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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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ミニュイの僕



「いやいや、大したものですな。流石、ギフトの御方様。粗暴者達にも慌てず、また何かお考えがあるのかな?」

キュール組合長が竜樹に、ふふふと頷き微笑みながら。

「きっと会議までは、何のお話か聞く訳にもいかないのでしょうねえ。でもテレビで放送されるのですね?皆に公表される?」


「はい。」

ジェムの頭に手を置いたまま、竜樹は応えられるだけ応える。まだ言ってしまっては、キュール組合長も狙われて危ないかもだから、言えない所は秘密のまま。

「テレビ、映像や、印刷が発達すれば、避けては通れない話をします。えーっと、テレビで会議が放送されたら、是非キュール組合長や、ポールさん、ビッシュ親父さんもご意見下さいね。沢山の人に意見が聞きたい話でもあります。」

「それは、勿論。」

「俺たちで役にたつなら。」

「うん、俺で良ければ。」


快く協力を申し出る3人に、会議が終わってもこんなに快く皆、参加してくれるかなぁ、と竜樹はトホリと思った。


「所で、粗暴者がまた来る事はないでしょうが、宿屋の話はどうしましょうか。仕切り直しましょうか?」

キュール組合長が気にしてくれたが。

「いえ、ポールさんもせっかく助っ人を頼んで話をしに来てくれたし、組合長さんも忙しい中、時間を空けてくれたんでしょうから、お話しましょう。あの位の脅しに負けてられないです。」

「俺達もいるから大丈夫だぜ。何度奴等が来ても、追い払ってやるよ。」

マルサが鞘に入った剣を、トントン、と叩いて請け負う。他の護衛達も、ニシシシ!と不敵に。

「コケココ!!」

オーブも、ジェム達は任せとけ!と多分言っている。


「じゃあジェム達も充分気をつけてね、お昼には合流して一緒に一旦帰ろう。」

「は〜い!お仕事がんばってね、竜樹とーさ。」

「がんばれ、竜樹とーさ!」

あいあい。

ジェムとアガットに応援されて、ふりふりと手を振り、ビッシュ親父を除く竜樹達はホテル・レヴェの喫茶室に行った。


そこで大いに話し合い、「夫婦のちょっと特別な夜〜たまには恋人同士の気分で〜」を期間限定でお試し開催する事にした。


それぞれ参加する宿屋は、ハートに薔薇のマークを看板に取り付けて、まずは予約を取る。その予約状況に応じて、子供を世話する人員を増やすなりする。子供達の部屋は、狭苦しくない気持ちの良い宿屋の1室を充てれば良い。オモチャや絵本、お布団や食事なども揃えて、子供も嫌がらない空間を目指す。あわよくば、また行きたいと子供にも言って欲しいからだ。


夫婦には、恋人同士に返ったようなドキドキした気分を味わってもらうべく。だがしかし子供を心配なら様子を見にも来られるようにして、安心して、かつ久しぶりに子供の世話をする事のない、ゆったりした新鮮な気持ちを味わってもらいたい。


まずは王都で。


「テレビ、ラジオでも宣伝しましょう。上手くいったら、国中の宿屋にやり方を伝える事を明言して。この方式を取り入れるなら、子供の面倒をみる人員や環境などに、幾つか条件を付けて、クリアした所には公認の看板を掲げられるようにした方が良いですかね。えーっと、豪華かどうか、より、子供が安全で楽しいかどうか、ご夫婦が安心してゆっくりできるか、を最低限ね。」

うんうん。事故怖い。


3人の合意ができて、時間貸しの件も似たような感じで、時計マークを看板に載せる事にした。


宿屋も掃除や寝具を替えて整えたりなどの時間が必要なので、全ての部屋を時間貸しに利用できるわけではない。早めに用意した何部屋かを、午前10時から午後4時くらいまでの間、使えるようにする。そして、また掃除などをし、遅く宿入りして時間貸しの部屋を借りる人は幾らか割引する。日帰りで旅をするが少し休みたい、とか、そんな需要が転移魔法陣のお陰でないかな、となったのだ。特に女性は、暑かったり寒かったりで着替えたり、身支度を整えるのに複数人で利用できたり。大勢が待ち合わせをするのに使ったり。利用法を沢山具体的に考えて、利用してもらう所をレポートして、テレビやラジオで流す事になった。


お昼はジェム達と一緒に帰り、寮でご飯を食べた後、午後はアルジャンとケートゥ出版社に行き、便の研究をしている先生(何と50代の女性)と話をして大いに盛り上がり、軽めだけどとっても便利で面白い、雑誌と本の中間のムック形式で出版しようと決まった。イラストは、ボンのいた肖像画工房からリストラされ、今はテレビの本採用の為にアニメーションを試作している者たちの中から選出された。器用に画風を変えられるのである。

便に関する体験談も、テレビやラジオで募集して、採用されたら編集者からお礼のカードが届く事にした。竜樹も一言書く事に。


そうして一日の予定を終えて、寮に帰った竜樹は、王様に会う希望を出して。その日の内に裏社会のボスと公の仕事を依頼する為の会議、その内容を話し合った。

王様は、うぅん!と唸ったが。

「うん、言われてみれば竜樹殿の言う通り、遅かれ早かれ、そういう商品が沢山出てくるようになるだろう。無秩序に、無法に出されるより、公にして、手綱を握った方が良いと私も思う。」

