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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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会議後のお茶会だった、のに

今回までは会議後のお茶会話です。

次回、寮に帰って子供達とお話しの予定。


お茶をゆっくり嗜む、成人向け商品の販売会議への参加者達は、寛いだ気持ちで思い思いに気持ちを語る。疲れたー、だとか、緊張した!とかも言いつつ談笑。非公式な場所の方が話が弾むのは、枷がない分気楽で、どこでも致し方ない事であろうか。


「私、自分が意見を言っても良いのかな、って疑問に思うようになったんです。竜樹様の所で、子供達のお世話をしていると、分かってきた事がいっぱいある。私、何も知らないんだな〜、って。民の生活も、お国の決め事も、あぁ〜以前は、何て知ったかぶりだったんだろうなぁ、沢山の人が色々考えて動いているのに、そんな事も知らないで、•••何が言えるんだろう、って。」


元王女、エクレが、肩を小さくさせて目を伏せて、そっと言う。

大人達は、いやいや、うんうん、と温かい目線だ。それが分かれば、充分、と。

そして、それでも若い意見を言うのが、結局は皆の為にもなるのだ。だって世の中には、年配者も若い人もいるのだから。何度も繰り返されるそれが、知識の継承と相まって、返し縫いのように時代を進めてゆく。


「誰でもそうですわ。若い頃は、齧った知識だけで、偏った事を言ってしまいがち。でもそれで良いのよ。それを口にしてみて他の意見を聞いたり、実際に経験してみて知ることが、それがエクレ様の本当の知識になるわ。全てを知っている人はいないのですもの。今日も、控えめだけれど、発言されていたじゃない?」

リオン夫人が優しく言う。


「そうそう。それに、今日みたいな大きな物事を動かす時は、若い人から経験のある年配の方まで、反対派から肯定派、中立と、幅広く意見を聞けた方が良いんですよ。大きな荷物を動かす時、一方向に引っ張るだけだと、案が浅くなるし。沢山の人に関係のある事なんですから。」

バーニー君が、普段から話し合いを良くやっている人の経験談としても、眉を寄せて指を立て、エクレに語る。

「え、考えって、いつも、け、結論が最初にあるのではないの?速い方が良くない?」

チリ魔法院長が、しれっと言うが。

「それはあなたのやっといての実務や魔法理論だけです!沢山の皆で、重い話を決める時の事を言ってるんですよ!間を抜かしちゃ、何事も成せません!頭の良い人って端折りがちですけど、全員がそれには付いていけないんですからね!!」

チリの考えに慣れてるらしいバーニー君が、やいやい咎める。


「エクレ元王女様の意見も、シエル元王女様の意見も、良かったですよ!」


2人の元王女は、それを聞いて、ほっと息を吐いて、顔を見合わせてちょっと笑った。

シエルは、竜樹の褒めだけじゃなくて、バーニー君からも肯定されて、気をよくした。だって、コクリコが大人になりたいだなんて言うから。自分ばかりが幼い、力の足りない何もできない子供でいるようで、もどかしく苛々していたのだ。


自分の発言が認められる。

それは、何て甘美で誇らしい事だろう?

周りの大人のように、包容力のある意見が出せる訳じゃないのは分かってる。でも、でも。

焦るように。成長したいという思いが、今になって、分かった。シエルを、エクレを、突き動かすのだ。

育ち始めた本当の気持ちを、ここでは言っても良い、と。



「勢いよく動き過ぎないように、ストッパーの役目の人もいないと怖い。小さな意見は潰されても良いのか、という事もあるし、一人一人に気持ちがあるから。私も組織の頭をやっているから、目的をもって、これ、という方向に会議を進めるようにはするが、耳に痛い事も、言いたい事はなるべく皆に言ってもらうようにしている。でないと、進めた後に邪魔されたり、支障が起こってくるのです。」

ファヴール教皇が、面倒だけどな!と言いたげにお茶に口をつけた。

うんうん、と頷くハルサ王様と、ホロウ宰相は、長いいつもの会議に、同様の経験をしているのだろう。


世の中の沢山の物事は一方向に円滑に流れるような進み方をしていない。あっちこっち、ちょっとある方向に先鋭的だったりする人が引っ張って、また違う方向に引っ張って、360度ぐるりから糸を引きながら、力ある方へゆっくり方向を変えながら、全体が進んでいく。


「その考えでいけば、竜樹様のように、裏の私どもに話をしようと思われる事にもなるのですかね。表の方々からは、普段、無視されるか咎められるか、ですからね。或いは擦り寄って美味い汁を吸おうかという、表のフリをした気持ちは裏寄りの方々に、お話いただいて、って所ですか。」

あぁ〜やっぱりそういう人もいるよね。という所で、ニンマリ笑った老ミニュイ。


「竜樹様は、悪を何だと思われます?」


抽象的な質問に、竜樹は肘を机に乗せて寛ぎながら応える。


「悪、ですか。う〜ん。あのね、世の中の悪人を全て排除したとします。善人だけの世の中を作ったとする。だとしても、きっと、その中から、悪人と言われる人が出てきたり、悪の心を持つ人、人々の心の中に、ちょっと悪い気持ち、自然と現れてくるのじゃないかな、って思います。」


「人は自然に、悪の気持ちを持つと?神もいるのに?ギフトの御方様が、そんな事を言って良いものですか?」

くすす、と老ミニュイは笑って、とっておいた最後のトッピングの栗の一口を食べ、モグモグする。甘味が頭の芯まで、力をくれるようだ。


「良いんですよ。善のみ生きよ、なんて、それこそ偏った意見になっちゃうでしょ。それに•••善人だけの世の中、って何だか息苦しそう。嫉妬や恨みつらみ、怒りや暴れたくなるような気持ち、もっと黒々としたおどろおどろしい気持ち、愚かだけどそれがあるのが人間で。でもそれだけじゃなくて、人の為になる、善なる事も自然と生まれて、皆踏みとどまっていて。中には止まらない人がいて。だからこそ理性と工夫をもって、良い方向に進みたい、って、皆思うんじゃないかな。」

