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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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祝福



「みんな〜!今日のおやつは、かのこだよ!休憩においで〜!」

「「「「はーい!」」」」

トテトテ、パタタ!

トットコ、トコトコ!

皆、ルージュの実を採るのを中断して、布を敷いた休憩所へやってくる。手に手にザル、いっぱいの実を抱えて。

大人が担ぐ程の袋に入れてやりながら、もう5袋となるそれを、そろそろ良いかなあ、と竜樹は満足していた。まだまだ実は生っているが、採りすぎも悪い気がする。アルジャンの毎日のおやつなのだし。


かのこは、餡子に甘いお豆をまぶしたお菓子である。とろっと艶がけしてあるそれは、つやつや光って美味しそう。タカラが皆に濡れタオルを配り、浄化もしている間に、竜樹は庭を歩いて、熱心にまだ採るのを止めていなかったアルディ王子とアガットに、肩を叩いて休憩させた。ハッとして、2人は、てへへと笑った。


小さなサンの握りこぶしほどの、かのこを、皆わくわくと見ている。番重に乗って、タカラの超便利魔道具収納袋、時止め機能付きに入れて持ってきた。1人一個ずつだよ、とお箸で摘み、小さなお皿で黒文字をつけて配って、はいどーぞー、と言えば。


パクリ!もぐもぐ。


濃い甘み、そして優しいお豆の食感。ちょっとだけ効かせた塩が、またいい感じに美味しい。


「ぼく、もぐ。おまめのおかし、だぁ〜いすき!」

ニリヤがニコニコ、モグモグしつつ、手にした食べかけの、かのこの皿を、隣に座った竜樹に見せて、コロンと体重を、かけてきた。

受け止めてやりつつ、ウンウンしてやれば、むふふ、と笑ってかのこの残りをパクつく。


良かったねえ。

おれも〜!などとサンやロンがくっついてきて、いつもの通りこちゃこちゃと一塊になりながら、竜樹もかのこを、パクッと食べた。

口を洗う麦茶も美味しい。


グラースは、久々の賑やかな庭に、嬉しくニコニコと、そしていただいたかのこの皿を両手で、チョンと持ち、ためつすがめつ。黒文字で切ってパクリ。

上品なお味、珍しいお豆のお菓子に、お菓子作り上手の血が、ムムムと湧き起こり。気付けば竜樹に作り方を質問攻めしていた。


そんな横で、ピティエはプレイヤードとアミューズと一緒に、座って大人しく味わっていた。このお菓子、とってもお茶に合う。麦茶も良いけど、緑茶なら、もっと合うかも?

喫茶店で出させてもらおうかな、なんて、気持ちよく空の下、のんびりと。

隣にコクリコが座ったのは偶然で、ピティエが麦茶を足して注ごうとして、水差しとコップに手を彷徨わせれば、気づいたコクリコが、ハッとピティエに木のコップを持たせた。ピティエの助手兼従者のコンコルドが、コクリコにペコリとお辞儀する。ピティエはなるべく自分の事は自分でするから、手を出さずにいたが、優しさにはお礼である。


「私、注ぎますね!」

「ありがとう、コクリコ様。」


同じ年頃の、同じ貴族の、異性の2人は、あまり今まで話をした事がなかった。ピティエはモデルもしているだけあって、黙っていれば大変見目が良い。ただ整っているだけじゃなく、何故か目を止める、不思議な魅力がある。水色のサングラスの奥に瞬く、灰緑色の瞳が、じっと動かないのもまた神秘的で、サラサラの藍色の髪が素敵である。最初に竜樹に会った頃の、自信なく背を丸めた様子は一変しているから、コクリコにも眼福だった。


ピティエ様のように、産まれた子供の目があまり見えない、という事も、あるのだわ。


見えないとは、どんな気持ちがするものだろう。少し湧き上がる不安に、コクリコは、じっとピティエを見つめる。


ん?

