守りは万全に
今回も竜樹が成人向け商品について語っております。
「こちらの利益としては、成人向けの映像と写真集を作る、全てを担う感じでよろしい?」
ミニュイが質問をする。
竜樹は、う〜ん、と考えつつ。
「多分、全てを裏で、というのも、こちらで制御しきれないだろうし、だからといって表だけで製造したものを、販売だけ裏で、っていうのも、上手くないですよね。適度に混ざり、適度に分かれ、適材適所で作ってはと思うんです。例えば、一つの案ですが、女優さん男優さんの勧誘は、裏と表とペアになって、お互いがお互いを逸脱しないように、締め付け過ぎないように、かつ犯罪性がないように監視し合う形はどうですか。そして女優さん男優さんは、大人の、本人の覚悟と了解を得た人を見出してほしいです。お金の分、プロ意識を持てる人ならもっと言う事ないですね。やはり、売るからには買った人がガッカリしない、良い商品を作りたいですからね。それには、裏は裏で目当ての人物を見つけて来れる人を、表は表で、裏にお金や脅迫で流されない、具体的に戦闘力と知能のあるそれなりの人物を配置したいです。」
裏と表のコンビ!
何それ面白い!
くくく、とミニュイは笑う。
とんでもない不協和音が起こるだろう。そして、双方の利益に鑑みて、ぶつかり合いながら妥協点を探すのに、苦労するに違いない。
それを任せるなら、昔気質のあのグループかな•••なんて脳裏に描き、ふんふん♪と頷く。
「こちらの利益や役割について、全体的にもう少し詳しく?他に、具体的にどんな事をお考えで?」
スマホのメモ機能を見ながら、思いついた事を竜樹は言っていく。
「これは案で、これから話し合って、上手くいくよう決めていきたいのですが。商会を幾つか、新しく作りましょう。裏と表でやはり、合同で作る商会です。写真集などの本を作る商会と、映像ーーどちらも何か良い名称がほしいですねーーの商会。2つに限る事はありません。何故なら、趣味趣向によって、暴力表現がどれくらい入るか、あ、暴力って言っても、本当にはしませんよ、本当らしく見える演技です。えー、初心者向けのソフトで綺麗なものか、それとも中級者向けか、上級者向けのディープなものか、女性向けか。女性同士、男性同士、大人だけど幼い容姿の女優さんを扱ったシリーズものなど。多分まとめきれないだろうし、裏でも表でも、こういうものを作りたい、というのが商会毎に違うと思うんですよね。適度な自由競争は、必要だと思います。廉価でそこそこの大量消費商品を作る所があっても良いし、狙いの狭いプロ意識の高い所もあっていい。どちらにしろ、支払うお金に見合った良い商品でなければ売れない、淘汰もされる。犯罪に関わらない正規の商品が、品質も保証される形にしたいです。」
ふむ、ふむ?
エフォールの養母、お母さんズのリオン夫人が、あら〜、と。
「竜樹様は、成人向けの商品にお詳しいのですわねえ。いえ、大人の男性ですから、よろしいのですけれども。竜樹様のいたお国では、成人向けの商品が、そんなに沢山、色んな種類があったのかしら。あの、私達の国•••に限らないかもしれないですわね、他の国にも輸出、出来そうなくらい、多分、仰る商品は大人気になると思うのですけれども。」
コリエが、ウンウンと深く頷き。
「ええ、ええ。特に水着の、柔らかめの綺麗なやつなどは、成人向けの商品を買うのに抵抗感がある若者なんかにも、手が届きそうですわよね。」
ラフィネは。
「どういったお店で買うのかしら。花街でも、初心者は来にくいとか、連れてこられて、ずっと恥ずかしがって嫌がる人なんかも居るのよ。買いたい人だけ、子供達なんかに商品を見せずに、でも買いやすく買えると良いわ。」
お母さんズ!何でそんなに平然としているの!?
