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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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雑魚襲来



老紳士は、お付きの秘書らしい青年を連れて、こちらにどんどん近づいてくる。普段、あまり道を徒歩で歩いている感じがしないような、柔和なのに威厳のある人物だから、違和感があって竜樹はそちらをじっと見ていた。ゆったりした肘掛けのある椅子に座って、報告を聞いていそうである。


「ギフトの竜樹様。こちらが宿屋の若主人、ポールです。」

ビッシュ親父が話し始めたので、ハッと竜樹も意識をそちらに向けた。


「は、初めまして、ギフトの御方様。ポールと言います。良いお話も頂いたのに、ちょっと返事をお待たせしちゃって、すみません。」

宿屋の若主人、ポールは、いかにも庶民向けの宿屋の若主人、といった様子で、丁寧に腰を折って頭を下げつつ挨拶をした。生成りのシャツにベスト、腕まくりで仕事をテキパキしそうである。赤茶色の髪がクリクリして、こちらは親しみある顔である。


「良いよ良いよ、急に話を持って行って、こちらこそすみません。ギフトの竜樹です。せっかく時間貸しを自分達で思いついたのに、こちらで取っちゃうみたいで、そりゃあ抵抗感あるでしょう。考えてくれて、ありがたいですよ。」

竜樹が老紳士から目を離して、ポールに向き直り、ニコリと笑えば、いえいえ、と手を顔の前に出してフリフリしつつ、ポールは恐縮した。

「ギフトの御方様なんか、俺たちに良い事を沢山考えて広めて下さってるから。本当は、俺の時間貸しの考えも、取り上げて下さって、広まれば宿屋の皆にも良いかもだし、ウチの宣伝にもなるかな、って思ったんだ。でも、やってみて良くなかった、って事も結構あるから、ウチだけなら良いけど、広めちゃう前に、組合長さんに相談したいな、って思って。」

チラリ、とポールは、畏まって待っている老紳士の方を見る。


「慎重なの、良い事だよね。自己責任で始めたら、って事にしても、丸投げじゃあ、上手くいかないかもだしね。本職の人たちで始める前に色々と話し合うのは、とても良い事だと思います!ああ、それで、こちらの方?」

竜樹が水を向けると。


老紳士は、胸に手を当てて、頭は下げずに軽い挨拶。ハラリと耳にかかる、ラベンダーの髪が、やけに色気がある。枯れているのに現役、って感じがするのだ。

「ホテル・レヴェのオーナー兼、王都宿屋組合の組合長でもあります、クレプスキュールと申します。キュールとお呼び下さい。ギフトの御方様におきましては、ご機嫌宜しゅう。」


「ホテル・レヴェ!」

タカラが、そそそ、と竜樹に耳打ちする。相手に内緒だと失礼なので、小声だが説明しているんだよと分かる声で、そっと。

「王都でも、いえ、この国で一番の、王族でも泊められるホテルですよ!オーナーは国中にホテルを持っていると言います。こんなに、庶民的な宿屋達の、組合長までしているとは、初耳です!」

おおお、と竜樹も驚きつつ、胸に手を当てお辞儀をする。

「ギフトの竜樹と申します。組合長さんまでいらして頂いて。」


ムフン、とキュール組合長は、色良く鼻鳴らし、目を細めて。

「いえいえ、こちらこそ。ご夫婦や恋人との仲を深める、特別な夜を演出するのに、私共の宿にもお声をかけて頂くこと、許して頂きとても嬉しく思っています!高貴な方から庶民まで、色々なグレードの宿でお迎えできる案かと思いますので、是非やってみたいですね!いかがわしい印象がついてしまわない為にも、未婚の男女ではなく、ご夫婦のご利用が主である事は、とても良いと思いますね。」

ニコニコリと、ご機嫌に受け入れてくれた。


「良かった。ちゃんと広められそうなら、テレビでもニュースや広告で取り上げてみたいと思っているんですよ。本職のキュール組合長さんから見ても、大丈夫な案なら安心です。」


細かくは、子供を預かる人件費とか。その預かる人員についても、子育てをした事のあるちゃんとした人を。子供だから具合が悪くなる事も考えて、その場合の対処も決めておいた方がいい。特別な夜だからといって、親に知らせない、なんて有り得ないし、事故が起きる可能性は潰しておくべき。

竜樹がまず考えつくのは子供の事だが、キュール組合長は。

「自宅では味わえない、特別感が演出出来ると良いですよね。ちょっと良い、華やかなお酒を1杯サービスしたり、夕食に特別な演出•••バイオリンやピアノの生演奏なんて、いかがでしょう。」

むむ?それは、新婚さん向けのホテルのサービスが参考になるのでは?と思った竜樹が、スマホを検索しだす。

「夕陽の美しく見える部屋でのディナー、写真のサービス、小さなプレゼント、お祝いのカード、キャンドルで雰囲気のあるおもてなし。とか、とか。名前入りワインのサービス、ワインのラベルに2人の写真、なんて。」