と、竜樹の考えに同意してくれた。


寮では子供達が、わやわや夕飯の準備。

「竜樹とーさ!ご飯にしよ!」

「しよー!きょう、セリューいっしょ、とーさとたべるぅ。」

「ぼくもいっしょ!」

「あいあい。2人はじゃあ、俺の左と右とで両隣でね、セリュー、ニリヤ。今日は何かなぁご飯!」

たのしみね〜、ねー!と小さい子特有の高い声。

竜樹は、じんわりと身の置き所がないような思いを感じながらも、子供達の小さな背中に手を当てて促しつつ、歩調を合わせてトットコ歩いた。

寮には小さな女の子があまりいなくて、いるのは女性達。どちらにせよ目が合わせられないような居た堪れなさを胸に、でも、大人として、やる事はやらねばならぬのだ。






竜樹に絡んだ若い乱暴者の3人組は、自分たちの上のリゥ兄貴にまずは話を持っていった。兄貴は3人を連れて、またその上、王都の1部を縄張りにしている頭、傷あり片目強面のパレスに話を。ここは裏通りの酒所、その奥の小部屋。パレスが毎晩くだを巻く、物置めいたごちゃごちゃした場所だ。

椅子だけは大きい。

ギシ、と木の椅子が軋む。


「あぁ?王様と会議だぁ?何言ってやがる、高い場所からお偉い連中が俺らに態々会う訳ねぇだろ!行ったらすぐ捕まる流れにちげえねぇな。」

ギロリと片目を兄貴と3チンピラに。

「ですがパレスの旦那、ギフトの野郎は、神に誓っていたんです。流石に神に絡めては、違えないんじゃあ?」

「うぅん。ギフトが誓ったからとはいえ、他の者がどうするかはな。しかし、デカい話ねぇ。それは、惜しいな•••。奴は金の出る箱みたいなもんだからな。」

ニシャ、と嫌らしく笑うパレスは、3チンピラに顎をしゃくる。

「もっと揺さぶってこい!あっちが、許してくれと、利のある話をせずにはいられんくらいにな!」




「せっかくのお話も、頭の悪い連中を挟めば、台無しですね。」


バッ、とパレスも兄貴も3チンピラも振り返る。小部屋の入り口に、黒ずくめ、襟にポツンと銀の星があるシャツを着た優美な。

黒髪赤目の細い、不機嫌そうな若者が、スラリと立っていた。


「あぁ!?テメェ何様だよ!?ここには手の者しか通さねえように•••!」

「手の者。はて、先ほどうるさくまとわりついてきた連中ですかね。通して下さい、とお願いしたら、通してくれましたよ。今頃スヤスヤ寝てますけどね。早寝早起きは良い事です。」


カッ!と頭に血が昇ったパレスが、ガタンと椅子を蹴る。


はーっ、と黒髪君はため息をついて前髪を掻き上げる。

「ギフトの御方様の護衛と戦う気でいるんだから、しょうもない。表の連中が大義名分を持って貴方、パレスを潰そうと思えば、すぐにでも潰せるでしょうよ。優秀な影の部隊も、王族は持っているだろうし。それより、何故、話をこんな所で止めているんです。」

「お前、誰なんだよ!!?」


ジワジワと圧力がかかる。

じとり、とパレスのこめかみに脂汗。リゥ兄貴と3チンピラも、身体が麻痺して動けない。身体が、重い。


「私は、ミニュイの旦那様の、忠実な僕。」


ふ、と圧力が抜けて、パレス達は床に、ガタガタン!バタン!と放り出された。


「ギフトの御方様が、裏社会の本当のボスと話したい、とおっしゃった。ミニュイの旦那様は、喜ばしくお思いです。大きな話は、大きな者にしかできない。パレス、貴方くんだりには、身の潰される話だと、御方様も言っていましたよ。」


ゲッ!

「み、ミニュイのお方の!そ、それは、その、そうですな!」

顔を見せない本当の裏社会のボス。

少しでも手を出せば生きてはいられない、闇の中の闇、この国の暗部を牛耳り、バランスまでとってみせる大老。

パレスは手のひらを返して、平身低頭、ミニュイの僕の黒髪君に。

「ミニュイのお方が出張るには、その。私の配下の落とし屋の、それにシマの事ですし。」

粘ったが。


「潰されると言った。神をも恐れぬ男だな、お前は。流石に私でも、そしてミニュイの旦那様も、神と対話するギフトの御方様、直々のお申し出を、蹴る勇気はないよ。闇の眷属は神には勝てぬ。おこぼれの一つもあるだろう、黙って待っておきなさい。」


この件はミニュイの旦那様預かり。

それで良いね。下手な手出しをしたら、ギフトの御方様ではなくて、私がお前を「潰すよ。」


「へ、へへぇ。分かりました!分かりましたから!おっかねぇミニュイのお方のおっしゃる事なら仕方ねえ!俺らの仕事がこの街で出来なくなっちまう。分かりましたから、お帰り下さい!」


フン、と息一つ。

「くれぐれも、余計な事は、しないように。」


ピン!ときらり何かが弾かれて、熱くパレスと兄貴と3チンピラの、額に塊。ジュワァと肉の焼ける臭い。

「グワァ、なんで!!」

「痛ぇ!」「熱い!!」


「その魔石は、お前たちが余計な事をする度にめり込んでいくから。死にたくなければ良い子にしてなさい。」


ふゅん、と黒いシャツの裾と襟をたなびかせて、ミニュイの僕は。

ふう、と闇に、溶けて消えた。


「何かするって決まってねぇだろ!」

「ジンジンする!」

「俺たち何もしてないのに!」


何かする気満々だっただろ、と突っ込む者は、生憎そこには、誰もいなかった。





投稿本日ギリギリに。すみませぬ。

読んで下さりありがとうございます。

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