アンファン!お仕事検証中!
タカラは急いでハルサ王様とマルグリット王妃様の寝所へ向かっていた。
何しろ今日は、報告する事が多すぎる。昼間に成人向け商品の会議もやったばかりなのに、竜樹といると、立て続けにわわわ〜っ!と雫が投下されて、波紋がぶわりぶわりと広がっていくのだ。
これはもう雨ではないか。
それも、中身はいつも、優しく柔らかく降りそそぐ、慈雨である。
いつだって、驚きに満ちているけれど、心は潤い、波紋の一部になる事が嬉しくて、この上ないのだ。
お仕えして、その甲斐ある主人に巡り会う。タカラの雇い主は、ハルサ王様で、勿論忠誠を誓っているけれど、それに全く反する事なく、竜樹様をお慕いしてーー恋愛的な意味ではないーーお助け侍従としてお支えする事に、やり甲斐と何があってもお味方するぞとの信念を持つ事ができた。
タカラにとって、今の状況は、幸せである。
「ハルサ王様とマルグリット王妃様に、竜樹様の波紋についてのご報告です。」
「はい。王様も王妃様も、今か今かとソワソワしてお待ちです。どうぞ。」
寝所の前で待機している侍従長のミネが、待ち構えてお茶などを出すべく、ワゴンを引いてタイミングを測っている。寝所に入れる侍従は、ミネとミランとタカラ、後数人位しかいない。扉を守る騎士達に、一言かければ、厳しくもニッコリと、どうぞと手振りだけで守りを緩め、タカラを通した。
プライベートな寝所まで来ても良い、というのだから、よっぽど報告を待ち侘びていたのだろう。
コツコツ、とドアをノックし。
「失礼致します。タカラでございます。ご報告に参りました。」
「よろしい。入れ。」
ハルサ王とマルグリット王妃は、既にふわふわ手触り、リネンのガーゼ生地、淡いベージュの寝巻きを着て、ベッドの前に設えたソファスペースで、ゆったりと座り寛いでいた。
若干お疲れ、眠そうだったが、タカラが入ってくると、おおっ?!と腰が浮く。並んで座った背もたれから、背を起こして、ソワソワニココと、微笑みながらワクワクしている。
「ミネ、お茶は温かい麦茶で。寝る前だからな。濃くしてミルクを淹れてくれ。砂糖は入れずに。」
「私も麦茶ミルクが良いですわ。甘さは控えめで。」
「はい、近頃お好みの飲み方でいらっしゃいますね。心得ました。」
お茶が沸かせる魔道具ケトルで、ワゴンの上、麦茶ミルクを淹れはじめるミネも、穏やかで優しい顔をしている。彼も竜樹と3王子のお陰で侍女長クロシェットと結婚出来、プライベートも充実しているので、勿論お仕事大事だが、それだけでなくタカラの報告を同席して聞ける事に、密かに喜びがある。
「さあ、タカラ。お茶を待つ時間も惜しい。報告してくれ。」
「父神様、ペール神様が顕現されたのですって?」
「はい、そうなのです!」
す、と斜めがけした、いつも装備している時止め鞄から、キラキラのドームガラス、またそれも時止め加工がされた専用のお花保存飾り付けケースを取り出し。そ、と王様王妃様に献上する。
お茶が乗る予定のテーブルに、コトリと置けば。
ふわぁ、と瑞々しく咲いた、明るく強く大らかな、ペール神様らしい黄色の薔薇が、一輪。夜露も麗しく。
「これがペール神様の御花か。」
「素敵ですわ!」