ガタン!とまた、元王女シエルが立ち上がる。
「な!何を言ってるんです!?そんな商品は、出演する女性達も嫌に決まってるのに!貴方達、女性でしょう!?同じ女性が辱められるのに、何で平気でいられるの!?」
「嫌ばかりではないでしょうね。」
「大金が急に必要な、腹の座った女性もいるでしょう。例えば、子供が病気でお金の必要なお母さんや、家族など。納得して出演する理由は、沢山あるわ。」
「まあ、確かに安易に大金が得られるのであれば、軽い気持ちで惑わされてしまう子がいないとは、限らないけれどもね。」
「竜樹様が仰るように、子供が虐待、搾取されないように、ちゃんと大人の、自分の意思でしっかりした同意が得られた人に、限るようにしたいわね。」
ふーむ、とお母さんズは顔を見合わせて。
「そして、私達がする仕事としては、やっぱり成人向け商品の他にも、弱い立場の人達が収入の当てがある事を。何か作っていければ、選択肢も増えるわね。」
そうねそうね。うん、うん。
はわわわ。
シエルは口がワナワナと震える。
飲み込んで、拒絶するのではなく、ゆるりと他の選択肢まで考える。
カーッとなったシエルでは、到底敵わない、大人達。
がくり、と項垂れて、しょんぼり椅子の背に寄りかかる。
「そうですね。そして、出演する人には、その身を普段見せない所まで見せて商品にする訳だから、ちゃんとした見合うお金を払いたいです。」
竜樹がお母さんズに応える。
「俺のいた国では、本当に、柔らかな物から違反スレスレの深いものまで、そりゃあ沢山の成人向け商品がありました。大らかって言って良かったんでしょうか。違反した商品もあって、取り締られてもいましたよ。作った者も、違反商品を買った者もです。まず局部は、モザイクって言って、さっきの見本映像でもあったように、ギザギザの四角で、はっきり分からないように処理されます。俺のいた国では、局部は見せないのが決まりだからです。外国では、モザイク処理しない所もあったりしましたよ。でもね、そういう外国の人で、俺の国のはっきり見せない処理した綺麗な商品が良い、女性も大袈裟に喚かないし、可愛い、って気に入ってる人もいたりしたんですよね。」
曝け出せば良い、最後までいけば良い、というものではない。
竜樹はテレビで見た事がある。お酒所の粋な和服マダムが、男性とのお付き合いって、肉体関係までいっちゃったら、つまらないのよ。その前の、付き合ってる所が、キラキラして楽しいの。しちゃったら、もう男女の関係になっちゃって、生臭くってダメよ。と艶っぽく言っているのを。
う〜ん、大人のご意見、一理あるかもしれない。
なんて事を説明すると、大人達、王様に王妃様にお母さんズ、ビッシュ親父は、あー、うんうん。
「なるほど熟したご婦人は慧眼ですね。それであんな風に、局部が不思議な事になっていたんですね!」
ぽん、とバーニー君が、何か納得した事があるのか手を打って。
「そうです。まあ、積極的で巨乳で局部も見たい外国のものが好きな男性も、いたよ•••。」
あー。と低い声で納得する面々である。
「質問します。映像は、魔石に入れたパッケージの形で販売して、専用のたぶれっとで映すようにするのですかね?竜樹様の魔導たぶれっとに、魔石に入れた映像が映りますよね。」
実務が気になるバーニー君である。
チリ魔法院長は、ポポッとして。
「わ、私も、普段見えてない所は、見えない方が美しいと、おもいます!」
純情かよ。
「それが良いですかね。写真集も、紙と魔石でとで、両方出せば見やすいかな。」
「売り場なんですが、専門の店を作る感じでしょうか?」
ホロウ宰相が、気になったらしく。
「う〜ん、普通の本屋さんの一角に、仕切った場所を作るくらいでも良いかな、と思いますが、どうでしょう。そして、15歳未満禁止、18歳未満禁止などの、商品内容に見合った年齢制限をつけたいです。冒険者組合では、登録に年齢の申し出が必要だと聞きました。白状石を使って、嘘は通用しないのだとか。そこで、年齢がちゃんと制限に達していると証明するカードを作れて、買う時に提示するようにすれば、若すぎる子が買わないように出来ますかね。また、商品の年齢制限の見極めや、違反していないかなどを審査する、倫理委員会、っていう組織も、作りたいですね。」
はい、とエクレが、控えめに手を挙げた。
何でしょう?と竜樹が促す。
「あ、あの、あの。この人達、本当に、その、商品の為に、睦み合っている、のでしょうか?本当にそんな事を、する人が?暴力表現だって、フリなのでしょう?」
うんうん、良い質問です。
「これも、本当にしている訳じゃないんですよ。前貼りって言って、男女共に、テープで局部を隠しているんです。その上でモザイクをかけているって事ですね。擬似的な、これは演技です。だから、女優さん男優さんは、演技力が必要な事にもなりますね。俺としては、この方式を採用して欲しいです。観て興奮する魅せる映像と、現実って、違うし、本番を見せ物にする、って悪趣味かなー、って気もするし、出演する人の抵抗感も、段違いだと思うのです。」
「「「そうしよう。」」」
「「「そうしましょう!」」」
