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ピッカピカのリヤカー



「それが、『りやかー』かよ!」

「へぇ〜、何か、車輪が黒いんだな!」


夕方、いつもの荷運びの仕事を終えて。荷運び達への待遇改善の進捗、連絡事務所と化したフロンの家の周りは、いつだってあの日から、人だかりがしている。

今日もそうだ。試作品のリヤカーが2台、届いたのだ。


フロンの父ちゃん、ジュイエと、テール親分が、持ち手、ハンドルの所に手を掛けて、跨いで中に入ると、ぐい、ぐい、と引いてみる。

荷運び達が、おおお!と声を漏らす。


リヤカーは今までの荷車のように、置いた時斜めにならない。複数の届け先の荷物を、やり取りするためもあるだろう、前側にスタンドがあり、水平に置いておけるのだ。荷物が滑り落ちたりもしないよう、四方に金属板が嵌められている。荷物を載せたりしやすいように、必要があれば取り外しもできる板だ。

タイヤはゴムで、衝撃も少ない。

荷台の底には、大きく魔法陣が描かれて、それは不思議な美しさだった。

新品を下ろすという行為は、まっさらでピカピカで気持ちよくて、それに初めて触れる、手にする喜びがある。


「軽!」

「軽くする魔法陣ってすげえなぁ!これ、金属なのに!」

「車輪も良い感じだぜ、ガタガタしねえ!」

「造りもしっかりしてんね。ぶつかっても壊れなさそう。」


取っ替え引っ替え、引いてみて、荷運びの男達は皆、驚き嬉しそう。

家の中にある、僅かな荷物を重しに積んでみて引いても、今までの3分の1の重さしか感じない造りになっている。驚きである。


「ジュイエ、良いなあ!これ、明日から引いて、どんなだったか報告ってやつ、するんだろ?」

「テール親分も、しっくりきてんな。」

ムフフフ、と笑うテール親分は、本当に、子供のようにはしゃぎたいくらいだった。


竜樹様は約束を違えない。あの日から、毎日進んだ事を報告に来てくれる、ユミディテという侍従がいる。毎回紙に書いてある出来事を、待ちきれない荷運び達の前で、堂々と話していく。やっぱり少し得意げに。


その報告は、良い事ばかりではなくて、今はここで詰まっていて、とか、ここの所で話し合いが難航していて、とかもあり、ドキドキもする報告だ。しかしそれがあるが為に、少しずつ組織も作ってるんだ、と出来上がるまでの過程を、我が事として感じられている。

毎日進む出来事は、荷運び達を喜ばせ、毎日夜の、いわばエンタメとしても成立していた。変化のない苦しい生活の毎日に、お祭りみたいな出来事なのだ。


「なるべく沢山の人の意見が欲しいってさ。俺がしばらく引いたら、また他のやつに貸し出すさ。順番に使ってみようぜ!」

「やった!」

「マジかよ!」


「りやかー、かっけー!!」

荷運びの家の子供達が、ピカピカのリヤカーに群がる大人達の隙間からそれを見て、ふわわぁ、と憧れの目を向けている。俺もあれ、大人になったら、引くんだ!と、想像の翼、はためかせ。

フロンも、嬉しそうな父ちゃんに、すっかり治った肩をブンブン回して、ばんざーいだ。


ユミディテは、うん、うん、と嬉しく頷く。竜樹様がやると言ったらやるのだから、心配はしていないが。沢山の荷運び達の生活のかかる報告をするユミディテは、その重さに、日々、誇らしくもありつつ感情移入もして、ハラハラと気を揉んでいるのだ。

今日は現物があり、進む事が沢山あって、やりがいのある日なので、とても嬉しい。


「皆さん、リヤカーはまだまだ皆さんの意見を聞いて、進化します!ご意見お待ちしてますよ!私に言って下されば、書き留めて持ち帰りますのでね。あとですね、今日はもう一つ、持ってきたものがあります。」


取り付け技師達が囲む、やっぱりピカピカのリヤカーには、大きな板みたいなものが乗っている。布が被せられているのを、ユミディテが、サッ、と取ると。


あっ。

「テレビだ!」

「しかもでかいやつ!!」

「もしかして、く、くれるの?」


ニンニン、と笑うユミディテが説明する。

「竜樹様が、今日からニュースの1コーナーで、文字を1つずつ覚えよう、もじのうた!ってやつをやりますから、それを見て、ちょっとずつ文字に慣れ親しんでいってくれれば、と。急遽テレビをご用意しました。荷運び達の待遇改善の為の予算の中から出たお金で買ったので、皆さんテレビを無料で見られますよ。維持費もそこから、ずっと出ます。」


さて、どこにテレビを設置しましょうかね?