「既にご報告が粗くはお伝え出来ていると思いますが、改めてご報告致します。竜樹様が、獣人で孤児の、デュランという子供の願いにより。かの子供が、故意ではなく傷つけてしまった、フロンたる近所の幼馴染みの傷を治す為、ルルー治療師や王子様方、アルディ殿下も伴って、荷車通りに赴いたのですーーーー。」
一通り事実の報告が済めば、ふむ!とハルサ王は興奮して、そしてそれを抑える為に、侍従長ミネが淹れたミルク麦茶をグビ、と一口飲んだ。
「では、お国の毛細血管たる荷運び達を含む、運送業を、商会で纏めて雇い、待遇の改善と活発な発展を促すという訳だな!これは、竜樹殿にも商人達にも詳しく話を聞かねばなるまいよ!細かな補助をしてやらねば!何としてもそれは、成功させ、また我が国の経済を活発にさせる礎となろう!」
「はい!竜樹様も、また、明日いらっしゃる心づもりがおありです。」
うん、うん!と嬉しそうに王はミルク麦茶をまたひと啜り。
「女性達の事についても、進捗があるとか?」
マルグリット王妃が、カップを両手で持って、温かみを味わいながら。夜などはもう、冷んやりとした空気で、温かい飲み物が身体に嬉しいのだ。
「はい。成人向け商品の会議を、孤児院の女の子達も見ておりまして、ラフィネ様とも、竜樹様を待ち構えて、それについてどう考えたら良いの?成人向け商品に、私たち出なければいけないの?と不安をぶつけたのですね。」
「まあ、まあ!そうよね、女の子達は不安よね。うっふふ!でも、竜樹様も、さぞかし焦られた事でしょう!あんなにも、軽蔑されたくない!と机に突っ伏していたのですもの!」
成人向け商品については、マルグリット王妃も、絶対に竜樹の提案した、こちらで制御する案が最善であろう、と確信はしている。
しているが、成人向け商品に何も思う事がないか、といえば、女性の立場からして、やっぱり少しモヤモヤした気持ちはある。だから、女の子達が問い詰めたい気持ちも、充分に分かった。
そして、可哀想だが、問い詰められた竜樹に、胸がちょっとだけ、スッキリする気持ちがした。
「ウフフ。お父さんですもの、男ですもの、発案者ですもの。女の子達の不安に、応えてあげなければね。竜樹様は、女性向けの成人向け商品についても言及してらしたけど、それは多分、まだこの国では、きっとモデルや男優などの、かっこいい、胸がチラッとはだけたくらいの可愛らしくも雄々しく美しい写真集や、恋愛物語なんかの方が、きっと人気だわね。」
ちょっとエロい位で、きっとキャーキャーであろう。
王妃も竜樹のスマホから動画で勉強をして、推しや、萌え、がどんなものか理解を深めているのである。
む、とお口を尖らせた王は。
「マルグリット、私の妻よ。女性向けの成人向け商品を、貴女も見たりしたいのかい?」
私がいるのに?
可愛い嫉妬のハルサ王なのである。
あらあら、あらら。
ウフフ、と笑いながら、マルグリット王妃はハルサ王の手に、白い手を重ねて、ぎゅっぎゅとした。
「お仕事ですわ!確認しなければならないでしょう。それに、貴方も成人向け商品、確認されるでしょう。女性向けの商品なんて、可愛いものですわよ?私も一緒に、男性向け成人商品、見たいわ!」
え、ええええ〜?
それはちょっと都合が悪いハルサ王様である。しかし断れまい。
「む、むむむ。じゃあ私にも、女性向けの成人商品、見せておくれよ!」
「良いわよ!一緒に見ましょう。楽しみね!」
どんなのが出来るかしら?