「素晴らしい!」


「俺たちの宿屋だったら、一杯ちょっと良いお酒のサービスくらいかなぁ。」

ポールが腕を組み、考えて。


「うんうん、高貴な方々ばかりじゃなくて、むしろ庶民の沢山のご夫婦に、時々気軽に、って何度も利用してもらいたいから、宿が清潔で、ちょっとお花でもあったら良いかもくらいにね!」

ポールの庶民向けの案も、フォローする。むしろ、もう1人子供が欲しくて、寝室が小さな今の子と一緒なあのお父さんなら、こちらの気軽な宿を選ぶだろう。

「ええ、ええ。ちょうど良いとこって、ありますよね。事故が起きないように、ってのは、やっぱり重要だと思うし。予約とって、子供がその日何人いるかとか、分かってた方が良いでしょうよねえ。」

「時間貸しの案は•••。」


これらを、キュール組合長の後ろに控えた秘書的青年は、黙ってサラサラと手帳にメモしている。

そして新聞を買いに来た人達が、チラチラと、活発に話す竜樹とビッシュ親父とポールとキュール組合長を見て。興味深げに、また何かやるのかな〜、って顔で後ろ髪を引かれつつ、歩いていく。


「竜樹とーさたち、仕事のはなしなら、どっか宿のへやとかでした方がよくない?皆、すごく気にして帰るけど。そのはなし、やる前にバレても良いの?」

ジェムが、新聞を取りやすいように、キュキュキュ、と段々のタワーに丸めて販売台に足して入れながら。

ハッとする大人達である。


「いやいや、その通り!君、なかなか賢いね、ありがとう。では皆さん、ホテル・レヴェの喫茶室で続きを話しませんか?」

「お〜、場所をお借りしても?喫茶室、良いですね!お茶でもしながら。ポールさん、お仕事大丈夫ですか?」

「今日は話をするつもりで、助っ人を頼んできていますから、大丈夫です。」

「俺はあんパン買って、母ちゃんの所に帰ろう。ジェム達いつも通り新聞とあんパンおくれ。」

は〜い。


ビッシュ親父さんだけ、繋ぎの用は果たしたと、酒屋に帰る事となり。

ジェムとアガットが、新聞とあんパン、お代をもらってお釣りを出してなんてやっていると。


ヒュン!


「•••何だ、何だよ騎士さん!俺たち何もしてないだろ!」


背中が丸まった姿勢の悪い、そして人相も悪い若い男達3人組の1人に、マルサが剣を振り抜き放ち、首元に突きつけていた。

販売所にあと少しで、という所、阻んだ形になる。


「•••まだ、何もしてないが、これからするつもりなのは見て分かるぞ。そのポケットに入れた手に、刃物かなんか、武器を持っているだろう。ゆっくり出してこちらに渡せ。」

他の護衛達も、抜き身の剣で威嚇をしながら、男達から竜樹を守る。


「良いのかね〜、民の味方のギフトの御方様が、無実の俺たちを虐めたりしてさぁ〜!」

男達はポケットから手を出さないまま、じり、じり、とジェム達の方へ寄って行く。

「ーー動くな!」

マルサが、ぐっと剣を押し当て、男の背中をぐいと掴む。押し当てられた1人は、ハラハラした顔をしているが、仲間の男2人は、ニヤニヤしている。


「俺たち怒っているんだよな。貴族の女の子と恋愛しただけの俺らの友達が、捕まっちゃってさぁ。女の子は妊娠したってゆーじゃない?良いのかなぁ、お貴族様の娘さんが、結婚もせずになんて。友達と仲良くさせてやった方がいいんじゃな〜い?」

「俺たち友達思いだから!無理矢理引き離されたら、ちょっとイタズラしちゃうかもね!女の子も無事に赤ちゃん産めると良いけどぉ〜。」


「君たち、落とし屋稼業のお手伝いって事?」

竜樹が話しかけ、マルサが、竜樹!と咎める。話をしてくれる、と甘く思わせたら、ダメだとマルサは知っている。


「落とし屋だなんて、人聞き悪いじゃん。恋愛だよ恋愛。所で俺たち、新聞大好きなんだけど!毎日遊びに来ちゃおうかなぁ。まぁ、俺たちが捕まったとしても、友達は沢山いるからねぇ。邪魔されたら、俺たちは、割としつこいんだ〜。今日はそれを言いに来ただけだからぁ〜。」


ケケッ、と笑う男達は、刃傷沙汰など慣れっこなのだろう。そして、この場では勝てないという事も分かっている。が、幾ら詰め所の隣とはいえ、毎日新聞販売所に、人相の悪い男達が来るのを、はっきり犯罪を犯せばともかく、嫌がらせなどを阻むのは難しいとも分かっている。