となって、ワイワイやんやと話し合った結果、皆が集まる、このフロンの家の前が良いと、フロンの家の外壁にドーン!と設置される事となった。


『今晩は、皆様、お天気の今日、いかがお過ごしだったでしょうか。満実の月、5日夜7時のニュースです。』


ふつん、と点いて、画面に映って喋りだす男性アナウンサーに、わぁ!!と歓声。画面の光ちらちらと、集まった笑顔を、宵闇の中照らす。はぁぁあ、とため息吐きながら集中して見ている彼らに、そっとユミディテは紙を配った。基本の文字の書かれた紙である。


テレビを見ていると、それの音以外は静かになっちゃう荷運び達である。なかなか大画面広場にも見に行けなくて、通りかかるばかりだったが、近所にそれが出来れば毎晩見られる。期待に胸躍る。


ニュースは進んで、文字の歌のコーナーになった。


『ア〜は小鳥のア〜♪』

ニリヤがお勉強の時、フンフン歌っていたの、採用されました。

アー、Aに似た字である。画面に楽しく文字が、小鳥を形どり揺れてユーモラスに、記憶に残るように。

子供達が、早速口ずさんでいる。


『今日は、アー、を覚えましょう。一日一文字ずつ、いきましょうね。小鳥、の単語は、こちら。この最初の文字が、アー。ですね。さあ、皆さん、一緒に口に出してみましょう、さんはい!アー!』

「「「アー!!」」」


『良くできました、こちらのコーナーではお歌をテレビで見ながら歌ってくれる、子供達の映像も流す予定です。あなたの街にも、取材に行くかも!』

『その時は、きっといい笑顔、見せてくださいね!』

女性アナウンサーも、優しく微笑む。


『『それでは夜のニュース、よるなな、今日はお別れです。また明日!』』


ふつん、と画面が暗くなりーーーまだ遅くまで放送はやってないのでーーー皆が興奮しきった瞳で、その暗くなった画面を、まだ、見ていた。


「さあ、皆さん。文字の歌に出てくる、一つ一つの文字が、その紙の表に書いてあります。良かったら毎日見て、時々口にして、覚えてみて下さいね。すぐ覚えられなくても、大丈夫。まずは文字に親しんで、と、竜樹様からの伝言です。」


伝票を確認したりするようになる荷運び達の為に、竜樹は文字を少しでも慣れさせようと、このコーナーを作ったのだ。


後に、文字のコーナーと呼ばれて、何度も繰り返し繰り返し聴かれる事になる歌が、そんな未来を含んで、ここにある。

紙を見てぶつぶつ言い出した、真剣な荷運び達に、ユミディテは。


明日、荷運びの商会の制服が、仮に上がってくる。動きやすいか、などを確認してもらう為に、またお試し期間があるけれど、きっと今日みたいに、大騒ぎになるね!


くすす、とユミディテは笑う。

何かを作り上げていく、それをつぶさに見られる、そんなお手伝い。

それって、なんて、楽しいんだろう!


月が照らす荷運び達の家の周りで、いつまでも集う彼らは、きっと明日も喜び勇んで試着するに違いない。

想像して、嬉しくなるユミディテは、「あー、王宮に勤めて、本当に良かった!」とニコニコした。




フロンは寮に遊びに行けるようになったから、きっと明日、デュランと、そして毎日何かの映像を見ながらぶつぶつ独り言、お仕事してる竜樹様に、今日の事教えてあげよう!と思った。

フロンが報告するあれこれを、竜樹様は嬉しそうに、忙しいのに聞いてくれるのだ。


明日はきっと、また喜んでくれる。

それが嬉しくて、フロンは今夜も、父ちゃんと母ちゃんの間、同じベッドで、ちょっと狭いけど、ふくふくと眠れる心地がした。

今日は短めご容赦です。

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