステューとルムトンがコケる。

「いや無言かい!そういう時は、ハイ!って大きくお返事!テレビではね、気持ちをなるべく喋っていかないと、皆に伝わらないの。はい、ではね、わかりましたか〜?」

「「「は〜い!!」」」


今度は皆、良いお返事ができた。

ニリヤなどは、お手ても上げている。


「よろしい!良いお返事です。隊員の紹介は、後で検証しながらしていくとして•••今日のお仕事は、こちら!」

「情報屋!」

「皆、情報屋って、何する人か分かる?」

はーい、とジェムが挙手。


「はいジェム隊員。」

「何か、手に入れた情報を売って、生活してるひとだろ。」

「はーい正解!どうやって、手に入れて、誰に売るか。俺もわかんない。教えてもらいましょう!今日の、講師はこの方です!どうぞ!」


片腕が、少しずつ盛り上がり修復し始めているモルトゥが、ガチンゴちんに緊張して、ギクシャク登場した。


「情報屋のモルトゥさんです!モルトゥさん、俺、情報屋って、なんか、悪い人に、クックック、て笑いながら、やばい情報を売ってるイメージしかないんだけど、どうなの?」

ルムトンに聞かれて、ガチゴチだったモルトゥが、ハッと解凍されるように滑らかに話し出した。伝えたい気持ちが、緊張や、重い口を押して動かす。


「そういう情報屋も、確かにいるよ。でも俺は、あんまり悪い人に情報売るのはオススメしない。だって、自分も危うくなるだろ。良くもこんな情報をあいつに売ってくれたな!とか、あんまり良い情報じゃなかったけど、どうしてくれるんだ!とかさ。よっぽど悪い連中の間を泳ぎきるのが上手な、耳が速くて保身に長けた奴しか、長生きできないじゃんか。」

ヘェ〜、と子供達も感心している。


「そうなんだ!え、でも、じゃあモルトゥさんは、誰に情報売ってきたの?」

ルムトンが皆の疑問を代弁する。

「それを見つけるのが、商売の工夫、タネなんだよ。今日はそれを、ちょこっと見せてやるから。情報屋って言っても、悪い仕事ばかりじゃない。お得な情報を、欲しい人に。新聞やテレビなんかも似てるけど、もっと狭くて小さい、でも痒い所に手が届くような、欲しかったな!っていう情報をピンポイントで届けるのが、情報屋なんじゃないか。俺はそう、思ってる。」

誰だって仕事に誇りを持ちたい。

モルトゥだってそうだった。

彼なりの矜持や、創意工夫がそこにある。


子供達は、目をキラキラ、パシパシと期待に瞬かせて、モルトゥをジッと見上げて待ち顔。

「じゃあ早速実践すっぞ。見せてやるから、ついて来い!」

「て、命令するのは俺!俺なの!う、うん、じゃあ隊員達、よろしく頼んだぞ。」

「良いなぁステュー、そのいばる役、俺もやってみたい。ね、ね、今からでも交換しない?」

「しない!ルムトンほらほら、検証、はじまるよ!」


「はい、カット!」


ほわ、と本番の緊張が、解けて。子供達も、うふふ、くふ、など笑ってもじもじしている。本番、短かったねえ、などと言い合って。

ルムトンとステューも、ほわ、と愛嬌のある顔を綻ばせて。

「子供達〜、なかなか良かったよ!でもさ、テレビって、普段より、少し元気めに伝えないと、なかなか皆に分かりづらいの。お返事や、思った意見もどんどん、積極的に言ってくれたら、もっと良くなるからね。ルムトンも頑張るから、頼んだよ、子供達〜!」

ぽんぽこのルムトンが、穏やかにほこほこそう言えば、子供達も、はぁ〜い!と良いお返事。

「初めてにしては、なかなか良かったよね!ルムトン。俺は隊長役だから、威張っていくけど、本当は怖い人じゃないんだからね。みんな、よろしくねぇ〜。」

ステューもニコニコ、子供達の気持ちを盛り上げて、そしてモルトゥに続けて話しかける。

「モルトゥさんも良かったよ!緊張してたけど、それも味っていうか、情報屋ってあんまりニッコリしてるイメージないもんね。悪い人に情報渡すお仕事ばっかりじゃない、って新鮮!よろしくお願いしますね!」


あ、あれで良かったのか•••。

はふぅ、と深呼吸をするモルトゥの肩を、ルムトンとステューが、ポフ、ポフ!と叩いて笑った。


ルムトンとステューを起用したのは良かったな、と竜樹は見守りながら思った。場を温め、和ませてくれるのは、流石に何度も場慣れしている芸人さんである。

そして検証中のお母さん達はというと。


ふは〜っ!と息を吐いて、カメラのスイッチを切って、肩を上下させていた。

「私、エフォールばっかり気になっちゃう。アップで写しちゃった。みんなの事も撮影しないとですよね。慌てて振ったりしたんだけど。」

リオン夫人が、胸に手を当てて、すふー、と息を吸う。


「段々と、大きく視野がとれて来ますから、大丈夫ですよ。まずは撮影に慣れましょう。エフォール君に集中するのも良いですよ。上手く撮影しようとするより、どうかな、皆、どんな顔してるかな?って、親目線で、興味を持って、じっくり追って下さい。あんまり急に振ると、画面が揺れて見づらいですからね。必要だと思われる情報を、きっちり撮影するのは、我々プロがやりますから、安心して。」