とピティエがコクリコに顔を向けてーーー何故分かったのだろうーー「何か、ありましたか?お豆でもついてるかな?」と、頬をポポッとさせ、口の周りをサラサラと撫でるので。

「いえいえ大丈夫ですよ。」と言いながらコクリコは、このままピティエとお話してみる事にした。不安は、お話すると、解ける事も多いと、ラフィネやグラースとのお喋りで知った所であるから。


「ピティエ様は、視力が弱くてらっしゃるんですよね。なのに、何で私が見ている、って分かったのですか?」


うん?と麦茶を飲んで、首を傾げるピティエは、年齢より少し幼く見えて。そして素直で優しい青年なのだな、と丁寧な応えで分かる。


「視線って、結構、分かりますよ。凄く力があるから。私たちは産まれた時からよく見えないけれど、その分、人の気配とかは、敏感みたいです。匂いや、空気の揺れ、音や、雰囲気なんかで、確かに見えない事もあるけど、わかる事も多いですよ。」

「うん、分かるよ、コクリコお姉ちゃん。」

「わかるー!」

見えない組は、コクリコとお話してくれるようだ。


「そうなのですね。あの、あの、•••ごめんなさい、私、産まれた子供が、見えなかったらどうしようかな、ってちょっと今、思ってしまったの。お話聞いたら、不安が減るかもな、って。失礼かもしれないけど、聞いても良いかしら?」

ウンウン。と3人、良いよと言ってくれたので、遠慮なくコクリコは聞いた。


「見えない、って、どんな感じですか?」


うーん。

顎に手を当てて、腕を組んで考え始める3人。

「私たち、産まれた時から、これが普通だから•••どう?どうかな?」

「ねえ、工夫する事はあるけど、見えなくてもジェム達とか手を引いてくれたりもするし。白杖もあるしね、今は。知らない所を歩く時は、見えてる人より、ずっと緊張するかな。」

「ウンウン。でも、慣れてる家の中だったりしたら、大体このくらいで扉ある、とかも分かるよ。」


へー。

知らない事ばかりである。

「見えなくて、普通じゃない、って、下に見られちゃう事なんてある?」


「「「あるー!!!」」」

満場一致であるようだ。


「それって、やっぱり、辛くて苦しいですよね。」

コクリコは、普通の妊娠じゃない自分の身に置き換えてみても、息苦しさを感じる。


「見えない事の不自由なんて、人に助けてもらったり自分で工夫したり、慣れたりして、出来ない事もあるけど、何とかなんだけど、他人から、あいつは見えない普通じゃない!っていうのだけは、本当そればっかりは、どうにもならないよ。」

「ちゃんと見て!頑張るから!って、言っても、俺の声じゃ、伝わらなくて。俺、父ちゃんと母ちゃんに捨てられたし。」

「私も、下に見られて、侍女に嫌なことばっかりされた事ある。」


ああ〜。

やっぱり。やっぱりそうなのだ。

コクリコが、頭を垂れて落ち込んでいると。


「でもね。」

とピティエが言う。

「でも、少しずつ、少しずつ、嫌なことをする人から、嫌だよって伝えて、それでも変わらなかったから離れて、ちゃんと見てくれる人と仲良くして。毎日、少しずつ、できる事を増やしていったら。」

「うん、竜樹とーさの所に来て、新聞売りのお仕事も頑張った。」

「普通じゃない、ってばっかり言う母様と、お父様が離婚したんだよね。そしたら、何でもやってみよう、って。」


できる事を増やして、認められれば、見てくれる人も、ちゃんといる。


「私の事、要らない子だって言ってた親戚なんか、今は、ピティエみたいに目が見えなくてもモデルとかやって、喫茶店も、お茶畑も、凄い、って。自分も何か、ピティエみたいに試練ていうか普通じゃない事があれば、今より頑張ったかな、とか、おかしな事言ってる。見えてても、見えてなくても、嫌な事は、ない方が良いと思うけど。」

しょんぼりしちゃうし。元気なくなったら、頑張れないし。

「何それ、言い訳じゃん。」

「だよね〜。」

「うん。でも•••今まであった事の、全部で、自分は作られてる、って気がする。自分の中の、小さかった頃の泣いてる自分を、どうにかしてあげたいな、って頑張れたりするし。」