うん、ううううん。
ニハーと笑っていたタカラだったが、報告はまだ続くのである。
「その女性達の竜樹様吊し上げ会、になりそうだったお話し合いは、最終的に、女性のお仕事を広げ、男性も偏見なく様々なお仕事をしていく土台を認識させるための、お仕事体験子供番組を作る、という結論になりました。」
「ふむ、ふむふむ。」
「あら、まあ!」
「そしてまた、コクリコ様の妊娠出産を子供達がレポーターとなって密着する、ドキュメンタリー番組を作る事となりました。落とし屋に騙された事も、公表するのだそうです。」
まあ!とマルグリット王妃は、目を大きく開いて、口に手を当てた。
「なんて、なんて大胆な!批判も、中傷も、沢山あるでしょうに。でも、でもーーーとっても面白いわ!見たいわ!私も出産したけれど、他人の出産て、客観的に見た事ないもの!そして、絶対、皆の気持ちが、妊娠出産に対しての知識や認識が、良いように変わる、そのきっかけになるに違いないわ。」
キリリ!とした王妃様は、決心もする。
「それは、赤ちゃんとコクリコ嬢を守ってやらないとね!私も尽力しましょう。私的な事を晒してまで、時代の先端を行き、キッカケを作ろうとしてくださるのだから!女性としての尊厳が、赤ちゃんの心安らかに育つ環境が、守られるように、動くわよ!」
「心得ましてございます。何なりとお申し付け下さい。お手配致します。」
ミネ侍従長が、胸に手を当てて、然るべき対応のできる人員に連絡するよと請け負う。
「またそのお話し合いでは。」
タカラの報告はまだまだ続く。
「ぱーとたいまー、ぱーとさんと呼ばれる、短時間で都合の良い時間に、様々な職業で、働く女性達の事を竜樹様が取り上げて。ラフィネ様や女の子達とも、結婚すれば選択肢に出てくる、妊娠出産子育てをしながらも、女性が夢み、生き生きと働けて、男性に頼るばかりでなく、自分でも思うように、そして夫婦協力して生活していけるような社会、に段々と歩んでいく道筋をつけるお話になりました。こちらは、ラフィネ様が、パンセ伯爵家リオン夫人や、セードゥル侯爵家に養女にゆかれたコリエ嬢とも話し合いをして、時給といって時間に対して一定の金額で働き、働いた時間だけの分お金をもらう仕組みや、妊娠出産でお休みをとれる仕組みについて、産休というのですね、それをこの国に良いように発展させたい、と仰ってましたよ。」
「そのお話し合い、私も出たいわ!!」
3お母さんズも、王妃様とお話し合いがされる模様である。
ふー、と夫婦2人、満足のため息を吐く。
いやいや。これで満足してる場合じゃない、と心構えを新たに持つ。
「タカラ、報告ありがとう。今日は良い報せが沢山あり、私も嬉しい。」
「本当よ。胸が躍るわ!頑張りましょうね、私たちも!」
そしてペール神様のお花は、王宮の祈祷所にお祀りしましょう。
「とても素晴らしい、素敵なお花。ありがたいわね。」
「うむ。我が国が、竜樹殿のお陰で上手くいっているのも、私たち人間だけの手柄ではあるまい。何か大いなるご意志が、ここにあろうか。こんな時こそ、ペール神様のお見守り、神々のご加護に感謝して、驕る事なく。近隣諸国とも恩恵を分け合って、共に発展してゆけるよう、精進せねばな!」
「はい!謙虚に、でも大胆に、皆の助けを借りながら、広がってゆきましょう!」
明るい未来を予感させる報告は、する方もされる方も笑顔である。
例えそれに、沢山の試練や困難があろうとも、光ある所に向かいたい。
そんな本能が、竜樹に関わる人を、奮い立たせて、毎日を楽しくも。
明日に向かって、生きていくのである。
「番組名は、まず一つ目。『アンファン!お仕事検証中!』でいきます!」
おお〜パチパチパチパチ!!!
明けて朝、寮の交流室で、朝ごはんを、ねむねむもぐもぐごっくんこ、と子供達と食べながら、竜樹が、発表した。勿論、テレビ電話で王都と各地方教会孤児院の子供達とも繋がっている。
「あとね、コクリコさんの出産ドキュメンタリーは、『アンファン!お仕事検証中!番外編〜コクリコの出産〜私の愛し子〜』にします!コクリコさんとも相談して決めましたー!」
わ〜わわわわわ!
パチパチパチパチ!