俺はね。


「子供達に、良い子じゃないと俺の子じゃない、って言いたくないのかもしれない。悪い事する子も俺の子だから。色々な子を、ふくよかに、抱いていきたい、って、そんな気持ちがあります。成長したら悪の道に進む子もいるかもしれませんよ。そうだとしても、本当の本当に悪い事をしないよう、なるべく幸せに、って思ってしまいます。導いて、っていうのが、できるか分からないけど、悪い事したら何故ダメか、諭したり怒りますけどね。良い事したら褒めるし。」


「良いお父さんですね。」

トントン、と机を指で叩いて。

「私たちの世界の連中は、本当に冷血だったり、人の感情が理解出来なかったり、暴力が生まれながらに好きだったり、力の制御が出来なかったりして、どうしようもないのもいます。そうでもない、環境のせいで悪の道に行くしか生きていけなかった者もいます。ただただ、表で生きていくには、気持ちが弱かった者もね。皆どこかが欠けている。ギフトの御方様なら、そういう者にも工夫して生きる道を探してくれそうですね。どうですか、これから、裏の社会もギフトの御方様、統べてみませんか?」


私もねえ、なかなか重い仕事でしてねえ、裏社会の天辺てね、後始末か前準備か、細かい仕事ばかりでねえ。悪い連中って、基本的に自分勝手で思い通りになんて動きませんしねえ。猛獣使いは危険だし、疲れるんですよねえ。


自分の肩をポンポン、叩いて、ミニュイは軽口。

護衛のシャトゥは、目を上に、お口をへの字に。冗談でもミニュイの旦那様以外の人が、裏社会のボスになる話なんてして欲しくない。


「またまた。そういう人が一定の割合で生まれてしまう、って事は、俺のいた世界でも分かっていましたけど、なかなかそれをどうしたら良いか、までは分かりませんでしたよ。俺も分からないです。俺の子にいたら、悪い事をしない方が、長い目で見て結局は得なんだよ、排除されないよって、感情論でなく根気良く教えたり、繊細さを求められない、力を使う仕事を考えたりするくらいしか、出来ないですよ。後は、気持ちが弱い子は、ずっと孤児院と関係のある場所で、馴染みのあるしっかりした人と一緒に居られるように考えたりだとか。環境、良く出来たらねえ。一歩一歩ですよねえ。ハルサ王様の仕事でもあると思うけれど、俺も出来る事があればしますが、裏社会のボスは勘弁してください。」


シャトゥは、竜樹様って、軽口にも真面目に考えてくれるのだなあ、と感心した。悪い下らない連中の事なんて、どうでも良いのに。それでも、それが、子供達に関する事だから、だろうか。

やっぱりシャトゥは、ギフトの御方様は、好ましいと思う。


「そうすれば良かったのかねえ。街にも、悪い若い奴がいたりするんだが、俺たち商店街の旦那衆だけじゃあどうにもならなくってねえ。怒ってもダメなら、排除するしかなくて。もっと出来る事があったとしても、本業の店もあるし、どこまでも深く引っ張って、一緒に潜っていっちまうような、そんな恐ろしい気持ちがしちまって、突っぱねるしかねえんだよなあ。ジェム達は、自分で、ちゃんとまともな側に踏みとどまっていたから、目をかけて可愛がってもやれたんだが。」

ビッシュ親父さんが、忸怩たる思いを明かす。


「普通そうですよ。」

「中々、自分達以外の事を出来ませんよ。それをジェム達まで可愛がって下さったのだから、有難い事なんです。」

コリエとラフィネが、気遣い言葉をかける。


「それを何とかするのが、本来なら教会の仕事でしょうね。」

キリリとしたファヴール教皇は言う。

「そこまで手が出せていませんが。生産するのではない、人に関わる、神と繋げる仕事をしている我々が、きっと。」



「豊かでふくよかに、緩やかに。人を生かしていこうという事であれば、今回の成人向けの商品の話も、なるべく多くの者が良く生きていけるように、には、まあ的外れでもあるまいよ。」

ハルサ王様が、こくりとお茶を飲んで。

「そうとも言えますね。」

うんうん、参加者が皆、それなりに納得して頷く。エクレもシエルも、男の生理については良く分からないが、色々な人がいる、事は分かった。


「悪人も我が国の国民であるから、働いてもらって税金を納めて貰おう。だからといって私は悪を許すとは言えないし悪事は厳しく取り締まるが、境目をなるべくこちら側に寄せられるよう、行き場を作ってやれるよう、精進せねばな。」

太陽のハルサ王は、国のトップ。清濁合わせのみながらも、皆を明るい方に引っ張って行くのが仕事である。


「なかなか良い話が出来た!」

「はい、ハルサ王様。」

竜樹も、ニコリと応ずる。


「だから、この茶会の砕けた会話は、もし皆が良ければ、追加で裏話として、急遽この後テレビで放送できまいか?面白いであろう?」


ニヤ、とハルサ王様が腹黒く笑う。

マルグリット王妃様も、ウフフ、と嬉しそう。

あ、そういえば撮影クルー、まだいたな。


やられた!

でも良いかも、と竜樹も今更気づいた。

戸惑う参加者達だが、老ミニュイだけはそんな事くらい考えの内である。


そして教会内についてざっくばらんな意見を言っていたファヴール教皇であるが、それをバラされたくらいで動じない。武闘派教皇は、強かなのであった。




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