コクリコ様。だからね。

3人は、遠くを見る賢者のような目、顔をする。


「普通じゃないからって、幸せになれない訳じゃないよ。」

「うん。頑張っても、何ともならない事もあるけど、竜樹とーさみたいな人がいれば、楽しく頑張れるし。おれ今、バラン様に歌ならうの、たのしいんだ!」

「モデルしたら、ふぁんくらぶの人たちに、凄く褒められて、恥ずかしいくらいだけど、頑張ろうって気持ちになるんだ!」


うん。うん。

とプレイヤードが頷いて。


「えーとね。コクリコ様。私は、毎日楽しい事がいっぱいあるよ!見えなくても、見えても、あんまり関係なくて、しょんぼりしてる人はしてるし、楽しくしてる人はしてる。私、見えないけど、いっぱい感じる事があって、お天気のお日様のあったかさとか、風の匂いとか、雨の音とか、お父様の優しい手とか、妹のフィーユの汗の匂いとか、多分皆とおんなじだよ。わくわくも、ドキドキも、いっぱいあるよ!」


今日のルージュの実採りも、楽しいしね!


目が決して笑わない、一点を見つめる、見えない3人組。けれど、コクリコより、余程見えている事のある、苦難を超えてきた目。

微笑む口元。


コクリコはホッとして、そうして、何だか勇気が出て。頬を染めて小さな声で。

「そう。•••そうなのですね。ありがとう、ピティエ様、アミューズ君、プレイヤード様。」

お礼を言った。


「あの•••あの、良かったらなんだけど。」

ピティエが、恥ずかしそうに、口籠もりながら。


ん?


「良かったら、お腹に触らせてもらっても、良い?失礼なのは分かってるんだけど、赤ちゃんがいるって、どんなかな、って、不思議で、知りたくて、その。」

内気だったピティエにしては、やはり勇気を出して。勇気を出し合って、人は知り合う。

赤ちゃんがいるって、どんなだろう。自分が赤ちゃんだった時、お母様はどんな気持ちがしたんだろう?

決してピティエを貶さない、優しい母を、目が見えない事を、やたらと悲しんだりしない母を、出来る事があれば、いっぱいに喜んでくれる母を、ピティエは優しく嬉しい気持ちで思っている。


「あ!おれもさわってみたい!弟のとき、さわらせてもらえなかったから。」

「私も、ちょっとだけ、興味ある。」


恥ずかしそうな男の子3人が可愛くて、くすす!とコクリコは笑う。


「良いですよ。時々お腹の中で、もう動くの。触ってみて。」


おずおずと差し出された、ピティエの、青年の、自分より節の大きい長い指を持つ手を、ゆっくりと取って。大きく張ったお腹に、沿わせて触れさせた。


なで、なで。

温かい手が、見えない者特有の、確かめる慎重な手つきで、お腹を撫でる。くすぐったくて、くすくす。ピティエも、ふ、と笑って。


「赤ちゃん。何もかも初めての、赤ちゃん。怖い事ないよ。•••皆が、私も、助けてあげる。竜樹様が、私にしてくれたみたいに。お日様のあったかさ、味わいにおいで。苦しい事があっても、何とかなるよ。楽しい事も、いっぱいあるよ。出会うべき人と、出会う楽しさ、世界が広がる何ともいえない大きな気持ち、味わいにおいで。」


優しい、優しい、囁き声に、祝福に、コクリコは。

グッと、不意に込み上げる涙を堪えて、ぎゅーと、お腹を触るピティエの手の上から、指を掴んだ。


ふふ、とピティエは嬉しそうに、手を離す。

「赤ちゃん、産まれたら、抱っこさせてくださいね。お母様の気持ちが分かるかなぁ。」

照れ照れ、とサラサラの髪を掻き上げた。


「赤ちゃ〜ん。アミューズ兄ちゃんだぞ。なかよくしようね!」

アミューズはお腹に抱きついて、さわさわと語りかけ。


「•••赤ちゃんの音がする!?」

プレイヤードは、フコッと鼻息を漏らして、興奮していた。


ああ。

世界から、こんな風に祝福されたら、この子は大丈夫なんじゃないか。

そして、この子が大丈夫ならば、私も大丈夫なのだ。


味方を沢山作って。

力を沢山つけて。

私を普通にさせたい、わからずやの、足りない所ばかりの、悲しいばかりの、お父様や、お兄様と戦おう。

そうして、この子を守り、胸を張って生きて行こう。


赤ちゃんが可愛く産まれても、お父様やお兄様には、抱っこさせてなんて、あげないんだからね!


ゆるり、カチンと、有るべき所に気持ちがはまった感じがして。

コクリコはこの時から、自分は母になる、と気持ちがやっと固まった気がしたのだ。


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