カメラマン達が、どんと胸叩いて請け負う。


足がまだ全快していないエフォールは、歩行車で立っていた。本番が終わると、直ぐにアシスタントが折り畳みの椅子を持ってきて、座っていたから、それを見ていたリオン夫人も、立ちっぱなしじゃないな、とちょっと安心した模様。

エフォールはアシスタントに、朗らかにお礼を言っている。


アシスタントの女性は、しゃがんで、椅子に座ったエフォールを見下ろさないようにしながら。

「エフォール様がやりやすいように、私が本番カット毎に椅子を持ってきます。辛い時は手をちょっとだけ上げて、椅子下さい、って言って良いんですからね。ルムトンさん達が、ちゃんとやってくれます。だから、本番でもですよ。歩行車に座っても良いですしね。自由な雰囲気、それも番組の味にしていきたいんですって。」

我慢はダメよ。

優しい若いお姉さんに言われたエフォールは、ほこ!と笑って、はぁ〜い!とお返事した。

エフォールは我慢しがちだから、言ってもらえて、リオン夫人も良かった、と胸を撫で下ろす。


ブリュム夫人は、興奮していた。

カメラで撮影していると、子供達の表情が、絵のように切り取られて、胸に迫ってくる。

説明を聞きながら、目をパチ、パチ、時に情報屋の話を聞いてキラキラ、お口が薄ら開いたニリヤ殿下なんて、超可愛いのだ。

娘のマテリアは、緊張した顔をしていたが、ルムトンが喋り出すと、期待感満載な、猫目がキュわ!と一段大きくなって、興味津々な表情。生き生きとしたそれらを、カメラに収めるって、宝物を見つけたような、とってもお得な気持ちがするのだ。

そして、撮影して絵を貯めていくという事は、宝物がどんどん増えていくような、満足感が凄い。


竜樹にそれを言えば、きっと、「あぁだから、人ってスマホカメラで写真をバンバン撮っちゃうんでしょうね。溜め込むの、本能にありそう。」と返してくれたかもしれない。


カメラ、面白いーー!!!


ブリュム夫人は、ハマりそうな自分をわくわくと、抑えきれずに、うくくく、と笑った。



場所は変わって、大画面広場の屋台がチラホラ見える辺り。ジェム達がオススメの、美味しい串肉屋さんも、ジュウジュウ煙、肉を焼いている。


3、2、1 キュー!


カメラは屋台をぐーっと映して、場所情報を説明してからルムトンステューやモルトゥ、子供達にカメラを戻す。


「はい、ここは大画面広場の屋台の前です。モルトゥさん、お腹空いたの?」

「腹が減ってる訳じゃないよ。これからお仕事始まります。皆、見てろよ。」

「え〜っ、何が始まるんだろ。隊員達、一緒に見てようぜ。」

ルムトンが呼べば、こちゃ!と子供達が集まる。

「見てよう見てよう!」

「串肉食べた〜い!」

「あそこの串肉、おいしんだよ。」

「え〜、そりゃ良いなぁ。おっ!モルトゥさんが何か買うぞ!見て見て!」


モルトゥは、まず炒り栗の屋台に行って、栗を一袋買った。炒り栗は、温かいのが美味しいので、頼んでから火が通っているものを、一度魔道具の栗炒り釜で温めてくれる。パカリと蓋をして、中が回転する、コロコロ、ゴロンという栗の音。

その炒っている間に。

「最近どうよ?変わった事あった?」

モルトゥが聞く。


屋台の親父は、愛想良く、そうねぇ、竜樹様のお陰で、皆、懐あったかで、こっちも実入りが良くて助かるねぇ、なんて言っていたが。

「今朝、お貴族様の従者が栗を買いに来たよ。忙しい、忙しい、ってね。寝てないみたいだった。でも嬉しそうだったから、悪い話で寝てないのじゃないみたい。財布に、獅子の模様の家紋が入ったので払ったから、誰か家の人に、多分仕事仲間に、ちょっと栗でも食べてお茶しよう、って言われたんじゃない?」

「へぇ。朝飯食う時間にか?」

えへへ、と親父は笑って。

「子供新聞で、秋になるとここの炒り栗も美味しいよ、って書いてくれたのを、忘れずに来てくれる人が結構いてさ。おやつに、って、朝から買いに来てくれたりもするんだ。家でも温められるしね。」

「なるほどねえ。俺も食うのが楽しみだな、栗。これは良い話の礼だ。とっといてくんな。」


あいよ〜!ありがとうね〜!