もぐ、ごっくん。
「ばんぐみ、さつえいするのね。」
ニリヤが、朝のキャベツとベーコンの巣篭もりたまごをフォークで掬いながら、ぱくん!と黄身を食べてニッコリする。
「それなんだけどさ。コクリコさんの出産は、時間がかかるから、撮影しながら密着するとして。最初のお仕事はー、考えたんだけど、モルトゥさんの情報屋のお仕事を特集しようと思ったんだー。」
パリパリじゅわあ、のバタートーストを、モグリッと齧って、竜樹が言う。
「んぐ、はあああ!?何で番組!何で情報屋!?」
モルトゥがいきなりの事に叫ぶ。
昨夜、眠くなりながらもとつとつと、モルトゥは竜樹に、どんな気持ちで育ったか、子供達を育てたか、告白させられていた。
「だってモルトゥさん、荷運びのご近所の仲間たちに、あんまりお仕事の内容、分かってもらえてなかったのでしょ。それって、今のままじゃ良くないよ。何を考えて、どうやって、何を努力してその仕事をしてるんだか、そしてこれからは俺の仕事を手伝うんだ、って、伝える事も、相手がそれを知りたいと思ってなくても、お互いの関係を良くする為に、必要な事なんだよ。」
それでも分かんないって言えば、ずっとここにいればいいじゃん。分かんない人のとこにいる事ないじゃん。
ぼろり。
トーストがモルトゥの口から落ちた。
そうだ。何でモルトゥは、分かってもらえなかったのに、ずっと荷運び達と一緒にいたんだ。
あの、父と一緒に住んだ家を手放したくなかったのもあるけれどーー。
変化を、本当に、望んでいたのか?
「あと、他のお仕事は、これから申し込んで受け入れ体制を整えてもらって、って準備が沢山必要そうだから、まず最初に面白そうで準備が要らなそうな、情報屋、やってみたいな!って思って。」
皆〜!情報屋って、どんな事してるんだか、体験してみたくな〜い?
「「「したい、した〜い!!」」」
フォークを持ったおててを振り上げて、ニリヤとロテュス王子は微笑み顔を見合わせて。
「エルフの子供達も、『アンファン!お仕事検証中!』に出演させて下さい!」
「やってみたい!聞き込みとかしてみたい!」
「ひみつの、情報、てにいれる!」
「高く売りつけるんだぜ!」
「女情報屋も、いるわよ!」
子供達はたいへん乗り気である。
「な、何だよ•••。まあ、良いけどよ•••。情報屋っても、ぷらぷらしてるように見えて、なかなか大変なんだぜ。子供達にできるかよ。」
「どんな事してるか、まずは詳しく教えて下さいよ。それを噛み砕いて、子供達でも出来るように、そして危ない犯罪や、事故なんかが起きないように、万全の体制で撮影しますから。まずは打ち合わせしましょう。」
情報屋って何してるの。
詳しく教えて。
なんて、今まで言ってくれた人はいなかったから。
モルトゥは、赤らむ頬を、ふるる!と顔を振って誤魔化しながら、う、うん、と返事をした。
「まあ、まあ、教えてやるよ。仕方ねえな•••。」
「竜樹様、テレビの公開採用試験の準備も、お願いしますね。」
ミランが撮影しつつモグモグしつつ、と器用な事をしている。
「うわはぁ!!はい!まずは、集まってきた試験のテレビ用映像とラジオ用音声の、下見に下聞きだね!それから、公開採用試験番組の構成、考えるか•••。」
「竜樹とーさ、お酒の事も忘れないで。アンケートとるのに、お礼のお菓子作り、教えてよー。」
ロシェが、コンソメスープをコクンと飲んで、一言。
忘れてないよ!忘れてないけど、忙しいな!!!
「お菓子つくりたーい!」
「はーい、何作るか、考えておくからね!ではでは、朝ご飯を食べ終えたら、今日も一日、始めましょうか!!」
最後、口直しは、ルージュの実のコンポートが入ったヨーグルト。甘酸っぱいさっぱりが、お口に美味しい。
「ルージュの実、街道に植えられる事になったのですよね!私たちの植樹チームに、本式で伝えても良いですか?」
ロテュス王子が、うまうまヨーグルトを食べつつ。
「うんうん。王様から正式に通達が来るはず。ちょっと待っててね。ルージュの実、丈夫で育てやすいんだって。美味しいし、お通じには良いし、全く良かったね。」
「また種ぬきやりたーい!」
種ぬき機の作業は、地味に楽しい。
小さな楽しさで毎日を彩って。
子供達の一日は、ワイワイと始まったばかりである。