満場一致である。側から見れば、本番を見ている俺、って何なの、って冷静になれば可笑しな事である。まあ見ているそれが、演技であっても何なの、であるが、虚構をやりとりしているのだ、とすれば、物語を読むような気持ちで、どうか。
「ビッシュさん、何かご意見ありますか?」
最初からびっくりしたままの、多分そのままだと意見を言い辛いだろう、平民のビッシュ親父を、ホロウ宰相は気遣った。
「いや、その、まあ•••結婚する前や、若い頃なら、実際には本番してないんだっていうし、俺も買ったかもしれねぇなあ。うん、買ってると思う。今はもう、とんと、いやいや。だがまあ、花街に行くほどじゃなくて、でも金が必要で、って弱い連中には、選択肢の一つとして、ってやつか。良いかもしれねえな。」
ふ、と息を吐いて。
「だけど、」
「だけど?」
躊躇って、でも次の瞬間強い視線で、竜樹を見て。
「けどよ、俺に娘がいたら、やっぱり成人向けの商品に出演、て止めるだろうな。嫌だぜ。何とか金を工面して、しないように出来ないか、って思う。女には、いや、男にもか、それなりに傷がつく仕事ではあるぜ。それに本や映像って、長く残るんじゃねえのか?」
それが普通の感覚であろう。
「•••ええ、ええ。ビッシュ親父さん、そうですね。俺も、俺ん所の子供達が、大きくなったら成人向けに、って嫌ですよ。でも、でもね。俺の力が及ばない所で、孤児院の子供達は、そういう事に巻き込まれやすいんじゃないか、とも思う。だからこそ、出演する人には、万全の気配りをしておきたい。•••付き纏いとかには、裏社会の人たちが、女優さん男優さんを護ってくれるようにも、ってどうですかね。用心棒です。自分の所の商品なら、そんな時、大事にしませんか。それから、写真集や映像に出る時には、魔法で髪色を変えたり、瞳の色を変えたり、お化粧で顔の雰囲気を変えて、元の自分と分からなくさせたりとか。」
黙って話を聞いていたミニュイは、ほう?と一つ相槌。
「大体そんな所で、分かりましたよ。私達への利益割合は、後ほど細かく話し合いするとして。ギフトの御方様が守りたい所がね。確かにこれは、デカい商売だ。裏だけなら、表と戦いあって叩かれては隠れて出し、売り抜けて、と利益がある程度しか見込めないでしょうね。安心して売れるなら、やりたい連中は幾らでもいるでしょう。どこまで制御できるかは•••表からも監視してもらって、ウチでも見ますかね。あまりやりたい放題だと、我が身を損ないますのでね。」
王様が、初めて口を開く。
「では、裏社会を統べるというミニュイよ。公に仕事を請け負って、成人向けの商品の事業を、法に則り共同でやっていく。それで良いのだな?」
胸に手を当てたのは、竜樹だけにしか分からなかったが。
「この国の太陽、王様直々に、薄暗いこちらの世界の私どもに、公の仕事をいただき、光栄に思います。是非に、承りましてございます。」
うむ、うむ。
満足そうな王様と、王妃様である。
ホッとした竜樹は、まだ意見を言っていない、エルフのロテュス王子に、そっと視線をやり、柔らかく聞いた。
「ロテュス殿下。殿下は何か、ありますか。」
「け、軽蔑しましたよね!?ロテュス殿下!!」
シエルが重ねるように覗き込むが。
ロテュス王子は、ふむ、と真面目な顔を、ふと上げて。
「エルフは、人のようにあまり性欲が普段ないので、今回のお話、分からない所も結構あるのですけれど。でも、大人で、納得した人だけが、売ったり買ったり出演したり、という所は良いと思います。それに、エルフ達の中で、無理やり性の対象となった者達が言っていました。一度したら、満足するから、解き放たれる、それを心待ちにしていた、と。ーーー擬似的な本や映像で、満足してくれるなら、エルフは安心です。欲求不満な者が増えるのは、よろしくない状況だと思います。それが解消されるのは、良い事かと。平和にも、害しないやり方か、と、思います。見たいとは、思いませんが、裸自体は、絵画などの芸術でもありますから、綺麗なのはちょっと良いかなぁ。」
ロテュス王子はエルフ、見た目より歳もとっているし、いやらしい目で見られた事もあるから、ざっくりと現実を切る事もできる。エルフ達同胞に聞いた話も、この成人向け商品を嫌悪する方向にはいかず、生かすやり方に気持ちが向いた。
「分かりました、ありがとう、ロテュス王子殿下。では、皆さん、これからも意見をよろしくお願いします。細かい事は、これから決めましょう。そして、買う男子達、時には女子も、出演してくれてる女優さん男優さんに感謝しつつ!有り難く、きぱっとお布施を気持ちにして払う、見せてもらう、でね!!」
纏める竜樹に、シエル以外が拍手して。会議はひとまず、話がついたのだ。
「あ〜、ニリヤ達や寮や孤児院の子に会うのが怖いよぅ。」
軽蔑されたら、どうしよう。
テレビの放送が終わった途端、机にぐったり伏せる竜樹に、参加者達はくすくす笑う。ミニュイと護衛のシャトゥでさえも。
大丈夫、きっと伝わるよ。
ぷく、と頬を膨らませて不満気なシエル以外は、本気で心配して落ち込んでいる竜樹に、背中を叩いてやりたい気持ちになっていた。
マルサは実際叩いていた。