竜樹は腹を括った。

そうして、かねてから頭の隅で考えていた案を、ここで使う事にした。


「君たち、何らかの利益があれば、落とし屋に落とされかけた娘さんを諦めてくれるかい?それに、新聞販売所にも手出しをしないで欲しいんだけど。」

「!竜樹!!!」

マルサがギリギリと男に刃を押し当てる。

おい、おい、とその男は焦っているが、残り2人は余裕の表情。


「そうねぇ。ちょっとくらいじゃ、心の傷が癒えないねぇ。それなりのものは〜、頂かないと〜。」

ひひひ、と嘲笑。


「なら、君たちには、娘さんと子供達を含むこちらの人達に手を出さないと約束をする限り、こちらも手を出さないと誓う。神様、俺の信ずるランセ神様に誓うよ。だから。」


男達は、やっぱりギフトの御方様とはいえ、荒事には無縁の奴らはチョロいなと。


キュール組合長は、細めた目を、冷ややかに男達に向け。




「君たち裏社会の、本当の頂点のボスを連れて来て欲しい。中途半端な奴は要らないよ。本当のボスだよ。顔も認識阻害して見せなくて良いし、害さない。トップにしか話せない、大きな利益の話をします。•••王様も一緒に、会議に出席して欲しい。顔を見せない害さない旨、これもランセ神に誓います。ーーー君たち、裏社会のボスに話繋げられる?末端なんじゃない?ちゃちな美味い話じゃないからね?巨額のお金が動くから、君たちだけで話をしても、きっと潰されるよ。」


パチリ、と目を瞬いたキュール組合長は、途端に、ニヤッと口角を上げ。後ろの秘書に、す、と一本、指を立てた。秘書は黙って頷く。


「あぁあ?!俺たちの後ろに誰が居ると思ってんだよ!!」

「知らないよ。知らなくて良いし。ただ、王様公認の、公のお仕事が貰えるはずだよ。まだ王様に言ってないけど、話をすればきっと良いと言ってくれると思う。ただ、こちらとの話し合い、会議ね、それに参加する人員はこちらに任せて欲しい。事前に知りたければ教えるけど、俺、会議まで王様にしか内容話さないから、自分達に有利なように圧力かけたりとかは無駄だよ。それに会議の様子は、テレビで放送します。」


あ、ああぁぁ!?


男達は、混乱してきた。

こんな話をされるとは思ってもいなかった。それに、全く自分達に竜樹はびびっていない。それもまた、腹だたしいが、神まで持ち出されては、抗うのも何だか、何だか、そう。

男達は呑まれかけていた。


マルサがちょっと刃を緩めて、ククッ、と笑った。


「兄ちゃんたち、竜樹とーさの言う通りにした方がいいよ。」

販売所の台に頬杖つきつつ、ジェムが半目で。アガットが、ウンウンしている。

どんなに荒事に長けたとはいえ、神様と普段話をして、しかも守るべき子供達を持った竜樹とーさに、ちゃちなチンピラが、敵う訳ない。ジェムは知っている。やる奴はやる。そして、でかい事も小さい事も大事にして、ふ、と息を飲んで覚悟でやる奴に、普通のボヤボヤしてる奴は、敵わない。


「う、うるせぇ!!子供は黙ってろ!」

「はいはい。黙ってるけど、早くしてよ。新聞売るのに邪魔だからさー。」


このクソガキ!!


キュール組合長が、楽しそうにくふくふ笑う。

腕を組み、とんとん、と指。

ポールは緊張しているし、ビッシュ親父はジェムを見てため息ついている。詰め所の兵達は、すぐに動けるようにジリジリと男達を囲もうとしているし、男達が今、無事に逃げられる道は、竜樹の案に乗るしかなさそうだ。


「本当に、デカい美味い話なんだろうな!?」

竜樹は片手を上に挙げて。

「誓います。」


「•••上に聞いてくる!ガキどもに連絡すれば良いのか!?」

「それはちょっと嫌だから、明日も俺がここに来ます。そちらの、会議における要望も、全部飲めるかは分からないけど、聞くから出してきてみてよ。それから、ちゃんと裏社会の本当のボスかどうかは、調べさせてもらうからね。本当、中途半端じゃ、扱いきれなくて争いになりそうだからさ。君たち裏社会で揉めると、表の人も流れ弾に当たって、怪我したりするでしょ。それ、嫌だからさ。」


細かい事で煩い奴だな!

男達はイラつきながらも。

「分かった。•••そいつ、離せよ!」

刃を首元に当てられていた男が、やっとニヤニヤしている、けれどまだ警戒しているマルサから解放された。

ふう、と息を吐く男を引っ張って残り2人は。


「はっ!やっぱギフトとはいえ、裏社会に媚売らないと生きていけねぇとはな!連絡するから待ってろよ!」

「俺たちにひれ伏すのはお前たちなんだからな!」

ダダダ!と走り去って行った。


「雑魚くせぇ〜。」

「ジェム、煽らないの〜。」

ポンポン、と竜樹がジェムのキャスケット帽の上から手を乗せる。

「まあ、今日は俺たちがいたから良いけど、ってオーブ静かだったね。」


親切なめんどり、オーブは目を閉じて、コココと満足そうだった。

竜樹が何をしたいか、オーブは、分かっているのかもしれない。


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