温め終わった栗を、ザラっと入れた紙袋と、買った代金とは別に渡した銅貨とを交換して、モルトゥはスタスタと戻ってきた。


「と、いう訳で、何か獅子の家紋の貴族の家に、慶事らしき事があったのが分かった。まだそれが何かは分からないが、一つ情報の欠片だな。」


ふぇぇぇえええ!!!


子供達とルムトンとステューは、感心して、すげー!すげー!と囁き合う。

モルトゥは栗の温かい紙袋を片腕に。


「あの炒り栗屋は、春夏は炒り豆売ってるんだ。ずっとあそこで屋台をやって、見聞きした事も、割と捨てたもんじゃない。お客は情報の塊だからな。でも、奴が、誰にでもお貴族様の情報を漏らしてるとは思うなよ。俺が、悪い奴には情報を流さない情報屋なのを知ってるし、あの親父だって、流しちゃ悪い情報を流す事はない。噂されても嬉しい事しか言わねえのよ。商売人だから、ちゃんとしてんだ。」


「ヘェ〜!モルトゥは、毎日栗買ってるの?」

ネクターが、お目々をどんぐりにして。


タハッ、とルムトンがウケて手を叩いた。

「そこかよネクター殿下!毎日栗て!どうなの、モルトゥさん!」


「あー、栗だったり、串肉だったり、色々だよ。段々と屋台にも顔を覚えてもらって、俺は話しても危なくないとか、信用を作っていくんだ。この商売って、案外信用商売なんだぞ。まあ、商売はどこも、そうかもだけどさ。さて、まだ情報を得るやり方は、他にもあるんだぜ。」


次第に熱の入って来た子供達。

モルトゥに連れられて、今度は、開けた、ベンチの沢山ある、人が沢山散歩している所に移動。


どかっ、とモルトゥはベンチに座り。片手で栗を器用に剥いて、口も使いながら、モグモグ栗を食べ出した。


「良いなぁ栗。」

「たべた〜い!」


し!静かに!という仕草をモルトゥが人差し指口の前に立ててするので、リーヴちゃんもお口に手を当てて黙ったし、皆ひそひそ、何だろうね、ね?と見守った。


モルトゥは、目を瞑って、モグモグ。


••••••••••••。


子供達が、もうちょっとで飽きるかなあ、という頃合いに。


「今日の商店街、お買い得品沢山あったね!胡桃がいっぱい!超おとく!私、家と実家にも沢山買っちゃった!」

「竜樹様が新聞で教えてくれた、パウンドケーキ、胡桃入れて作ろうよ。」

「良いね良いね!作ったら一緒に、ニルンおばあちゃんにも渡しに行こうよ!」

「じゃあこれから、粉とかたまごも買い足しに行く?」

「さっき買っちゃえば良かったね!一度荷物置いてから、また行こうよ!」

「うんうん、だね。それで、ご両親へのご挨拶の時にはさ•••。」


歩いて話しながら去る、若い女性2人の話し声が、遠くなっていく。

マイクに微かに入ったかな、というそれは、きっと後で字幕にして、ナレーションが補足してくれるだろう。


パチン、と目を開いたモルトゥが、ベンチから戻ってくると。

「今日は商店街にお買い得が沢山あるらしい。まあ、そういうのは買う奴の懐加減もあるんだが、さっきの女は、身なりも清潔で整ってたし、それでいて派手でもなく、多分商家の手伝いかなんかで、今日は同僚と休みだったんだろうな。家でパウンドケーキが焼ける、って事は、商店街で食材を買い物して作るのも、初めてじゃないだろうし。少しは信用しても良いかな?まぁ、行ってみれば分かるな。」


朝の貴族の情報も、何か追加で分かるかもしれないし。


ほへぇ〜!!

お口あんぐりの子供達である。

特にモルトゥに世話になっていた、この中の子供の中では一番歳上のネフレは。

モルトゥ、プラプラしてるな、と普段思っていたのだが、そう見えて色々とやっていたのだ。情報屋って、こういう事なのだ。


「お前ら、情報屋って、プラプラしてるな、とか、遊んでる、って思えるかもしれないけど、結構、頭使うんだぞ。見てる何もかもから、必要な情報を選んで得る。そういう目が必要なんだ。ぼーっと見てるようでも、見てたら、聞いてたら、分かる事はいっぱいある。分かったか?」


「「「は〜い!!!」」」

ニコパッ!とニリヤが面白そうに笑った。

ジェム達は、当然、何となくやった事あるぜ、と余裕の表情。

女の子達は、面白いね!面白いわね!と顔を見合わせ、ひそひそしてる。

エルフ王子王女は、ヘェ〜、と興味津々だし。

ファング王太子は、お目々がキラッキラに見開いて、市井の事、すごく、面白い!尻尾をブン、として、隣のアルディ王子の手を、思わず力強く握った。

エフォール達は、お話を聞くのはできるかもね!出来そうかも!と声を弾ませた。











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